○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

今回の責任制限額の引上げによって、日本国内で過去十年に責任限度額を超えた海難事故、P&I保険加入船舶の六件のうち二件は全額補償が可能な水準に結果としてなるというなど、全体として引上げになるので賛成はするんですけれども、今日も被害者保護は不十分ではないのかという角度からの議論が会派を超えて行われているとおり、私、今日は、引上げの幅、責任限度額の一・五一倍化というのが本当に合理的なのかということについて議論をしておきたいと思います。

先ほど来出ております〇八年三月の明石海峡多重衝突事故による損害は責任限度額の三十三・五倍と、はるかに超えて、被害が補填をされませんでした。これは極めて重大な政治課題にもなってきたわけです。

この法案の四月一日の衆議院における質疑で、国土交通省から、二〇〇九年の六月の我が党穀田衆議院議員の国土交通委員会の質問に対する御答弁、つまり、始まったばかりのIMOでの議論をリードして国際的な枠組みの構築に努めてまいりますという御答弁を紹介された上で経過を説明をされ、我が国は確実にこの簡易改正手続に基づく改正の動きがまとまり、責任限度額が引き上げられるように調整を進め、今次改正が実現したところでございますという御答弁をされているわけですが、つまり、この一・五一倍というのは日本がリードして行ったと、実現したと、そういうことですか。

○政府参考人(櫻井俊樹君) お答え申し上げます。

二〇〇八年の明石海峡船舶多重衝突事故を受けまして、国土交通省としましては、まず、IMOに対しまして明石事故の被害を報告するとともに、船主責任限度額を超える燃料油の被害の実態について世界的な調査をして実態把握をするという提案を行いました。これがきっかけで議論が可能になったわけでございますけれども、明石事故に続きまして、同じように責任限度額を超える燃料油の流出となりましたオーストラリアからは、九六年議定書の簡易改正手続に従った責任限度額改正の提案、併せて、必要があれば条約改正の検討を行う旨の提案が出されました。

我が国としましても、明石海峡船舶多重衝突事故を受けまして、船舶の燃料油による汚染損害への対応としまして、簡易改正手続に従った責任限度額の引上げだけでなく、幅広い多様な観点から検討が行われるべきとのスタンスで臨みました。

しかしながら、IMOにおきましては、九六年議定書の簡易改正手続に従った責任限度額の引上げに限定して検討を進めるとの意見が大勢でございました。そして、この簡易改正手続に従った責任限度額の上限であります年六%、率で引上げ率を算出した提案というものがオーストラリアから出されたわけでございます。

一方、この九六年議定書の簡易改正手続による引上げの場合には三つ要素がございまして、事故の経験、特にこれらの事故によって生じた損害の額、貨幣価値の変動、そして改正案が保険の費用に及ぼす影響を考慮するという規定になっておりまして、それを満たした上で、上限年六%複利で算出した引上げ率を超えないというような規定になってございました。

オーストラリアの提案に対しましては、この条約改正手続に当たって要求されますこれらの要素を考慮したものではなく、またオーストラリアの提案について様々な意見があったため、このままでは責任限度額の引上げを実現することができないおそれがございました。

そこで、我が国は、被害者保護の観点から、責任限度額の引上げを実現すべく、責任限度額の引上げに当たっての客観的な根拠の一つとしまして、九六年議定書の加盟国におけます一九九六年から二〇一〇年までのインフレ率を各国のGDPの全加盟国に占める割合について調整して算出した引上げ率を提案をいたしました。この結果、多数の国が我が国提案の算出方法に賛成をし、ただし、計算の対象期間を一九九六年から二〇一〇年まででなく、二〇一二年まで延ばした上で算出をするという形で一・五一倍という数値の引上げで合意が図られたものでございます。

○仁比聡平君 今お話のあったオーストラリアを始めとした提案について後でちょっと議論をしたいと思うんですけれども、つまり、一・五一倍というのが最初から国際機関での議論の土俵にあったんじゃなくて、商事法定利率六%を掛けた、つまり二・三倍という案が簡易改正手続の上限としてこれ行うべきじゃないかというのがオーストラリアの提案で、それは、二〇〇九年の三月にオーストラリアで起こった重大事故、これを踏まえた極めて切実な提案だったと思うんですよ。ノルウェーやカナダもこれに賛同した。その翌年には二十か国が簡易改正手続による共同提案を行ったということなんですね。

ちょっとその経過についての態度は後で聞きますが、まず、そうした結果、一・五一倍というのをつまり今海事局がおっしゃるようにリードしたというんですけれども、一・五一倍では、そもそもの発端の明石海峡の事故のような事故がこれから先起こったら被害は全く補填されないじゃないですか。大臣、その到達点についてどう思っていらっしゃるんです。

○国務大臣(上川陽子君) 一・五一倍の引上げということで今回お願いしているわけでありますが、これにつきましては、一・五一倍という中において一定程度被害者の保護に資するものというふうに考えるわけでございますが、ただ、引上げ後も被害額が責任限度額を超える事故はあり得るというふうに考えておりまして、その意味で、被害者の救済という視点からなお重要な課題であるというふうに認識をしているところでございます。

○仁比聡平君 今後なお重大な課題であると、これを関係機関とも協議をしながら前進をさせていかなきゃいけないという趣旨の決意はこれまでも語られていて、それはそのとおりだと思うんですけれども、限度額があることを前提としても、一・五一倍か二・三倍かでは、これは被害者の救済される幅は変わりますよね。

海事法研究会誌というこの分野の雑誌があります。二〇一四年の十一月号で、お名前はちょっと申し上げませんけれども、有名な我が国の保険会社の副部長さんがレポートをこの問題について書いておられるんですけれども、このオーストラリアの提案に対して日本はどういう態度を取ったかという点について、こんなくだりがあります。

「当初のスタンスはそもそも簡易改正の必要性を認めないというものだった。」、ところが先ほどの私が紹介したような経過になる。「引上げゼロに固執することは結果としてオーストラリアの主張寄りの結果につながることが懸念された。そのような流れの中で、本邦も理論的に根拠があり、現実的に受け入れ可能な引上げを主張していくことに軌道修正することになった。」。

つまり、二・三倍化、簡易改正ででも最大の引上げをやろうじゃないか、やるべきじゃないかという提案について日本は反対したんじゃないんですか。そうすると、重大な事故が起こったときに、現実に損害が補填されない部分が大きくなる、そのことについてどう考えてIMOでの協議に臨んできたんですか。

○政府参考人(櫻井俊樹君) お答え申し上げます。

先ほど答弁させていただきましたように、私どものスタンスとしましては、まず、簡易改正手続に従った責任限度額の引上げでなく、幅広く多様な観点から検討を行うべきというスタンスでございました。先ほど御紹介いたしました国土交通省に設置しました検討会での議論も踏まえまして、幅広い観点から検討を行うべきという形のスタンスでございました。

○仁比聡平君 私、この日本政府の態度については、国際機関での協議の中身の話ですけれども、よく検証する必要があると思いますよ。

今日ちょっと時間がありませんから次の機会にもう譲るとして、一方で、保険というのがどんな現状にあるのかというお話があります。

先ほど、金融庁の方でしたか、保険料引上げの動きはないという御答弁がありましたから、私はあえてもう一度は確認はしませんが、民事局長にお尋ねしたいのは、事故発生率ですね。衆議院の御答弁でも、責任限度額を超えるような事故の発生が極めて割合的に少ないということもあって、この改正で直ちに保険料を引き上げることは予定していないという見込みを語られているんですが、この事故の発生率というのはどんな現状でしょうか。

○政府参考人(深山卓也君) 事故の発生率については幾つかの統計的な数値の捉え方がありますが、結論的に申し上げますと、最大で一%程度だろうと思っています。

もう少し具体的に個々の数字を申し上げます。

主要な保険事業者である日本船主責任相互保険組合、いわゆるJPIクラブにおける年間の保険金支払件数は、近年ではおおむね四千件から五千件で推移しておりますが、そのうち、損害額が責任限度額を超える事案の件数は年間〇・〇二%前後とされています。また、国際PIクラブからIMOに報告をされた五百九十五件の燃料油の流出事故のうち、責任限度額を超える損害が発生する海難事故は七件で、その割合は約一%でございます。さらに、平成二十五年の我が国の海難事故の件数は約千八百件で、この年の裁判所に対する船主責任制限手続の申立ては二件で、その割合は約〇・一%と。

これらはどれか一つで事故の割合を極めて正確に表しているとはなかなか言い難いというのは承知しておるんですけれども、今言った三つぐらいの統計数値を見ると、おおむね最大でも一%程度と見積もることができるのではないかと思っております。

○仁比聡平君 そうした事故の発生率を考えてみたときに、保険としては十分まだ余力があるというのが専門家の中からも出ている観点なんですよね。

そこで、ちょっと時間がなくなりましたから間を飛ばして、大臣に最後お尋ねしたいと思うんですけれども、私は更なる引上げを政府として取り組んでいくべきだと思うんです。そのときに、汚染者負担の原則というのをどう考えるのかということが問われていると思うんですね。つまり、加害者あるいは原因者が発生した被害の補填、補償を行うというのがこれは民事上は当然の大原則であるのに、例えば明石の事故のように三十三・五倍もの被害が責任を免れてしまうという、これ正義に反するじゃないかという、この問題についてどう考えるかなんですね。

かつての帆船で大航海をしていた時代とは、もう船の巨大化あるいは鋼の船の登場で全く状況が変わっているし、荷主と船主の関係というのも大きく変わっているし、通信ができないなんていうような状況ももう全くないわけですよね。そうした下で環境への影響というのは極めて重大な事故が起こると、このときに汚染者負担原則を大原則にして引上げを取り組むべきじゃないかと思いますが、いかがですか。

○国務大臣(上川陽子君) ただいまの御質問、被害者の救済に関してということでございますけれども、国際的、国内的な救済措置等につきましても引き続き政府全体で検討していく必要があるというふうに考えておりますので、法務省といたしましても、関係省庁と連携をしながら必要な検討をしてまいりたいというふうに思っております。

更なる責任限度額の引上げということで御指摘がございましたけれども、国際的な性格が非常に強い海運業ということでございますので、そういう意味での国際的な議論ということについては、御指摘になられた視点も含めまして、政府一丸となってIMOにおきましての国際的な議論に積極的に関与してまいりたいというふうに思うところでございます。

また、汚染者負担ということでの原則ということでございます。こうしたことについて、大原則ということで損害全額の賠償を汚染者が背負うということでございます。

この船主責任制限法につきましては、海運業の発展等の目的から船主について責任制限を認めているということでございますので、様々な視点から、そうした御指摘も含めて、国際的な舞台の中で、海運国としての日本、また被害者支援ということの中での大事な課題ということは残されているということでございますので、更に連携をしながら進めてまいりたいというふうに考えております。

○仁比聡平君 まだまだ不十分だと思いますが、終わります。