○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
まず、国選付添人対象事件の拡大についてお尋ねをしたいと思います。
現在の裁量による国選付添人制度の趣旨について、法務省はこの導入の際におおむね申し上げる四点の説明をされています。
一つは、重大事件については、重い処分が予想されるとともに、処分自体に社会的な影響、関心も大きいため、より適切な処遇選択が要請されること。二つ目に、弁護士付添人を付すことで行状や環境などに関する資料を十分に収集でき、適切な処遇に資することになるほか、付添人による環境調整も期待できること。三つ目に、付添人が付された上で審判が行われることで審判結果について少年の納得も得られやすくなり、更生意欲を高めることができること。最後、四つ目に、観護措置で少年の身柄が拘束されている場合には、重い処分に付される可能性も高い上、他の者の援助も受けにくいという、そうした要請も考慮する必要があるという、そうしたことかと思うんですが、刑事局長、おおむねそうした理解でよろしいでしょうか。
○政府参考人(林眞琴君) 今委員御指摘のとおり、一つには、観護措置がとられた少年についてより適切な処遇選択の要請。あるいは、環境調整等を通じて少年に対する援助を行うことが適当なときがあること。さらには、付添人が付くことでの少年の納得、それを踏まえた上での更生意欲を高めること。さらには、付添人の活動により再非行防止、こういったものを図ると。この四点を理由として導入がなされたものでございます。
○仁比聡平君 今のような趣旨は、実際に多くの付添人活動にとっておおむね実感も伴うものだと思うんですけれども、そこで大臣、今回、この国選付添人の対象事件を拡大するということに当たって、国選付添人にどのような役割を期待されるか、その点をお尋ねしたいと思います。
○国務大臣(谷垣禎一君) 今回、家裁の裁量による国選付添人の制度を、対象事件の範囲を拡大を行いますが、それは、まず第一に、現行法による国選付添人制度の対象とされていない事件の中にも、より適切な事実認定のためには国選付添人が関与することが相当であろうと思われる事件があるということが一つ、それから、付添人が少年審判の段階から環境調整を行っていくことが少年の更生や再犯防止に資するだろうということで今回拡大をすることになりました。
それで、少年審判手続において、裁量による国選付添人は、今先ほど申し上げましたように、適正な事実認定を行う、あるいは再非行防止をより確実なものとするため法律の専門家として様々な活動を行っていただくわけですが、まず一つ、非行事実の認定手続において少年側の立場から主張や立証を尽くす活動、これが期待できる。それからもう一つは、要保護性の審理において、家庭裁判所調査官の調査分析の結果明らかとなった少年の問題点に応じて、少年の帰住先あるいは就労先確保といった環境を調整する活動を期待できると。それから、被害弁償等に向けた活動も期待されるところであると。事実としてそういうことを今までも行ってきているところでございます。こういう国選付添人に期待される役割は今回の改正前後で変わるところはないと考えております。
それから、現行法上、被疑者国選弁護制度の対象事件より国選付添人の対象事件が狭いために、少年が改めて自ら付添人を選任しない限り、国選弁護人として選任された者は付添人としての活動ができないという不都合な事態が生じるおそれがあるわけですが、今回の改正によって国選付添人による継続的な活動が期待されるというようなことがございます。
○仁比聡平君 より適切な事実認定のためにという点は、これは少年審判やあるいは付添人活動のこれまでも原点であり、出発点、大前提だと思うわけですが、そこで最高裁にお尋ねをしたいんですけれども、観護措置を受けた少年の全体の中で、これまでの国選付添人の選任率を見ますと、二〇一〇年で三%、二〇一一年で四%、二〇一二年で僅か三%にとどまっているわけです。
今大臣からもお話のあった付添人の果たす役割からすれば、対象事件を重大事件に限らずに、窃盗や傷害など被疑者国選弁護の対象事件とも一致させる今回の改正の趣旨が今後実務の中で生かされて、国選付添人を付する裁判官の判断が積極的に行われることを私も期待したいと思うんですね。法制審でも、付添人が果たしている役割を考えれば、身柄を拘束された全事件に付けられるのが一番よいのかもしれないという意見も出されています。
そこで、その裁判所の裁量の判断基準や判断要素についてお尋ねしたいと思うんです。
条文では、事案の内容、保護者の有無その他の事情を考慮し、必要があると認めるときとされているわけです。無論、個別の判断なんですが、もちろん非行事実に争いがあるなしに関わらないのは当然のこと、捜査段階で逮捕、勾留をされている、被疑者段階で国選、私選の弁護人が選任されて継続した付添人の選任を求めてきていると、こうした事情も重要な要素としてできる限り国選付添人を付するという判断をすることが制度の趣旨に沿うと思うんですが、家庭局長、いかがでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(岡健太郎君) お答えいたします。
国選付添人の選任は、委員御指摘のとおり、あくまで個々の事案における裁判官の判断事項でございますが、現在の裁量国選付添人制度の運用の実務におきましては、委員御指摘の、捜査段階で逮捕、勾留されていたこと、被疑者国選弁護人が選任されていて国選付添人への選任を求めていることといった事情が国選付添人の要否を裁判官が検討する際に考慮に入れる一事情とはなり得るとされているものと承知しておりますが、最終的には、あくまで法文上にありますように、事案の内容、保護者の有無その他の事情を考慮し、総合的に判断する、個別の事案において判断されるものと考えております。
○仁比聡平君 実際上、日弁連の努力も積み重ねられて、被疑者としてとりわけ身柄拘束をされて以降、この保護処分や刑事処分も一連の手続として見通しながら弁護士が付添人としての活動をしっかり行っていこうという取組が、今少年審判で多くの付添人が付けられているという、そういう到達をつくり出してきていると思うんですね。これを今後しっかり国選付添人の選任という形で生かしていくことが必要だと思います。
別の角度でお尋ねしますが、そうした裁量の判断が予算の残高といった財政的理由で左右をされることなど考えられないと思いますが、いかがですか。
○最高裁判所長官代理者(岡健太郎君) お答えいたします。
これも国選付添人の選任の判断に関するお尋ねでございますので、個々の事案における裁判官の判断事項ということにはなりますが、これも、現在の裁量国選付添人の選任の実務におきましては、予算の残高などの財政的な事情は国選付添人の要否を裁判官が検討する際の考慮要素にはなっていないのではないかなというふうに承知しております。
○仁比聡平君 大臣、観護措置決定事件の対象事件の六割程度と、そうした想定で本年度予算が編成されているのだろうと思うんです。ですが、実際の運用で仮に予算が不足をしてくるとなれば、これはもちろん必要な手当てをされるものと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(谷垣禎一君) 平成二十六年度予算で国選付添い事業経費については約五億六千九百万を確保しているわけですが、これは平成二十五年度と比べまして、増加するというので、約五億一千三百万を増額したものでございまして、これで十分対応できるのではないかと考えております。
しかし、だから、委員のおっしゃるような御懸念は今のところ当たらないんじゃないかと思いますが、万が一そういう事態に陥った場合には、これは関係機関と十分に、主としてまず財務ということになると思いますが、十分に協議して、必要な予算上の手当てについて適切に対処していかなきゃならぬと、こういうことだろうと思います。
○仁比聡平君 次に、更なる対象事件の拡大についてお尋ねしたいと思うんですが、まず虞犯なんですね。観護措置率だとか少年院送致率を見ますと、窃盗や傷害など、より虞犯が極めてその割合が高い。それはその少年の要保護性の高さを示していると思うんです。
大臣、こうした虞犯での先ほど確認いただいた付添人活動の意義ですね。要保護性を除去、軽減をする、あるいは環境調整を行う、この役割というのは極めて大きいと思うんです。今回の法案では対象外となっていますけれども、拡大を目指すべきではありませんか。
○国務大臣(谷垣禎一君) 虞犯事件は、犯罪に結び付くような問題行動があって要保護性は高いけれども、犯罪には至らないような少年に係る事件ということだと思いますね。
それ自体は、罪を犯した少年と比較すると、社会的に見て重要である、重要な事件であるとまでは言えないと、そして虞犯少年は家裁係属前の捜査手続において身柄を拘束されることもないという状況でございます。
その一方で、相応の予算措置を伴う国選付添人制度の範囲については、これはかなり慎重に吟味しなければならないのではないかと考えております。家裁送致後に観護措置をとられた少年の虞犯事件についてまでその範囲を拡大すべき必要性はまだいまだ明らかではないと私は考えております。
○仁比聡平君 いまだ明らかではないというのは、法制審での議論などを踏まえてもどうなのかなと思いますね。
国連子どもの権利委員会から、二〇〇〇年の法改定以降三回の勧告がなされているのは御存じかと思います。総括所見においては、少年司法についてはいまだに条約の原則及び規定と適合していないと厳しく指摘をされているわけですね。例えば、第二回目の総括所見では、法律に抵触した子供に対し、法的手続全体を通じて法的援助を提供すること、第三回目の所見では、全ての子供が手続のあらゆる段階で法的その他の援助を提供されることを確保することと勧告をされているわけです。
私は、虞犯への対象拡大や、さらには身柄拘束を受けている少年全てに国の責任で付添人を付していく、こうした方向が国連子どもの権利条約にも沿うのではないかと思うんですが、大臣はいかがですか。
○国務大臣(谷垣禎一君) 国連の児童の権利条約でございますが、この条約の解釈については外務省の所管事項でございますので余り踏み込んだことは申しませんが、その児童の権利条約四十条二の(b)の(Ⅱ)というところにいろいろ規定がございます。ここに書いてあることは、児童が法的その他適当な援助を受けることを締約国が認めること、言い換えれば、これを妨げないことを要請しているものと解されておりまして、全ての少年事件に付添人を付すことを義務付けることまで求めているというふうには理解しておりません。
○仁比聡平君 義務付けるかどうかは別として、そうした法的援助を提供することという勧告の意味をもっともっと政府部内でも国会でも深め、議論をしていく必要があると思うんですね。
身柄、例えば少年鑑別の措置がとられている事件で、国選が付く事件、そうではない事件というふうに差が広がっていきますと、付いたら重大、複雑、そうでなければというような誤った認識が少年に広がって、どの事件でも深めるべき内省と逆の影響を与えかねないという専門家からの指摘もありまして、私は、権利として全件付添人を目指していく、少なくとも身柄拘束、鑑別措置を受けた子供には必要的に付添人を付する制度が求められていると思います。是非、強くお願いをしたいと思うんですね。
この子どもの権利委員会の勧告の中に、こうした指摘もあります。法に抵触した子供に認められている手続的保障、弁護士にアクセスする権利を含む、が制度的に実施されていないため、特に自白の強要及び不法な捜査実務が行われているという指摘です。
捜査段階でこうした事態を根絶することはもちろんですが、その影響の下で作成された捜査記録が全て一件記録として送致されることによって始まる少年審判の手続が、こうした捜査に影響されずに適切な処遇を決していくためには、私、弁護士付添人の活動というのは極めて重要だと思うんです。
その続きで、非行事実に争いがある場合の事実認定の在り方について議論を進めたいと思うんですが、少年法は、健全育成という目的、理念を果たすために、家裁に全ての事件を送致し、裁判官を主宰者とする少年審判に委ねることとしているわけです。ですから、その職権主義的審問構造における裁判官の権限と責任が少年審判の柱となるわけですね。
この委員会での岡本参考人もお述べになりましたけれども、裁判官は、少年が非行事実についてやっていないと否認をしているとき、決してその少年の言い分をうのみにしてはおりません。共犯者が多数、あるいは証人がたくさんいる、あるいは客観的、直接的な非行事実を裏付ける証拠がないなど、事件の内容が複雑な場合というのはもちろんありますが、その下でも、真実を見抜いて事実を認定して、少年法の理念に沿った処分を決めるために、そういう意味で言わば少年と対峙して事に接するというのが、臨むというのが裁判官の職責なのではないでしょうか。
家庭局長、そうした努力をそれぞれの裁判官がこれまで積み重ねてこられたのだと思いますが、いかがでしょう。
○最高裁判所長官代理者(岡健太郎君) 少年審判を担当する裁判官において適正な審理を行うということはもちろんでございますが、具体的な否認事件の審理の在り方についてのお尋ねということでございますと、個々具体的な事件における裁判官の審判指揮に関わる問題でございますので、事務当局としての立場としてコメントは控えたいというふうに思います。
○仁比聡平君 家庭局長の法曹としての認識も是非御答弁いただきたいところかと思うんですね。
そうした少年審判の基本構造を変えないという前提で、検察官を出席させる裁判官の決定、現行法あるいは改正案のその決定の要件というのは、非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときにできるとされております。
そこで、法務省刑事局長にちょっと通告と順番変わりますけれどもお尋ねしますが、要保護性に関する事実のみが争いになっている場合はこの条件には当たりませんね。
○政府参考人(林眞琴君) 検察官関与決定については、委員御指摘のとおり、非行事実を認定するための審判手続に検察官が関与する必要があると認めるときに行うことができるとなっております。この場合の非行事実というものは、構成要件該当事実はもとよりでございますが、それに犯行の動機、態様及び結果その他当該犯罪に密接に関連する重要な事実を含むものでございますが、いわゆる要保護性のみに関する事実はこれに含まれないと考えられます。
したがいまして、要保護性のみに関する事実の認定に必要があるということを理由には検察官関与をすることを認めることはできないと考えております。
○仁比聡平君 最高裁、検察官の関与を認めた場合でも、その要保護性の審理には立ち会わせてはならないのではありませんか。
○最高裁判所長官代理者(岡健太郎君) お答えいたします。
ただいま法務省から説明がございましたとおり、検察官関与事件においては、検察官は非行事実を認定するための審判の手続に関与するものであり、いわゆる要保護性を認定するための手続に関与することは予定されておりません。したがいまして、非行事実認定のための手続が終了した後には検察官は退席するというような運用が一般的であるというふうに承知しております。
○仁比聡平君 要保護性の審理には立ち会わせてはならないというこの趣旨をしっかりどの事件でも、一つ一つのどの事件でも徹底して貫いていただきたいと思います。
非行事実に争いがあるという場合なんですが、この非行事実の争いといっても様々なんですよね。とりわけ犯罪の成立そのものには重大な影響を及ぼさないような場合、言わば構成要件の主要な事実には争いがない場合、この場合は、それはもちろん個々の事件の判断でしょうが、検察官の関与の必要性、あえて検察官に出席してもらうという、その裁判所にとっての必要性というのはこれはないんじゃないんですか、局長。
○最高裁判所長官代理者(岡健太郎君) 検察官関与をさせるかどうかは個別の事案における裁判官の判断事項ではございますが、現在の実務の運用におきましては、非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときという法律の要件に照らし、必要と判断した場合に検察官を関与させており、委員御指摘のとおり、全ての否認事件に検察官を関与させているわけではないというふうに承知しております。
○仁比聡平君 例えば、二〇〇〇年改正の五年後見直しに向けてという趣旨で行われた裁判官数名による司法研究というのがありますが、これを見ますと、そもそも関与の必要性があったのか、要らなかったのではないかという事例が多く見られるわけです。
七十二人の少年事件のうち、証人尋問が現実になされたのは四十件にとどまると。ですから、五五%程度なんですね。現実に証人尋問が行われていない件が多くある。担当した裁判官のアンケートでは、さほど有益であったとは言えないという回答が十二件で、非常に有益だったという回答を上回っているわけです。
一般保護事件のうち、改正法案の長期三年以上というふうに当てはめたときに、証人尋問実施件数が平成二十五年で約百三十件に上るというような御答弁が衆議院の委員会でありますけれども、このさほど有益であったとは言えないというような、裁判官が後から振り返って感じるような運用、あるいは証人尋問も実際にはなされないというような運用がこれからもあり得るのかと。刑事局長、そうならないという保証が改正案の条文上ありますか。
○政府参考人(林眞琴君) 少年法二十二条に、検察官関与の決定については一定の罪の事件であればこれは必要的になされるのではなくて、それに加えて、家庭裁判所が検察官をその審判手続に非行事実を認定するために関与させる必要があると認める場合にこれを認めることを規定しておるわけでございます。
したがいまして、今回の改正によって、検察官関与制度が対象事件が拡大されるわけでございますが、この点については、このメカニズム、この規定については変更されるものではありません。したがいまして、この改正後も家庭裁判所においては、同条の趣旨を踏まえて適切に検察官関与の要否を判断するものと考えております。
○仁比聡平君 そうした一般論で行われてきた運用の僅かな、不十分な検証の中でもそういう事案があると。この歯止めがどこにあるのかと。結局、その裁判官の裁量的判断以外にないんですよね。しかも、その裁量的判断、決定に対しては抗告はできないということになっているんでしょう。争えない。その裁判官の裁量が本当に適正に行われるのかということが極めて重要なのですが、特に、非行事実に争いがある場合に、極めてシビアな問題になる自白という問題についてお尋ねしたいと思います。
関係者の供述、中でも少年の自白に争いがあるという場合に、裁判官、どう臨むのかと。少年は、今日も議論があっているように、未熟で暗示に掛かりやすく、取調べ官に迎合をしやすい。その中で、取調べに対する抵抗力が成人以上に弱くて、結果、人権侵害も起こります。加えて、意に反する調書が作成される可能性が極めて高いわけですね。捜査段階で少年の自白調書がある、これが一件記録として送られてきているという事件で、少年が家裁に送致された後、本当はやっていないと述べ始めたときにどうするのか。裁判官は、その言い分をよく聞いて吟味をするとともに、捜査段階での、つまり捜査官の取調べではなぜ自白したのか、自白したのはなぜなのか、そこに問題はないのか、そこを吟味するものだと思いますが、家庭局長、いかがですか。
○最高裁判所長官代理者(岡健太郎君) 個別の審理の在り方に関する御質問でありまして、最高裁の事務当局といたしましてはお答えを差し控えたいと思います。
○仁比聡平君 現場の裁判官は、その事実審理、とりわけ供述、なかんずく少年の自白が問題となったときに、本当に真剣に審理に臨み、審判に臨んでいると、そういうふうに確信をしたいと思うんですね。けれど、この二〇〇〇年の改正で検察官の関与が行われるようになってから、捜査検事が少年審判に関与するという例が幾つもあります。
審判で自白の任意性や信用性がないのではないかということが問題となっているときに、その自白調書を作成した検事が審判廷に在廷するということ自体が、少年を萎縮させ、審判廷の真摯な対話を壊すとともに、裁判所の適正な事実認定を阻害すると、そういうことになるんじゃないですか。私は、運用としてでも、家庭局長、少なくとも捜査検事の関与は認めてはならないのではないかと思いますが、いかがです。
○最高裁判所長官代理者(岡健太郎君) ただいまのお尋ねにつきましても、個別の審理の在り方に関する御質問でございますので、事務当局としてはお答えを差し控えたいと思います。
○仁比聡平君 先ほど国選付添人の裁量的判断の要素や方向性についてはお話しになったじゃないですか。なぜこの検察官関与のありようについては一切口をつぐむんですか。
具体的に個別の事件で幾つもの問題が起こっている。そういう指摘がされながら、この関与の事件、対象事件を拡大しようとする。これが今後どんなふうに運用されるのかというのは、裁判官の判断に懸かっているわけでしょう。この裁判官の判断に、個々の裁判官の判断に言わば全てが懸かっている。それはその認識でいいんですか、局長。
○最高裁判所長官代理者(岡健太郎君) 検察官関与をさせるかどうかにつきましては、これまで説明がありますとおり、個別の事案における裁判官の判断事項ということでございます。
○仁比聡平君 大阪家庭裁判所が、いわゆる大阪地裁所長事件と言われる事件で、非行事実ありとして送致されてきた少年たちを不処分と決定した決定に対して検察官が不服として行った抗告を棄却した、平成二十年、二〇〇八年七月十一日の第三小法廷決定があります。
局長、この中で、田原睦夫裁判官の意見の最後の段落を御紹介ください。
○最高裁判所長官代理者(岡健太郎君) 平成二十年七月十一日最高裁第三小法廷決定における田原裁判官補足意見の最終段落部分は、以下のとおりでございます。
「本件は、事件関係者が、客観的証拠と明らかに矛盾する事実について、捜査機関の意向に迎合して、比較的安易に自白することがあり、殊に少年事件においては、そのような危険性が高いことを如実に示す一事例であり(本件では、送致事実には全く関与していないことが後に明らかとなった少年も、一旦自白している。)、刑事事件、少年事件に関与する者には、証拠の評価、殊に自白と客観的証拠との関連性につき慎重な判断が求められることを示す一事例として、実務に警鐘を鳴らすものと言えよう。」。
以上でございます。
○仁比聡平君 そうした指摘がされている事件について、弁護士の皆さんの報告によると、その捜査検事は警察で供述を変転させた少年に、君の供述を信用しても大丈夫か、将来僕が下手を打ったことにならないかと尋ねたら、少年が信用してもらっていいと答えたので安心したんですと証言をしたというわけですね。
こうした認識の捜査検事が少年の審判に立ち会って、捜査過程での自白調書を自ら作成した、あるいは警察の自白調書にのっとったそのままの捜査を遂げたというその立場で、尋問を始めとして少年審判廷での事実審理に臨むというのは、これ、少年審判のありようを壊してしまうじゃありませんか。
大臣、こういうことに何の問題もないと考えられますか。
○国務大臣(谷垣禎一君) 今の個別の例は別としまして、一般論で言えば、家庭裁判所が特定の検察官を指名したり、あるいは排除した形で検察官関与の決定を行うことは現行法上想定されておりませんし、そういう運用があるとも承知しておりません。
今更こんなことを申し上げてもなんでありますが、家裁の決定によって少年審判に検察官が関与することができるとされている趣旨は、職権主義的な審問構造を採用する少年法の下で、あくまで家裁の手続主宰権に服しつつ、公益の代表者の立場から、的確に事実認定が行われるよう審判協力者として関与するという点にあるわけでございまして、仁比委員は不適切であるとおっしゃっているんだと思いますが、そういった場合に捜査担当検察官が関与することになっても、検察官はそういう家庭裁判所の手続主宰権の下で自らの職務を行っていくということではないかと思います。
○仁比聡平君 いや、裁判所の協力者としてというふうにおっしゃるけれども、例えばこの大阪の事件だって、裁判所の不処分決定が不服だから検察は抗告受理申立てをしているわけですから、何が協力者かと。
こうした下で、先ほどにちょっと話戻しますと、捜査検事と公判の検事を分離するというのは地方の支部ではなかなか難しいんですよね、現実には。だけれども、前の質問、答弁で、限定的な運用なんだと、数は限られるんだというふうにおっしゃるんだったら、大きなところから、その地方にですよ、派遣するなんていうのは可能じゃありませんか。そういう形ででも、この捜査検事が自ら審判廷に臨む、こういうやり方はやめると、そういう方向で検討すべきなんじゃないですか。ちょっと大臣、もう一回。
○政府参考人(林眞琴君) この検察官関与は、先ほど来もありますように、基本的に事実認定について争い等がある場合に、家庭裁判所の主宰する審判手続、その手続主宰権に服しながら検察官が限定的に関与するものでございます。その場合には、他方で弁護士の付添人もおるわけで、そのまた付添人もこの家庭裁判所の手続主宰権に服しながら審判に関与するわけでございます。
仮にその捜査担当検察官がその審判に立ち会うと、こういうことになった場合においても、当該検察官については、そういう通常の刑事手続の構図とは違う構造の下で行われる検察官関与制度であるということを十分認識した上で、適切に対応していくべきものと考えております。
○仁比聡平君 そうした手続の主宰権に服していないという行為があったときに、これを法的にただせる、少なくともそういう条件は私は必要だと思います。
元々、検察官の関与は少年法の理念に反するものだと私は思いますが、裁判所は必要な補充捜査を求めることもできるし、裁定合議を行うこともできるようになっています。重大事案については原則逆送という規定が設けられた下で、逆送事件も増えているわけですね。
少年審判も元々、捜査を遂げて言わば黒という一件記録が送致されて始まる審判手続なわけですから、そこにも元々は国家刑罰権の行使を任務とする検察官が関与を広くするということになるなら、少年司法の理念は損なわれるということになると思います。少年審判においては裁判所が自ら非行事実の認定に当たることが大原則であって、私は反対ですが、検察官関与は、非行事実の認定にとってほかに代替手段がない、やむを得ない場合に限って認められていく、そうした運用が少なくとも裁判所においてされることを期待をしたいと思うんです。
最後に、自白でも常に問題になる取調べの可視化ですが、この試行が行われていますけれども、裁判員対象事件などに限られています。警察庁に聞きますと、平成二十四年度の少年被疑者について録音、録画を実施した件数は四百二十八件にとどまっているわけです。一方で、平成二十四年の少年保護事件の新受件数のうち検察官送致の件数は十一万五千六百三人、司法警察員送致は八千八百五十九人で、合わせておよそ十二万五千人に及ぶわけですね。この新受件数のうち可視化が、録音、録画が実施されている件数というのは、おおむねですよ、おおむねですが、〇・三%なんですよ。
法務省は、少年の録音、録画件数というのは独自には把握さえしていない。大臣、これは把握すべきじゃありませんか。少年の脆弱性に鑑みて、少なくとも少年事件については取調べ全過程の可視化を直ちに実現をすべきではないのか。この検察関与の運用の実態を徹底してつかんで、これを検証するということが求められると思いますが、いかがです。
○国務大臣(谷垣禎一君) 可視化は現在試行中でありますけれども、試行の実施状況を把握するための調査を行っているわけですが、少年事件については、少年事件自体が試行対象事件とされてはおりませんので、今委員がおっしゃったように、その件数については今まで把握してきてはおりません。もっとも、現在の試行対象事件に該当する少年事件については取調べの録音、録画の試行対象となっておりますので、検察当局においては試行の実施状況を把握するための調査を行う中で、録音、録画を実施した少年事件の件数についての把握の要否も含め、適切にこれから検討していくものと考えております。
○仁比聡平君 時間ですので終わります。