193通常国会2017年6月15日参法務委員会『刑法改正(性犯罪関係)案、参考人質疑』
○参考人(橋爪隆君) おはようございます。ただいま御紹介いただきました東京大学の橋爪と申します。専門分野は刑法でございます。
本日は、このように参考人として意見を述べる機会をいただき、大変光栄に存じます。私は、法制審議会の刑事法部会の審議に幹事として参加しておりました。
本日は、刑事法部会の議論を踏まえながら、刑法の一研究者としての観点から改正法案の内容に関しまして若干の意見を申し上げたいと存じます。A4判で一枚の資料を御用意しております。これに即して、考えるところを申し上げたいと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
今回の刑法改正案におきまして重要なポイントは、資料第一から第四の四点に集約できようかと存じます。先に結論から申し上げますと、全ての点につきまして正当な方向の改正であるというふうに考え、積極的に評価したいというふうに考えております。
まず第一点でございます。強姦罪の構成要件及び法定刑の見直しでございます。
まず、前提問題としまして、現行法における性犯罪の基本的な構造について簡単に申し上げたいと存じます。
先生方御承知のとおり、現行法は、強制わいせつ罪と強姦罪という二つの性犯罪を設けております。あえて単純に申し上げますと、通常の性犯罪が強制わいせつ罪でありまして、特に被害が重大で悪質な性犯罪のことを強姦罪というふうに別個規定しているわけでございます。
そして、通常の性犯罪と重大な性犯罪の区別の基準といたしましては、現行法は、姦淫行為、すなわち男性が女性に対して強制的に性交を行うこと、これを区別の基準としているわけでございます。もっとも、性犯罪の被害の実態に鑑みますと、重大な性犯罪として重く罰すべき類型を姦淫行為に限定する必然性は乏しいと思われます。
こういった問題意識から、改正法案では、以下の一、二の二点に関しまして、重大な性犯罪として罰し得る行為の範囲を拡張しております。
まず第一に、性別による区別の撤廃でございます。
すなわち、改正法案におきましては、男女の区別を廃し、男性が性交を強制される行為についても重大な性犯罪として重く罰し得ることになっております。男性も性犯罪の被害者になり得るということについては、従来十分な問題意識がなかったようにも思われます。しかしながら、刑事法部会では、関係各位にヒアリングを実施いたしましたが、お話を伺いまして、男性に対する被害といったものが多数存在していること、また、男性が被害を受ける場合についてもその心身のダメージは深刻であることにつきまして認識を強くいたしました。
このように、性犯罪の被害につきましては性差を重視すべきではないことから、男性の性的保護を強化する法改正には正当な方向であるというふうに思われます。
第二に、重大な性犯罪は性交の強制には限られないという点でございます。
性犯罪の被害が被害者の心身に重大なダメージを与えるのは、他人の性器が自己の身体の中に強引に入ってくるという濃厚な身体的接触、侵襲にあると思われます。
このように、性器の身体への侵入という事実が重要であると解するのであるならば、現行法の姦淫行為、すなわち膣への男性器の挿入だけを特別に重く罰すべきではなく、性器の身体への挿入一般を重く罰することには十分な合理性がございます。まさに改正案は、こういった問題意識から、重大な性犯罪の行為態様を性交、すなわち膣への男性器の挿入だけではなく、肛門性交、口腔性交にまで拡張しております。これらは、いずれの類型も、男性器が無理やりに身体に入ってくる、あるいは男性が被害者の場合においては自分の男性器を無理やりに意思に反して他人の身体の中に入れさせられるという意味において重大な被害としての実態を有しております。
さらに、具体的な事例を考えますと、男性間における性的な被害、さらに、性交が困難な幼児、児童に対する性犯罪を考えますと、膣への挿入行為のみを特別に罰するべきではなく、肛門性交、口腔性交を同様に重く罰することについては、性犯罪の被害の多様化に対応するという観点からも重要な意義があるように考えております。
さらに、二番に移りますが、法定刑の引上げでございます。
改正法案におきましては、強姦罪の法定刑の下限を懲役三年から懲役五年に引き上げております。このような厳罰化の当否につきましては賛否両論があり得るところでございますし、私自身も、いたずらな厳罰化については若干のちゅうちょを覚えております。もっとも、今回の法改正につきましては、次のような観点から法定刑の引上げに賛成したいというふうに考えております。すなわち、強盗罪との比較という観点でございます。
強姦罪、強盗罪は、共に暴行、脅迫を手段とする粗暴犯でありますが、強姦罪の方が被害者に対する心身の被害も深刻でありまして、より重く罰すべき犯罪であるということにつきましては恐らく見解の一致があると思われます。実際、刑事裁判の実務においても、強姦罪の方が強盗罪よりも量刑が重い傾向にあり、それには十分な理由があると思われます。
しかしながら、現行法では、実は強盗罪の方が法定刑が高い犯罪でございます。すなわち、強姦罪の法定刑の下限が三年であるのに対して、強盗罪の刑の下限は五年です。このような法定刑の逆転現象はやはり看過し難いように思われます。現在の裁判実務の量刑傾向、また国民一般の健全な感覚に対応するためには、強姦罪の法定刑につきましても、少なくとも強盗罪と同じ程度までの引上げをすることが重要であるように思われます。こういった観点から、今回の法定刑の引上げについても賛成したいと考えております。
以上が資料の第一、強姦罪の構成要件及び法定刑の見直しに関する意見でございました。
続きまして、資料の第二、監護者性交等の罪の新設に移ります。
改正法案におきましては、十八歳未満の者を現に監護する者がその影響力があることに乗じて性交等をする行為を強制性交等の罪と同様に処罰をするという新たな犯罪類型が提案されてございます。現に監護する者とは、その生活費用、住居、人格形成等の生活全般について十八歳未満の者を継続的に保護する関係にある者を意味しますので、典型的な関係は親権者による犯行と言えようかと存じます。この問題につきましても法制審議会刑事法部会のヒアリングで伺ったところでございますけれども、親子間の虐待といったものは不幸にして多数発生しており、児童の心身に対する極めて深刻な被害をもたらしております。
また、本来ならば児童を保護し監護すべき者が言わばその地位を濫用し、児童を性的に搾取、虐待するという行為は、被害児童にとっては誰にも助けを求めようがない行為でございまして、極めて悪質かつ卑劣な犯行でございます。そういった意味で、行為者に対する非難可能性も高いというふうに思われます。このような被害の重大性、犯罪の悪質性に鑑みますと、改正法が新たに監護者性交等の罪を新設したことには十分な合理的な理由があったように思います。
もちろん、家庭内、親子間の虐待については、現行法でも性犯罪としての処罰が可能でございます。すなわち、児童に対する暴行、脅迫があれば強姦罪が成立しますし、また、被害者が抵抗困難な状況にあることに乗じて性交等に至れば準強姦罪等が成立します。しかしながら、家庭内の性的虐待については、密行性が高いことから、暴行、脅迫等の行為を具体的に認定することが困難な場合が多く、それゆえ、現行法では性犯罪として立件することが必ずしも容易ではなかったというふうに理解しております。
また、児童が親権者に嫌われたくないという一心で性交の求めに応ずるようなケース、あるいは性的虐待が継続化、常態化して、児童としてもこういった関係を続けることについての違和感を失うという認識に至ってしまい、被害を認識できないような場合もあるようです。こういった事例につきましても、児童の性的虐待を防止し、行為者を罰するというためには、やはり新たに監護者性交等の罪の新設が必要であるというふうに考えております。すなわち、監護者がその影響力に乗じて性交等をする場合、児童の意思決定が不当にゆがめられるおそれが類型的に高いと言えます。このように、児童の意思決定に瑕疵が生じ得る点に本罪の処罰の根拠を見出すことができると思われます。
続きまして、第三でございます。強盗強姦罪の構成要件の見直しにつきまして意見を申し述べます。
現行法における強盗強姦罪、すなわち刑法二百四十条は、強盗の機会にさらに強姦行為に及ぶという行為が極めて悪質な犯罪であることから、強盗罪と強姦罪の結合犯として刑を加重しております。もっとも、現行法は、強盗が女子を強姦したときと規定しておりますので、強盗が先行し、その後強姦が行われた場合に限って適用が行われており、強姦が先行し、その後強盗が行われた場合については適用がありません。しかしながら、強盗強姦罪を重く罰する根拠は、既に申し上げましたように、強盗罪、強姦罪という重大犯罪を同一機会に重ねて行ったという点にございます。としますと、両者の先後関係は重要ではないと考えるべきです。
改正法案では、このような問題意識から、強盗行為と強姦行為が同一機会に行われていれば十分であり、両者の先後関係を問わないものとなっており、正当な改正であるように思います。更に申しますと、現実の事件におきましては、強盗と強姦が同一機会に行われたが、どちらが先かについて証明困難な事例も存在するようです。改正法案であれば、こういった事件につきましても、先後関係を問わず強盗強姦罪で処罰ができるというメリットがあり、そのメリットは大きいと考えます。
最後に、第四、強姦罪等の非親告罪化につきまして意見を述べたいと存じます。
御承知のとおり、現行法では、強姦罪、強制わいせつ罪等の性犯罪は親告罪とされており、被害者の方の告訴がなければ公訴が提起できません。これは、性犯罪の被害者の方の名誉やプライバシーを保護する趣旨の規定であるというふうに解されてきました。もっとも、現実には、被害者の方が告訴をするか否かを御自分で判断しなければいけないという精神的なプレッシャーを強く感じられたり、あるいは告訴をしたことによって犯人から報復を受けるのではなかろうかといった不安を感ずることも多いと伺っております。つまり、被害者を保護するための規定がかえって被害者の方に精神的な負担をお掛けするというふうな事態に至っているわけでございます。これはまさに本末転倒でございます。
今回の改正法案では性犯罪が非親告罪化されておりますが、これは、被害者の方の精神的な負担の軽減を図る趣旨であり、正当な判断であったと思われます。もちろん、性犯罪の処罰におきましては、被害者の方の名誉やプライバシーを十分に尊重することが重要でございます。もっとも、それは実務的な運用によっても十分に達成できるというふうに考えております。
現行法におきましても、強姦の機会に被害者が負傷した場合、すなわち強姦致傷罪は親告罪ではありませんが、強姦致傷罪の捜査、公判におきましても被害者の方の意思やプライバシーを十分に尊重した対応が講じられており、特段の問題は生じていないというふうに理解しております。このような対応が今後も継続的に行われることを信じ、また強く期待したいというふうに考えております。
私の意見は以上でございます。御清聴、誠にありがとうございました。
○委員長(秋野公造君) ありがとうございました。
次に、山本参考人にお願いいたします。山本参考人。
○参考人(山本潤君) 本日は、参考人としてお呼びいただき、本当にありがとうございます。刑法性犯罪を変えよう!プロジェクトの山本潤と申します。
私がこのプロジェクトに参加しているのは、自分自身が父親からの性虐待の被害者であり、日本の性暴力を取り巻く現状を変えていきたいと強く願っているからです。私の経験は一人の経験ですが、私たちに声を届けてくれた人たち、声を上げることも難しい人たちの思いを少しでもお伝えできればと思っています。
刑法性犯罪改正が話し合われる法務委員会に、これまで性被害者が呼ばれたことはあったのでしょうか。私たち性暴力被害者の運命は、この法律によって左右されます。
私は、二〇一五年から始まった刑法性犯罪改正の議論に少しでも当事者の声を届けたいと、二〇一六年八月に、性暴力と刑法を考える当事者の会を立ち上げました。届けたいと思ったのは、二〇一五年七月に性犯罪の罰則に関する検討会で聞いた法律家たちの意見が非常に衝撃的だったからです。済みません、当事者の会を立ち上げたのは二〇一五年です。失礼しました。
皆さんも中学生だったことがあると思います。中学生のときの自分を想像してみてください。皆さんにとって身近な大人、生活全般を依存している人、保護者、親が皆さんの布団に入ってきて皆さんの体を性的に触るようになったら、どういう感覚、感情を持つでしょうか。私に起こったのはそういう経験です。
私の父は、私が十三歳のときに、寝ている私の布団に入ってきて私の体を触るようになりました。初めはおなかや背中だったものが、次第に胸やお尻に移っていきます。なでられ、もまれ、性的な行為を強要されます。話したらひどい目に遭うよ、家族がばらばらになるよと脅す加害者もいますが、私の加害者はそうではありませんでした。私に起こったことは、黙って入ってきて黙って触られ、これから何が始まるのかも何が起こっているのかも理解できない混乱する経験でした。混乱と驚愕、私は、フリーズしてしまって抵抗することはできませんでした。
そして、そのときの私は、これが性被害だということを理解することもできず、性被害であり相談する必要がある出来事なのだということすら発想もできず、誰にも被害を訴えることはできませんでした。その結果、被害は継続しエスカレートし、結局七年間被害を受け、別件で母が父と別れたので、そこで私の被害は終わりました。
終わったからといって終わりではなく、むしろ、強迫症状や退行現象、うつや性的行動のコントロールの付かなさなど、様々なトラウマ症状の始まりはそこからでした。結局、被害を受けていた七年間の三倍の日数の二十一年間を、トラウマ症状とそこからの回復に費やしてきました。
私のように誰にも自分の性被害を相談できない人は、平成二十六年の内閣府の統計で六七・五%であることが明らかになっています。そして、様々な犯罪被害者支援計画が実施されているにもかかわらず、どこにも誰にも相談できなかったという人の数字は、平成十七年から六〇%台と、ほぼ変わりはありません。
どうして被害者は、自分の被害を友人にでも相談機関にでも相談することすらできないのでしょうか。そこに法律の定義は深く関わっていると思います。私のケースのように、暴行、脅迫がなくても性暴力を振るうことは可能です。しかし、そのような被害の実態を法律家がきちんと聞いてくれたとは思えません。
性犯罪の罰則に関する検討会では、親子間でも真摯な同意に基づく性行為が全く起こらないとは言えないのではないかという発言がありました。たとえ法律の専門家であったとしても、性暴力の専門家ではないのだということを強く感じました。親子の関係で性行為に同意することはできません。そもそもの前提である、対等性を持ち、自由に意思決定することができないからです。法律と人間の権利の専門家から、二度とこんな性虐待を肯定するような意見を聞きたくないと今でも思っています。
私のような当事者から見れば、性犯罪の罰則に関する検討会、法制審議会という性犯罪を議論し意思決定するメンバーに被害者がいなかったことを疑問に思います。私たちに非常に大きな影響を与える法律を私たち抜きで決めないでほしいと思っています。
その後、性暴力と刑法を考える当事者の会は、法制審議会へ二回要望書を提出し、お手元の資料にも、後ろの方にありますが、「ここがヘンだよ日本の刑法(性犯罪)」ブックレットを作成し、日本弁護士連合会意見書への反対の要望書を行うなど、活動を積み重ねてきました。
その間に、刑法性犯罪改正は、法務省から国会に議論の場が移りました。二〇一六年秋から私たちは、明日少女隊、しあわせなみだ、ちゃぶ台返し女子アクションとともに刑法性犯罪プロジェクトを立ち上げ、ビリーブキャンペーンを展開してきました。
私たちの資料の表紙をめくった一枚目のパンフレットを御覧ください。こちらにありますように、届ける活動として、国会議員の方々へ私たちの要望を伝えるロビーイングも行ってきました。
実際に議員の方々と面会してお話しすることで、私たちが求める暴行・脅迫要件撤廃について、性犯罪改正の問題について伝えることができました。成果は実り、先週、ついに附則、附帯決議が付いて、刑法の一部を改正する法律案は衆議院を通過しました。附則は法律となるので非常に難しいと言われていましたが、三年後の見直し規定が取り入れられたことは、私たちの要望を聞いていただけたのだと感じています。
衆議院法務委員会で可決された先週六月七日には、金田法務大臣に刑法改正を求める三万筆の署名を提出することができました。オンライン署名は、その後一週間で二万人以上増え、五万四千人の署名が現在集まっています。これほどに刑法性犯罪改正を求める声は大きいのです。私たちの要望について、また署名について、資料の方に載せていますので御参照ください。
改正案は成立間近です。それでもまだ残る論点は多いです。性的侵襲罪ではなく強制性交等罪という名称でよいのか、被害を受けているときに子供であったりして親告できない間に時効となってしまう問題はどうなのか、パートナーや配偶者からのレイプはどのように扱われるのか、集団強姦罪が廃止されてしまったのはどうなのか、教師や上司のような目上の立場の人からその地位や権限を利用された性的強要が被害だと認められにくい問題、十三歳以上は暴行・脅迫要件を満たさなければ強制性交等罪にならない問題があると考えています。
様々な問題が積み残されていますが、私が最も大きな問題と感じているのは、やはり暴行・脅迫要件です。私が父から性被害を受けていたとき、父は私を脅したり殴ったりはしませんでした。暴行、脅迫がないケースで、強姦罪にも強制わいせつ罪にもなりません。
ずっと私は、この性暴力被害の経験が私の人生を大きく損なったものだと思ってきました。でも、それは違います。私たちの人生には様々なことが起こります。大きな交通事故に巻き込まれる、いきなり通り魔に襲われる、そういう非常に困難で突発的な出来事ではないかもしれないけれども、自分の大切な人が突然失われてしまう、自分自身が大きな病を抱えてしまう、そのような理不尽で困難で、自分の力ではどうにもできない状況というのは、誰の人生にも一度は訪れるのではないでしょうか。そんなときに苦しみを聞いてもらえれば、誰かに助けてもらえれば、法律や支援のシステムが整備されていれば、私たちは、何とか前を向き、もがきながらも立ち上がることができるのではないでしょうか。
私には何もありませんでした。訴えることもできず、そのような手段があることも知らず、誰にも救ってもらえませんでした。私のような家庭内の性被害者たち、暴行、脅迫がなく、だまされたり、教師や上司という目上の立場の人から性を強制された人たち、人間として最も困難である状況を味わった人たちを日本の刑法は守ってくれません。被害者は苦しみ、加害者は許され、何の処罰も受けない。大きな被害を受けながら何もなかったことにされたことこそ、刑法が暴行、脅迫がなければ強姦罪ではないと言っていることこそ、私にとっての困難でした。法律家たちはケース・バイ・ケースだと言います。適正に裁かれているケースもあると言います。適正に裁かれていないケースがある以上、そんな理屈は通用しないと私は考えています。
今回、やっと監護者性交等罪が入りました。それはとても評価できるところだと思っています。しかし、十八歳以下で親などの監護者から性交された人は加害者を罪に問えますが、相手が年上の兄弟やおじや祖父、教師やコーチの場合、監護者性交等罪で罪に問うことはできません。
暴行・脅迫要件は必要だ、外形的に見える指針が大事だという議論がされます。私は、そうは思いません。暴行、脅迫が必要だと考えていること自体、性暴力の本質を理解していないことだと考えています。先進国では、明示的な同意がなければレイプと定義されている国が多いです。どうしてでしょうか。それは、性暴力の加害の定義を見れば分かります。
お手元にありますパンフレットをめくって、二枚目の性犯罪に暴行脅迫要件は不要という資料の二番目、性暴力加害とはというところを御覧ください。性暴力は、性的欲求のみではなく、加害者が攻撃、支配、優越、男性性の誇示、接触、依存などの様々な欲求を性という手段、行動を通じて自己中心的に充足させるために被害者を物として扱うことです。性暴力の本質は、人を物として扱うことなのです。
私は子供でしたけれども、意思も夢も希望もありました。それを全て無視されて、物として扱われました。被害者の意思を無視すること、人間として扱わないこと、そうすることで加害者は自分が上だ、おまえには何の権利もないと被害者に知らしめることができます。被害者の力を奪い、無力化したことが加害者の勝利です。加害者の勝利は私の苦しみです。私が人間であるならば、どうして意思が聞かれなかったのでしょう。どうして希望を聞いてくれなかったのでしょう。その選択をしたのは加害者です。その人の意思も希望も踏みにじり、物として扱ったのは加害者なのです。そのとき、私たちは心を、魂を殺されるのです。
百十年ぶりの改正にもかかわらず、日本の刑法はいまだに明治時代の亡霊を振り払えていません。暴行・脅迫要件ではなく、人を物として扱った加害者の責任を問う必要があると思っています。そのために、そこに相手の明示的な同意があったかということを中心とする構成要件を組み立てる必要があるのではないでしょうか。三年後の検討で暴行・脅迫要件が撤廃されなければ、被害者の意思を無視することが繰り返されることになります。
これまで、私たち被害者の声を法律は聞いてくれませんでした。私も、自分の声が聞かれるとも状況を変えられるとも思っていませんでした。でも、今、皆さんは聞いてくれています。それは希望です。このことが、加害者が無視した私たちの意思を聞き、私たちが話を聞く価値がある人間であるということを示してくれているからです。
性被害者がこのような思いをしているということは、皆さんにとっても思い掛けないことかもしれません。意思を聞かれなかったこと、人間として扱われなかったことは私たちの血肉に刻まれています。だからこそ、声を上げるのは怖いのです。また同じようにたたき潰されないかと恐怖におびえているのです。だからこそ、被害者を強力に保護し、支援するシステムが必要なのです。それができてこそ、性被害の実態を把握し、実態を反映した法律の改正、システムの構築ができると思います。
私たちは、声が聞かれることを、法律にも被害者の声が届くことを示していただきました。共に被害者が性被害を訴えられる社会になるように、今回の法改正がその後押しとなることを心から願っています。
ありがとうございました。
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。今日は本当にありがとうございます。
山本参考人のお話で、法律家は性暴力の専門家ではないんだと感じたときの大きな衝撃という言葉に、私も、強くこの国会の責任ということを感じさせられたんです。
この議場にも法曹資格を持った議員も幾人もいるわけですけれども、私なりの受け止めでいいますと、被害の現実をそのまま受け止めて考えるのではなくて、構成要件や立証の可能性という枠組みが頭の中に先にあって、そこに当てはまるのかどうかというふうに考えてしまう。ですから、目の前に相談やあるいは訴えてきておられる被害者、当事者の皆さんの被害そのものをまず受け止めることができないでいるのではないか。法ということで考えると、明治以来ずっとそうやって法律家が積み重ねてきて、今の実務だとか構成要件の解釈だとか、そういうものをつくっているんじゃないのかという根源的な指摘ではないかと思うんです。
お配りいただいている資料にも、イヤよイヤよは嫌なんですという、何というか、メッセージがありますけど、命懸けで抵抗していなければ同意したことになるのか、そんなことおかしいじゃないかと、認めてなんかいない、同意なんかしていないと。その声を阻んでいるのが暴行・脅迫要件、抗拒不能要件とその法律解釈、例えば判例などにも出てくる、それに、それに基づく警察や検察の実務であり、大方、弁護士もその実務の上でしか活動ができていないんじゃないのかと、そうした提起かなと私は受け止めるんですが、山本参考人、いかがでしょうか。
○参考人(山本潤君) まさしく仁比議員のおっしゃるとおりだというふうに思っています。
法律は、やはり枠組みがありますし、できること、できないことというのはやはりあるかなというふうに思います。
私は看護師なので、医療の現場あるいはケアの視点からいったら、やはりどんな相談も受けて、どのような被害であったとしても、それはその被害を受けた人の傷つきをケアする、その被害を受けた人を中心に考えていくということをします。
法律において非常に重大なことだなというふうに私が感じて、まあ勝手に感じているんですけれども、勝手に感じているのは、やはり先ほど言われたように、要件を絞って、そして排除してしまうということですね。だからこそ、大きな性暴力被害を受けた人たちがいて、そのうちで警察に届けられる人が、四・三から性的事件は一八・五%、そのうちで、更に捜査が始まって検察に送検される人がまた少なくなり、そして、更に起訴される人というのはもっと少なくなっていくわけですよね。
やはり勝てない事例というのははじかれていきますので、被害届も受け取ってもらえない。捜査はしたかもしれないけれども、したかしていないかも分からないけど、もう終わりですというふうに言われてしまう。そういう中で、だから、罪ではないから認められなかったのか、それとも、罪はあるんだけれども捜査能力がないから、できないから、あるいは法律が構成要件と何か違うふうに、裁判ではきっと有罪にすることができないからはじかれたのかということが今は全く分からないという状況が発生しているというふうに思っています。
だからこそ、何が性犯罪なのかという議論を丁寧にしていただければというふうに願っています。
○仁比聡平君 先ほど佐々木議員が確認をされたフリーズとは何かということも、同意とは何かということにも関わる、私はこの刑法の規範の問題だと思うんですよ。
そこで、橋爪参考人にお尋ねしたいんです、厳しい質問だと思うんですけれども。
つまり、先ほどお話にあったように、不同意性交がこの性犯罪の本質だということは、これは大方世界でそうなっている。暴行・脅迫要件、抗拒不能要件はその言わばメルクマール、基準の問題なんだという御理解を示されたと思うんですよね。けれども、その暴行・脅迫要件が、私が今申し上げたような明治以来の積み重ねというのがあって、そうすると、同意なんかしていない、認めてなんかいないという現実の被害を切り捨ててしまうというふうに働いているのではないか。であれば、これは刑事訴訟の捜査実務や裁判の立証の問題ではなくて、規範がそういう実務をつくっているということになるのではないか。だから、今度の衆議院の全会一致の三年後の見直しも、この刑法改正案の修正として行われました。
ですから、カウンセリングやワンストップ支援などのこうしたあらゆる性暴力に対する施策を充実させるとともに、刑法の見直しそのものが提起されているということについて参考人の御意見はいかがでしょう。
○参考人(橋爪隆君) 回答申し上げます。
非常に厳しい問題でございますけれども、確かに、あくまでも同意がないことが決定的に重要であるというふうに考えております。
ただ、客観的に証拠関係から同意がなかったことをどう認定するかという問題がございます。そういった意味では、単に内心だけを客観的に認定することが困難である以上、何らかの外部的な行為といったものを要求することには一定の理由があるというふうに考えております。
もっとも、あえて反省を申し上げるならば、やはり暴行、脅迫といった文言を実務家あるいは研究者が過剰に重視しており、それが結果的には性犯罪の限定になってしまったようなところはあるというふうに考えております。
そういった意味から、先ほどから議論がありますように、抵抗できなかったあるいはフリーズといった状態につきましては、それを幅広く暴行、脅迫という観点から認定していく、言わば被害者の方が恐怖心を感じて抵抗できない状態については原則として暴行、脅迫を認定するという観点から、暴行・脅迫要件を緩和、緩和と申しますか、実態に即して柔軟な観点から検討することが重要であるように考えております。
○仁比聡平君 私も、この現行法で言う強姦罪の暴行、脅迫という要件を、その言葉だけを何でこんなに厳格に、厳格といいますか厳しく認定するのか、どうしてそういう解釈が確定してきたのかということについては私たちもしっかり検証する必要があると思うんですよ。つまり、同意がないということのあかしなんだということであれば、別の規定の仕方は当然あるわけで、だからほかの国の刑法が、そういう存在があるわけで、これは三年後に向けての見直しの重要な課題だと思うんですね。
それで、参考人質疑としてはちょっと異例なんですけど、委員長に御提案申し上げたいことがありまして、私、昨日から、多様な性暴力の当事者、被害者、そして支援の皆さんの声を私たちのこの委員会が参考人としてお招きして伺っていくということはとても大事だということを申し上げてきました。
今日、山本参考人がお話の中で、この法務委員会で当事者としての声を私たちが真剣に受け止めること、聞くことそのものの大きな意味も語っていただいておりまして、やはりこの国会が当事者の言葉を聞いて、しっかりと議事録に記して、これを国民に広く理解とそして議論を呼びかけていくと。私たちがその被害をしっかり受け止めて、刑法の見直しも含めた支援の充実に結び付けていくという、そうした委員会の運びを是非みんなでやっていきたいと思うんですが、委員長、いかがでしょう。
○委員長(秋野公造君) 後刻理事会にて協議をいたします。
○仁比聡平君 終わります。
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。今日は本当にありがとうございます。
山本参考人のお話で、法律家は性暴力の専門家ではないんだと感じたときの大きな衝撃という言葉に、私も、強くこの国会の責任ということを感じさせられたんです。
この議場にも法曹資格を持った議員も幾人もいるわけですけれども、私なりの受け止めでいいますと、被害の現実をそのまま受け止めて考えるのではなくて、構成要件や立証の可能性という枠組みが頭の中に先にあって、そこに当てはまるのかどうかというふうに考えてしまう。ですから、目の前に相談やあるいは訴えてきておられる被害者、当事者の皆さんの被害そのものをまず受け止めることができないでいるのではないか。法ということで考えると、明治以来ずっとそうやって法律家が積み重ねてきて、今の実務だとか構成要件の解釈だとか、そういうものをつくっているんじゃないのかという根源的な指摘ではないかと思うんです。
お配りいただいている資料にも、イヤよイヤよは嫌なんですという、何というか、メッセージがありますけど、命懸けで抵抗していなければ同意したことになるのか、そんなことおかしいじゃないかと、認めてなんかいない、同意なんかしていないと。その声を阻んでいるのが暴行・脅迫要件、抗拒不能要件とその法律解釈、例えば判例などにも出てくる、それに、それに基づく警察や検察の実務であり、大方、弁護士もその実務の上でしか活動ができていないんじゃないのかと、そうした提起かなと私は受け止めるんですが、山本参考人、いかがでしょうか。
○参考人(山本潤君) まさしく仁比議員のおっしゃるとおりだというふうに思っています。
法律は、やはり枠組みがありますし、できること、できないことというのはやはりあるかなというふうに思います。
私は看護師なので、医療の現場あるいはケアの視点からいったら、やはりどんな相談も受けて、どのような被害であったとしても、それはその被害を受けた人の傷つきをケアする、その被害を受けた人を中心に考えていくということをします。
法律において非常に重大なことだなというふうに私が感じて、まあ勝手に感じているんですけれども、勝手に感じているのは、やはり先ほど言われたように、要件を絞って、そして排除してしまうということですね。だからこそ、大きな性暴力被害を受けた人たちがいて、そのうちで警察に届けられる人が、四・三から性的事件は一八・五%、そのうちで、更に捜査が始まって検察に送検される人がまた少なくなり、そして、更に起訴される人というのはもっと少なくなっていくわけですよね。
やはり勝てない事例というのははじかれていきますので、被害届も受け取ってもらえない。捜査はしたかもしれないけれども、したかしていないかも分からないけど、もう終わりですというふうに言われてしまう。そういう中で、だから、罪ではないから認められなかったのか、それとも、罪はあるんだけれども捜査能力がないから、できないから、あるいは法律が構成要件と何か違うふうに、裁判ではきっと有罪にすることができないからはじかれたのかということが今は全く分からないという状況が発生しているというふうに思っています。
だからこそ、何が性犯罪なのかという議論を丁寧にしていただければというふうに願っています。
○仁比聡平君 先ほど佐々木議員が確認をされたフリーズとは何かということも、同意とは何かということにも関わる、私はこの刑法の規範の問題だと思うんですよ。
そこで、橋爪参考人にお尋ねしたいんです、厳しい質問だと思うんですけれども。
つまり、先ほどお話にあったように、不同意性交がこの性犯罪の本質だということは、これは大方世界でそうなっている。暴行・脅迫要件、抗拒不能要件はその言わばメルクマール、基準の問題なんだという御理解を示されたと思うんですよね。けれども、その暴行・脅迫要件が、私が今申し上げたような明治以来の積み重ねというのがあって、そうすると、同意なんかしていない、認めてなんかいないという現実の被害を切り捨ててしまうというふうに働いているのではないか。であれば、これは刑事訴訟の捜査実務や裁判の立証の問題ではなくて、規範がそういう実務をつくっているということになるのではないか。だから、今度の衆議院の全会一致の三年後の見直しも、この刑法改正案の修正として行われました。
ですから、カウンセリングやワンストップ支援などのこうしたあらゆる性暴力に対する施策を充実させるとともに、刑法の見直しそのものが提起されているということについて参考人の御意見はいかがでしょう。
○参考人(橋爪隆君) 回答申し上げます。
非常に厳しい問題でございますけれども、確かに、あくまでも同意がないことが決定的に重要であるというふうに考えております。
ただ、客観的に証拠関係から同意がなかったことをどう認定するかという問題がございます。そういった意味では、単に内心だけを客観的に認定することが困難である以上、何らかの外部的な行為といったものを要求することには一定の理由があるというふうに考えております。
もっとも、あえて反省を申し上げるならば、やはり暴行、脅迫といった文言を実務家あるいは研究者が過剰に重視しており、それが結果的には性犯罪の限定になってしまったようなところはあるというふうに考えております。
そういった意味から、先ほどから議論がありますように、抵抗できなかったあるいはフリーズといった状態につきましては、それを幅広く暴行、脅迫という観点から認定していく、言わば被害者の方が恐怖心を感じて抵抗できない状態については原則として暴行、脅迫を認定するという観点から、暴行・脅迫要件を緩和、緩和と申しますか、実態に即して柔軟な観点から検討することが重要であるように考えております。
○仁比聡平君 私も、この現行法で言う強姦罪の暴行、脅迫という要件を、その言葉だけを何でこんなに厳格に、厳格といいますか厳しく認定するのか、どうしてそういう解釈が確定してきたのかということについては私たちもしっかり検証する必要があると思うんですよ。つまり、同意がないということのあかしなんだということであれば、別の規定の仕方は当然あるわけで、だからほかの国の刑法が、そういう存在があるわけで、これは三年後に向けての見直しの重要な課題だと思うんですね。
それで、参考人質疑としてはちょっと異例なんですけど、委員長に御提案申し上げたいことがありまして、私、昨日から、多様な性暴力の当事者、被害者、そして支援の皆さんの声を私たちのこの委員会が参考人としてお招きして伺っていくということはとても大事だということを申し上げてきました。
今日、山本参考人がお話の中で、この法務委員会で当事者としての声を私たちが真剣に受け止めること、聞くことそのものの大きな意味も語っていただいておりまして、やはりこの国会が当事者の言葉を聞いて、しっかりと議事録に記して、これを国民に広く理解とそして議論を呼びかけていくと。私たちがその被害をしっかり受け止めて、刑法の見直しも含めた支援の充実に結び付けていくという、そうした委員会の運びを是非みんなでやっていきたいと思うんですが、委員長、いかがでしょう。
○委員長(秋野公造君) 後刻理事会にて協議をいたします。
○仁比聡平君 終わります。