○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平です。
私は、会派を代表して、内閣提出の出入国管理及び難民認定法等改定案について、法務大臣に質問いたします。
二年前、名古屋入管収容所で起こったウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件は、国連機関や専門家から国際人権法違反、憲法違反と厳しく批判されてきた我が国の入管収容、難民認定行政の底深い人権侵害構造をあらわにしています。まだ若く健康だったウィシュマさんが、なぜあのような亡くなり方をしなければならなかったのか。その答えはなお出ていません。
最期の十三日間、入管単独室の監視ビデオは、急激に衰弱していくウィシュマさんの姿を記録しています。亡くなる二日前の朝、ウィシュマさんは完全に脱力し、呼びかけにもほとんど反応しませんでした。看守職員のバイタルチェックでも血圧、脈拍は測れませんでした。医療職ではない入管職員が、目の前で衰弱する被収容者を確認し、バイタルも取れないなら、大臣、直ちに救急車を呼ぶのが当然ではありませんか。
ところが、ウィシュマさんは、亡くなる前日も、当日も、バイタルも取れないまま漫然と放置されました。最後、あおむけで右側に首をかしげたまま全く動かず、呼びかけにも、体をたたかれても全く反応がなく、指先は冷たく、脈も取れなくなって初めて、看守職員が愕然とした様子で、ええっと小さく声を漏らす姿がビデオに記録されています。これが入管のいう容体観察です。
大臣、名古屋入管は、ウィシュマさんが求めていた点滴もせず、社会一般の医療水準に照らして適切な医療上の措置をとらなくても回復するとでも考えていたのですか。被収容者を対等な一人の人間として向き合っているなら、こうした処遇はあり得ません。大臣は、入管収容の人権侵害構造をどう認識しているのですか。
拘禁が、抑うつなど精神的症状だけでなく、消化器系、循環器系など身体的症状をももたらすことは拘禁反応と呼ばれ、刑事施設においては遅くとも昭和四十年代から対応が行われてきました。まして入管収容は無期限で、強制送還への恐怖など先の見えない不安が受刑者より大きいことは、精神科医にとっては当然の認識です。ところが、入管当局においてこれまで何の研究も行われてこなかったのはなぜですか。
更に重大なのは、同様の死亡事件はウィシュマさん以前にも繰り返し引き起こされながら、政府が個別事件に関わるので答弁を差し控えるなどと実態解明と徹底検証に背を向け続けてきたことです。その解明なしに本法案の審議はあり得ないのではありませんか。
入管施設内における死亡事件は、二〇〇七年以降だけで十八件に上ります。ところが、入管当局はそのうち五件でしか調査報告書を作らず、また、それを公表したといいながら、ホームページに公表されているのはウィシュマさんの事件と二〇一九年大村入国管理センターで起こったナイジェリア人餓死事件の二件だけです。ほかの十三件は、特に検証の必要がないなどとして報告書の作成さえしていません。
大臣、これら死亡事件全てについて、亡くなった被収容者がどんな事情で収容されたのか、死に至るまでの経緯、収容期間、死因、そしてどのような医療上の措置がなされたかなどの観点をもって、第三者機関による検証を行い、国会に報告すべきです。ウィシュマさんの二百九十五時間分存在するとされる監視ビデオ全ての国会提出を強く求めます。明確な答弁を求めます。
法案は、ウィシュマさんを悼み、人道に反する入管行政に憤る大きな声に包まれて二年前廃案となった政府法案と骨格を同じくしています。これに対し、我が党を含む四会派五党は、入管当局による全件収容主義をやめ、収容期間に上限を定め、収容の必要性、合理性の判断は司法審査によることとすると同時に、難民認定行政は出入国管理行政から切り離し、独立した難民保護委員会を創設することを柱とした野党対案を提出し、その実現を強く求めます。
大臣、まるで入管が在留外国人の生殺与奪を握っているかのように、当局の裁量で無期限の収容が行われ、被収容者は自ら帰国意思を示すまで自由を奪われ続けることは構造的な人権侵害にほかなりません。だからこそ、職員の不当な判断や差別的言動が再生産されてきたのではありませんか。今日、行政当局の裁量、判断だけで無期限に被収容者の身体の自由を拘束する制度がほかにありますか。
政府案は、三か月ごとに収容の必要性を見直すとか、監理人制度の新設や仮放免の在り方見直しで対応するとしていますが、それらはこれまでどおり入国審査官の裁量に委ねられています。それでは全く変わらないのではありませんか。
自由権規約委員会や拷問禁止条約委員会を始め国連機関からの厳しい批判を正面から受け止めるべきです。外国人の受入れは国家が自由に決められる、法務大臣には広範な裁量がある、外国人の基本的人権は在留制度の枠内で与えられているなどとする入管思想は、憲法と国際人権条約に反する時代錯誤にほかならないと考えますが、いかがですか。
一九五一年に採択された国連難民条約と一九六七年難民議定書は、国際社会の法的合意として各国に難民を保護する義務を定めました。ようやく一九八一年になって条約を、そして翌年議定書に加入した我が国も難民を保護する義務こそを負っています。
難民条約三十三条は、締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならないとするノン・ルフールマン原則を定め、それはそのまま難民申請者に当てはまることは国際法の鉄則です。難民である可能性がある難民申請者は送還されてはならないのです。
今日、入管当局は、自らの判断で退去強制令書を発付したら、入国警備官に帰国意思を示した者以外全てを一くくりに送還忌避者呼ばわりし、令和三年末で累計三千二百二十四人に上るとしきりに言います。ところが、その年の間に新たに送還忌避者と判断した人数、送還や難民認定、在留特別許可や死亡などで送還忌避者でなくなった人数を聞くと、そうした統計は取っていないと言うんです。驚くべき答弁ではありませんか。
そこには多くの難民申請者が含まれています。帰国すれば迫害される恐怖を抱く難民認定申請者が帰れないと答えるのは当然です。難民認定申請の送還停止効を濫用、悪用しているケースがあるとも入管は言いますが、何件あるのかと聞いても数字は示せず、疑わしいと言うだけではありませんか。一体、難民認定申請を濫用、悪用だと判断する基準は、大臣、何なんですか。
帰れないと言う人全てを一くくりにして、三回目以降の難民申請に送還停止効を認めず、強制送還に応じるか、帰国できなければ送還忌避罪で訴追されるか、非正規滞在者に理不尽な二者択一を迫る政府案に立法事実は認められません。
複数回の難民認定申請で難民性が認められた方は数多くいます。難民不認定処分を困難な裁判で争い、裁判で覆った事件も、二〇〇三年以降、少なくとも三十二件、三十五人に上っています。一方で、裁判できないように不認定の通知翌日に強制送還され、現に出身国内で転々と避難生活を送っている人がいます。強制送還されて、出身国の刑事裁判にかけられ、そのさなか殺害されてしまった人もいます。これが難民認定行政ですか。難民条約と国際人権法に照らして……
○議長(尾辻秀久君) 仁比君、時間が超過いたしております。簡単に願います。
○仁比聡平君(続) 断じて許されないのではありませんか。
我が国に保護を求め、働き、共に暮らすことを願うそれぞれの当事者には、様々な帰国できない事情があることに思いを至らせるべきです。
差別と排斥ではなく、保護と共生こそ。急速に広がる国民の皆さん、当事者、支援者、専門家の皆さんの声を真剣に聞き、徹底審議することを強く求めて、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣齋藤健君登壇、拍手〕
○国務大臣(齋藤健君) 仁比聡平議員にお答え申し上げます。
まず、ウィシュマ・サンダマリさんに対する医療的対応等についてお尋ねがありました。
入管庁が外部有識者の意見を踏まえつつ取りまとめた調査報告書では、御指摘のように、ウィシュマさんの体調不良の訴えやバイタルチェックの結果等に関する対応について問題点として指摘しており、これを踏まえた改善策として、人権と尊厳を尊重しつつ職務を行うための使命と心得の策定、被収容者の生命と健康を守ることを最優先に考え行動することを心構えとする救急対応マニュアルの策定などを行い、職員の意識の改革等を図ってきたところです。
次に、入管庁における拘禁反応の研究についてお尋ねがありました。
被収容者に対しては、その状態に応じて医師の診療や臨床心理士のカウンセリングを受けさせるなどの対応を行っていることに加え、職員に対しても、精神科医師等による研修を実施するなどして適切な対応が行われるよう努めていることから、入管庁においては、拘禁反応に関する研究等を行った実績はないものと承知しています。
次に、入管収容施設の死亡事案についてお尋ねがありました。
入管収容施設の死亡事案については重く受け止めなければならず、死亡事案等が生じないよう適切に処遇を行うことは国の責務であると認識しています。
過去の死亡事案については、発生の都度、事実確認等を行い、その結果につき、個人に関する情報であることにも配慮しながら必要に応じて公表するなど、適切に対応しており、更なる調査、報告は必要ないと考えています。
次に、ビデオ映像の国会提出についてお尋ねがありました。
御指摘のビデオ映像については、これまで国会からの御要請や裁判所の訴訟指揮に適切に従うなどして対応してきましたが、更に広くその全てを国会に提出することについては、保安上の支障の問題やウィシュマさんの名誉、尊厳の問題があることに加え、係属中の訴訟に与える影響も考慮すると、慎重にならざるを得ないと考えます。
次に、入管当局の判断による収容についてお尋ねがありました。
現行法下では、被収容者ごとに個別の事情に応じて仮放免を柔軟に活用し収容を解いているため、被収容者は自ら帰国の意思を示すまで自由を奪われ続けるとの御指摘は当たりません。また、御指摘の行政当局の裁量、判断による収容の制度について、網羅的、一般的には把握していないことから、その有無につきお答えすることは困難です。
次に、監理措置や仮放免についてお尋ねがありました。
本法案は、監理措置及び仮放免について、判断基準や考慮事情を法律上明確化し、不許可とする場合などにはその理由の告知を行うこととするなど、判断の透明性を高めるための様々な仕組みを整備しています。これにより、合理的な理由のない不許可などを抑止し、判断の公平、適正さを確保できるので、現行法下と収容の在り方が全く変わらないとの御指摘は当たりません。
次に、入管行政と憲法などについてお尋ねがありました。
我が国では、憲法や我が国の締結する人権諸条約に従い、出入国在留管理行政を行っています。
その上で、最高裁判所昭和五十三年十月四日大法廷判決は、憲法二十二条一項は、省略がありますが、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができるものとされていることと、その考えを同じくするものと解されると判示しており、現在においても先例性を有しているものと認識しています。
次に、ノン・ルフールマン原則についてお尋ねがありました。
送還先はノン・ルフールマン原則を担保する入管法第五十三条第三項に従って決定されるため、同原則に反する送還が行われることはありません。
次に、送還忌避者や難民認定申請の濫用事案等についてお尋ねがありました。
一般論として、難民認定手続中である者も、自らの意思に基づき退去を拒んでいる場合は送還忌避者に含まれます。その上で、我が国では、例えば、殺人や強姦致傷等の重大犯罪での服役後に複数回にわたり難民認定申請をする者、観光、留学、技能実習などの在留資格で入国した後に本来の目的から外れた段階で難民認定申請をする者など、難民認定制度の誤用、濫用が疑われる事案もあるものと承知しています。
最後に、我が国の難民行政についてお尋ねがありました。
御質問の前提事実が抽象的であることからお答えすることは困難ですが、我が国では、個別の申請者ごとに難民条約の定義に従い難民と認定すべき者は適切に難民と認定しており、難民条約や国際人権水準に照らし許されないとの御指摘は当たりません。(拍手)