○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
我が党は一貫して裁判官と裁判所職員の抜本的増員を求めてきておりまして、本法案はなお不十分だと思いますけれども、賛成させていただきます。
そこで、一点だけ、現場の状況とニーズについて最高裁にお尋ねをしたいんですが、裁判員制度の実施に向けて計画的増員が行われてきましたけれども、実際 に五月、実施を迎えるということになった後に、どのようなニーズが生まれるかというのは、これは言わばふたを開けてみなければ分からないというところがあ ろうかと思います。


また、この間の法整備で、裁判所に新たな任務、制度が設けられまして、例えば成年後見制度について、選任申立ての新受件数を統計で拝見をしますと大変急 増をしていると。もちろん、既済率も上がっているわけですが、この成年後見事件は、成年後見人が選任をされた後も後見の監督が引き続いて続いていくとい う、そういう仕組みになるわけですから、こうした対応をどのようにやっていくかというのはこれからの課題ということになると思うんですね。
そうした様々な現場の状況とニーズをしっかり最高裁として光を当てるといいますか、つかんでいただいて、そのニーズに十分な態勢を取るんだというその構え、決意をお尋ねしたいと思うんです。
とりわけ、少人数規模の裁判所で、お一人の裁判官も裁判所職員も多数の事件の分野を担っているというときに、たくさんの人数がいるところであればある程 度応援とか融通が利くという部分がありましても、少人数の裁判所ではなかなかそうはいかないという苦しみもあろうかと思いますので、その声に十分最高裁と して耳を傾けていただきたいとお願い申し上げたいと思いますが、いかがですか。

○最高裁判所長官代理者(小池裕君)
まず裁判員制度の関係を申し上げますと、先ほど申し上げましたけれども、裁判員制度の導入に向けて計 画的に態勢整備を図ってまいりましたし、各種の模擬裁判等でその状況等を見てまいりましたけれども、二十一年度の増員をしていただきますと、まず導入をす る、裁判員制度を始めるというところの必要な態勢はおおむね確保されたとは考えております。
ただ、委員御指摘のとおり、これは初めてのものでございますので、実際始めてみますといろんな課題が出てくるということも予想しております。私どもとし ましたら、そういった状況を見まして、また人的態勢の問題についても必要なものは手当てしていくという姿勢をしっかり持ってまいりたいと思います。
それから、後見事件のお話がございましたが、これは御指摘のとおり、後見監督のものはどんどん累積されていくということでございまして、各省ともこれの 負担が大きくなっているというのは御指摘のとおりでございます。また、それが規模の小さな庁ですと、各種事件がやってきたときに対応力というのが大きい庁 に比べれば小そうございますので、そういった庁の性質あるいは事件の性質、事件の処理の状況、それから現場の実際の繁忙状況の声などをしっかり聞いて、今 後とも必要な人的態勢を整え、無理のない、また適正で迅速な裁判を実現するような態勢整備に努めてまいりたいと、かように考えております。

○仁比聡平君
是非よろしくお願いを申し上げたいと思っています。
この裁判員制度について、裁判員の守秘義務についてちょっと今日は引き続いてお尋ねをしたいと思っているんですが、これまでも市民が担う、例えば検察審 査会の委員だとか、あるいは民事、家事の調停委員ですね、こうした仕事を国民の皆さんにお願いをしておりまして、それぞれについて守秘義務の規定があるわ けでございます。これは刑事罰を伴うものともされているわけですが、これ実際には適用された例は私はないと思うんですよね。最高裁、法務当局、それぞれい かがでしょうか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
お答え申し上げます。
検察審査会の方でちょっとお答えしたいと思うんですが、検察審査員の守秘義務規定の関係なんですが、これまでに秘密漏えいということで刑事罰を受けたと いう例は承知しておりません。ただ、昭和四十年に不起訴処分となったという例が一件あったというふうに承知しております。これは、具体的な事案については 細かいことはちょっと私ども把握しておりませんけれども、元検察審査員であった人が会議の模様を漏えいしたというものであったというふうに承知しておりま す。

○政府参考人(大野恒太郎君)
法務当局の方からは、民事調停委員それから家事調停委員の関係についてお答えしたいと思いますけれども、そ れぞれの者に、あるいはそれぞれの職にあった者に対する守秘義務違反に対する罰則ですが、平成十年から十九年までの十年間調査いたしましたけれども、罰則 が適用された例は、統計上、承知しておりません。

○仁比聡平君
法律の専門家、いわゆる法曹三者と呼ばれる皆さんの感覚としても、私もその一員ではございますけれども、検察審査会にしろ、 民事、家事の調停委員にしろ、それぞれの社会的な知見とか多様な感覚を是非反映をしたいということでお願いをして裁判所や検察審査会においでいただくわけ で、この方々の良心を信頼をしてお願いをしておる方に対して、守秘義務違反だといって何かどうこうするというのはちょっと考えにくいといいますか、そうい う感じを私持つんですけれども、例えば最高裁小川局長、いかがですか。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
今委員の御質問、印象だというお話なので何ともちょっと、私も印象と言われましてもなかなか答えにくいんですが、正直申し上げて。それちょっと御勘弁いただけませんか。

○仁比聡平君
いや、小川局長としてはそういうふうにしかお答えのしようがなかろうかと思うんですけれども、裁判員の候補者の方に最高裁が 通知を出されるときに一緒にお送りしているというパンフレットを拝見をいたしますと、「よくわかる 裁判員制度Q&A」というのを一緒に送付されたという ことなんですが、「見聞きした事実について、話してもよいのですか」という問いに対して、「法廷で見聞きしたことや裁判員を務めた感想は、話してもかまい ません。」という表題での回答をしておられるわけですね。これはどういう内容になるんでしょう。

○最高裁判所長官代理者(小川正持君)
お答え申し上げます。
公開の法廷で行われたことというのは、これは傍聴人もみんな見て分かる話で、全部公開されていることですので、それは裁判員の方が公開で行われた主張や立証についてお話しになるということは別に守秘義務に触れるわけではないということですね。
それから、あと、評議の中で行われたところで、評議の秘密にかかわることは、これはお話ししていただいては困るわけですが、そうではないこと、感想です よね、感想とか意見といったもの、そういうものについては、例えばいろいろあると思うんですけれども、評議で意見、どうです、述べられましたかとか聞かれ て、いや、まあ非常に緊張してなかなかあれだったけれどもこういうふうに述べたとか、こういうふうにというのは、どうにか述べることができたとかいうよう な感想ですね、いうようなことは別にその評議の秘密に触れない限りはよろしい、いいんではないでしょうかと、こういう意味なんですが。

○仁比聡平君
この裁判員に対する守秘義務について随分批判も出ている中で、基本的に話しても構わない、あるいは公開の法廷でのことや感想や経験であればというところを強調しておられるような表現にはなっているのかなというふうに私は受け止めたんですね。
けれども、こうした説明の仕方、角度というのは、それは一定あり得る角度だろうとは思うんですけれども、けれどもと、守秘義務を刑罰をもって課すということ自体が国民への信頼に立脚した裁判員制度に背理するのではないかという、私はそういう感じを持っているんです。
大臣ないし大野刑事局長にお尋ねしたいと思うんですけれども、例えば重大事件で、死刑、量刑、あるいは事案で死刑が適用されるのかということが争点に なっている事件があるといたします。これはもちろん社会的にも大変注目をされることになろうかと思うんですが、その選任をされた裁判員のうち一人の方は、 事実認定ないし量刑の判断において、どうしても死刑という判決を下すことには納得がいかない、死刑にはすべきではないという判断をずっと最後までお持ちに なった。けれども、評議はもちろん尽くされたんだけれども、裁判官三人とほかの裁判員五人は死刑を選択するということで、最後多数決によって、御自身以外 の方々の多数によって死刑という判決が行われるという場合があり得るわけですね。
そのときに、評議に関するものであるからといって、自らの意見であっても、たとえ家族にもあるいは自分が信頼している友人にも生涯口外してはならない と。それだけ注目されている事件ですから、その方が裁判員になっているということは例えば家族や友人は知っているわけですよね。けれども、その死刑判決に 対して自分がどういう態度を取ったのかということは生涯口外してはならないという義務を、それも刑罰をもって負わせるというのは大変過酷なんではないかと 思いますが、いかがですか。

○政府参考人(大野恒太郎君)
ただいまの委員のお尋ねは、裁判員あるいは元裁判員に対する守秘義務を刑罰で担保することの当否ということ になるんだと思いますけれども、なぜ守秘義務が認められているかと申しますと、他人のプライバシーを保護する、あるいは裁判の公正さや裁判への信頼を確保 し、評議における自由な意見表明を保障するために必要であるというふうに考えられるわけであります。また、評議において述べたことが後に公表されないこと によってその後追及や報復のおそれがなくなるという点で、裁判員の負担を軽減するというような意味もあるというふうに考えられるところでございます。
御指摘のように、裁判員が自分の意見について公にする場合でありましても、それらの意見と判決結果を照らし合わせますとほかの裁判員の意見も推測できる というふうなことになりまして、自分の意見に限って公にするということもやはり相当ではないんだろうというように考えておるわけでございます。
先ほど来話のありますように、公開の法廷でのやり取り、あるいは判決の内容、それから裁判員の職務についての感想等は秘密の中に含まれないわけでありますので、裁判員に課せられた守秘義務が厳し過ぎることはないだろうというように考えております。

○仁比聡平君
今のお話でも、自分は死刑にすべきとは考えなかったんだという思いは口外してはならないというふうになりかねないということでございまして、これが何でもかんでも守秘義務違反だといって刑罰をもってその義務が強制されるというのは、これは過酷極まりないと思うんですね。
といいますのは、裁判員は、もちろん裁判官と同様だと思いますけれども、自らの良心に基づいてその事件に向き合うんだと思うんですよ。良心に照らしてこ れは死刑にするべきではないという判断をするわけですね。にもかかわらず、多数決によってそうではない判断に言わば拘束をされるわけですけれども、そこに ついて全く絶対にしゃべってはならないということになれば、その精神的な傷というのはケアしようがないのではないかと思いますし、裁判員制度というのがそ ういうものなんであるということが広がれば広がるほどもう関与すること自体への拒否感というものにもつながりかねない。裁判員になったとしても、本当に自 らの良心をもって事件に向き合うということになるんだろうかという疑問も起こってくるわけです。
私は、何でもかんでも処罰するなんということはあってはならないし、こうした処罰規定は削除するべきなんじゃないかと思いますが、いかがですか。

○政府参考人(大野恒太郎君)
先ほど申し上げたような理由から、守秘義務を罰則で担保することはやむを得ない必要があるというように考えております。
ただ、実際にその罰則を適用するかどうかという点につきましては、検察当局におきましては、裁判員制度の趣旨、それから守秘義務の趣旨や範囲等を踏まえまして、個別の事案に応じて適切に罰則を運用するというように考えております。

○仁比聡平君 私は、こうした規定は削除をして、本当に国民の皆さんを信頼してその良心に任せるというのがあるべき立場じゃないかと思いますが、今日はもう時間がなくなりましたから、今後議論を重ねていきたいと思っております。
終わります。