5月13日 参議院法務委員会 会社法の一部を改正する法律案

 ○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

 今日は、水俣病問題に絞ってお尋ねをいたします。

 加害企業チッソは、既にその事業を一〇〇%子会社であるJNCに分社化をしております。今回の会社法改正案は、子会社の株式を譲渡するには株主総会の特別決議を必要とすることにしようというわけですけれども、日本維新の会提出の修正案は、これをチッソに関して適用除外にしようとしております。被害者あるいは被害者団体から、なぜ加害企業だけ特別扱いをするのかと。被害者が苦しみ続けているのに水俣病の幕引きは許されないと憤りの声が上がるのは当然であります。

 そこで、修正案提出者にまずお尋ねをしたいと思いますのは、今年の二月十二日、天草市の市長が、今、水俣病特措法の未認定患者救済策において、対象地域外の申請者が汚染魚の多食や水銀暴露などの厳しい証明を求められているという問題について、この対象地域の線引きを撤廃することを国や県に求めるということを明らかにいたしました。

 市長は、あたう限りの救済をうたう特措法の趣旨からすれば、現状は決して満足する到達点ではない、対象地域外でも被害を認められた住民は多く、線引きの意味はないのではないか、症状を持ちながら線引きが弊害となって救われないということがあってはならないと、そうおっしゃっているんですね。

 修正案提出者はどんな御認識ですか。

○衆議院議員(西田譲君) 御質問ありがとうございます。お答えさせていただきます。

 先生御指摘のとおり、この水俣病特措法においては、救済を受けるべき人々のあたう限りの救済というものを原則としているわけでございますし、当然この原則にのっとって、今のこの水俣病特措法のスキームの下で、被害者の方ができるだけ早く救済を、給付を受けられることが重要であろうという認識でございます。

 ただ、御紹介がありましたとおり、今回の我が党の修正案に対して、チッソの責任の早期の幕引きを図るものであるとか、あるいはチッソによる事業会社の株式の売却の円滑化を図るものであるという批判があることも承知をしているところでございますが、一方で、この特措法のスキームの中で、事業会社の株式の譲渡については、認定患者の方々に対する将来にわたる補償というものがきちんと確保される、あるいはそのときの状況等もきちんと考えた上で環境大臣の承認をもってということで担保されているわけでございますので、今回の会社法改正で新しい権利行使の根拠となるような法律要件を課すことは、この水俣病特措法のスキーム、当時、これは自民党、公明党、民主党の中で熟議が重ねられた、平成二十一年でございますが、その立法者の意思からは離れてしまうものではないか。そういう中で今回修正案を提出させていただいたところでございます。

○仁比聡平君 救済の終了がなければ株式の譲渡なんてあり得ないんですよ。

 地元の市長さんが、こうした対象地域の線引きがこのあたう限りの救済の弊害となっているという指摘までされるようになった。それは、天草で国賊とまで言われながら差別や偏見を乗り越えてノーモア水俣病訴訟の原告となって闘ってきたそうした被害者たちが、これまで手を挙げられなかった天草の被害者の皆さんが声を上げるようになってきた、そうした運動の力なんですよね。

 御所浦とかあるいは龍ケ岳という対象地域になってきた地域と、そうではない、圧倒的に天草の地域というのは、提出者も御存じだと思いますけれども、まさに指呼の間です。目の前ですよね。海は、潮は流れていますし、魚は回遊していますし、海に線が引けるものかということが今大問題になっているわけです。

 この天草を中心に、ノーモア・ミナマタ第一次訴訟の原告のうち、対象地域外から数百名の方々が原告になっていますけれど、平成二十三年の和解でその約七割が国によって救済対象と認められました。倉岳、栖本、本渡市、新和町、河浦町など、一円に国が被害者と認めた方々がいらっしゃるわけですね。ところが、そうした被害者の皆さんと同じように暮らし生きてきた住民の皆さんが、今度の特措法の申請で次々に切り捨てられています。これが納得いくわけないじゃありませんか。

 この地域での、とりわけ戦後、そしてその後の時期、主食は魚だと言われますよね。例えば、太田尾という漁村で生きてきた今年七十二歳になるある方は、小学校五年生のときから漁に出てきました。水俣沖にも船で行って、魚を捕り、水俣病が問題となってくる時期、海面近くでふらふらと変な泳ぎ方をしている魚を見かけたら、それは捕りやすいから、捕って持って帰ってたくさん食べるわけですよね。煮干しに加工したり近所に配ったりもする。毎食、丼にいっぱい、そういう魚を食べる。幼い頃から働いて、魚しか食べられないようなそんな生活をしてきた、そうした方々が、この太田尾には三つの網元があるんですけど、一つの網元とその船に乗っていた方々には暴露が認められて該当だというが、ほかの二つの網元の下で働いてきた方々は非該当だというわけです。こんな扱い、納得がいくわけがないじゃないですか。だから裁判が起こっている。

 こうした事態が、救済が終了したというふうに言えると考えますか。

○衆議院議員(西田譲君) もう、まさに先生御指摘の点の問題があろうということは私も仄聞をしているところでございます。

 しかし、今回の会社法で我が党が出した修正案というものにつきまして申し上げるとしますならば、あくまで現行の水俣病特措法のスキームを前提とした修正案でございます。ですので、余りこの特措法そのものについての認識についてこの場で果たして私が修正案を超えてお答えするものが適切なのかというふうに考えるところでございます。御理解をいただければと思います。

○仁比聡平君 政治家としての感想も示せないのかと。

 スキームとおっしゃるけれども、特措法はあたう限りの救済を目的としているんでしょう。あなた方が提案をしておられるのは、その加害企業であるチッソの株式譲渡を容易にしよう、特措法以上のハードルは課させないと、そうしたものであるから幕引きを図ろうとするものだと抗議の対象になっているわけです。

 年齢による線引きはどうか。実際に、昭和四十四年以降、例えば昭和四十五年の早い時期に生まれた方々が長く苦しみ続けてこられました。子供の頃から転びやすい、いろんな不自由があるんだけれども、長じて働くようになって、職場で食事をみんなとしているときにも手が震えたり物を落としたりする。そうしたら、薬物中毒じゃないかとかアル中じゃないかとか、そんなふうにからかわれるんですよね。両親も同じような症状で、すぐ上に生まれているお姉さんやお兄さんも同じように魚を食べて生活してきて被害者と認められているのに、その妹さんだけは救済の対象にされない。昭和四十四年十一月という線引きにどんな合理的な理由があるんでしょうかと、そうおっしゃっている被害者がいます。

 同世代の女性被害者は、意識を全然しなくても足がぴくぴくけいれんすることがあるんですね。生まれたばかりの三歳くらいになった息子さんから、お母さんの足ぴくぴくして怖い、そんなふうに言われて本当に悲しい思いをした、そうした被害者たちが一方的に国が設定した線引きによって切り捨てられていいはずがない。

 もう一度お尋ねします。これで救済が終了したというふうに言えると思いますか。それを前提に株式譲渡の要件を議論する、そんな場面だと思いますか。

○衆議院議員(西田譲君) やはり今回、先ほど私申し述べさせていただきましたとおり、まず水俣病特措法の原則となっている被害者のあたう限りの救済、そしてこの水俣病特措法が制定された当時の先輩の先生方の御議論の中で、やはり水俣病問題の最終解決をもういよいよ図らなければいけないし、これ以上地域の紛争を長引かせてはいけないんだという本当に真摯な御議論の中で、衆議院では委員長提案で制定されたのがこの水俣病特措法でありました。

 その後、先生がおっしゃるような問題が起きていることも事実でございますし、裁判中である件もあるわけでございます。当然、その司法の結論というものが出ればそれに従って対応はされなければならないと考えておりますし、この特措法制定時の原則であるあたう限りの被害者の救済、これ、ここから何分ずれるものではないというふうにも思います。

 そういった思いで、今回の修正案は、その水俣病特措法のスキームに新しい権利行使の要件を入れることは、当時のこの非常に大きな議論の中で、御努力の中で制定された特措法の立法者の意思とはそぐわないものであろうかというふうな認識でございます。

○仁比聡平君 つまり、救済の終了とおっしゃりはしないわけじゃないですか。

 今日は環境副大臣においでいただきました。今申し上げているとおり、特措法の申請者に対する非該当判定を不服だとして納得のいかない被害者、あるいは申請が打ち切られて後も救済を求める被害者が広がって、裁判が続いているわけです。

 新潟県では、非該当判定の異議申立てを認めて、この五月から行政不服審査法に基づく審査が開始される見込みのようですけれども、これ、副大臣、御存じですか。九十人いらっしゃるんですね。これ、結果が出るなんというのは少し先の話になるわけですね。

 公健法上の認定をめぐっても、感覚障害だけで水俣病を認めた昨年四月の最高裁判決にも励まされて、認定申請も広がっています。裁判も続いています。熊本、鹿児島合わせて八百四十六人の新たな認定申請が行われているけれども、だけれども、その審査の目途さえ立っていないという、そういう状況でしょう。にもかかわらず、あたう限りの救済を終えたと言えるのかと。

 五月の一日の水俣病犠牲者慰霊式の後に、チッソの社長ができるだけ早い時期に株式売却の態勢ができればと思っている、特措法救済策の対象者確定が救済の終了と考えているなどと、この株式譲渡をすぐにでもできるような、そんな発言をしたことが一層被害者の怒りに油を注いでいるわけですが、これ環境省として、こうした株式譲渡の条件があるとでも考えているんですか。こうした被害者の被害の訴えがある限り、株式譲渡、さらにはチッソの消滅を認めるのはあり得ないのではありませんか。

○副大臣(北川知克君) ただいま仁比委員御指摘の、先ほど来からお話があります特措法に関しての今回の会社法の措置等についてでありますが、今委員御指摘のチッソの社長の発言等、私は直接は聞いておりませんが、救済の終了という点につきましては、今後水俣病対策にしっかりと取り組む中で、どういう状況か、それに当たるか、環境省としては今後適切に判断をしたいと考えております。

 また、水俣病の原因企業による子会社の株式譲渡につきましては、この特措法の第十三条におきまして、救済の終了及び市況の好転まで暫時凍結をするということにされており、環境省といたしましては、現状において原因企業による株式譲渡を承認できる環境にはないと考えております。

○委員長(荒木清寛君) 仁比君、時間が来ておりますので、おまとめください。

○仁比聡平君 はい。水俣病を終わったとしようとすること自体が絶対に許されないんですよ。

 結局、特措法も、被害の実態に合わない、水俣病問題を解決するということにはならないということが私ははっきりしたと思います。これであたう限りの救済を果たしたなどと強弁するのではなくて、やるべきは、症状に見合った救済制度を確立をすること、地域ぐるみの被害をしっかりとつかむために沿岸地域の悉皆的な調査を断固として行うということが今国としてやるべきことだということを強く申し上げて、質問を終わります。

 

 

午後零時十分休憩

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   午後一時開会

 

 

 

○参考人(大石利生君) 水俣病不知火患者会会長の大石利生と申します。本日は、意見陳述の場をいただき、誠にありがとうございます。

 今回の会社法の改正では、子会社の株式売却につき株主総会の特別決議が必要とされています。ところが、水俣病の加害企業であるチッソを適用除外する修正案が衆議院で可決されました。私はこのチッソを優遇する修正に反対する意見を述べます。

 加害者は、全ての被害者への補償、救済に最後まで責任を負うべきです。ところが、どうして国会が公害加害企業であるチッソを特別扱いにして優遇するのですか。どうして国会が公害加害企業チッソの責任逃れを手助けするのですか。水俣病に苦しみ続ける私たち被害者は絶対に納得できません。

 水俣病は、チッソがメチル水銀を含む工場排水を海に垂れ流して起こりました。激しくけいれんして短期間で死亡に至る劇症型がよく知られておると思います。しかし、現在の被害者は、手先、足先の感覚が痛みを感じにくいという症状が多く見受けられます。私の場合には、三十八歳のときに交通事故に遭い、ガラスの破片が足の裏から甲まで突き抜けたことがありました。しかし、痛みを感ぜず、血だらけの足を見るまでけがに気付かず平気で歩いておりました。

 ほかにも様々な症状が出ます。現在の水俣病被害者の生活の一つのイメージはこうです。委員の皆様方も一応考えてみてください。朝起きたときから頭が重い、食事は味も匂いも分からない、よく物を落とす、よく転ぶ、家事も仕事もよく失敗する、手が震える、口が回らずしゃべりたくない、引っ込みがちになる、少し疲れたらこむら返りで激痛を覚える、夜は耳鳴りで眠れない、やっと眠れたのにこむら返りの激痛で起こされ朝まで眠れない、こういうものです。想像できますか。外から見ただけでは分かりにくい被害かもしれません。しかし、今の被害者は水俣病に苦しみ続けております。

 胎児性患者の坂本しのぶさんは、本当は健康な体で生まれてきたかった、私は苦しみながら生き続けるのに、その加害者であるチッソはその罪を免罪されて晴れ晴れと生き続ける、こんな不条理は絶対に許せないとおっしゃっています。これは全ての水俣病被害者に共通の思いだと思います。

 今回の修正案の提案者は、被害者救済と水俣病問題の最終解決を妨げてはならないと言います。しかし、これは現実を全く無視するものです。水俣病特措法は、チッソの子会社の株式の売却をして、それを被害者の補償に充てる仕組みとなっています。子会社の株式を売ることで一時的にお金はつくれます。しかし、被害者補償へ回せる金額の上限が決まっています。

 ところが、今も未救済の被害者が多数取り残されております。今後、被害者が補償を求めても資金不足でチッソからの補償を受けられなくなるおそれもあります。これでは被害者救済にも水俣病問題の最終解決にも逆行することになります。

 驚かれるかもしれませんが、公式確認から五十八年も経た今、未救済の被害者はまだまだ多数取り残されております。水俣病は全く終わっておりません。平成二十二年から特措法の受付が始まりましたが、非該当として不当に切り捨てられた被害者がたくさんおります。

 まず、ずさんな検診で症状を認めてもらえず切り捨てられた方がいます。配付資料のこの一ページの写真を御覧ください。これは、痛みの感覚の検診で医者からつまようじを強く突き刺されて出血した方の写真です。御覧いただけますか。私どもが把握しているだけで二十件以上はありました。検診を担当する医師は行政が依頼するわけですが、中には申請者の感覚障害を疑ってかかる医師もいたわけです。

 感覚の検査では、手先、足先と胸など体幹部を比較する決まりです。しかし、私たちの会員である山本サト子さんのケースでは、医師がその比較の検査をしませんでした。山本さんは元看護師なので、おかしなことが分かったんですよね。人の命と健康を扱う医者があんないいかげんな検診をするなんて絶対に許せないと怒っています。

 次に、半世紀前の資料を出せと行政から無理強いされて、出せずに切り捨てられた方もいます。水俣病被害者と認められるには、症状に加えて、メチル水銀に汚染された魚介類を多食したという暴露要件も必要です。行政が一定の地域を対象地域と定め、そこでの居住歴、生活歴があれば暴露ありとされる仕組みです。

 ところが、行政は、客観資料を要求します。客観資料とは、住民票や雇用歴や学歴の証明書などです。しかし、半世紀前の住民票は廃棄されて残っていない場合もあります。引っ越しても住民票を移さなかったケースは昔はよくありました。私たちの会員の大野良實さんは、三歳から六歳までを不知火海沿岸の女島という水俣病患者の多発した漁村で暮らしました。しかし、住民票を移していなかったために非該当とされました。大野さんは、当時同居した女島の親戚の証言を文書で出したのに認めてもらえなかった。行政は住民票を移さなかった親を恨めというんですかと憤慨しております。会員の七十七歳のIさんは、昭和三十年から三十二年まで水俣の洋服屋に住み込んで働いていましたが、今では店もなく雇主の行方も分からず、雇用証明書を出せずに非該当とされました。国は私たちをずっと放置してきて、今になって六十年前に雇用証明を取っておかなかった私が悪いというのですかとおっしゃっています。

 対象者が多数取り残されていることが最も明白なのは対象地域外の地域、特に天草です。配付資料の三ページを御覧ください。この地図が付いているところですね。左上の九州の地図の真ん中に熊本県があります。数字の、①の足下が水俣です。熊本県の一番南です。左下の地図で、八代海は不知火海のことです。東に水俣、西に天草となります。そして、右の図で細かい斜線を引いた地域が特措法の対象地域です。天草は、御所浦と龍ケ岳だけが対象地域で、その他の地域は対象地域外です。

 従来、行政は、地域外というだけで水俣病と認めてきませんでした。住民の側も、行政から対象地域外とされれば、ある方は自分が水俣病のはずがないと思い込み、ある方は申請しても無駄だと諦めてしまってきました。しかし、平成二十一年の民間の住民検診では、天草の住民から水俣病の症状が確認されました。手先、足先の感触障害は珍しい症状で、汚染のない地域の住民には百人に一人いるかいないかというレベルです。ですから、手先、足先の感覚障害を持つ人が多数見られれば、地域ぐるみのメチル水銀汚染が強く疑われるのです。その後、天草の地域外から数百名がノーモア・ミナマタ第一次訴訟の原告となり、平成二十三年の和解で地域外の約七割が救済対象となりました。その後、特措法でも、私どもが把握しているだけでも、地域外の会員のうち数百名が救済対象となっております。

 被害者がいないはずの対象地域外から数百名単位で水俣病被害者が出た事実を他の住民が見て、救済を求める声が更に広がっております。水俣病不知火患者会は、被害者の掘り起こしや検診を進めています。ノーモア・ミナマタ訴訟では、天草の倉岳、宮野河内、姫戸の三地区が中心でしたが、その特措法では、楠浦、新和、栖本など沿岸地域一帯に申請者が広がっています。これは資料の四ページを御覧になると新聞記事が載っております。

 対象地域外の地元自治体も対象地域の拡大を求める意見書などを出されています。天草の不知火海沿岸で対象地域外とされている地域の人口は少なくとも三万人以上でした。天草での救済は始まったばかりです。そのほか、魚介類が流通した内陸部、山間部や昭和四十三年以降生まれた障害者の救済も取組が本格化しようとしています。

 特別措置法の平成二十四年七月の申請期限に間に合わなかった被害者もいます。過去の差別、偏見の影響で、子や孫の結婚や就職の心配から申請をためらう人が残っております。水俣市と周辺の市町村を比べると、水俣市の申請の割合が低いようです。というのも、チッソのお膝元であるというのが一つ影響しているのではないかと私は考えております。

 県外転出者にも情報が届いておりません。以前、高度成長政策のときに、当時は中学校を卒業すると東京、大阪方面へ集団就職で移住しております。その人たちがもう今はある程度の年になり、私たちと全く同じような症状が出ておりますが、それが水俣病だということをなかなか分かってくれない、分からない、誰も教えてくれないというのが現状です。

 以上のように、未救済の水俣病被害者が多数取り残されております。被害者救済が終わる見込みは全くありません。水俣病は終わっていないのです。

 このような中でチッソを優遇する修正案は絶対に許せません。国がチッソを優遇して子会社株式売却を手助けすれば、残されている多数の被害者がチッソから補償を受けられなくなるのです。また、水俣病問題の最終解決にも逆行します。

 加害企業チッソを擁護したとしても、国の賠償責任は消えません。関西訴訟最高裁判決では、国の責任割合は四分の一ということでした。しかし、今後、国がチッソの消滅を進めたために被害者が賠償を受けられなくなれば、国が損害の全額を負担すべき事態が生じるのではないでしょうか。重大な結果が国にも降りかかるのです。

 全ての加害者は、全ての水俣病被害者への補償、救済を全うすべきです。私たち被害者は全ての被害者救済まで闘い続けます。

 参議院の先生方におかれましては、良識の府として慎重に御検討いただきますようお願いいたします。

 以上、御清聴、誠にありがとうございました。

 

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。今日は参考人の皆さん、ありがとうございます。

 まず、大石参考人に水俣病の問題についてお尋ねをしたいと思います。

 先頭に立っての御奮闘に心から敬意を申し上げたいと思うんですが、先ほどもお話がありましたように、これまでの特措法の救済策が対象地域や年齢による線引きをし、先ほどお話のあったようなずさんな公的検診ということも問題になってきたわけですが、そうした結果、該当しない、非該当であるという判定を一方的に通知してくることに対して、熊本県や鹿児島県では異議の申立てさえ認めない。それは、国、環境省が異議の申立ては認めないのだと、そういうふうに言っているからだということになっているわけですが、この一方的に線引きをし、切り捨てておいて、異議の申立てさえ認めないといった国の姿勢について、大石参考人や被害者の皆さんはどんなふうに感じておられるでしょうか。

○参考人(大石利生君) 今の質問に答えさせていただきます。

 確かに、今私たちが訴えている特措法ですら救済されない。特措法というのは元々、あたう限りの救済をするという目的で始まった特措法ですよね。それが実際なされていない。仮になされたとしても、書類によって審査をするわけです、実際、公的検診を受けさせるわけではなくて。また、公的検診を受けたとしても、先ほど言ったように、医者が患者の手先をつまようじでもって血が出るまで突いてみるとか、そういうことをするのが全く本当の検診なのかというのもあります。

 だから、私たちは、この被害者を救済するためにはどうしても、そういう一方的な書類だけによるものではなくて、全ての申請者に公的機関での検診を受けさせるべきだと思っております。

○仁比聡平君 私は、先ほど申し上げたような線引きだとかずさんな公的検診だとかということは一切改めて、全ての被害者を救済するという立場に立った上で改めて特措法の申請を開始するといった、そうした態度こそあたう限りの救済という方向に沿うのではないかとも思うんですけれども。

 ちょっと話題変えまして、新潟県では異議の申立てを認めているわけです。私が患者団体に伺いますと、九十件の異議の申立てが既に行われているそうで、そうしますと、行政不服審査法に基づく審査が行われる中で、県が一旦行った非該当という判定が覆っていくと。その中で、特措法の運用は本来こうであるべきであるというような議論が新潟県に関しては起こっていくということがあり得るというか、もう現に起こっているわけですよね。

 仮に、熊本や鹿児島でそうした異議の申立てが認められるならば、今の天草を始めとした被害者の皆さんの救済というのはもっと様々な形で広げ得るのではないかと思うんですが、その辺りはどう考えますか。

○参考人(大石利生君) 全く先生が言われるように、新潟では異議の申立てが認められております。しかし、同じ環境省の管轄でありながら、熊本県、鹿児島県はそれを認めようとしない。というのも、環境省がそう言うからという形で私たちの異議申立てを受け付けておりませんので、私たちはやむなく司法による救済というのを求めて第二次のノーモア・ミナマタという訴訟を起こしているわけです。

 司法によってしか私たちは救済されないと思っておりますけれども、やはり本来あるべきは、先ほど言われたとおり、あたう限りの救済という呼びかけをした特措法ならば、わざわざそういう異議申立ての受付云々ということを言わなくても、ちゃんとした症状があれば、民間の医者が診断書を出して、水俣病だという診断書を出している以上は、それをちゃんと素直に認めて救済に図るべきだというふうに思います。特に四十四年以降に生まれた人たち、また近辺に居住してきた人たちに対しても、年数が足らないからとかなんとかじゃなくて、やはり、先ほど言った、医者の診断です、これがちゃんと症状があると認めたら、いろいろな、五十年前とか四十年前の書類を出せと言わずに、もう症状だけで、診断書だけで救済をすべきだと思っております。

○仁比聡平君 私は、この特別措置法というのが六万五千人もの申請に広がって、当初、法律が制定されたときの想定を大きく超えて救済を広げてもきたというその力には、大石参考人を始めとして被害者団体の皆さんの頑張りというものが本当に大きな力になっていると思うんですね。

 ただ、一方で、この特措法の実際の実施状況を見たときに、水俣病特措法だけで水俣病問題が解決できるかというと、決してそんなことはないということが明らかになったのだと思うんですね。そうした下で、全ての被害者の救済を本当に進めていくためには何が必要かという点について、参考人の御意見を伺いたいと思います。

○参考人(大石利生君) 確かに、言われるとおりに、全ての被害者を救済するとなれば、私たちが訴えているのは地域住民の健康調査、それから環境調査、これをやらなくては本当の水俣病の終わりというのはないと思います。それを幾ら行政に呼びかけて、私たちが訴えても、今更やっても無駄だというような言い方をしますけれども、しかし、行政自身が四十年も五十年も前の書類を出せという、そういうことすら、無理なことを言ってくることすら間違いであって、私たちが訴えている沿岸住民の健康調査、また関係住民の健康調査をやり環境調査をやると、必ず症状を持った人が出てくるわけです。そうすると、今後の水俣病問題についても解決法というのは、それができるというふうに私は思っております。

○仁比聡平君 五十年前の魚を買った領収書はなくても、皆さんの被害に遭っている体そのものは現在目の前にあるわけですから、実際、政府の関係者も皆さんの住民検診を直接御覧になって、新たに手を挙げる被害者の姿が絶対にうそではないということはどうもお認めになっているようですけれども、そうした悉皆的な健康調査、あわせて水俣病認定の基準についても改めるべきだと、そんなお考えですかね。

○参考人(大石利生君) 今言われたように、申請の結果についても、私は、最高裁でも司法の判断が出ているということを踏まえて、やはり被害者救済のためにはそのことを実動に移してほしい。そうしなければ本当の被害者というのは救済されないんです。

 現に、私がこういうふうにしてしゃべっていても、見た目では本当に普通のおじさんにしか見えぬと思うんです。しかし、私は、自分の体をちょっと皆さんの前にさらけ出すのはやめますけれども、幾ら自分のここを、手を指でつねっても痛いということが言えないんです。そして、今日も昼も食べたんですけれども、刺身なんかを食べても私自身は味が取れません、刺身とか、食べている品物が味が分からない。これは本当に普通の人から言わせると何かおかしいというふうになるかもしれない。しかし、私はそれでずっと生き続けておりますので。一番申し訳ないと思っているのは、うちの奥さん。家内が私のために毎日食事を作ってくれているんですけれども、その作ってくれた食事に対して私は、ありがとう、おいしかったね、今日の食事はおいしかったよというのが、言ったことがありません、言えないんです。そういうのが水俣病の今の被害者です。これは私だけの問題じゃありません。

 先ほど意見陳述の中で言いましたように、水俣病の被害者というのは目に見えては分かりません。これは劇症型の患者さんだったらテレビとか映像で分かるんですけど、私を見て水俣病の患者と思われる人はまずいないと思うんです。そういう問題、みんなが、今の患者さんというのは見た目では分かりませんが、それぞれ苦しみを持っております。ある人は視野が狭い、ある人は頭が痛い、重い、肩が凝る。私も全くそれが全部入っているんですけれども。

 あるとき、風呂が大好きだという自分の孫が遊びに来たので、よし、じいちゃんが、初めてだけん、風呂に入れてやるねと言って、私が湯舟に入ってお湯の温度を調整して、いいよと言って、その子を連れてきてもらって風呂の中につけた途端にその子が大声で泣き出したんです。私は、何で泣くのかなと、風呂が好きだという子が何で泣くのかという気持ちでおったところが、うちのが飛んできて湯舟に手を入れて言ったのが、あなたはこの子をゆで殺すつもりかと言われました。それだけ私の体というのは熱に対しても鈍いんです。

 そういうことからして、本当に熱いというのが分からぬのかと思って、私自身も、シャワーを温度計入れて最初より五十度の温度に設定して、それを自分の膝に掛けてみたんですけれども、熱いとは感じませんでした。そして、自分の足首を見ると真っ赤になっておりましたけれども、熱いとは分かりませんでした。

 そういう被害者が今いるということを皆さん知っていただきたい。

○仁比聡平君 ありがとうございました。

 ちょっとテーマを変えて、静参考人に一問だけお尋ねしたいんですが、社外取締役なんですね。

 アジア・パートナーシップ・ファンドという、APFというファンドの一般投資家への詐欺だとか、あるいは傘下企業からの資金流出や労働組合潰しなどの不当労働行為が問題となってきたわけですけれども、そのファンドが支配をしている昭和ホールディングスという東証二部の上場企業があります。その企業の社外取締役にファンドの代表者が就いているわけなんですね。

 ついては、そのファンドの代表者に対して、つまり上場企業の社外取締役に対して、昨年の十一月、証券取引等監視委員会が一般投資家に対する偽計などを理由として、四十一億円という異例の課徴金の納付を勧告をしています。また、同じ会社の社外取締役がインサイダー取引で課徴金命令の勧告を受けていると。

 こういうことについて、証券取引所として調査を行ったりはされているんですか。

○参考人(静正樹君) ありがとうございます。

 今御指摘があった四十一億円の課徴金というのは、昨年出ていると思いますけれども、そういう上場会社の、その後は、そこの課徴金は、同じく傘下会社ですけれども、ウェッジホールディングスという別の会社の偽計取引が、このAPFの代表の方がやられたということで出たというふうに聞いております。

 もちろんこの問題につきましては、上場会社自身の行為が違法と認められたものではなくて、代表の個人的な違法行為だというところまでは認定されているというふうに思っておりますけれども、単純に申し上げますと、投資家の方は的確な投資判断ができないといけないので、本当なのかどうなのかということを会社には開示をしてもらっております。

 会社自身は事実関係を否定しておるということになっておりますけれども、今後、金融庁による審判手続、あるいは私どもの事情聴取などを経て明らかになっていくであろう事実関係というのが今後あると思いますので、それを踏まえて、上場ルール違反があったのかとか、上場適格性に問題がなかったのかということを今後判断していくことになるんだろうというふうに思いますけれども、今のところは、審判そのものが全く進んでいないということもありまして、事情が余り私どもとしてもつかめていないというところだというふうに思います。

 この調査だとか認定という問題につきましては公正中立な判断が求められますので、私どものように上場会社を直接のお客様としている取引所ではなくて、同じ傘下の会社ですけれども、自主規制法人というのを独立した形でつくって、そちらで委託して調査を行っていただいておりますので、調査は今どこまで進んでいるのかにつきましては私どもとしても知り得る立場にないので、それ以上のことは今のところ分からないということでございます。

○仁比聡平君 時間が参りましたので終わりますけれども、そうした重大な違法行為が上場企業の社外取締役について指摘をされても、これだけの間、調査が現実に行われるわけではないと、上場され続けているというのが現状なんだなというのが今分かったということを申し上げて、終わりたいと思います。

 ありがとうございました。