○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平です。
日本国憲法が、戦前の大日本帝国憲法下で濫用された緊急勅令や緊急財産処分、戒厳や非常大権などの緊急事態条項を廃し、参議院の緊急集会を定めたのはなぜか。
この問題で、憲法制定議会における金森大臣の答弁が会派を超えて繰り返し確認されてきました。すなわち、どんな精緻な憲法を定めても、非常という言葉を口実に破壊される可能性がないとは言えないため、行政権の自由判断の余地をできるだけ少なくした、民主政治を徹底させ国民の権利を十分擁護するには、緊急時に政府の一存で行う措置は極力防止しなければならないという憲法観です。そこには、基本的人権保障と法の支配、国民主権と議会制民主主義が貫かれており、その根底に二度と戦争をしないという深い反省があります。特殊な事態には平常時から法令などの制定により濫用されない形式で完備しておくことができる、特別な必要があれば臨時国会を召集し、衆議院が解散中であれば参議院の緊急集会を招集すれば足りるという金森答弁は、今日においても合理的です。日本国憲法はとてもよくできているのです。
衆議院議員の任期延長はどう考えるべきか。二〇二三年五月三十一日のこの審査会で長谷部恭男参考人は、憲法五十四条一項が、解散から国会召集までの期間について、大日本帝国憲法が定めていた五か月から大幅に短縮し、解散から四十日以内に総選挙、投票から三十日以内に国会召集と定めたのは、現在の民意を反映していないような政権の居座りを防ぐ、阻止するというのが主たる目的であること、それなのに、衆議院議員の任期を延長するということになれば、それは結局、現在の民意を反映していない政権の居座りを正面から認めることになってしまうと述べました。そのとおりです。
衆議院議員の選挙困難事態なるものを仮定に仮定を重ねて描き、議員の任期に特例をつくろうという議論に対して改めて指摘しなければならないのは、こうした議論は、自民党が二〇一二年改憲草案以来主張する緊急事態条項と一体のものだということです。
二〇一二年自民党改憲草案は、第九章として緊急事態の章を立て、①内閣総理大臣が、武力攻撃、内乱、大規模災害などの緊急事態において、特に必要を認めれば、緊急事態の宣言を発すること、②この宣言が発せられれば、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定でき、総理大臣は必要な財政支出その他の処分を行い、地方自治体の長の必要な指示ができること、③何人も総理の緊急事態宣言に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならないこと、④この宣言の間、衆議院は解散されず、国会議員の任期、選挙期日に特例が設けられるというものです。
これは、人々の自由と権利を一内閣の政令をもって奪う立憲主義の破壊であり、そうした政権の居座りそのものであって、断じて許されません。
自民党は、二〇一二年改憲草案以来の改憲の押し付けをもうやめるべきであります。そのことを強く申し上げ、発言といたします。