○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
お手元に略履歴をお配りをしておりますけれども、北川健太郎元大阪地検検事正が、在任中の二〇一八年九月十二日深夜から十三日未明にかけて、酒に酔って抵抗できない状態だった女性検事を大阪市内の自分の官舎に連れ込んで性的暴行を加えたとして逮捕され、準強制性交罪、これ現行法の一つ前の改正の法律になりますが、これで起訴されていると。この事件について検察組織としての認識をお尋ねしたいと思います。
この記事にありますように、被害女性検事はPTSDと診断され、休職を強いられています。
この点で、性暴力、性的暴行によるPTSDについて、十一月十九日、Springなどが主催した院内集会が開かれまして、三枚目に、インターポールで、つまり国際刑事警察機構でこの分野の責任者を務められたロバート・シリングさんが次のように述べた資料をお配りしています。
性的暴行ほど市民の心を恐怖に陥れる犯罪はありません、性的暴力は個人的な感情を深く傷つける犯罪です、性的暴力は心身の健康に深刻な影響を及ぼし、その影響は生涯続く可能性があります、心的外傷後ストレス症状は、多くの場合、摂食障害(過食症、拒食症、肥満)、アルコール依存症、過敏性腸症候群、自尊心の低下、親密な人間関係が保てないなど、しばしば他の症状を併発します、多くの被害者にとって、自分自身、親密さ、安全性、自分の人生に意味があると感じる能力について持っている基本的な前提、信念、期待が打ち砕かれます、レイプは重大な社会的問題であり、健康に関わる問題ですと。
このように述べていますが、検察組織としての認識はどうなんですか。
○政府参考人(森本宏君) お答えいたします。
性犯罪につきまして、一般論として申し上げますと、被害者の損害を著しく侵害し、その心身に長年にわたり重大な苦痛を与え続ける悪質重大な犯罪であって、厳正に対処することが必要な犯罪であるというふうに認識しております。
○仁比聡平君 基本的にこのロバート・シリングさんと同じような認識だということなんですよね。
続けて、この同氏は、被害者の安全を守り、保護することが第一です、これは、加害者が、見知らぬ人であろうと、被害者の知っている人であろうと同じことです、被害者の安全と保護は、刑事司法制度の各段階だけでなく、被害者擁護、心理カウンセリング、医療のあらゆる側面において、包括的に考慮されなければなりませんとおっしゃっておられて、私はそのとおりだと思いますし、刑事局長、検察官あるいは検察庁というのは、本来、組織としてこうした取組の要の役割を果たすべきではないんですか。
○政府参考人(森本宏君) 性犯罪に関する認識は先ほど御答弁申し上げたとおりでございまして、委員御指摘のとおり、被害者の安全を守り、保護することは重要であるというふうに認識しております。
政府といたしましては、性犯罪、性暴力に関しまして、令和二年六月に、性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議が取りまとめた性犯罪・性暴力強化のための方針というものがございますが、そこにおきまして、手厚い被害者の安全確保という視点を重視しているものというふうに認識しており、検察官も同様の認識であるべきというふうに考えております。
○仁比聡平君 そうおっしゃるけれども、この元検事正のこの事件によって、検察組織への信頼は失墜したと言うべきだと思います。
略履歴御覧いただきたいと思いますが、この被告人、元検事正は、二〇〇六年以降、京都、神戸、大阪という各主要地検、そして大阪高検で、特別刑事部長又は刑事部長を務め、二〇一三年には最高検の検事になり、二〇一七年には最高検の刑事部長にまで出世して、その後、二〇一八年二月に大阪地検の検事正に任じられたわけですが、この最高検の刑事部長というのは、これはどういう職務なんですか。
○政府参考人(森本宏君) まず、最高検察庁は、最高裁判所に対して置かれておりまして、検事総長が最高検の長としまして庁務を掌理するというふうになっておりますが、その最高検の部長は、検事総長の命を受けて所管の事務を統括し、所属の検察官、技官を指揮する者とされておりまして、事件の処分に関することなどを掌理しております。
○仁比聡平君 つまり、全国の刑事部長、刑事部のトップなんですよ。検察一体の原則ということがよく言われます。いろんな重大事件で、地検が、上級庁、つまり直接は高検、それから最高検までこの件は協議するなんていうことがよく言われますし、現に行われているわけですが、そうした全国のあらゆる刑事事件について方針を決める、その協議のトップに立っているのがこの最高検の刑事部長でしょう。この人物がこういう行為に及んだと、大問題ですよね。
この被告人が大阪で次席検事を務めていた二〇一五年の二月、性暴力被害者ワンストップセンターのSACHICOが中心となって、大阪府のワーキングチームで、お配りをしている資料のように、被害者の心情に配慮した性暴力の証拠物取扱いマニュアルというのが取りまとめられています。ここには大阪府警もそれから大阪地検も参画をして定められたんですね。
中御覧いただいたらお分かりのとおり、同意のない、対等でない、強要された性的行為は全て性暴力であり、被害者は、身体的、精神的ダメージの大きさや被害者自身の置かれた状況などにより、警察への届出(通報、相談、申告、被害届の提出などを含む)をちゅうちょする場合が多い。このため、性暴力の多くが認知されないまま、潜在化、深刻化しているおそれがあると。こういう基本認識が示されているわけです。
当時の北川次席検事、次席検事というのは地検を代表して対外的にいろんな取組をする、そういう職責ですけれども、当然、この経過に関与して、こうした被害者の心情に配慮して司法関係者が取り組むべき課題を熟知していたはずではありませんか。
○政府参考人(森本宏君) お尋ねは、北川氏が御指摘のマニュアルについていかなる認識を有していたかという個人の認識を問うものでありますので、法務当局としてお答えする立場にないことは御理解いただきたいと思いますが、その上で、御指摘のマニュアルにつきましては、委員御指摘のとおり、大阪地検、大阪地方検察庁も関与の下で大阪府において取りまとめられたものと承知しております。
そして、御指摘のマニュアルにも触れられておりますように、性犯罪の被害者は、身体的、精神的ダメージの大きさや被害者自身の置かれた状況等により被害申告を、被害を申告しづらい場合もあるなどの特性があるものというふうに認識しておりまして、検察当局におきましては、こうした性犯罪事件の被害者の特性に十分配慮して捜査活動を行うよう努めているものと、一般論としてはそういうものだと承知しております。
○仁比聡平君 ところがですよ、ところが、表向きは正義の検察の顔のように振る舞いながら、その陰で、二〇一八年の九月、本件行為に及んだわけです。
何だか新聞などを見ますと、この人が関西検察のエースと呼ばれていたということなんですが、とんでもないんじゃありませんか。記事のように一転否認するということのようですけれども、その弁護人の記者会見によれば、客観的行為は認めるというふうに報じられています。
つまり、泥酔し自ら心身のコントロールができない状態で他者に完全に支配される、加害者に完全にコントロールされて性的侵襲を受けるという、こうした性暴力の被害の甚大さを熟知し、根絶すべき職務にある元検事正がこういう行為に及んだということです。
この人物を最高検の刑事部長にまで任じてきたという、この検察全体の組織のありようをどう総括するんですか。
○政府参考人(森本宏君) まず、御指摘の事案につきましては、現在公判係属中ですので、具体的な事実関係についての評価を述べることは差し控えさせていただきますが、検察当局におきましては、職員の模範となるべき幹部職員が在職期間中の準強制性交等の事実により逮捕され公判請求されたことについては極めて遺憾であるとし、国民に対しておわびを申し上げたものと承知しております。
今後、同様の事態が生じないよう、幹部職員に対し繰り返し綱紀の保持を徹底するよう指示を行っているものと承知しております。今後も、こういった指示を踏まえて同種事案の再発防止に努めていくものと承知しております。
○仁比聡平君 それだけですか。極めて遺憾と述べて再発防止に努めるって、そんなことで、こんな事件が現実に起訴されて公判になっていると、検察の信頼が回復できるわけがないですよ。
これ、一転否認しているということについて、被害者の女性検事が涙ながらに先週記者会見をされました。どのように主張すれば無罪判決を得やすいかを熟知した検察トップにいた元検事正が主張を二転三転させて被害者を翻弄し、世に蔓延する同意があったと思っていたというこそくな主張で無罪を争うことが、今まさに性犯罪被害で苦しんでいる方をどれほどの恐怖や絶望に陥れ、被害申告をすることを恐れさせているか、性犯罪の撲滅を阻害し、むしろ助長させることになるかと厳しくしておられるとおりだと私は思います。
事件そのものについては答弁できないと、そうおっしゃるんですが、私、事件後、女性検察官が休職を余儀なくされたと、しかも、その後、PTSDであるというこの状態が認識されているわけですが、少なくともその時点で深刻さを検察組織として受け止めて、しかるべき対応をすべきだったと思います。
ところが、そうせずに、検事正は何事もなかったかのように円満退職して大阪で弁護士活動に踏み出している。その間、被害者が沈黙を強いられ、性犯罪事件のもみ消し、隠蔽かと批判をされるような環境に置かれ続けたと。このことに対する反省はないんですか。
○政府参考人(森本宏君) まず、事件が遺憾であって、そのことについて検察当局として今後考えていかなければならないというのはそのとおりだと思っております。
事件につきまして、被害者の方もおっしゃっておられますが、今年になってから申告があったものですから、それまでの間、組織としてはこういった事件の存在というものを把握していなかった、一部知人には話していたところはあったみたいですが、それが組織として上がっていなかったというところがあり、そのことによって把握できていなかったということが事実関係でございます。
○仁比聡平君 性犯罪を根絶すべき要にある検察の組織の中で、被害者が六年間にわたって沈黙を強いられたと。あり得ないことなんじゃないですか。
しかも、この元検事正は、一転否認をした理由について、検察を守るためだと言わんばかりのことを言っていると思うんですよ、そう報じられている。検察を守らなきゃいけないから初公判では事実を認めて謝罪をしたけれども、そのことが検察組織に対する強い批判を生み出したから、一転して自分は争うと。一体、被害者の尊厳を横に置いて、検察というのは一体何を守ろうとしているのかと。そのことが国民の皆さんの検察不信の恐らく焦点になっているのではないかと思います。
時間が迫っていますので、詳しくは伺うことはできませんが、お配りした最後の資料に袴田判決に対する検事総長の談話をお配りしました。
詳しくは次回に質問をさせていただきたいと思いますが、私はこの検事総長談話というのは一体何ですかということが全く分からないんです。検事総長というのは、全国の検察官を始めとして検察職員を指揮監督するという立場にある、検察庁法にそう書いてある。総長が談話をする、出すというのは、あれですか、こうやって無罪判決を認めないぞという、こういう態度でこれから検察は事件に臨むということですか。
○政府参考人(森本宏君) 総長談話というものが何か法的な性質を持っているとかということはもちろんございませんが、この案件につきましては、地裁から始まりまして、最高裁まで行き、また戻ったり、地裁、高裁と戻ったりしたという、そういった紆余曲折があって、最高検察庁以下ずっと検察全体が関与していた問題だったので、最後、事件を確定するに当たり、総長の名前で談話が出されたものというふうに承知しております。
○委員長(若松謙維君) 申合せの時間過ぎておりますので、質疑をおまとめください。
○仁比聡平君 法的根拠ははっきりしないんですよ。一体いつ、どのような合議がなされてこの談話に至ったのか、私はこの当委員会に明らかにしていただきたいと思います。
引き続き質問するということを申し上げて、今日は終わります。