○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
   〔委員長退席、理事松村龍二君着席〕
 足利事件について質問するに当たりまして、真犯人に命を奪われた幼女と御遺族に心から哀悼の思いを申し上げます。
 再審請求事件の東京高裁で、弁護側、検察側、いずれの鑑定人によっても、被害者の半そで下着の体液痕に由来するDNA型と請求人菅家利和さんのDNA型は一致しないとする再鑑定がなされたことにより、菅家さんの冤罪は明白となりました。検察は無期懲役刑の執行を停止して釈放しましたが、九一年十二月の任意同行以来十八年間、無実の人の人生を奪った、もはや取り返しの付かない事態であります。
 まず、最高裁にこの事態をどのように受け止めておられるか、伺いたいと思います。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君) お答え申し上げます。
 現在、東京高等裁判所に再審請求事件が係属中でございまして、その審理の結果を待たなければなりませんけれども、新しい科学的証拠により有罪の確定判決に疑問が呈されているということについては重大に受け止めております。

○仁比聡平君 裁判の独立がありますから、個別事件の検証は慎重に検討しなければならないと思いますけれども、この科学的証拠、中でもDNA鑑定、この問題については今後何らかの取組を考えておられるのですか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君) 先ほども申し上げましたですけど、今、現に再審請求係属中でございますので、その結果を待った上でということでございます。

○仁比聡平君 そのときにまた伺いたいと思いますけれども、本件では弁護側が強く求めてきたにもかかわらず、再審請求の高裁に至るまで再鑑定がなされなかった。このことは、請求人はもちろん、国民の刑事裁判への信頼を失墜させているわけですね。必要な再鑑定が行われなかった場合、これはどのように本来ただされるべきなんですか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君) これ、個別事件のことでございますので、必要とか必要でないとか、これは個別の事案に応じて判断されるところでございますので、今私の方で何かお答えをするというのはちょっと控えたいと思いますけれども。

○仁比聡平君 そうであればこの点はこれ以上は申し上げませんけれども、控訴審であれば、例えば訴訟手続の法令違反や、あるいは上告審でも重大な憲法違反にかかわるような問題としてただされ得ることであるはずだし、今手続が行われている再審、この中でも、刑事裁判手続の中で自らこの再鑑定の問題もしっかりと議論がなされなければならないのではないかと私は思います。
 DNA鑑定の証拠としての特性をまず確認をしたいと思うんですね。
 先ほど大野刑事局長は、信頼性一般が否定されたとは考えていないという旨の答弁をなされましたけれども、そこでおっしゃる信頼性というのは一体何なんですか。そもそも、DNA鑑定は型の判定です。同じパターンを示す人間の出現頻度、割合、これを示すのみであって、たとえその出現頻度の精度が向上をしたとしても、犯人を特定するということはこれは不可能ですね。どうですか。

○政府参考人(大野恒太郎君) ただいま委員が言われたとおり、DNA型鑑定はあくまでも型の鑑定でありまして、型が一致したということはその言わば枠に入っているということであって、それ以上に、犯人がそれによって直ちに特定されるというものではないということはおっしゃるとおりでございます。

○仁比聡平君 逆に、鑑定の結果、型が一致しないという結論が出たときは、アリバイの成立と同じで、ほかにどんな情況証拠があろうと、自白があろうと、被告人が犯人ではない、あり得ないということは明白になりますね。いかがですか。

○政府参考人(大野恒太郎君) もちろん、その対照された試料が犯人のものであるという前提で鑑定され、それが異なるということになれば、今おっしゃられたとおりでございます。

○仁比聡平君 ならば、DNA鑑定を刑事裁判上、犯罪捜査上、証拠として用いるとするなら、それは犯人でないことの証明、その場合に限るべきではないのかと私は思います。
 これまでのあれこれの判決文を拝見をしても、論理的には情況証拠の一つであるというふうにいいながら、有罪証拠として使われたときには、捜査においても、起訴、不起訴の判断においても、公判維持や判決の心証形成においても、そして刑の執行ですね、中でも死刑執行の判断においても、このDNA鑑定が決定的な影響を及ぼしているんではないですか。極めて危険な証拠だと私は思いますけれども、局長、いかがです。

○政府参考人(大野恒太郎君) 先ほど委員が指摘されましたとおり、型の鑑定といいますのは、それによって直ちに犯人が特定されるというものではありません。
 ただ、DNA型鑑定によります個人識別精度といいますのは、制度導入時から今日に至るまで格段の進歩を遂げているわけであります。したがいまして、その出現頻度につきましても、最近は、先ほどちょっと御披露いたしましたように、四兆七千億分の一というようなところまで高まっているわけであります。したがいまして、そうした出現頻度も併せ考慮した上で有罪認定の根拠にするということは、これは許されるというか、むしろ当然のことではないだろうかというふうに考えております。
   〔理事松村龍二君退席、委員長着席〕
 ただし、そこが、もし委員がおっしゃられているのが、いわゆる科学捜査、DNA型鑑定に対する過信といいましょうか、そういう実際の出現頻度を超えた意味付けを与えるようなことがあれば、それは問題だということになりますし、それと同時に、また実際に例えば試料の由来等につきましてもきちっとしたチェックがなされないといけないだろうと。
 しかし、そういう前提の上で、やはり科学技術の進歩に応じた相応の評価は与えるべきである。さもないと、DNA型鑑定があっても、それが非常に有力な証拠の場合に真犯人を起訴できなくなるということもやはりこれは問題ではないだろうかというふうに考えるわけでございます。

○仁比聡平君 それがDNA神話なんではないんですか。
 大臣もあるいは委員各位の皆さんも、幾つものDNAの鑑定が問題になった判決文を読んでいただきたいと思います。そこには、どれだけDNA鑑定が信頼できるか、信用できるかということを大部の紙幅を割いて書き連ねてある判決がたくさんあります。これを見ると、DNA鑑定が心証形成、判断に決定的な影響を及ぼしていると、そのこと
は私、一目瞭然だと思うんですね。けれども、少なくともMCT118型、123マーカーを使うこの技法については、そうした判決や検察の主張やそうした活動のすべてが虚構であり、瓦解したというのが今日の事態なのではないのですか。現在のSTRだって、これから将来どういうふうな認識が発展をするか、これだれにも分からないじゃありませんか。
 先ほどの四兆七千億分の一といった出現頻度について、精度は高まっていないとは私も申し上げませんけれども、それを犯罪捜査や有罪立証に使っていいのかという法的な検証、ここについて検察庁、法務省は何らかの検証を行ったことがあるんですか。

○政府参考人(大野恒太郎君) その出現頻度につきまして、検察当局におきまして統計をするというか調査をしたことはございません。
 警察当局等からの情報提供を受けるなどした上で、検察官において証拠価値があると判断し、裁判所にこれを取調べ請求したものでございます。

○仁比聡平君 科警研が論文を書いておられるというふうに伺いました。けれども、その問題ではないですよね。国家の刑罰権を行使するその根拠として、確かに生物学的ないろんな認識は発展していきます。それを有罪立証の証拠として使っていいのかというこの大問題は、科学の発展の問題とは別の問題なんですよね。検察が、あるいは裁判所が、自らの検証もなくこうした証拠を使い続けてきたということ自体が私は今正面から問われているんだと思います。
 現に係属中の事件があると思います。このDNA鑑定の明らかになった未成熟さ、そのことを踏まえて、現在進行中の事件の運用においても、それから、これからの制度設計の面においても、最低限、再鑑定の可能性の保障、これをするのは本当に最低限の義務だと思いますけれども、大野局長、いかがですか。

○政府参考人(大野恒太郎君) 確かに、今委員が御指摘になりましたように、事後的な検証を担保するという点で再鑑定の可能性があるというのは大変重要なことだというふうに考えております。だからこそ、検察当局も先般、試料が残っているものについては取りあえずその保管を指示したわけでございます。
 ただ、実際のDNA型鑑定の運用を見ますと、鑑定試料が微量であるというようなことで、再鑑定を行うことが量的に困難である事例もあるというように伺っております。そうした場合には再鑑定が行えないということで、DNA鑑定を行わなくていいのかということになります。そこは鑑定試料の採取や保管の状況、それからほかの証拠の整合性等とも照らしまして鑑定結果を信用できるという場合もあるというふうに考えております。
 したがいまして、再鑑定ができない場合には一切DNA型鑑定の結果を証拠利用できない、有罪認定の立証の資料にできないとすることにつきましては問題があるんじゃないだろうかというふうに考えております。

○仁比聡平君 今局長がおっしゃったような、再鑑定が現実の問題としてできないときにおっしゃるような条件を付したとしても、証拠として利用したときの現実の裁判に与える危険性、これから国民、市民が判断権者として裁判員として参加するわけですね。取り返しの付かないことになりかねないじゃありませんか。私は、そうした場合に、DNA鑑定そのものを全く、鑑定そのものをやってはならないと今申し上げているわけではありません。証拠として使うことは取り返しの付かない事態を起こす危険性があるじゃないかと。いかがですか。

○政府参考人(大野恒太郎君) もちろん、実際の運用上、再鑑定の可能性をできる限り残す形で運用していくというのは、これは当然のことだろうというふうに思います。
 ただ、私が申し上げているのは、それでも量的等の理由でそうした試料を残せない極限的な場合に、しかも今委員の御発言ではそういう場合に鑑定をやること自体は否定していないんだと、こういう御発言でありましたけれども、そうした鑑定で結果が出た、その結果を一律にその証拠にできないというふうにされることにはやはり、直ちに、どうかというような気がいたします。
 もちろん、再鑑定ができないような場合には、そうしたやり直しがないということも考慮した上で、極力客観的な手続等が取られ、後日のその鑑定の正否についての検討ができるような、そういう体制で行うべきだというふうに思いますけれども、一律に証拠能力を否定してしまうというところまで行きますと、困難な事件における解決を封じてしまうということでやはり問題じゃないだろうか。そうした再鑑定ができないということは、裁判所における証拠評価の場面で考慮されることはあり得るとしても、一律に排除することには賛成できないというように申し上げたいと思います。

○仁比聡平君 私、この点は極めて重要な問題だと思うんですね。現在係属中、捜査中、あるいは起訴、不起訴、その判断をしている、そういう事件だってあるんですから、速やかに、これは法的な措置が必要ならば、それも含めてしっかりと検討する必要があると思います。今日の局長の答弁では私は到底納得できない。
 そういう状況の下で、123マーカーによるDNA鑑定の未成熟さ、これが明らかになった下で、その利用の全容というのを私は今つかむ必要があると思います。
 これまでも文書で警察庁、法務省に、我が国の犯罪捜査におけるDNA鑑定の各技法の変遷、MCT118型によって警察庁の科警研、科学警察研究所が鑑定を実施したのは平成元年から平成十五年までで二百十四件ということですが、このうち123マーカーによるものが何件か、このほかに都道府県警の科学捜査研究所によるものは何件なのか、DNA鑑定が証拠請求された件数、そのうち118型、123マーカーによる鑑定の件数、鑑定実施日、被疑罪名、鑑定結果、うち証拠採用された件数は幾つなのか、証拠採用が裁判所によってされなかった事案についてはなぜなのか、証拠採用された事件について有罪判決は幾つあるのか、罪名、量刑、その刑の執行状況を私は明らかにしていただきたいと思います。特に無期懲役、死刑判決事件、それから否認事件、これは自白から転じたものも含みますけれども、これがこの事件において有罪証拠としてDNA鑑定が用いられた事件については、これはそれぞれの概要を明らかにするべきだと思うんですね。
 今も孤立無援で適切な弁護すら受ける機会を保障されないまま刑の執行を受けている、あるいは刑の執行を目前としている無実の人がいる可能性が十分にあります。この事態に直面をしているわけですから、も
ちろん統計上、これまで取っている統計でないことは承知していますけれども、挙げて、しっかりと調査をしてこの委員会に報告するべきではありませんか。それぞれお尋ねします。

○政府参考人(米田壯君) 警察庁として対応できるものにつきましては、御要望に沿うように努力をいたしたいというふうに思います。

○政府参考人(大野恒太郎君) 有罪判決の根拠として今言われたいわゆる古い時代のDNA鑑定が行われた事例、これにつきましては現在把握に努めているところでございまして、その結果をまず待ちたいというふうに考えております。

○仁比聡平君 私は、速やかな調査と提出を改めて要求します。それがもしなされないのなら、一体、この足利事件を受けて法務省もそして警察も何を反省しておるのか、そのことが真剣に問われると、改めてこの委員会でも取り上げていきたいということを申し上げておきたいと思います。
 最後に大臣にお尋ねしたいんです。
 菅家さんは犯人ではなかったんですね。なのに詳細な自白がなされています。犯人でないのに詳細な自白がなされている。人がありもしなかった事実をさもあったかのように供述しているという現実が大臣の目の前にあるんですよ。そのことを、つまり人が訴追をされるのに、死刑になるかもしれないのに、それでも自分が体験したことのない事実をさもあったかのように供述する、そういう事態が取調べ室で起こっているというその現実の危険性を大臣はどんなふうに考えているんですか。

○国務大臣(森英介君) 今回のようなことというのはあってはならないことであると思い、また大変深刻に受け止めております。
 しかし、検察官は従前から、被疑者を取り調べる際に被疑者の心を開かせて真実を語るよう説得するほか、自白が得られた場合にも、様々な観点から検討しつつ、その信用について慎重に吟味しているものと思っているところでございます。
 もちろん今回の件についてはいろいろ反省すべき点もあると思いますが、それは最高検において検証チームが設置されて、これからすべての資料、証拠、あるいは経緯について検証がなされるところでございますので、その結果を待ちたいと思います。

○仁比聡平君 大臣、そういう認識では今の日本の刑事司法を変えることはできませんよ。取調べ官との信頼関係だとか、腹を割って話をするだとか、そんなことをこれまでも取調べ過程の全面可視化に背を向ける根拠として警察庁も検察庁も、今大臣もおっしゃったんですけど、だけれども、現実に菅家さんは、今大臣がおっしゃったような取調べの中において、ありもしなかった事実をさもあったかのように詳細に語らせられているじゃないですか。大臣は御存じかどうか知りませんけれども、その自白と現実の客観的事実が数々矛盾しているということがこの事件については大問題になってきました。
 一つだけ申し上げると、自白された殺害方法は扼殺ですが、遺体の状況がそれとは矛盾するという鑑定があり、鑑定人がそうした証言をし、裁判所も傾聴に値するといった判示をしているわけですね。けれども、再鑑定もしないって、一体どうしてかと思いますけれども、客観的事実と矛盾する自白をそれでも使い続けるというここの取調べの中身を全面的に可視化しなかったら、これからも裁判上ただすことができないじゃありませんか。大臣、いかがですか。

○国務大臣(森英介君) 先ほど申し上げたように、本件についてはこれから検証をするわけでございますので、その結果を待ちたいと思います。
 可視化、全面録音、録画の件につきましては、先ほども御答弁しましたけれども、やはり取調べが日本においてはこれだけ重要性が高いという状況にかんがみまして、その機能が損なわれるようなことはやはり慎重に対応しなきゃいけないと思います。もちろん、他の様々な捜査手段との組合せにおいて全面録画、録音ということが検討されるということはあり得ると思いますけれども、それにおいても、やはり現状において取調べの位置付けが下がるものではないと思いますので、その点について私は総合的な観点からの検討が必要であるということを重ねて申し上げたいと思います。

○仁比聡平君 取調べの必要で人の人生を奪うことは絶対に許されませんよ。
 この事件では、DNA型が一致したからには犯人に違いないという根拠のないDNA神話、そして客観的事実との矛盾する自白をまともに吟味すらせずに偏重する捜査、裁判、その根深い誤った構造が改めて私はただされていると思います。
 菅家さんあるいは弁護人の方を参考人に招いての、そして、かねてから求めています志布志事件、氷見事件を始めとした冤罪被害者をこの委員会室にお招きしての集中審議を改めて要求をいたしまして、時間が参りましたので質問を終わります。