○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平です。
会派を代表して、刑事デジタルプライバシー侵害法案というべき刑事訴訟法等改定案について質問いたします。
本法案は、情報通信技術の進展に対応するとして、形があり、そこにあるものではなく、形のない、今日際限なく蓄積される巨大サーバーやクラウド上の個人情報、電子データ自体を初めて捜索、差押えの対象とする電磁的記録提供命令を創設するものです。
プロバイダーなど電気通信事業者は、提供命令に正当な理由なく違反すれば処罰されることになるため、実際上、利用者の個人情報を提供せざるを得なくなります。一方で、個人情報本来の持ち主である利用者に知らせることは禁じられます。一旦提供された個人情報は、たとえ提供命令が後に取り消されても、消去、抹消されることなく捜査機関の元に蓄積され続けていくことになります。例えば、グーグルは、世界各国にデータセンターを設置し、個人情報を収集、蓄積していますが、その全てが提供の対象になります。LINEやインスタグラムも同様です。法務大臣、そのとおりですね。
これは、本人が全く知らない間に、警察や検察が疑いを掛けた犯罪とは全く無関係な人々との関係性や、開発、営業など事業に係る情報を根こそぎ収集、分析し、蓄積し続けることを意味します。
犯罪捜査の必要性と人権、私生活上の平穏とプライバシー権の緊張関係について、憲法三十五条は、何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ侵されないと定めています。すなわち、捜索、差押えは、対象になる捜索場所及び物が個別具体的に特定して明示された裁判所の令状によらなければ許されません。
元々形がなく、どこで区切れるかが曖昧な電子データを、捜査機関の一方的な資料だけを見て行う令状審査で裁判官が特定することは不可能なのではありませんか。例えば、仁比が契約する通信事業者サーバーの中のデータボックスという程度で特定性は認められません。捜索対象が特定されない包括的令状、一般令状の絶対禁止という憲法原則、令状主義を形骸化することは許されません。法務大臣の認識を伺います。
二〇一九年、共同通信社の丸裸にされる私生活、企業の個人情報と警察・検察という調査報道があります。捜査機関が令状なしで任意の提供を求める捜査関係事項照会に対しても、各航空会社、鉄道・バス会社、電気・ガス会社、ポイントカード発行会社、クレジットカード会社、消費者金融、携帯電話会社、コンビニ、スーパー、家電量販店、ドラッグストア、パチンコ店、遊園地、アパレル、居酒屋、劇団や映画館、ガソリンスタンド、カラオケ店やインターネットカフェ、ゲーム会社などあらゆる企業が、カードなどの利用履歴、氏名と生年月日、住所、電話番号、メールアドレス、銀行口座、家族情報、店内防犯カメラ映像やレシート情報など、およそありとあらゆる個人情報を捜査機関に提供しているという衝撃的な報道です。法務大臣、これらの企業は全て提供命令の対象にもなるのですね。
この報道から六年。情報通信の高度化、個人情報の蓄積は、六年前とは比較にならないほど急速に進んでいます。
衆議院の参考人、指宿信教授は、法制審議会でも、捜査関係事項照会でどのような不具合があったか、あるいは二〇一一年改正で導入されたUSBなどの記録媒体にコピーさせ物として差し押さえる記録命令付差押えが一体何件執行され、何件思うようなデータが取得できなかったのかといった立法事実が全く提出されていないと厳しく指摘をしています。法務大臣、電磁的記録提供命令制度を不可欠とする立法事実は何ですか。導入しなければ立件できない犯罪があるのですか。
スマートフォンの進化で、近年、指紋認証や顔認証などの生体認証を含む二段階認証が広がっており、多くの人はこれらで個人情報は守られていると信頼しています。そこで、総務大臣、こうした認証システムは個人情報への不正アクセスを防ぐためのものですね。
ところが、法案では、提供命令の際、当該電磁的記録の内容を確認するための措置を命令できることになっています。法務大臣、パスワードやパスコードが掛けられていても、本人の同意なく、本人がパスワードなどを教えなくても、捜査機関は情報を取得できるようになるのではありませんか。
GPSの履歴はどうでしょう。今や、ほぼ全ての携帯端末が衛星からの位置情報を受け取っています。総務大臣に確認します。子供の見守りサービスのように利用者の意思で利用されているものもありますが、端末によっては、使うアプリで利用者がGPS受信機能の利用を選択するしないにかかわらず、端末自身が常時位置情報を受信しているのではありませんか。
二〇一七年最高裁判決が弾劾したとおり、GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うという特徴においてプライバシーを侵害する度合いは極めて深いものです。それでも、法務大臣、利用者本人が知ることなく、GPS履歴も提供させることができるのですね。
これまでも、犯罪の未然防止のためだとして情報収集する公安・行政警察活動と、事件が起こったといって始まる犯罪捜査に実態として切れ目はなく、不可分一体に重大な人権侵害が引き起こされてきました。
大川原化工機事件はその一つです。警視庁外事第一課が三年にわたって執拗に捜査し、役員の逮捕、勾留、起訴に至りましたが、後に検察自ら起訴を取り消さざるを得なくなった重大な冤罪でした。手柄欲しさに無理やり事件をでっち上げられ、保釈さえ認められず、お一人は身柄拘束のまま病死するという取り返しの付かない非人道的な結果をもたらしました。
国家公安委員長に聞きます。関係者は一貫して謝罪と検証を求めています。ところが、警察も政府も拒否し続けています。一体なぜですか。
風力発電をめぐる住民運動を監視し続けた岐阜県警大垣警察署警備課の活動について、昨年九月、名古屋高裁は、市民の個人情報の収集、保有、情報提供は違憲、違法とし、損害賠償と個人情報の抹消を命じました。ところが、警察庁は、上告断念に追い詰められながら、警察の情報活動という事柄の性格上、その目的、対応などを明らかにすることができなかったのが敗訴の要因などと国会で答弁するなど、全く無反省ではありませんか。つまり、公安活動の目的や対応は、たとえ裁判に負けてでも事柄の性格上、明らかにしないとでも言うのですか。国家公安委員長、お答えください。
法案によって、捜査機関に蓄積されていく電子データは、令状記載の犯罪捜査だけではなく、広く公安警察活動の資料としても利用されていくのではありませんか。法務大臣、お答えください。
衆議院で大川原化工機の島田順司参考人は、突然、逮捕、勾留され、留置所で屈辱的な扱いを受け、取調べで録音、録画も弁護士の立会いも許されない捜査の実態を告発されました。ほかにも、事件と全く無関係の中学校時代の成績や男女関係を調べ、取調べで言及して侮辱したり、お子さんの精神疾患を持ち出して黙秘権の行使を非難するなど、手にした情報をてこに自白を強要し、冤罪を引き起こした例は枚挙にいとまがありません。
法務大臣、我が国の刑事司法に今求められているのは、自白偏重と人質司法を改める抜本的な改革ではありませんか。全面的な証拠開示、全事件全過程の取調べの可視化、取調べへの弁護人立会い、オンライン接見の実現を強く求めます。
数々の冤罪、そして袴田事件無罪確定の下迎えているこの国会で、再審における証拠開示、検察による上訴を許さない再審法の抜本改正を実現しようではありませんか。
同僚議員の皆さんに呼びかけ、法務大臣の見解を問うて、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣鈴木馨祐君登壇、拍手〕
○国務大臣(鈴木馨祐君) 仁比聡平議員にお答え申し上げます。
まず、電磁的記録提供命令によって取得した電磁的記録の取扱いや同命令の対象についてお尋ねがありました。
捜査機関においては、一般に、個人情報を含め捜査の過程で取得した情報について、刑事訴訟法、刑事確定訴訟記録法といった法令等の規定や趣旨に従い適正に取り扱っているものと承知をしております。そして、記録の保管については、刑事確定訴訟記録法等においてその期間が定められており、それを経過したものは廃棄することとされていることから、取得された情報が捜査機関の元に蓄積され続けることとはならないと承知をしております。
また、電磁的記録提供命令がどのような電磁的記録を対象として用いられるかは、個別具体的な事案によるため一概にお答えすることは困難でありますが、一般論として申し上げれば、同命令においては、捜査に必要な電磁的記録を保管し又は利用する権限を有する者であって、我が国に所在するものに対し、裁判官が被疑事件等との関連性を認めて令状に記載、記録した電磁的記録に限ってその提供を命ずることができることとなっております。
次に、憲法第三十五条の趣旨及び電磁的記録提供命令の令状における対象の特定についてお尋ねがありました。
憲法第三十五条第一項は、何人も、その書類及び所持品について押収を受けることのない権利は、押収する物を明示する令状がなければ侵されない旨規定をしておりまして、包括的な押収を禁止をしております。これを受けまして、本法律案による改正後の刑事訴訟法におきましては、裁判官が発する電磁的記録提供命令の令状に、提供させるべき電磁的記録等を具体的に特定して記載、記録することとしており、裁判官は個別の事案ごとに被疑事件等との関連性が認められる範囲で提供させるべき電磁的記録をできる限り特定して令状に記載、記録することとなります。
その上で、このようにして裁判官が発した令状により提供された電磁的記録の中に、結果として被疑事件等の立証に直接的には用いられないものがあったとしても、そのことによって電磁的記録提供命令が直ちに違法、不当の評価を受けるものではないと考えております。
次に、電磁的記録提供命令の令状と令状主義等との関係についてお尋ねがありました。
先ほど申し上げましたとおり、裁判官は、電磁的記録提供命令の令状において、個別の事案ごとに被疑事件等との関連性が認められる範囲で提供させるべき電磁的記録をできる限り特定して記載、記録することとなります。したがいまして、電磁的記録提供命令の令状が御指摘の憲法の原則や令状主義を形骸化するようなことにはならないと考えております。
次に、電磁的記録提供命令の対象者についてお尋ねがありました。
電磁的記録提供命令がどのような者に対して用いられるかは、個別具体的な事案によるため一概にお答えすることは困難であります。その上で、あくまで一般論として申し上げれば、御指摘のような事業者が、捜査に必要な電磁的記録を保管する者又はそれを利用する権限を有する者に当たる場合には電磁的記録提供命令の対象となり得ると考えられますが、実際に捜査機関が電磁的記録提供命令をするためには、裁判官が発する、提供させるべき電磁的記録や提供させるべき者を特定して記載、記録した令状が必要であります。
次に、電磁的記録提供命令の立法事実等についてお尋ねがありました。
現行法の下で刑事手続に必要な電磁的記録を強制的に取得する場合には、処分者が被処分者の下に赴いて記録媒体を差し押さえる必要があるため、処分者側、被処分者側の双方に相応の負担が生じております。また、実務においては、電磁的記録がクラウドサーバーに保存されている場合など、記録媒体の差押えが困難な場合もあり得ます。
そこで、本法律案においては、有体物である記録媒体の差押えを介在させず、被処分者に対し電磁的記録の提供を命じ、罰則をもってその履行を確保する電磁的記録提供命令を設けることとしております。その上で、例えば、捜査に必要な電磁的記録がクラウドサーバーに保存されているなど、記録媒体の差押えが困難であって、かつ当該電磁的記録を保管する者等が任意での提出を拒んでいるような場合には、現行の強制処分では対処が困難であり、電磁的記録提供命令の活用が想定されるものと考えております。
次に、電磁的記録提供命令により提供させた電磁的記録の内容を確認するための措置についてお尋ねがありました。
本法律案による改正後の刑事訴訟法第百十一条第三項の電磁的記録の内容を確認するための措置をとることその他必要な処分とは、電磁的記録提供命令により提供させた電磁的記録について、検証や保管の必要性の有無を判断するための処分をいい、例えば、電磁的記録提供命令により提供させた電磁的記録にパスワードが付されている場合において、これを可読化することもこれに当たり得ると考えております。
次に、電磁的記録提供命令によるGPS履歴の取得についてのお尋ねがありました。
捜査機関が電磁的記録提供命令により提供を命ずることができる電磁的記録は、既に存在している電磁的記録であって、裁判官が被疑事件等との、失礼しました、被疑事実等との関連性を認めて令状に記載、記録したものに限定をされます。
その上で、一般論として申し上げれば、御指摘のGPS履歴に関する電磁的記録についても、それが既に存在しているものであって、裁判官が被疑事件等との関連性を認めて令状に記載、記録したものである場合には、その限度で電磁的記録提供命令の対象となり得ると考えております。
次に、捜査機関が電磁的記録提供命令により取得した電磁的記録の利用についてお尋ねがありました。
捜査機関においては、一般に捜査の過程で取得した証拠について、刑事訴訟法、刑事確定訴訟記録法といった法令等の規定や趣旨に従い適正に取扱いをしているものと承知をしております。
本法律案が改正法として成立をした場合には、電磁的記録提供命令によって取得した電磁的記録についても同様に取扱いをされるものと考えておりまして、捜査機関においては、引き続き、証拠の適正な利用等に努めていくものと承知をしているところであります。
次に、自白偏重、そして人質司法の改革についてのお尋ねがありました。
一般論として申し上げれば、検察当局においては、自白のみに頼ることなく、それ以外の証拠の収集にも万全を期することはもとより、自白の信用性も慎重かつ十分に吟味をし、これらの証拠に基づいて事実の存否を的確に判断した上で、適切な事件の処理に努めているものと承知をしております。
また、被疑者、被告人の身柄拘束については、法律上厳格な要件及び手続が定められております上、一般論として、不必要な身柄拘束がなされないよう、適切に運用されているものと承知をしております。したがいまして、人質司法との御指摘は当たらないものと認識をしております。
次に、取調べの録音、録画や弁護人の立会い、全面的な証拠開示及びいわゆるオンライン接見についてのお尋ねがありました。
現行の録音、録画制度を超える取調べに関する規制については、取調べの適正確保の観点のほか、捜査の機能に与える影響等も考慮しつつ、慎重かつ丁寧に検討すべき問題であると考えております。
次に、検察官保管証拠のいわゆる事前全面開示については、法制審議会において議論がなされたものの、争点及び証拠の整理が十分になされなくなるといった問題点が指摘をされ、法整備がなされなかったものと承知をしております。したがいまして、慎重な検討を要するものと考えております。
また、オンライン接見につきましては、例えば弁護人の端末を用いて行う場合、弁護人以外の者による弁護人への成り済ましや、接見が認められていない第三者の同席等の防止が困難であると指摘をされておりまして、オンライン接見一般を被疑者等の権利として位置付けることは相当でないと考えております。
最後に、再審制度の改正についてお尋ねがありました。
再審制度に関しましては、先般、御指摘の点を含む再審手続に関する規律の在り方について法制審議会に諮問をしたところであります。
そのため、まずは法制審議会の議論を見守りたいと考えておりますが、国民の皆様方の関心も高いことなどから、法務省といたしましても、十分な調査審議が行われ、できる限り早期に答申をいただけるよう尽力をしてまいります。(拍手)
〔国務大臣村上誠一郎君登壇、拍手〕
○国務大臣(村上誠一郎君) 仁比議員からの御質問にお答えいたします。
まず、生体認証や二段階認証が不正アクセスを防ぐためのものかとの御質問がございました。
一般的に、生体認証は、インターネット上のサービスにアクセスしようとする人が適切なアクセス権限を有する本人であるかを認証する際に、顔や指紋といった人それぞれの身体的特徴を利用する仕組みであります。また、二段階認証は、例えば、ID及びパスワードによる認証と生体認証などを二段階で組み合わせる仕組みであります。
これらの認証方法は、いずれも第三者による不正なアクセスを防止するためのセキュリティーの対策技術の一つとして認識しております。
なお、次に、携帯端末について常時位置情報が受信されているのではないかとの御質問がございました。
携帯端末自体が常時位置情報を受信しているかどうかにつきましては、それぞれの携帯端末の仕様によって様々であります。このために一概にお答えすることは困難であると考えております。
以上であります。(拍手)
〔国務大臣坂井学君登壇、拍手〕
○国務大臣(坂井学君) 大川原化工機訴訟の原告側に対する謝罪及び検証についてお尋ねがありました。
警察として、本件公訴が取消しとなったことについては真摯に受け止めております。
その上で、本件については、現在、国家賠償法に基づく訴訟が係属中であり、お尋ねの件について、現時点において予断を持ってお答えすることは差し控えたいと思います。
昨年九月十三日の名古屋高裁判決に対する警察庁の対応についてお尋ねがありました。
議員御指摘の答弁につきましては、仮に個別具体の情報収集活動の内容を明らかにすることとなれば、今後の情報収集活動に支障を及ぼすおそれがあり、公共の安全と秩序の維持という責務を果たすことが困難となることから、岐阜県警察は訴訟において情報収集活動の目的、態様等を明らかにすることができなかったという趣旨で申し上げたものと承知しております。
警察としては、今回の判決を重く受け止めており、警察法第二条に基づく情報収集活動が、目的の正当性、行為の必要性及び相当性という基本原則を遵守し行われるべきことは当然であると認識しております。今後とも、情報収集活動を始めとする警察活動が適切に行われるよう、警察を指導してまいります。(拍手)