○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

性刑法改正から間もなく一年になります。附則九条では三年後の見直しを私たち盛り込んだわけです。その下で、一年前のこの委員会で、被害者当事者として山本潤参考人質疑を行いました。

以来、この参議院の法務委員会として、性犯罪やその被害者の実態をつかんで見直しに生かすために、多様な性暴力被害者当事者の参考人招致を私、繰り返し提案をしてまいりました。各会派御検討いただいているところだと思うんですけれども、是非今国会中に実現をしていきたいなと強く思っております。

委員長、是非御努力をいただきたいと思いますが、いかがですか。

○委員長(石川博崇君) ただいまの件につきましては、後刻理事会において協議いたします。

○仁比聡平君 法務省は、性犯罪実態調査ワーキンググループを立ち上げられて、一昨日の五月二十二日に第一回の会合を行われています。

そこで、まず、上川大臣、このワーキンググループを設けた目的、柱としてどんな調査や検討を行っていくのか、お伺いしたいと思います。

○国務大臣(上川陽子君) 御指摘のワーキンググループということで御質問がございました。

このワーキンググループでございますが、刑法一部改正法附則第九条に基づいて、同法施行後三年を目途として実施する性犯罪に関する総合的な施策検討に資するよう、省内の関係局等の連携を図りつつ、性犯罪の実態に関する各種調査研究を着実に実施することを目的として設置したものでございます。

主な活動内容でございますが、まず、各種調査研究の有機的な連携及びその進捗管理、さらに、性犯罪の実態把握のためのヒアリング等の実施、さらに、関係府省との連携、情報の共有を行うこととしております。

また、法務省におきましては、性犯罪に関する施策検討に向けまして調査研究をする予定でございます。具体的に申し上げますと、性犯罪被害者の心理等についての調査研究、また性犯罪等被害の実態把握のための調査研究、さらに、性犯罪者に対し刑事施設あるいは保護観察所におきまして実施しているプログラムの効果検証、さらに、性犯罪に関する罰則の運用状況等につきましての調査、こうしたことを予定をしておりまして、本ワーキンググループにおきましてはこれらの調査研究の進捗管理をしっかりと行いたいというふうに考えております。

○仁比聡平君 今御答弁あったように、このワーキンググループによって有機的連携あるいは進捗管理を図っていくということは重要なことだと思うんですが。

具体的に法務省にお尋ねをしますが、各局別々の取組ではどこに課題があって、どう連携を図っていくのか、また、関係府省との共有というのはどこに対してどのように情報の共有、連携を図るのか、これはいかがですか。

○政府参考人(金子修君) お答えいたします。

まず、省内における有機的連携の方でございますが、省内における各種調査の有機的連携の目的は、関係局等において行う各種調査研究をより有益なものとする点にございます。そのため、本ワーキンググループにおきましては、各種調査研究の実施方法等を共有し、連携できる部分については連携する、それから、各種調査研究結果や同調査研究結果で得られた知見を共有することとしております。

次に、関係府省との連携の方でございますが、施行後三年をめどに実施する性犯罪に関する総合的な施策の検討に向けた各種調査研究は、内閣府や警察庁など、法務省以外の関係府省においても実施しているほか、施策の在り方の検討においては関係府省との協議が必要でございます。そのため、本ワーキンググループにおきましてはこうした関係府省との連携を推進することとしており、法務省において実施した各種調査研究結果や本ワーキンググループで実施するヒアリング結果につきましても関係府省と共有していくことを考えております。

○仁比聡平君 何しろ、三年後の性刑法の見直しに向けて腹を据えて掛からなきゃいけないわけですから、その構えをはっきり持って臨んでいただきたいと思います。連携できるものは連携するというような御答弁もありましたけれども、おぼつかないということではこれは任務は果たせないと思うんですね。

私、この問題について、刑法と刑事司法の在り方が被害者にとって、伊藤詩織さんがおっしゃるブラックボックスとなって、被害者を排除し、不信の悪循環を広げているのではないかと厳しく指摘をしてまいりました。

この性刑法の見直しに当たって、性暴力の定義は、同意に基づかない性的行為である、暴行、脅迫を要件としないというイスタンブール条約を林陽子前国連女性差別撤廃委員会委員長も批准すべきだとしていることも紹介し、被害者が命懸けで抵抗していなければ同意したことになるかのように扱われてきた暴行・脅迫要件の撤廃を求めてまいりました。

さらに、性交同意年齢の引上げ、公訴時効の停止、見直し、集団強姦事案の厳重処罰などが焦点となっているわけですが、大臣、これらをしっかり検討するには、四月十二日に御答弁もいただきましたけれども、無罪、不起訴事案を徹底して分析し、刑法や刑事手続の在り方を見直すことが重要だと思います。

このワーキンググループをそのような場にしていくという決意でよろしいですね。

○国務大臣(上川陽子君) 性犯罪に関する総合的な施策の検討に向けまして、性犯罪に関する罰則の運用状況等の把握は大変重要であると考えております。無罪となった事案、また不起訴処分となった事案につきましても調査をする必要があると考えております。

このような調査の具体的な在り方につきましては、設置いたしましたワーキンググループでのヒアリングの内容やその他の調査の進捗等も踏まえて検討をすることといたしたいというふうに考えております。

○仁比聡平君 刑事局長、今の大臣の御答弁のとおりでよろしいですよね。

○政府参考人(辻裕教君) 大臣御答弁いただいたとおり、無罪となった事案、不起訴処分となった事案についても調査する必要があると考えてございます。

○仁比聡平君 当然だと思います。

そうした中で、性犯罪被害者の心理の研究、検討というテーマがあるわけですが、大阪高検の田中嘉寿子検事は、内閣府の男女間における暴力に関する調査、二〇一四年のものですけれども、これ二〇一七年の調査でも変わっていませんが、異性から無理やり性交された経験があると答えた女性のうち、警察に相談した人は僅か三・七%という数字を踏まえて、およそ七万人もの強姦、強制わいせつ犯が野放しになっていると試算した上で、被害者の心情を理解し、二次被害を防止し、被害届出率を向上させることは捜査機関にとって喫緊の課題であると著書で述べていらっしゃるわけです。

ワーキンググループでは、被害者の心情あるいは心理について、何を明らかにするために検討していかれるわけですか。

○政府参考人(金子修君) 御指摘の被害者の心理等に関します調査研究としましては、性犯罪の捜査、公判の経験を十分に有する検事を研究員として選定し、精神科医等の指導を受けつつ、性犯罪被害者の心理に関する心理学的・精神医学的知見と捜査、公判における活用の在り方について研究を行う予定でございます。

性犯罪の被害者の心理につきましては、例えば性犯罪に直面した被害者が恐怖や衝撃から抵抗できない状況に陥ることや、PTSDの症状等によりまして被害申告が困難になること、それから、被害を捜査関係者を含む第三者に打ち明けることによりまして、それが二次被害を生むというようなことがあるということが指摘されております。

先ほど申し上げました研究の実施に当たりましては、こうした指摘を十分に踏まえまして、専門家の御意見等も参考にしつつ調査研究を行った上で、その研究の成果を検察官等に対する研修に活用して、被害者に寄り添い、二次被害の防止等に努めていく所存でございます。

○仁比聡平君 現実のこれまでの実務では、そうした研修なども極めて不十分なものであったわけで、ここはもう本当に意を決した取組が求められると思うんですね。

その下で、子供時代の被害について、二〇一七年実施、今年三月公表の内閣府の先ほどの調査の報告書を見ますと、男女間暴力の被害に遭った時期というのは、小学校入学前が三・〇%、小学生のときが何と一二・二%、中学生のときが六・一%、中学卒業から十七歳までが五・五%で、被害者の何と三割近く、二六・八%が十八歳未満の子供時代に性的虐待、性犯罪の被害に遭っていると見られます。十八歳、十九歳は一四・〇%です。

こうした被害について、宮地尚子一橋大学大学院教授は、子供にとってトラウマになるだけでなく、子供の成長、発達を阻害し、時には不可逆的な障害をもたらすと指摘をしておられますが、性犯罪が子供の心身に与える重大な影響、この認識をしっかり共有するということは、加害の防止や被害者の支援、それから性交同意年齢や公訴時効の在り方にとっても重要な課題だと私は思うんですが、ワーキンググループではどのように検討していかれますか。

○政府参考人(金子修君) このワーキンググループにおきましては、性犯罪の被害に遭われた方やそれから被害者の支援を行っている方などから、性犯罪被害の実情や、被害者やその御家族等の関係者が置かれた状況、それから必要とされている被害者への保護、支援の内容などにつきましてヒアリングを行うこととしております。具体的なヒアリングの対象者やヒアリング項目については、現在検討中でございます。

委員御指摘の子供時代に性暴力を受けた被害者の実情につきましても、その特有な事情に配慮しながら本ワーキンググループにおいて把握できるよう、今後ヒアリングの対象者やヒアリングの項目を選定してまいりたいと考えております。

○仁比聡平君 しっかり取り組んでいただきたいと思うんです。

性犯罪処遇プログラムの効果の検証もテーマだということなんですが、これ自体が性犯罪根絶のために重要な上に、そこから得られる知見を性刑法や捜査、公判の在り方に反映させるということが私、大事なんじゃないかと思うんですね。

例えば、これ性犯罪の起訴状だとか逮捕状、今でも、にわかに劣情を催しという、こういう記載が実務教育で指導されているわけです。この点、藤岡淳子大阪大大学院教授はこう言っています。性犯罪は性的欲求や衝動にのみよるものではない、それは、支配や優越、強さの主張といった様々な欲求から行われる、性犯罪は決して衝動的に行われるものではなく、自己の欲求を充足させるため合目的的に、言わば計画的に行われる、性犯罪行動の変化にターゲットを絞った特別な治療をしない限り何度も繰り返される非常に習癖性の高い行動である、しかし、性犯罪者の査定と治療には特別な困難が伴い、したがって、特別な訓練が必要とされると。そういう先行研究も踏まえて、収容施設でのグループワークから得られた知見を既に二〇〇六年、十年前の本で示しておられるわけですね。

こうした専門家にも再犯データや処遇プログラムの成果を共有し、検証をすべきではないか。ワーキンググループの目的を果たすために、これ、矯正局、保護局、それぞれどう取り組んでいくんですか。

○政府参考人(富山聡君) お答えいたします。

全国の刑事施設では、平成十八年の五月からこの性犯罪者に対する処遇プログラムを開始しております。このプログラムの作成に当たっては、先行的な有益な実施例がありますカナダ、イギリスのプログラムを参考にいたしまして、さらに、外部の有識者の方にも入っていただき、矯正局、保護局それぞれ一緒になって研究をして開発したという経緯がございます。今御紹介いただきました藤岡淳子氏も、こういったプログラムの中で、現在実施をする中でもスーパーバイザーとして御助言をいただくといったような形で関与もいただいております。

私どもといたしましては、このプログラム、一時期、平成二十四年の十二月に効果検証結果も発表しておりますが、まだまだ充実改善していかなければいけない課題がいっぱいあると認識をしております。

また、現在も、例えば知的制約のある性犯罪加害者に対してどのような指導がいいのかということで、そういった方に特化したプログラムを作ったり、あるいは全く受講の意欲がない性犯罪加害者に対してインセンティブを付与するための指導などについてもいろいろと工夫をしながら行っているところでございます。

今後、更にこのワーキングチームの成果等も生かしながら、様々な分野の専門家の知見も得て実施の内容を更に改めていきたい、より良いものにしていきたいというふうに考えております。

○委員長(石川博崇君) 時間過ぎておりますので、簡潔にお願いします。

○政府参考人(畝本直美君) 保護観察所におきましても、平成十八年九月から性犯罪者処遇プログラムを実施しているところでございます。

保護局としては、本年度そして来年度におきまして、このプログラムの受講者の再犯に関して、二十四年に一度検証を行っておりますが、また新たにその分析を行って効果検証を行いたいというふうに考えております。

また、民間有識者の知見をいただきまして、その方々と協力をいたしまして、このプログラムを行う観察官からのヒアリングあるいは海外における実践例などを参考にしながら、このプログラムを内容的に、あるいは構成を見直すなど、より効果的なものとすることを予定してございます。

○仁比聡平君 時間がなくなって、大臣に最後決意をお尋ねしたいところですけれども、こうした作業を三年後の刑法見直しに必ず実らせていただきたいと。大臣、うなずいていらっしゃいます。そうした構えで進めていただきたいということを最後申し上げまして、今日は質問を終わります。