第169回国会 参議院法務委員会 第14号
2008年6月3日 仁比聡平参議院議員
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
この取調べ全面可視化の民主党案の審議入りを私どもも強く速やかにということを今国会冒頭から、あるいは先国会から求めてきておりまして、その意味でも今日のこの実質審議入りというのは大変歴史的な意義が深いものだというふうに思っております。
これまでの各党の御議論をお伺いをしておりましてもやはりその感を深くしておりまして、だからこそ、私は、この委員会で、学識経験者はもちろんのこと、冤罪事件の元被告人の皆さんも参考人としてお招きするなどして、この国の、私たちの国の刑事司法、中でも取調べを中心とした供述証拠の採取過程がどのような問題を抱えているのかと、このことを徹底して議論を尽くすのがこの参議院法務委員会の大きな国民的な役割なのではないかと思い、求めてまいりましたが、それが残念ながらかなわず、今日、この午前中の審議で採決を行うという方向が理事会で確認をされて、私は同意はしませんでしたが、極めて残念に思っております。


ここまでの議論をお伺いをしましても、様々な論点と、そしてそれぞれについての、私は半ば思い込みではないかという議論も散見されるところでありまして、これをきちんと国民的な議論に堪えるだけの審議を尽くすというのはこの国会の責任なのではないでしょうか。
これまで提案者の中からもこの法案の提出に至る経緯についてお話がございましたけれども、私なりに理解をするなら、従来の密室・人質司法、そしてその中で自白が強要され、それが調書という形で証拠化され、これに基づいて刑事司法が運営をされてきたと、それが数々の重大な人権侵害を生み出してきたということがとりわけ志布志事件、氷見事件によって白日にさらされて、国民的な世論がこの捜査の適正、取調べの適正、可視化を求めているという状況の中での審議でございます。
もう一点は、裁判員制度の実施を前にして、多くの国民の皆さんがこの状況の下で、つまりこのような刑事捜査に関する人権侵害状況が伝えられる中で市民が人を裁くことができるのかと、この強い懸念がこれだけに声が上げられているわけですね。だからこそ、私たちが、立場の違いはあれ、徹底して審議を尽くして国民の皆さんにきちんと御判断のいただける議論にすると。民主党からも自民党からも、今日、国民の常識という言葉が出ましたけれども、どちらが常識にかなうのかというのは、これは国民の皆さんが決めることでございます。それをきちんとはっきりさせるのがこの国会の責任だということを改めて強く申し上げたいと思うんです。
そこで、私は今日、質問としては部分可視化という、特にこの一年の検察庁、警察庁の取組を提案者の皆さんがどのようにお考えかをまず伺いたいと思うんですけれども、通告の順番とは違いますが、まず警察庁にお尋ねしたいんですね。
先ほど来、これまではやってこなかったが、部分的な録画、録音の試行をするというお話がありました。その計画の中身そのものはもう御答弁があっているからいいんですけれども、昨年ちょうどこの時期に、刑事局長とも私議論いたしましたが、警察庁はそのような録画、録音には大きな弊害があると。例えば、今日も出ました真実を語ることがためらわれるとか、あるいは組織犯罪の場合の報復のおそれがあるとか、プライバシー侵害のおそれがあるとか、そういったようなことが言われてきたわけです。
そのようにおっしゃってきた録画、録音の弊害というのは、これから試行しようとするそこの場面においては一体どうなるのかと私は理解がかなわないんですけれども、いかがですか。
○政府参考人(米田壯君) 録音、録画につきましては、今委員も御指摘になりましたように、様々弊害といいますか、そのマイナス点ももちろんあろうかと思います。
そういったことを、昨年秋に法曹三者の協議会に参加して、私どもも録音、録画ということについて議論に参加をいたしました。それから、検察庁が既に録音、録画の試行をしておりまして、その試行の結果、どの程度の言わばマイナスが、どういう対応でやればどの程度のマイナスがあるのかというようなことも慎重に見極めてまいりました。
そういった点を踏まえまして、今回、録音、録画の試行に踏み切るわけでございまして、その取調べ機能をやっぱり損なわないような形で、そして裁判員裁判の中で供述の任意性を効果的、効率的に立証していく方策を探るために今回試行に踏み切ったと、こういうものでございます。
○仁比聡平君 そうしますと、これから試行されるというその取調べの場面も、これは当然、何というんですかね、リハーサルではなくて現実の事件の中で試行されるわけですから、当然、その事件の供述証拠の採取過程にかかわるお話なわけですけれども、そこについて取調べの機能は損なわれないと、録画、録音をしても損なわれないというふうに判断をされたんですか。
○政府参考人(米田壯君) これは、確かに御指摘のとおり、模擬裁判とか模擬捜査ではなくて現実の生の事件の中でやっていかなければいけませんので、当然試行でありまして、何らかの踏み出しはしなきゃいけませんが、余り大胆なことをやってしまって、もしその事件の真相解明に大きな影響を与えるということであってはならないと考えております。
したがいまして、試行の進め方については一歩一歩着実に、慎重にそういった取調べの真相解明機能を見極めながら進めてまいりたいというように考えております。
○仁比聡平君 ちょっと端的に聞きますけれども、試行の中ではどこの場面をどういった判断によって録画、録音をするというふうに決するわけですか。
○政府参考人(米田壯君) 捜査が一定程度進展をいたした段階で、犯人が一応心から自白をしているというような場面がありますれば、それを、供述調書の録取内容を被疑者に読み聞かせ、そして署名押印を求め、そしてその後、自己が供述した内容に間違いがないこと、任意にした供述であること等を語っているような状況、これを録音、録画することにいたしたいというように考えております。
○仁比聡平君 先ほど民主党の先生の質問の中でも出ましたけれども、今の局長の答弁は、心から自白をしているという場面以降の読み聞かせや捺印、そういったところを録画するんだと、そこに限るんだという理解でいいですね。
○政府参考人(米田壯君) 先ほども申しましたように、これ試行でございますので、ある程度いろんなことは試さなければならないとは思っております。しかしながら、一方で生の事件を扱っておりますんで、その事件の立件そのものが危うくなるということはあってはならない。そういったことで、今申しましたような方法で取りあえず試行をするということでございますが、試行の結果につきましてはまた検証いたしまして、その後更により良い方法を探ってまいりたいと、このように考えております。
○仁比聡平君 今の自白をしたというところからしか録画はしないとおっしゃっている点について、提案者のどなたかにお尋ねをしたいんですけれども、調査室の資料の中に、三月の自民党さんのこの問題についての中間提言ですか、というのの資料がございまして、その中に、裁判員制度の下で自白の任意性について裁判員にも分かりやすい立証を行うということが一つの目的として書かれているわけです。
今ほどの警察庁の御答弁からすると、心から自白をしておりますという被疑者の供述映像だけが録音、録画をされて、裁判員の前に出てくるのは、あるいは裁判官ももちろんですけれどもね、キャリア裁判官も含めて裁判所の前に出てくるのは、映像といえばそういう映像と。これが本当に裁判員制度の下での自白の任意性についての立証に資するのかと。私は逆に、裁判員を誤らせる、裁判所を誤らせるということになりはしないのかという強い懸念を持っております。
例えば、裁判所が去年の秋ですかね、十月、東京地裁でこれは検察取調べのこれ試行の中でのDVDだと思いますけれども、これを証拠採用はして法廷で上映はしたけれども、裁判所は証拠価値を過大に見ることはできないという判決をした例がございます、御存じかと思いますけれども。この中で判決は、自白から一か月後に十分余の間、自白した理由、心境を簡潔に述べたものを撮影したにすぎず、自白に転じるまでの経緯を撮影したものではないと、調書の任意性についての有用な証拠として過大視することはできないというふうに判決をしたわけですね。
職業裁判官で刑事裁判の実情をよく心得ておられる裁判所にとってみれば、今検察庁やあるいはこれから警察庁が試行しようとしているそういう録画、録音というのは、そういう性格のものに私はなると思います。けれども、こういった媒体がどんどんたくさん裁判所に出てくるという状況になったときに、裁判員がどんな心証を持つのか、あるいはそのような一部録画、録音を裁判員にも分かりやすい立証を行うものだというふうにとらえる立場というのは、一体その刑事裁判における事実認定や心証形成というのをどんなふうにお考えなんだろうかと改めて強く疑問に思うんですが、提案者、どなたかいかがでしょう。
○前川清成君 先ほど今野委員の質問に対して裁判員の皆さん方の負担という点でお答えをいたしましたけれども、裁判員の分かりやすさという点でもまさに同様ではないかと思っています。
すなわち、一部の可視化であれば、被告人が法廷で訴えている、脅迫されたとか、その違法、不当な取調べ状況というのは録音、録画されておりません。したがって、法廷で再現することができません。その結果、またやっぱり法廷で被告人質問と捜査官の証人調べという水掛け論を繰り返すことになって、結局、先ほど職業裁判官でさえその任意性の判断がなかなか難しいんだというお話を申し上げましたけれども、結局、裁判員の皆さん方にとっては、法廷で述べている被告人を信じていいのか、捜査官を信じていいのか、全くつかみどころがない状況になってしまって、一部可視化というのは大変大きな問題があるのではないかと私たちは考えています。
○仁比聡平君 法務省刑事局長に同じ点を尋ねておきますけれども、今、これまで試行してこられた部分的な録画、録音なんですが、これをどの場面を撮影するということにするのかというこの基準やその決し方、これについては、最高検の試行の検証についてという、そのものを見ますと、おおむね二つの類型が録音、録画の対象とされているというような分析もあるようですけれども、これ今どんなふうにしているのかという点、どうですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) 今委員が指摘されましたように、最高検の検証報告書には二つの類型が記載されておりますけれども、これはまだ試行の段階でありますので、そこに限定するということではありません。要は、裁判員裁判の下で自白の任意性を効果的、効率的に立証するという観点から、最も適切と考えられる場面について録音、録画を試行していくということでございます。
同じ検証の報告書の中に、実際にどういう場面について録音、録画を行ってきたかというところもございまして、一番多いのがやはりその事件で争点となりそうな事実関係についての取調べ、これが一番多かったわけであります。それから、自白した理由について調べるということもございましたし、また自白するまでの取調べの経過がどういうものだったのかという点について取調べを行うというようなことも挙げられているところでございます。
この辺り、先ほど申し上げたような目的に照らして、何が最も適切かという点で検察官が判断して試行しているという状況でございます。
○仁比聡平君 大野局長も、これまでのままでいいとは思っていらっしゃらないのかなというニュアンスを今の御答弁の中でも感じるんですけど、もうちょっと拡大していかなきゃいけないんじゃないのかという方向をお持ちなんでしょうかね。どうなのかな。いや、いや、もう答弁求めません、あえて。
検証の中で類型として二つ出ているのは、その一は、既に作成し証拠調べ請求を予定している自白調書、これを被疑者に示すなどして自白の中身について聴くという場合。二つ目は、被疑者の供述を録取した検察官調書について、被疑者が読み聞かせを受け閲読する場面、それを確認して署名する場面を録画、録音するというものという、この二つと言っているんですよ。
だから、警察庁がこれからやろうとしておられると御説明になっているのと大して変わらないですよね、と私は思うんですよ。それを裁判員を始めとした裁判所に、裁判員対象事件じゃなくてもですけれども、争われたときに出して、だからといって、これまでの任意性をめぐる問題や供述の信用性をめぐる問題が解決されるとは私には到底思えないわけでございます。いずれにしても、その録音、録画を部分可視化という場合は、どこをやるのかというのはこれは捜査機関の側が決することになりますですね。
その警察やあるいは検察官が一体どのような立場でこれまで捜査をしてきたのかということが随分問題とされてきたわけですが、志布志事件について一つだけちょっと紹介をいたしますと、提案者の松野先生もこれからも恐らく随分取り組んでいかれると思うんですが、取調べ小票それから内部記録の問題がございます。例えば、ある取調べ小票によりますと、ある被疑者はその志布志事件において、十三回の会合に出席して総額百七十八万円のお金をそれぞれ受け取ったんだというようなことを取調べ室で供述させられているわけです。これはあり得ないことなんですね。
私もこの委員会で四回の買収会合、その特定がどうしてなされたのかという議論をしてきましたけれども、実は、初めから四回というふうに鹿児島県警は特定をしていたわけではなくて、ですから、たたき割りが続けられていた時期の元被疑者の供述の中には、四回だとか七回だとか、十回だとか十回以上だとか、十三回ありましただとか、様々な供述が行われているわけです。こういったありもしない事実がさもあったかのように供述がなされて、それがあり得ない形で一つに収れんしていくというプロセスが冤罪を生み出した、権力犯罪だと指摘をされているわけですよ。この過程を検証可能にすることなしに、一体どうやって再発を防止するのでしょうか。
もう一つ、内部記録にかかわって、検察が県警と訴訟方針の打合せをしているわけですけれども、その中で川畑元被疑者の踏み字の問題についてこう言っているくだりがあります。これは松野先生、取り上げられたことがあったと思いますが、磯辺警部が、結論は、すべては自白を得るための手段といえばそれまでであるが、それで自白が取れるのかという疑問も感じる、結果的に有形力の行使と言われても仕方がないというふうにその会議で語ったときに、地検の検事は、今の警部の考えは絶対言わない方がいい、言えば追及される、尋問されたらとぼけて、意見を聞かれたら門前払いにするか、先ほどの警部の考えを証言したら結果的に自白を取るためと結論付けられ、国賠に対しても物すごい影響を与えかねないというふうに、法廷でどう臨むべきかのアドバイスをしているわけですよ。
こういう警察官やあるいは検察官が、一〇〇%みんながみんなそうだとは言いませんよ、だけれども、そういう取調べ官が自ら、ここの場面は録画する、こいつは今正直に語っているからこの映像を撮っていればこれは裁判員にいい説得材料になるだろうと、こんなやり方やったら無法を覆い隠すということになるじゃないですか。そして、実際そういうことが起こるんじゃないかという懸念が刑事司法への国民の信頼をどんどん深く傷つけていくし、そういった事態が取調べ室の中では行われているんじゃないかという思いを抱いたままの市民の裁判員が、どうやって出てくる証拠を信頼すればいいんですか。
私は、こういう部分可視化というのは本当に極めて問題だと思いますが、こういった志布志事件の取調べ状況、その教訓から考えても、私は今こそ全面可視化こそが求められていると思います。提案者、いかがでしょう。
○松野信夫君 もう私の方からさして答弁する必要がないほど仁比委員の方が質問の中でお触れいただきましたので、私も仁比委員の今のお話、全く大賛成でございます。
先ほどから申し上げているように、一部の可視化をするというと、どうしても取調べ側にとって都合のいいところだけ録画、録音してそれを裁判員に見せる、これは結果的に非常に誤った、ミスリーディングなやり方になりかねないわけであります。それを、仁比さんも言われるこの志布志事件というのは、我々にある意味では悪い教訓として与えているのではないか。ですから、その点を十分に私どもも検討させていただいて、やっぱりこういう権力的な犯罪、これをやっぱり防止する観点からも、全面的な可視化をしないとかえって弊害が発生する、こういうふうに考えているところです。
○仁比聡平君 時間がもう少しになってきまして、最後のテーマになるかもしれないんですけれども、民主党の皆さんの御提案になるこの全面可視化ですね、これがかなったときに、その記録媒体をどのように使っていくのかという、この問題がございます。
私は、取調べの対象となる被疑者のプライバシーの問題だとか、あるいは組織犯罪に関与する人物の背景、あるいは背景の陰の黒幕というような、こういう背景を取調べの過程で捜査機関が聴くということはあり得るし、それをしゃべるということはあり得ると思うんです。これが、カメラが入ることによってその話そのものが全くできなくなるという状況になるのかと。これはそうなってしまうから取調べのすべてが台なしになってしまう、根底から覆されてしまうというような趣旨の御発言も今日もありましたけれども、これがそうなるという、何というんですか、科学的なといいますか、そういう供述心理といいますか、そういうようなものというのは、私はこの国会の場では議論をされてないと思うんですね。
一年前から、警察の取調べ官はそう思われるかもしれないけれども、だけれども、そのことというのは何に基づいてそうおっしゃっているんですかといいますと、今も御発言がありましたけれども、経験に基づくものですというお話があるんですよ。そうなると、刑事司法は一切触っていけないということになるでしょう。なるでしょう。だから、そのことをきちんと議論をしていかなければならないんですよ、徹底して。
私は、実際にカメラが入っても、それは最初戸惑いはあるかもしれません。今試行の中で、いや、カメラ遠慮してくださいとおっしゃる被疑者がいるのかもしれませんけれども、それはそれが当たり前になればさしての問題は起こらないのではないかと私は思っているんですが、それが正しいかどうかも皆さんとよく議論をしなきゃいけないと思っています。
ただ、録画、記録媒体をどう使うのかという問題。刑事裁判は公開の法廷ですから、ここの場ですべてが上映されるということになれば、うちの親分は実はこういうふうに指示をしましてというような話をしゃべりにくいという人が出てくるというお話もあるのかもしれないんですが、この辺りを、つまり刑事訴訟法上の媒体の利用の仕方というのをどういうふうに考えるかと。これまでは検察の側が有罪立証をするというそのために必要な証拠請求をされて、それを裁判所が採用するかどうかという場面で議論されていたと思うんですが、これからはどうするというお考えでしょう、提案者。
○松野信夫君 また大変いい御質問をいただきました。
最初の前半部分について、私の経験からしても、案外、例えば暴力団員が親分のことあるいは組織のことというのはこれはしゃべっているんです。しゃべらない人はしゃべらない。これは、テレビが入ろうと入るまいと、しゃべる人はしゃべるし、しゃべらない人はしゃべらないんです。
私自身の経験から言うと、日弁連の民事介入暴力対策委員会というものがありまして、これは暴力団対策をやっていたんです。私もそのメンバーになっておりまして、当時、日弁連は法務省、警察の方の御協力をいただいて膨大な暴力団員がかかわった供述調書を見せていただく、それを分析して、暴力団員というものが親分のこと、組織のことをどういうふうにしゃべっているのか、これを徹底して調べたことがありました。私もかなりチェックしましたけれども、供述調書の中でかなりしゃべっています。うちの組は組長がだれ、若頭がだれ、こういう指示系統になっています、これちゃんとしゃべっている。だから、しゃべる人はしゃべる。ですから、こんなのは供述調書として僕らも見れるわけですから、ですから、テレビカメラが入ったから一切それはしゃべらなくなるというようなことには私はならないだろうというふうに思っております。
ですから、そういうふうにして撮られたビデオというものは、あくまで供述調書の任意性があるのかどうかというために実際の法廷で取調べがなされるわけですから、我々は全面的な可視化、全面的に録画、録音というふうにこの法案ではうたっておりますが、現実に法廷で取り調べられるというのは、何もそれを全部再生するというわけでなくて、やっぱり任意性の点を判断するに必要な限度、あくまで弁護人から見てその防御に必要な部分に限って法廷で再生される、こういうふうに考えています。
○仁比聡平君 時間が残念ながらなくなりましたけれども、論点をきちんと整理して、現場の実態を、何というんですか、やじの、怒号の飛ばし合いではなくて、きちんと事実としてこの委員会の場にテーブルにのせて、各党いろんな懸念もあるいは国民的な期待もある中ですから、この議論を徹底して尽くすということがやっぱり求められているということを改めて強く申し上げまして、私の質問を終わります。

【賛成討論】
○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、刑事訴訟法の一部改正案に対して賛成の討論を行います。
我が国の被疑者取調べについては、代用監獄に最大二十三日間の留置、勾留、早朝から深夜まで一日十時間を超えて行われることが多いと指摘をされ、しかも細切れ逮捕、勾留により二十三日間を大きく超える留置、勾留が行われること、そして、任意の取調べまでもが自白強要の場とされてまいりました。
志布志事件においては、被疑者を大声でどなりつけ、机をたたき、いすをけり、うそをつくな、死刑にしてやるなどと脅し、踏み字を強要し、認めれば家に帰してやるなどと利益誘導を図り、恐怖にさらされた多くの被疑者らはノイローゼ、うつ病、自殺未遂などに追い込まれました。鹿児島地裁判決は、選挙違反事件の核心を成すところの四回開かれたとする買収会合事件そのものがあったとは言えないと認定し、起訴事実を排斥いたしました。この事件は、代用監獄における違法捜査と人権じゅうりん、弁護権の侵害、そして検察に追従した裁判所による身柄拘束など、我が国刑事司法が抱える構造的なあらゆる問題を提起していると言わなければなりません。
本法案に賛成する第一は、被疑者の供述及び取調べの状況の全過程が録音、録画により記録されることから、取調べの透明性が確保され、違法、不当な取調べや虚偽自白の強要から被疑者の防御権や黙秘権などを保障することができること、また自白の任意性、信用性の判断における客観的な証拠として冤罪を防止する大きな力になることです。
第二に、新たに始まる裁判員制度を前に、だれにも理解される、分かりやすい、信頼に足る記録が必要だからです。
相次ぐ冤罪により、今、司法への国民的な不信感はかつてなく高まっています。国連人権委員会や国連拷問禁止委員会の厳しい指摘を謙虚に受け止め、真に人権のとりでとして司法の民主化を大きく前進させるためにも、今こそ捜査の全過程の可視化が必要不可欠であることを強調し、賛成討論を終わります。