○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

この法案は、矯正施設の医療の在り方に関する有識者検討会、この法務省の置いた検討会の報告書でも崩壊、存亡の危機にあると言わざるを得ない矯正医療の深刻な状況の下で、矯正医療の重要性を明記して国の責務を定めようとするもので、賛成をいたしますけれども、今日も議論があっている医師不足解消という点だけ見ても、この報告書の五項目の様々な提言のうち、兼業の緩和とフレックス導入という二点の具体化にとどまる、まあ第一歩といいますか、不十分なものだと私は思います。

まして、二〇〇三年の行刑改革会議の提言で提起をされた刑事施設医療改革の方向性や、今日、参考人として日弁連刑事拘禁制度改革実現本部本部長代行の海渡雄一弁護士においでいただきましたけれども、日弁連が度々重ねてきた抜本的な改革の提言、また、こうした中で、さきに刑事被収容者処遇法が成立をいたしました。その五十六条では、施設内の医療について、社会一般の医療水準の保障ということを定めているわけです。こうした点に照らせば、この法案の成立、施行後も刑事施設医療の在り方について抜本的な改革を進めていくということが私は求められていると思います。

そこで、まず海渡参考人にお尋ねをしたいと思うんですけれども、我が国の刑事施設における医療の根本問題あるいは構造的問題についてどんなふうにお考えでしょうか。

○参考人(海渡雄一君) お答えいたします。

日弁連の刑事拘禁制度改革実現本部の本部長代行をしております海渡と申します。発言の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

日弁連は、今回の法案については、刑事施設における医師不足を解消するという観点から賛成しております。しかし、この医師不足というものは今回のこの特例を認めるという形だけでは解決しないのではないか。医師不足だけではなくて、刑事施設医療が閉鎖的な刑務所の中に抱え込まれている、真山先生からも今御指摘がありましたが、刑事施設医療が処遇のためのものと位置付けられている、患者のための治療ではなくてですね、そこに根本的な問題があると思います。

これらの問題を解決するには、被収容者の患者としての権利の保障、外部医療機関との連携の強化、大胆な外部委託を進めていく、刑事施設の医療が処遇部門、保安部門から独立していることを確保するような制度的な仕組み、刑事施設医療を厚生労働省に大胆に移管していく、これはイギリスやフランスなどで実施されて非常に成功を収めているわけですが、そういった改革が必要なのではないかというふうに考えております。

○仁比聡平君 日弁連としてフランスの調査もされたと伺っておりますけれども、そうした諸外国の取組も踏まえて、我が国の刑事施設医療の抜本的な改革の方向性、柱について、今柱をお触れになりましたけれども、少し敷衍してお伺いをしたいと思いますのと、特にその中で、今も少しお話のあった矯正処遇と矯正医療の関係ですね。

先ほど紹介もあっています名古屋刑務所の事件だとか徳島刑務所の事件だとか、こうした現実の深刻な人権侵害を通じて、行刑と医療の関係ということが我が国ではずっと問題になり続けてきたと思います。ここをどう考えるべきなのか、国際経験、水準にも照らして御意見を聞かせていただきたいと思います。

○参考人(海渡雄一君) お答えいたします。

名古屋刑務所事件、徳島刑務所事件の最大の反省というのは、刑務所医療というものがこういう事態を防ぐための警報装置として働くのではなく、むしろ刑務所側の隠蔽工作の下で全く機能しなかった。刑務所の医師も、医師であるからには、拷問的な行為が行われていることを見たときにはそれを進んで明らかにしていく医師としての倫理上の義務を負っていたはずなんですが、それが果たされなかったという点ではないかと思います。

フランスで刑務所医療を一般の医療に変換していくということが起こったのは、一九九〇年代にフランスのサンテ刑務所という刑務所で働いていた女性医師が、フランスにおける刑務所医療が余りにもひどいということを内部告発する本を書きました。この本が大変な衝撃を与えて、これに対する対応として制度改革が実現していったという経緯がございます。

そういう観点で、やはり今後の刑事施設の医療の改革を考えるときに最も重要な点は、外部医療機関との連携を強めていく、取りあえずは連携を強めていくということが重要だと思いますが、最終的には、今、月形刑務所やPFIの刑務所でやっているような外部委託、さらには医師の守秘義務をきちんと課した上で一定の保安上のセキュリティー上の情報は刑務所当局と共有する、非常に独立しているけれども共同するようなそういう関係を刑務所医療側と保安当局側が保つ。それが現実にフランスでは実行されていて、お互いに独立して尊敬し合いながら医療と保安が共同している姿というのを昨年四月、日弁連でフランスに行って見てきたわけですけれども、その報告書をお手元にお配りしていると思いますが。

こういうものを見習って、この改革は実はイギリスでも実施されていますし、ノルウェーやオーストラリアなどでも実行されているんですが、同じような勧告が、二〇〇七年の拷問禁止委員会の日本政府に対する勧告の中でも、刑務所医療の独立性の確保、そして厚生労働省所管への移管を前向きに検討せよということが日本政府に対して求められています。

今回のこの法律案自身については日弁連も賛同するわけですけれども、次のステップとして、そういうことのための勉強会からまず始めるのがいいのではないかと思うんですが、今日も厚生省も来ていただいているということですが、法務省の矯正局と厚労省の医政局、そういったところで日弁連もオブザーバーで入れていただいて勉強会などが始められる、そしてイギリスやフランスの実情をもう一度きちっと見てくるというような形をすれば、日本の刑務所医療、どんどん若い、有為なすばらしいお医者さんが来るような、そういう世界になるんじゃないか。

フランスに行ったときに、フランスの刑務所医療で働いている若い、本当に優秀そうなお医者様がたくさんいて、刑務所医療は本当にやりがいがありますかと聞くと、非常にやりがいがあると。我々は元々の病院にいながらここに、刑務所医療にルーチンで来ているんだと、こんなに症例が豊富でやりがいのある職場はない、本当にこの職場に就かせてもらってよかったというふうにおっしゃっている若手の有為なお医者さんの話も聞きました。そういう改革が日本でも実行可能だと思います。

多少、少しお金は掛かるということは先ほど来の審議の中でも出ていましたけれども、でも社会一般の水準の医療を提供するということが法律で決められているわけですから、そういう改革を実現していただきたいと思います。

○仁比聡平君 ありがとうございます。

大きな方向性について後ほど大臣にもお尋ねをしたいと思うんですけれども、先に海渡参考人に、そもそもみたいな話になりますが、刑事施設内における医療がどのような理念で行われるべきか、その担い手としての医官の不足の原因をどう考えるかということについてなんですが。

お手元に、今日資料で、矯正医療をめぐる最近の諸問題についてという、この論文を書かれた当時、八王子少年鑑別所の首席専門官、札幌矯正管区の医療分類課長を務められた村中隆さんの論文を紹介しているんですが、ここの、今抜き出した前の部分に、矯正医療について、矯正医療の考え方は元をたどれば日本国憲法に基づくことになる。憲法第二十五条一項には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」という条文がある。施設内に収容され生活を送る者も、例外なくこの条文に掲げられている権利が保障されるべきであり、矯正施設は健康的な生活を営む権利を被収容者に保障する責務を負うものと解される。加えて、矯正の目的を達成するためにも、受刑作業や改善指導、あるいは矯正教育、拘置されている被収容者についても裁判や審判に向けての手続や準備、こうした収容目的の達成のためには健康であることが必要なので、健康が損なわれれば施設収容の目的が達成されなくなるといった認識を大前提として示しておられるんですね。つまり、施設内でも医療は医療であるということなのだと思うんです。

一方で、日弁連が二〇一三年の八月二十二日付けで出されておられる提言で、医師不足の原因として、鋭いといいますか深い指摘をされている部分があります。「刑事施設医療の現状が医師の、専門家としての誇りとやりがいを実現できる環境になっていないことが大きな原因であると考える。医療判断に刑事施設が介入し、医療が処遇や保安に従属している現状では、刑事施設医療に携わろうとする医師が少ないのもむしろ当然であろう。」というふうにおっしゃっているんですが、こうした医療の性格とその独立性などについてはどんなふうにお考えでしょうか。

○参考人(海渡雄一君) お答えいたします。

刑務所医療が医師にとって魅力がないというのは、勤務時間のことや給料のことなどもあるのかもしれませんが、それがないとは申しませんけれども、やはり今、仁比委員がおっしゃられたように、刑務所医療そのものが独立性を欠いている。本来医師は独立であるべきなわけですね。ところが、刑務所側の職員が治療の場にも立ち会っている、そしていろんなことについて口を挟んでくる、そういうようなやり方の中で刑務所の中で誇りを持って働けない、そういう感覚がやはりどうしてもあると思います。

フランスに行ったとき感じたのは、フランスでは、もちろん刑務所の保安は刑務官が守っているわけですけれども、医師が診察を行う場所には刑務官は入ってこないわけですね。のぞくことすらできない。しかし非常に重要な保安上の情報があればそれは共有するという、そういう協定も結ばれているんです。

ですから、お互いに独立しながら刑務所の運営にも配慮しながら、そういう刑務所医療が独立した状態を確保するということが何より重要で、それが今の日本の場合できていないということ、それが医師にとって魅力に欠けていることの根本的原因ではないかと思います。

○仁比聡平君 そうした指摘も鋭くされる下で、PFI方式などで、各地に一般医師といいますか、地域医療機関のドクターが刑務所の治療に当たるということが経験される中で、先ほどもお話の出た北海道の月形刑務所を例えば取りましても、このお配りしている資料のような面白い経験、効果が生まれていると思うんですね。

右側の導入の効果というところでこの村中さんが書いておられるのは、受刑者が受診を希望してから診察を実施するまでの期間が短縮されたため、被収容者からの不満は大幅に減少した、また、検査などの充実も図られ疾病の重症化を防げるようになった、さらに、診察を行う医師の理念とも言えようが、医師は一般医療機関の医師として患者、受刑者に接しているのであり、これに対して、被収容者も無用な駆け引きをしようなどとは考えないようであるといった、地域医療機関のドクターが患者としての収容者に接するなら、こうしたプラスのといいますか経験が生まれるというこの指摘について、矯正局長はどんな御認識でしょう。

○政府参考人(小川新二君) 委員御紹介のような論文に記載されているようなメリットといいますか効果も指摘されておりますので、民間委託した場合の一定の効果というのは多分あるんだろうと思います。しかしながら、反面、矯正医療というのは、逆に処遇となかなか切り離せないといいますか、不可分一体のところもあるというふうに考えております。

例えば、いろんな犯罪の原因に、例えば薬物の依存であるとかあるいは摂食障害といった原因があった場合には、そういった原因なり背景も分かっていないと適切な矯正医療を施すことはできないということもありますし、また、実際上、日本におきましては、懲役刑ということになりますと刑務作業を義務付けるということになりますので、そういった作業の義務を免れることを目的としまして詐病の申出をする者も少なくない実態でございます。

また、必要以上の薬を欲しがる受刑者というのも少なくないというふうな実態でございまして、こういったものも含めた受刑者に対しまして医療を適切に実施するためには、やはり処遇部門との連携ということも必要だと考えておりまして、完全に、完全といいますか、基本的に処遇と医療を分離しまして重要な情報以外については情報交換を行わないということになると、適切な医療行為ができるのかどうかについてはちょっと疑念を感じざるを得ないというふうに考えております。

以上でございます。

○仁比聡平君 私、今、処遇と医療を今局長が懸念されたほど分離せよなんて何にも言っていないし、先ほどの海渡弁護士のフランスの経験の報告もそういう意味ではないでしょう。私、月形のこうした経験についてどう思われますかという評価を聞いているときに、何でそこまでおっしゃらなきゃいけないんですか。

詐病かどうかって、これ詐病かどうかを刑務官が決めるって変でしょう、やっぱり。それは医師が判断するべきことじゃありませんか。

○政府参考人(小川新二君) 当然ながら、医師が判断すべき事柄でございます。

○仁比聡平君 ですから、この行刑と医療の在り方を含めて、抜本的な様々な検討が、私これからも必要だということを申し上げたいんですよ。

厚労副大臣においでいただきました。というのは、この有識者会議の報告書の中にも、地域医療機関との連携強化がかなり具体的に検討の結果報告をされていまして、その中に、厚生労働省所管業務である、現実には都道府県が行うわけですけれども、地域医療計画に矯正医療について盛り込むことを要請する、そういう方策も含めて地域医療機関と矯正施設の連携協力を進めるべきであるという提言があります。

そういう意味では、地域の医師会や地域医療機関の主要なプレーヤーといいますか、仲間としてこの地域医療計画の中に位置付けていくべきではないかということだと思いますし、その次の経営の問題でいいますと、外部委託に係る診療の評価方法について、患者が被収容者であるという特殊性、困難性ゆえに一般社会における診療とは異なる配慮を要するというような面に鑑みて、受託する外部医療機関などに対する医療費などの支払については、特殊性、困難性に配慮した何らかの評価、措置がなされるべきであると、こうした考え方が示されていまして、この具体化はこれからだと思うんです。

法務省からもいろいろ御提言があるべきでしょうし、厚生労働省も御検討をいただきたいと思うんですが、つまり目的は、収容施設の中の医療は社会一般の水準で行われなければならない、やっぱりこの理念を具体化する上で厚労省としても御協力、御努力をいただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。

○副大臣(永岡桂子君) 矯正施設での医療につきましては、矯正医官の不足を始めとしていろいろと課題があることは承知をしております。

厚生労働省といたしましては、法務省からの依頼を受けまして、昨年九月に、各都道府県始めとしまして日本医師会ですとか、あとは歯科医師会など、全国の医療関係団体に矯正施設での医療の確保につきましての配慮をお願いをしているところでございます。

先ほど先生おっしゃっていらっしゃいました地域医療計画に矯正医療を盛り込むよう要請するというような報告書が上がったということでございましたけれども、今のところ、現時点では法務省からの要望というのはございません。

それで、先生おっしゃいますとおり、矯正施設の収容者に対しまして社会一般の医療水準に照らして適切な医療を受けられるということをすべきだということは大変重要であり、これは当然のことだと考えております。

○委員長(魚住裕一郎君) 仁比君、時間です。

○仁比聡平君 大臣、この法律成立、施行後も申し上げてきたような抜本的な改革を是非進めていただきたいと思いますが、一言御決意いただけますか。

○国務大臣(上川陽子君) 今回の法案が成立した後ということでございますが、矯正施設におきましての人材確保はもとより、地域の医療機関との一層の連携強化ということにつきましても様々な課題があるということでございますので、そういう方向に向かいまして取り組んでまいる所存でございます。

被収容者に対する適切な医療の確保ということが非常に大事だということでございますので、引き続き、厚生労働省を始めとする関係省庁、しっかりと協議をしながら、たゆまぬ改革を進めてまいりたいというふうに考えております。

○仁比聡平君 ありがとうございました。