○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
前回に続きまして、裁判員制度についてお尋ねをしたいと思います。
模擬裁判の裁判員役からも、審理を短縮して裁判員の負担を減らそうとして法廷に出す証拠や争点を最小限に絞っており、何が真実か判断材料が足りないと、 こうした不満が噴出する中で、それぞれの事案に即して審理と評議を尽くすこと、それによって真実の発見と無辜の不処罰を達成することが刑事訴訟の第一義だ という点について前回確認をさせていただきました。


そこで、最高裁にこの公判廷における審理の重要性や公判中心主義について更に確認をまずしたいと思うんですけれども、「模擬裁判の成果と課題」について というこの文書においても、例えばこうしたくだりがございます。公判廷の審理そのものにより心証を形成できるようなものでなければならず、評議を行うため に裁判官から審理の説明が必要となるような審理であってはならないと、こうした表現があるわけですけれども、この公判廷における審理の重要性、ここについ てどのようにお考えですか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
お答え申し上げます。
〔委員長退席、理事松村龍二君着席〕
裁判員裁判におきましては、国民の皆さんが裁判員として審理に立ち会って評議にも参加されることになりますから、いろんな書面を後で読み込むというよう なことではいけなくて、法廷で当事者双方が裁判員の方に分かりやすく主張、立証を尽くして、それによって心証を形成していただくということが最も大切であ ろうというふうに考えております。

○仁比聡平君
公判廷で裁判員が争点を理解し、その良心に基づく心証形成が尽くされることによって真実の発見と無辜の不処罰、被告人の人権 保障の要請が果たされるためには、当事者による攻撃、防御が尽くされること、これが適切に尽くされることということが大変重要だと思うんですね。とりわ け、被告人、弁護人の攻撃防御権が十分に保障されることが必須であると私は考えます。
大臣に基本的な御認識をお尋ねしたいと思うんですけれども、検察は、強大な捜査権限と警察を含めた強大な体制をもって起訴を行うわけです。そして、公判 活動に当たるわけですね。この捜査・訴追側に対して被告人の実質的な当事者対等を図ろうとする被告人の弁護を受ける権利、そして弁護活動、この重要性につ いて大臣はどのようにお考えですか。

○国務大臣(森英介君)
刑事訴訟法は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障等を全うしつつ事案の真相を明らかにす ることを目的としておりまして、刑事手続の中で被疑者、被告人の人権の保障を図ることが重要であることは申すまでもありません。そして、被疑者、被告人を 法律専門家の立場から後見、保護する役割を担う弁護人を依頼しその助言を受けることは被疑者、被告人の基本的な権利であって、そうした意味において、弁護 人の有する権能は適正な裁判を実現する上で極めて重要であると認識しております。

○仁比聡平君
そこで、当事者、とりわけ弁護人の活動について、公判前整理手続との関係でお尋ねをしていきたいと思うんです。
この公判前整理手続は裁判員裁判では必要的だというふうにされているわけですけれども、まず最高裁にお尋ねしたいと思いますが、この当事者主義の下で、 裁判所が当事者の争点の設定や証拠請求、言わば訴訟戦略ですね、ここに介入するということをもしやるなら、結局真実の発見や人権保障を損なうことになると 私は思います。公判前整理手続における当事者のイニシアチブの重要性についてどのようにお考えでしょうか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
公判前整理は、これは、公判前整理手続による当事者のイニシアチブの問題ということでございます が、これは私どもも、そういう点については裁判官の間でも議論をしておりまして、協議会においては、裁判員裁判においては当事者追行主義にのっとった審理 がなされるけれども、当事者追行主義の下では、公判前整理手続における争点それから証拠の整理も、第一次的には当事者のイニシアチブの下においてなされる べきであると。また、裁判所による争点、証拠の整理の関与はあくまで当事者の提示する争点、証拠を前提としてなされるべきであって、裁判所が当事者に対し て新たな争点を提示することとか新たな主張を促すようなこと、あるいは証拠の具体的な証明力にまで踏み込んで議論するようなこと、これは基本的に差し控え るべきであるといったようなことが指摘されております。裁判所といたしましては、こうした指摘を踏まえつつ公判前整理手続を適切に運用していくことが重要 であると、こういうような議論がされております。

○仁比聡平君
今の御答弁の中でも、当事者のイニシアチブの重要性が語られるとともに、証拠の内容に触れることについての御答弁もあったん ですが、ちょっとその点で、争点と証拠を整理するというけれども、その中で裁判所が公判審理にも当たるにもかかわらず証拠の内容に触れることは、私は予断 排除の原則に反すると思うんですね。
〔理事松村龍二君退席、委員長着席〕
この点についての御見解はいろいろあるのかもしれませんけれども、今日お尋ねしたいのは、少なくとも弁護側、当事者が証拠の内容を見ることに反対してい る、何らかの整理の必要上、裁判所はこの証拠の中身を見ようかどうかということを公判前整理手続のときに判断をしないといけないという場面があったとき に、当事者が、裁判官はその証拠の中身を見るべきではない、それは予断排除に反するという形で反対をしているのに裁判官があえて見る、押し切って見るとい うことは、これはあってはならないと思うんですが、いかがでしょうか。もしそうした事態が生じた場合、弁護人はその瑕疵を公判廷で主張できなければおかし いと思いますが、いかがですか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
個別の具体的な事件のときにどうかということはちょっとお答えできないと思いますが、公判前整理手続とそれから予断排除の原則というのは、これは立法段階でも議論されたところだと思います。
その際には、これは、裁判官が争点整理や証拠調べの決定それから証拠開示に関する裁定などのためにその必要な限りで両当事者の主張や証拠に触れるという ことはあったとしても、それによって実質的な心証を取るものでないので、その点は予断排除の原則に反しないという、こういう意見が大勢であったというふう に聞いて、承知しております。
実際の運用においても、公判前整理手続において裁判所が証拠の内容に立ち入ることは通常ありませんし、例外的に証拠整理の目的という限度で証拠の内容に 触れることがあっても、そこから心証を取るということはありませんので、その点は予断排除の原則に反するものではないというふうに考えております。

○仁比聡平君
いや、私は、その点は、今局長が言われた点は、これは詳細に証拠の整理に入っていくとしたら、これは裁判官、皆さん大変能力 の高い方々ですからね、そこに何が書いてあるかということを記憶して、それが実際上心証の形成になっていくということは十分あり得ると思うんですよ。だか ら予断排除に反するのではないかと申し上げているんですが、その点について、今の御答弁と私は立場が違いますけれども、御答弁がなかった点、つまり、当事 者、例えば検察官が見てほしいと言っているその証拠の中身を見ることについて弁護側が反対していると。反対しているのに、公判前整理手続でですよ、あえて 裁判官が見るということは良くないんじゃないですか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
内容に触れるというふうに申し上げていますので、実際に見なきゃいけないかどうか、それは場合にも よると思いますけれども、整理上、整理の必要上どうしても必要だというような場合がもしありまして、その限度で、心証を取るわけではございませんので、そ の限度で証拠の内容に触れざるを得ないという場合はそれは出てくるのではないかというふうに思います。

○仁比聡平君
最高裁が整理をされた「模擬裁判の成果と課題」についての中で、研究会等ではおおむね以下のような方向での議論がされ、その 内容に特段異論は見られなかったというくだりの中で、反対当事者も、判断のため裁判所に証拠を見てもらいたい意思を有していた場合に初めて見るぐらいの姿 勢が重要であるというふうにありますが、今の御答弁はこれとは違うんですか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
いえ、決して違うわけではございませんので、そういう姿勢でもちろん臨むわけですが、ただ、絶対な いのかとかそういうふうにおっしゃられますと、それは見ざるを得ない場合もあり得るということを申し上げただけでございます。ただ、姿勢としてはもちろん 謙抑的でなければいけないということはそういう議論のとおりでございます。

○仁比聡平君
非公開の場で、弁護側が反対しているのに証拠の内容に触れるというのはこれはおかしいじゃないですか。今局長は、そのような 場合はあり得ないわけじゃないんだという趣旨の御答弁ですから、原則は謙抑的なんだというふうにおっしゃるのであえて聞くんですが、そうした場合、弁護側 は公判廷において、始まる公判廷において、公判前整理手続でそのようなことが行われたということを公開の法廷で瑕疵をただす、これはできますよね。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
公開の法廷で御主張が申し立てられる、主張されるということはあり得ると思いますけれども、それをどういうふうに裁判体が判断するかというのはその裁判体の判断だと思います。

○仁比聡平君
この公判前整理手続で裁判所が予断を抱くのではないかという点に関連して、主張、証拠整理に当たる職業裁判官が公判廷で初めて事件に向き合う市民裁判員に結論を押し付けるようなことが万が一あれば、これは裁判員裁判の根幹を失うことになるわけです。
この点も前回確認をさせていただいたわけですが、模擬裁判の中で、裁判官が争点整理表を作って公判審理で裁判員に配る、評議もそれに沿って行うというや り方が行われて、これは裁判員を職業裁判官に従わせるということになるじゃないか、そんなやり方はやめるべきだという議論があったと思います。この裁判官 が裁判員にそうした争点整理表を配って評議もそれで行うというやり方についてはどうお考えですか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
争点整理表を配って評議をされたというような模擬裁判も確かにございました。それが、それについて どうというふうにすぐ申し上げるわけではございませんが、裁判官の協議会やそういう裁判官の研究会では、基本的には当事者が主張されているわけで、論告と 弁論があるわけでございますから、それを基本にして、そこで争点は整理されていますし、それについての主張が尽くされているというのが前提でございますか ら、弁論の中身を考慮しながら、もちろんそれから反論、主張ですね、反証も踏まえながら論告を、あるいは論告で主張された、あるいはその論告の基となった 立証をこれを評価していくというような評議が望ましいのではないかという議論もされているところでございます。

○仁比聡平君
先ほどのこの最高裁のまとめの文書では、当事者の主張が不十分な場合に、裁判所が当事者の主張を構成し直すような形での争点 整理表案を作成することは、基本的には消極であるべきであろうというふうなまとめがあるところでございます。いずれにしても、公判廷における審理において の当事者のイニシアチブというのは極めて重要だと思うんですよね。
そこで、証人尋問や被告人質問の中で、例えば公訴事実に関連する証言の信用性、これを弾劾するために弁護人から必要不可欠であるとして証拠の請求がなさ れたと、公判廷で。これを制限するということになったら、これは裁判員の心証形成や争点の理解にとって大変重大なきずをもたらすことになるのではないかと 思いますが、いかがですか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
刑事裁判というのは、被告人の権利を保護しつつ、あるいは保障しつつ、事案の真相を明らかにするというためですから、そのために必要な審理というのは十分尽くされなければいけないと思います。
したがって、刑訴法三百十六条の三十二の第一項によれば、やむを得ない事由によって公判前整理手続において請求することができなかった証拠、これについ ては公判前整理手続終了後でも証拠調べを請求することができるということになっております。裁判所としても、やむを得ない事由があると認められる場合に は、当然新たな証拠調べ請求を認めて、事案の真相とそれから無辜の不処罰、この要請を全うするために必要な審理を尽くすということになろうかと思います。

○仁比聡平君
例えば、犯人と被告人が本当に同じ人物かと、法廷で起訴されている被告人が犯人と同一かというこの同一性が争われている事案 において、犯行が行われた電車に被告人が乗ろうとしているところを見たという証言が仮にあったとします。その証言がなされたときに、例えばPASMOです よね、この乗車履歴、電車に乗る、地下鉄に乗る、JRに乗るというので乗車履歴が分かるカードが最近普及しています。こういう乗車履歴からその日その駅で その電車に乗ろうとしていたことはあり得ないという場合に、その証言を弾劾するために弁護側がこれを調べることが必要だということを法廷で主張して、実際 の運用でも、検察は採用に反対したけれども裁判所は採用をしたという例があるようでございます。
法廷でこうした同一性やアリバイに関する証拠の請求がなされたときに、これをさせないということになれば裁判員の心証形成を損なうということになると思いますけれども、もう一度いかがですか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
先ほども申し上げましたように、事案の真相を明らかにするための必要な審理というのは尽くすという わけでございますので、その今おっしゃられた具体的な事例が実際にどういう証拠関係なのか、全体の証拠構造がどうなのか、ちょっとそれは分かりませんので 個別なことは申し上げられませんが、先ほど申し上げたように、やむを得ない事由があると認められる場合には当然証拠調べはされることになろうかと思いま す。

○仁比聡平君
大臣にお尋ねをしたいと思うんですけれども、検察側は言わば事件や証拠を固めて被告人を起訴し公判に臨むわけでございます。 これは弁護側も十分な準備を踏まえて公判廷に臨むわけですが、この証人尋問という場面を考えたときに、検察側は綿密な打合せ、テストの上で証人の主尋問に 臨むわけですけれども、その証言がどういう証言になるのか、それが裁判官や市民裁判員に対してどういう説得力あるいは証明力を持つ証言になるのか、これを どういうふうに弾劾するべきなのか、つまり、証人はそういった証言をするけれども真実は違うと、あるいは証言はそう言うけれどもそれは信用ができないもの であるということを弁護側がどのように防御するべきなのかという点は、これは公判廷で初めて分かるわけですよね。どうした質問がなされて、それに対してど ういう証言があるかというのは、これは公判廷で初めて分かることです。裁判員もそのときに初めてその証言を聞くわけですし、裁判官だって当たり前、もちろ んそのとおりなんですよね。
このときに弁護人の弾劾、これを制限するというのは、これは真実の発見にとっても、被告人の人権保障にとっても、そして裁判員にとって争点や証拠が本当 に分かりやすい法廷になる、心証形成ができる法廷になる、そういう意味でもここの弁護人の活動の制限というのはやっぱりやるべきじゃないと思いますが、い かがですか。

○国務大臣(森英介君)
公判前整理手続においては、検察官が公判において証明する予定の事実が明らかにされるとともに、従前よりも広く検 察官手持ち証拠の開示が行われることによって、被告人側は検察官の主張、立証の全体像を把握した上で防御の準備を十分に行うことができるだけの材料が与え られることになると思っております。それを前提に、被告人側に被告人側の立証に用いる証拠の取調べ請求を公判前整理手続の段階において求めることは、その 防御の利益を不当に制約するものではないと考えております。
また、加えて、やむを得ない事由によって公判前整理手続において請求することができなかった証拠については証拠調べ請求することができるものとされてい ますし、また、裁判所は、真実発見の見地などから必要と認めるときは職権で証拠調べを行うことができるものとされています。
これらの例外が認められていることもあり、被告人の防御権が侵害されることはないと、このように考えております。

○仁比聡平君
今大臣が例外というふうにおっしゃった、そのやむを得ない事情の認定や運用が、これがどんなふうに行われるのかというのは、これは被告人、弁護人の活動、攻撃、防御が不当に制約されるのではないかという重大な問題を持っているわけですね、はらんでいるわけです。
先ほど最高裁の刑事局長から御答弁があったように、当然、個別の事案ごとにその立証の必要性についての判断が個別なされるということは当然のことだろう と思うわけですけれども、これ、裁判員にとって初めてそこの場でその証言を聞くわけでしょう。これについて弁護側は、例えばアリバイがある、あるいはその 被告人と犯人を結び付けようとする証言はこういう点で間違いがある、その証拠がありますというふうに法廷で主張をしているわけですよ。これを絶対に調べな ければこの裁判は間違いを犯すことになると主張しているのに、それをやってはならないといって制限してしまったら、公判廷における裁判員の心証形成という のは一体どうなるんですか。あのときに弁護人、被告人が主張していた証拠を採用して調べていれば結論が違ったかもしれないと、そんな形で公判廷を終わらせ ることなんてできないんじゃありませんか。大臣、いかがです。

○政府参考人(大野恒太郎君)
今委員の御指摘になったのは、有罪、無罪にも決定的な影響のある証拠についての御指摘だというふうに理解い たしましたけれども、現在の裁判員制度の設計といいましょうか仕組みについて申し上げますと、公判前整理手続というものが先行しておりまして、ここで相当 広範囲の証拠開示が行われることになるわけであります。従来であれば、証人の証言内容に係る調書が開示されていたのにすぎなかったのに対して、今回は、そ の関連する証拠あるいは被告側の主張に関連する証拠等についても広く証拠開示が行われるわけであります。そうしたものを前提に被告側、弁護側の主張事実も 整理されまして、これが公判の冒頭においていわゆる争点という形で裁判員、裁判官に提示されることになるわけであります。
したがって、先ほど委員が御指摘になったような証人尋問を行う際には、当然、裁判員はどこに争点があるかということを理解した上でその証言に対する弾劾 が行われるわけでありましょうし、また、弾劾のために必要な、その反対尋問だけではなしにそれ以外の証拠があれば、それはまた公判前整理手続の整理を通じ て証拠として提出されることになっているだろうというふうに考えるものでございます。

○仁比聡平君
時間がなくなりましたから終わりますけれども、今の一般論は、制度がそういうふうな組立てになっているというのはそれは局長 がるる言われたとおりかもしれないが、現場の証人尋問というのはこれは動いているわけですから、目の前に起こっているわけですよ。そこで心証を形成するわ けでしょう。そのときに、当事者が必要であると考えている反対尋問やあるいは立証、証拠の請求、これを否定するなんということをやったら裁判員制度は私は 成り立たないと思います。
集中審理を是非この委員会でもやっていただいて、引き続き大臣の御認識もただしたいと思いますので、よろしくお願いをいたします。
ありがとうございました。