○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
外国法事務弁護士法人を認める外弁法改正案は、今回の改正内容にとどまる限りでは特に問題とすべき規制緩和ではなく、弁護士会への入会と監督の下に置くものであり、賛成をいたします。
今日は、戸籍事務の民間委託について伺いたいと思っています。
戸籍法は、戸籍事務管掌者を市区町村長とし、一般職公務員が首長の補助者として証明や届出に関する事務を担当することを想定をしているわけです。そこで、まず戸籍窓口業務の複雑さと重みについて民事局長に確認をしたいと思うんですが、闇金被害などで、信用を偽装する虚偽の養子縁組というのが大問題になってきました。この虚偽の養子縁組ではないかと疑わしい、例えば縁組届の養親、養子の年齢差が僅かで、例えば二、三歳しかない、戸籍を見ても短期間で何回も縁組をしているということが分かる届出などがあります。これに窓口でどう対応するかについて、二〇一〇年の十二月の通達で、書類が整っていれば受理するしかないという形式的審査主義ではなくて、市区町村の実質的審査権を明確にして、状況によっては踏み込んで審査をする、疑義ある縁組届は法務局に受理照会をするという運用が行われて、抜群の効果を上げているわけです。
この審査について、一昨年、平成二十四年の一月に東京戸籍住民基本台帳事務協議会の場で民事第一課長が講演をしておられまして、この市区町村の審査について、当該届出が虚偽であると担当者が疑義を抱いても法律上本当にこれは何もできないのか、何もしようとしないのか、そうではないのだと。実際に、審査の対象は、届出に記載漏れがないかどうかというようなことだけではなくて、縁組を成立させることができない障害事由、法律上のもの、それから主観的な要件としての身分行為に伴って発生するような権利関係を享受するという意思、効果意思があるかどうか、ここに関わるものなのだと。そうした審査の対象とすべき資料についても、まず、審査の過程で偶然入手できた情報、当事者から聞き取りをした内容、あるいは市区町村がそれまでずっと延々と実務をやってきて構築している、入手して持っているそうした情報、こうしたものもしっかり踏まえてやるべきものだという趣旨の講演をなさっています。
例えば、届出人がすぐに縁組後の戸籍が欲しいとか、住基カードが欲しいとか、これも今すぐ急いでくれとか、こうした届出人の挙動といいますか、そうしたものも含めて実質的審査の対象になるし、積極的に受理照会してくれという、そうした趣旨だと思うんですが、それはそのとおりですか。
○政府参考人(深山卓也君) ただいま指摘がありました平成二十二年の三二〇〇号通達というものですけれども、この民事局長通達の趣旨は、戸籍の窓口で縁組をする意思があることが疑わしい、縁組意思がなければもちろん縁組は無効ですけれども、そういった兆候のある届出がされた場合に虚偽の縁組がされることを防止するために、疑わしい届出を類型化した上で、こういうものについては市区町村長は受理、不受理について法務局に照会をする、そのことによって虚偽の養子縁組を防止しようと、こういうものでございますので、一定の類型化をしてお示しをしておりますが、全ての類型を書き切ることはこの種のものですからできないので、最終的には総合的に疑わしい客観的事情があるというものについて受理、不受理の照会をしていただくと、こういうことになります。
○仁比聡平君 そうした客観的に疑わしいということを判断するのが市区町村の窓口であるということなんですね。
この講演の中でもう一点、今局長もおっしゃった類型化をする通達は、戸籍事務に携わる高度の専門的知識と経験を持っておられる戸籍の実務家の皆さんに対するアンケートで作られたものであるというお話があります。皆さんが実際の窓口に立たれて、これは絶対にそうだなと思ったものとしてどんなものがあるのか、フリーハンドで書いてもらう欄を設けていろいろ書いてもらった、それがこれですと。皆さんの深い経験と知識に基づいて、戸籍に携わっている健全な良識からして、こういうケースは絶対におかしいなと思われるもの、これを抽出し類型化をしたのが通達であり通知の中身なんですとお話しになっていますが、これはそのとおりですか。
○政府参考人(深山卓也君) そのとおりでございます。全国の法務局を通じて各市区町村の戸籍窓口のそういった実例についての知見を集めて、それを法務省の方で類型化をして通達として流したものでございます。
○仁比聡平君 私は、戸籍の証明や届出、あらゆる業務について、こうした審査によって、戸籍事務の根幹であるところの国民の親族、身分関係を登録し公証するという、この根幹への信頼が維持をされてきたのだと思うんですね。
そうした戸籍事務にも、全国およそ九五%の市区町村でコンピューターが導入をされています。今度調べて知ったのですけれども、コンピューターといっても、ワープロで文字や数字を入力するというそうした話ではないんですね。戸籍情報システムというふうに言うそうですが、民事局の通達でも、可能な範囲で戸籍を編製する自動記録機能と併せて自動審査機能を備えなければならないとされておりまして、これは、戸籍の届出は、届出書などの記載が適法かどうかということを審査しなければ受理をしてはならないということとされていて、複雑な法律的判断を要するわけですが、その審査事務に当たって、コンピューターに審査機能を持たせて、職員が端末画面と対話形式で行えるようにすることでミスや漏れを防いで正確性を確保しようとするものだと、そういうふうに書かれています。
例えば、出生届の入力をしていこうとしますと、生まれた子が婚姻後四か月以内ですがよろしいですかとコンピューターが聞いてくるわけですね。それは、婚姻から二百日以内の出生は嫡出子の推定を受けないからです。このメッセージに対してオーケーだと、続行しますというクリックをすることは、推定されない嫡出子として受理をするという法律上の判断をしていることになります。
さらに、母に前離婚の歴がないかといったメッセージも出ます。これは、前に婚姻関係があり、離婚もしているというようなことがあれば、その前婚の嫡出推定を受けないかが問題となるからですけれども、その審査に当たっては母の本籍市区町村に直接問い合わせることが必要で、電話を掛けて前離婚の有無や内容を確認をするということになるわけですね。
そうした審査を経て、最後に行われる受理、不受理などの処分決定が行政処分そのものであるということはもちろんですが、窓口で受付した届出書をこうした対話をやりながら戸籍情報システムに入力する一連の業務は処分決定と密接不可分の判断が必要な業務だと思いますが、局長、いかがでしょう。
○政府参考人(深山卓也君) 処分に至る全体を見ると、判断が必要な事務であることはもちろん明らかです。ただ、コンピューター化されている戸籍事務における届書の入力業務自体、要するに文字を電子データとして入力するということ自体、これ自体は、届書を受け付けた後、受理、不受理の判断を行う前に、そういう法的な判断の前に行われる事実上の事務ですので、それ自体、入力事務自体は法的な判断を要しない事実上の行為ということになりますので、市区町村の長あるいはその職員が最終的に受理、不受理の決定処分をするということと関係はしますが、その前提となる事実上の業務ということで区分することができる業務だと思っております。
○仁比聡平君 入力自体というふうに、そんなふうに分けることが現実的ですかね。今のお話だと、極めて膨大な戸籍届、届出に限ったってあるわけでしょう。
私、弁護士になったときに、この戸籍実務に関する争点、先例やあるいは判例集というのを、こんなに膨大なものがあるのを見て驚いたことがありますけれども、身分関係の得喪に直接関わる戸籍だからこそ、様々な形で不服申立てや裁判も行われているわけですね。つまり、この戸籍の信頼性が確保されるというのは本当に根幹の問題であるし、そもそも入口として、入力するという話になるのかと。出生届に限って言っても、親子関係の不存在確認だとか胎児認知だとか国籍法などが関係する場合などはそもそも自動審査機能は働かない、そういうふうになっていると思います。
結局、そうやって切り分けていくということ自体が非現実的だし、入力の際に、先ほどの例でいいますと、母に前離婚歴がないかといったメッセージが出たときに、本籍地に問い合わせないと先には進めないわけですよね。これを先に進んでしまって最後の決定だけ判断すればいいということには私はならないと思います。一々メッセージが出るたびにそうしたら権限を持っている区職員にこれを直接尋ねるんだということになれば、それは一々指示を仰ぐということで偽装請負ということにもなるわけですよね。
そうした中でいうと、このやり方を分解すれば可能だというのは非現実的だと思われませんか。
○政府参考人(深山卓也君) 実際のシステムでは、今委員御指摘のとおり、そういう自動審査機能が働いてポップアップが立ちます。しかし、それを仮に請負した業者がその作業をやっているとなると、そこ、判断権限や、判断をすることはできませんので、全てイエスという形でどんどん先へ進んでいく、文字の入力だけしていって、請け負った業務としては入力は終わりましたということで、権限ある区の職員にそのデータを引き継ぐ。区の職員は、文字データだけは入力されているけれども、もちろん全部、そのポップアップはもう一度全部見直すことになっています。そういうシステムになっていますので、全部自分でチェックをして、これでいいのか、イエスということで全部押し切って仮の形でデータ入力は終わっているけれども、そのデータ入力が法律に照らして正しいのかどうかは、それはもちろん区の職員が一件一件全部判断をして処理をすると、こういうことでございます。
○仁比聡平君 コンピューターシステムは、元々その職員の業務を支えるものとしてこれまで構築されてきたと思います。ここを今のようなお話で変えてしまうおつもりなのかと。そんなこと私はあってはならないと思うんですね。
これからも、戸籍の性格上、紛争だとか脱法だとかというのは窓口で起こり得るわけですよ。この届出は虚偽ではないかというのは、窓口のあらゆる対応情報というのは、先ほど縁組の問題で指摘をしたような、そういうあらゆる情報をつかむ力が求められるわけで、私は、こうした戸籍業務は本来責任を負う公務員によって行われるということがありようだと思います。
そうした中で、今年一月に足立区が戸籍の証明届出を含む窓口業務の民間事業の外部委託を始めました。東京法務局は現地調査の上で三月にこれでは駄目だという通知を行って、それを受けて、三月末に足立区は業務改善報告を出しているわけです。
ところが、これ見ますと、戸籍のシステム上の入力と最後の受理判断や処分決定を峻別して、入力は全部委託業者が行う、受理判断以降を区に回すというふうになっているんですが、こうした峻別って、ありとあらゆる戸籍の業務についてそんなことできますか。そんなことできるわけないし、結局法的な判断を必要とするということだと思うんですよね。
こうした足立区の業務改善報告について法務省はどう今お考えなのか、最後に聞かせてください。
○政府参考人(深山卓也君) 足立区のケースについてですけれども、今御指摘のあったような日時の経緯で三月の末に足立区長の方から業務改善報告を受けております。
これが本当に、書面で受けておりますが、実際の現場でどうなっているのかということを、現在監督している東京法務局において近々、現場に臨場した上で、この切り分けがきちっとできているか、書面どおりですね、ということを調査をするということになっておりまして、現在調査中でございます。
したがって、このケースが問題があるかなしかということについて、問題はないという報告は書面で受けておりますが、それを今確認をしている、調査中ですので、確定的に調査結果が出る前にこれが問題である、問題でないというのを断言することは、ちょっと差し控えさせていただきます。
○仁比聡平君 時間になりましたので、終わります。
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