○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
〔委員長退席、理事松山政司君着席〕
まず、この法案における括弧付救済の対象となる者の範囲についてお尋ねをしたいと思うんですけれども、園田議員、七月二日に与党と民主党の間でこの法案の中身についての合意がなされた後の記者会見におきまして、これ報道によりますと、九五年の二倍以上になるのではないかと救済規模について語っておられるわけです。九五年の政治解決は、約一万人が一時金の支給対象となっておりまして、ならば二万人ということなのかと。関西訴訟の最高裁判決の後、差別や偏見を超えて既に手を挙げておられる被害者だけで約三万人に上ります。この既に手を挙げておられる約三万人の方々の中にも対象とならない方が多数に上ると、そういうお考えなんでしょうか。
○衆議院議員(園田博之君) 私は正確に覚えておりませんが、そのときに答えた趣旨は、九五年の倍になるだろうというつもりで言ったつもりはございません。
今回、事前に実は環境省に、二年前ですね、今のそういうことを訴えておられる方々の症状をアンケートを取ったことがあるんです。そのときに想定される方よりは倍以上になるであろうと、今度、救済対象範囲を症状として明記したことによって倍以上になるだろうということを申し上げたわけで、三万人のうちの二万人は対象になるが一万人は駄目だろうと、そういう計算は全くしたことはございません。
○仁比聡平君 今、園田議員が答弁で触れられました、これ与党プロジェクトチームが、水俣病に係る新たな救済策についての中間取りまとめというのを出されるに際してサンプル調査を行われたわけですね。この結果、四肢末梢優位の感覚障害と判定された方は、認定申請者のうち、当時の、約四七%、保健手帳所持者のうち約四〇%とあったわけです。
今回の法案五条では、四肢末梢優位の感覚障害を有する者に準ずる者というふうにしておられるわけですが、今ほど、この与党プロジェクトチームで検討したものの倍ぐらいになるのではないかという御発言の趣旨だったというお話なんですが、この今回の法案によってどれほどの救済が図られるのかという想定あるいは調査、こうしたものはあるんでしょうか。
○衆議院議員(園田博之君) これは、結論を申し上げると、ございません。これは、今調べて何か参考になるのかと言われるとそれほど重要じゃないと思っておりますし、基本的にはさっきから申し上げているとおり、救済範囲を広げた中で、しかもその判断をするところを公的診断必ずしも一本やりじゃなくて、そういう判断を受けて結果的にどのくらいの人になるであろうかということは、今データで取っても大して意味があることじゃない。なるべく多く救済するということが大事であるというふうに考えています。
○仁比聡平君 今の御答弁でもうかがわれるんですけれども、法案の三条で、救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済されるということを救済及び解決の原則として掲げられているわけですが、この受けるべき人あるいはあたう限りというのは、これ一人残らず全員を救済するということにはならないわけですか。
○衆議院議員(園田博之君) 救済を受けるべき人と、こう書いてありますので、救済を受けるべき人といっても、今おっしゃっているのは、一時金をチッソが支払わなければならない人のことを言っているのか、あるいは今度の法律で、今までの質疑にありませんでしたけれども、医療費を、自己負担分を負担していくというのを実は数年前から新保健手帳と称して申請に基づいて給付をしているわけですけれども、この方々が相当数今おられ、もう二万人を超しておられるんですね。こういう方々は、じゃ、救済対象者じゃないのかという協議の中で御意見がございまして、これを、法律を新たに改めて、こういう方々も救済対象者であるということにいたしましたから、そういった意味で救済対象者がどのぐらいいるのか、あるいは、あたう限りというのがそこの過程で実証されていないのかということになると、私は実証されているんではなかろうかと思っています。
○仁比聡平君 私、水俣病の歴史の中で、公健法の認定を受ける水俣病だとか、あるいは最高裁判決による水俣病だとか、あるいは新保健手帳を交付を受けている水俣病被害者だとか、そうした形で様々な類型を置いてきた、持ち込んできたということが水俣病の根本的な救済を困難にしてきたという面あると思うんですね。根本には、未曾有の人類に他の経験のない公害被害なわけです。この水俣病という、メチル水銀が人体に及ぼしている甚大な被害を直視しなければ、その被害の全容をつかまなければ、私は解決ということはあり得ないと思うんですね。
今回の法案の前文について少し認識を伺いたいんですけれども、この中には、公健法の判断条件を満たさないものの救済を必要とする方々というふうに今回の括弧付救済措置の対象者の基本的な理念を示しているわけですけれども、考え方を示しているわけですが、この公健法に基づく判断条件、つまり昭和五十二年判断条件、この誤りに半世紀を経てなお救済を困難にしている根本の問題があると私は思います。最高裁判決の趣旨に照らすなら、この判決を重く受け止めると政府も与党もおっしゃるなら、この公健法の判断条件、認定基準を改めるのが当然だと思いますけれども、なぜ改めないのかと。今回は改めないわけですね。なぜ改めないのかというその理由をお尋ねしたい。
○衆議院議員(園田博之君) 今回、この法案を作って解決を図ろうとした理由の最大の理由は、最高裁判決があったからなんです。それ以前に、九五年に政治解決をしたときには、私もかかわり合いを持っておりましたが、これで基本的に水俣病は終わったと、こう思っておりましたら、その後、大阪高裁、それから最高裁と判決が出て、水俣病は終わっていないと。
ただ、この最高裁判決も大阪高裁でも、五十二年基準を改めよとは言っていないんですね。この基準だけで水俣病を終わらせようとするのは誤りであると。その間、国も県も行政的な措置というのが必ずしも正しくなかった、誤りだったと。したがって、国も県もある程度の責任を持ちなさいと、こういう判決があったから今度の法案を提出したわけでありまして、今度の法案の趣旨は、五十二年の認定基準を改めるんじゃなくて、五十二年の認定基準以外にも被害者、患者さんが数多くいる、その方々を改めてお救いをするという趣旨で作ったものであります。
○仁比聡平君 今の園田議員の御答弁は、これまで最高裁判決以降、政府、環境省が答弁をしてきた中身と基本的に全く同じだと思います。
この特措法については、衆議院で野党である民主党の皆さんも賛成をして通ってきているわけですけれども、そうした考えでいいのかということを私は率直に申し上げたいと思うんですね。
ここの点についてもう少し伺いますと、この四肢末梢優位の感覚障害に準ずるかどうかという点について、法案の第五条二項の二号におきまして、四肢末梢優位の感覚障害を有する者に準ずる者かどうかについて、口の周囲の触覚若しくは痛覚の感覚障害、舌の二点識別覚の障害又は求心性視野狭窄の所見を考慮するための取扱いに関する事項というものを、これ政府、つまり環境省が方針を定めると、そうした仕組みになっているんだと思います。これは、これまでこうした症状を兆候として水俣病被害者であると訴える被害者の訴えを裁判においても争い続けてきた環境省に、こうした基本的な今後のこの法案に基づく救済策の基本方針もゆだねてしまうということなんでしょうか。
これは環境大臣にお尋ねしたいと思うんですが、七月三日だと思いますけれども、記者会見で、私もテレビを拝見したんですが、救済されるべき対象を判断する具体的基準作りを急ぐという趣旨の発言をされたと思います。先ほど、他の委員の質問に対する御答弁もそういう趣旨だと思うんですよね。これ、つまり、法案がこの参議院のこうした審議の段階に入っている時期なんですが、今現在もなお具体的な基準は定まっていないということですね。
○国務大臣(斉藤鉄夫君) その時点ではまだ法案は成立しておりませんので、もし法案が成立すれば、この法案の立法の趣旨をよく踏まえて、議員の方々とそしてまた被害者団体とよく協議をしながら、この一つ一つの基準を定めていくという趣旨で申し上げたところでございます。
○仁比聡平君 いや、法案が成立してから協議をして、その基準を定めると。一体どういうことなんですか、それが法律ですか、それが救済の範囲を拡大するということになりますかということを私は尋ねているわけです。
〔理事松山政司君退席、委員長着席〕
園田議員でも他の発議者の方でもいいんですが、この条文に言います二点識別覚の障害などの所見を考慮するための取扱いというのはどういう意味なんでしょうか。この所見は、例えば主治医の診断書などで判明しますね、これをそのまま救済対象者の認定をすぐにやるというのであれば考慮するというような言葉にはならないのであろうと思うんですけれども、こうした症状のあるいは感覚障害のあるやなしや、そしてあった場合に救済の対象になるかどうか、ここも環境省にゆだねられるということなんですか。
○衆議院議員(園田博之君) これはさっきからの御質問で考え方を述べているとおりでございまして、法案の中にこういう症状の中を書き込んだというのは明らかに救済対象範囲を広げたんです。ただし、こういう症状があった場合でも、理屈上ですよ、メチル水銀以外のことが原因でなる場合もあるので、そこにはやっぱり診断書というものが必要であろうと。診断書がお持ちであれば、それを重要な参考資料として、どこかの判定委員会か何かをつくって、そこで定めていくということを申し上げているわけであります。
○仁比聡平君 私は全くはっきりしないと思いますし、法律として欠陥があるんじゃないかという思いまでいたします。
政府は、国は、最高裁判決でも法的責任を断罪されている言わば加害者なんですね。その加害者がまた基準を作って、手を挙げている被害者すら大量に切り捨てられるのではないか。今現在既に手を挙げている被害者が全員救済されるという保証はどこにもない、その保証すらない。それを早期救済だとか、まして最終解決だとか、こうした言葉で呼ぶことは私は断じて許せないと思います。
この被害者の大量切捨て、加害企業の免罪、そうした中で幕引きを図ることは許されないと、その声を上げて、とりわけ与党と民主党が今国会で成立を合意したと伝えられた日から約十日、今日も傍聴席においでですけれども、不知火海沿岸からも阿賀野川流域からも病の体を押して、協議に臨む皆さんに、自民、民主の協議の担当者の方々に面会も求め、こうしたやり方はやるべきでないと厳しい声を被害者の方々が上げてこられました。その声を聞こうともしない、参考人質疑も行わない、そうした中で今日に至っているわけですね。専門家の方々の厳しい批判も相次いでいます。
園田議員はこうした声をどう考えておられるんですか。
○衆議院議員(園田博之君) その委員会の持ち方について私がどうこう申し上げる立場にはないんですが、今おっしゃるように、そういう方々と会おうともしないとか、そういう声を聞こうともしないとか、そういうことは一切ありません。私は、この間、数年間この問題に取り組んでまいりましたから、会うのを拒否したことなんか一度もございませんし、なるべく御意見は聞いているつもりであります。
それから、もう一つ大事なことは、幕引きをしようとしていると。これは確かに、もう発生以来五十数年たって解決できてないというのは、その間、行政も政治も、この問題を時間がたてばたつほど解決を困難にするというのはお分かりのとおりでございまして、その責任はやっぱり大いにあると思うんですね。ありますが、私はやっぱり、なるべく早くそういった意味でも広く救済をすることによってこの問題が解決の方向に向かわないのかと考えるのは当然のことでございまして、これから逃げるためにこの法案を出して回避をするという御批判は全く当たらないと思いますね。
○仁比聡平君 私がもう今ここで申し上げる必要もなく、傍聴席にいらっしゃる皆さんも、それからメディアの皆さんも、この特措法提出に至る担当者が最終盤、会わずにこうした協議を進めていったということはもうよく分かっていることでございます。
日本共産党は、一貫して沿岸そして阿賀野川流域の悉皆調査を強く求め続けてきたわけですが、これまで政府は応じてこられませんでした。被害の全容も明らかでないまま解決なるものを図ろうとするというその姿勢に、私は公害救済の出発点、原点、そこを踏み外している、その大問題があると思うんですね。未曾有の被害なんだからその全容をつかまなければならないわけです。
これ前文におきまして、阿賀野川について、阿賀野川の下流地域においてというふうに水俣病被害の表現をしておられるんですが、私は中流域でも川魚を多食されて被害を訴える患者さんとお会いしてきました。これ阿賀野川下流域だけに水俣病だっていう何か調査、根拠があるんですか。
○政府参考人(原徳壽君) 今回の法案の中で前文の中に書かれておりますのは、水俣湾及び水俣川並びに阿賀野川に排出されたメチル水銀により発生した水俣病はという形に書いてございます。また、それから、阿賀野川の下流地域において、甚大な健康被害と環境汚染をもたらすとともにというのは、前文で書いてございますけれども、この下流地域についての限定的な地域を厳密にここで述べているとは考えておりませんけれども。
○仁比聡平君 今の前文でしょう。その答弁を何で環境省がやるの。まさに官僚主導で作ったんじゃないんですか、この法案。
先ほど、園田議員、物理的に困難だと、救済を名のり出ることができるはずだと、だから悉皆調査の必要はないと考えるというふうな趣旨でおっしゃったと思います。けれども、今なお偏見、差別の中で手を挙げられない方々がいるんだということは、新たに健康の診断を受けて裁判を提訴する、そういう方々が現に相次いでいるということからもはっきりしているんじゃないですか。
法案の三十七条が調査研究だというのであれば、これ悉皆調査でなければならないんじゃないんですか。いかがです。
○衆議院議員(園田博之君) 阿賀野川の表現について環境省に意見を私が求めたことは事実でありますから、全部私が作ったとは申し上げませんが、基本的に、こういう法律を作って行政の方の責任も問うて、法律を作ったのは私ども政治家でございまして、こんな発想は環境省から生まれるはずがありませんので、官僚任せなどという、どこかを取り上げて基本的に御批判なさるのは正しくないというふうに思います。
この調査の件につきましては、私はどういう方法で調査するかというところは更に環境省とも意見交換してやっぱり決めなきゃいかぬと思っておりますが、でき得る限り、さっきも申し上げたとおり、不知火海も併せてどのような調査がこれからの救済をしていくのに役立つのかということも含めて考えてみたいというふうに思っています。
○仁比聡平君 悉皆調査すらせずに幕引きをするということは許されないと、私はあえてもう一度申し上げておきます。
時間がなくなってきましたから、幾つか法案についてもう少しただしたいことがありましたが、最後に分社化の問題についてお尋ねをいたします。
この間、上京された胎児性の被害者の方々が、健康な体で生まれたかった、私たちが生きているのにチッソがなくなるなんて許せないと、そうした訴えをなされました。私はここに真実があると思うんですね。分社化後の事業会社、これは被害補償あるいは損害賠償債務、そして公的支援の負債、ここから新事業会社というのは切り離される、解放されるわけでしょう。いかがですか。
○衆議院議員(園田博之君) したがって、分社化してもチッソが、親会社も子会社も含めて、形式上は確かに事業は事業をする会社、負債は親会社が全部背負うことになります。しかし、株式を譲渡しない限りは、形式はそうであってもそれから免れることはできないことは明白でありますから、したがって、株式譲渡については全面的な解決が見込みの付くまでは認めることはあり得ないということを法案に書いておるわけでありまして、おっしゃるような御指摘は私は当たらないと思います。
○仁比聡平君 いや、水俣病が未曾有の被害であり、将来どのような形でこの被害が広がるのかどうなのかということについて全容が明らかでない限り、そうした今おっしゃるような仕組みというのは歯止めにはならないと私は思います。
元々このチッソの分社化というのは、チッソの新中長期経営計画を始めとして、チッソの経営戦略として出てきたものですよね。熊本日日新聞が二〇〇四年の十一月十四日にこんな記事を書いています。チッソにとっては、企業活動の足かせになる債務の分離は長年の悲願。特に二〇〇〇年以降、一定の利益を留保できるようになった同社の信用力は急速に回復、他社との業務提携なども進み、業績は上り調子だと。こうした中で経営計画に盛り込まれ、与党に恐らくお話があったんでしょう。そうした中で出てきた話なんですよ。
私は、チッソが利益を上げてならないなんて言っているんじゃないんですよ。利益を上げたそのもうけというのを被害救済から切り離すというそういう仕組みは、汚染者負担の原則に反するんじゃないんですか。加害企業の免罪じゃないんですか。いかがです。
○衆議院議員(園田博之君) 通常の事業の利益をもって補償に充てる、さらには、その事業会社の将来性の評価を株式市場で得ることによって補償に充てる、いずれも認められると思いますね。
○仁比聡平君 私は、今日の審議をやってみても、こうした中でこの法案を進めていくと、ましてや採択をするということにはならないと思うんですよね。今日傍聴席にもたくさんいらっしゃっている被害者の方々や専門家の方々に参考人としてこの委員会できちんと御意見を伺う、それが参議院の私たちの委員会の本来の姿であるということを強く申し上げて、時間が参りましたから、質問を終わります。