○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
性犯罪をなくすために、今日は、直接、性犯罪者、加害者の指導に当たる保護観察の体制についてお尋ねをしたいと思います。
お手元に、保護局が取り組んでいる性犯罪者処遇プログラムのワークブックから私の方で主要な点を抜粋させていただきまして、お配りをしております。
大臣、もう既に御覧いただいているかと思うんですが、資料でいうと三枚目になるんですけれども、性加害につながりやすい認知というものがあるんですよね。前国会で不同意性交等罪を中心にした性刑法の改正が行われました。この参議院の法務委員会も、二〇一七年の前回の改正なども含めて、性暴力の被害者、性犯罪の被害当事者が、フリーズあるいは混乱、恐怖などの反応、心理的な反応を起こし、一見、拒絶をしていないかのように見えることがある、そうした反応に陥りやすいということを共有する中で法改正に至りましたし、新法の、性刑法の新法の条文そのものがそういう組立てでできているという理解を私はしておりますけれども、ところが、加害者はその状態を自分に都合よく受け止め、思い込む、そうした性加害につながりやすい認知ということがあるんではないかと思うんです。
そのワークブックの十九ページ目のところにも、相手は逃げなかったのだからそれほど嫌ではなかったのだろうとか、その次のページ、上から二つ目の四角ですが、嫌だと言っていなければ性的な行為を拒否しているわけではないとか、合意の上だったのにお金が欲しくて後から訴えられることがあるなどの、こうした認知で性加害に至っているという加害者がやっぱりかなりいるからこそ、このワークブックにも例としてピックアップしているのではないか、これを認知の癖というふうに呼んでいるんじゃないかなと思うんですが、保護局長、この認知の癖というのはどのようなものなんでしょうか。
○政府参考人(押切久遠君) お答えいたします。
同じ出来事や状況に対する考え方や受け止め方が人によってそれぞれであるように、認知の癖は誰にでもあるものですが、人によっては自分の行動を許すためにその行動を正当化したりマイナスの結果をわざと小さく考えたりすることがあり、性犯罪再犯防止プログラムの中ではこうした考え方や思い込みを認知の癖として取り扱っております。
性加害に及ぶ者の中には、例えば、嫌だと言っていなければ性的な行為を拒否しているわけではない、デートの誘いに応じてきたら性行為を望んでいるはずだ、被害に遭っても時がたてば事件のことは忘れてしまうなどの性加害につながりやすい認知の癖を有する者がおり、本プログラムにおいては、こうした認知の癖を本人に気付かせ、別の認知に変えることを課題として考えさせるなどの指導をしています。
○仁比聡平君 大変な仕事だと思うんですよ。大変な働きかけだと思うんですよね。
前国会の法案審議のときに参考人としておいでいただいた斉藤章佳さんの「「小児性愛」という病―それは、愛ではない」という本を皆さんもお読みになられたのではないかと思うんですが、冒頭で、余りにもおぞましい認知なので、私がここで言葉にできるだけのところだけ読みますけど、今日のXは最初からすごく積極的だった、困ったような顔をしていたけど、あれは恥じらってみせて僕を誘っていたんだなと、塾講師の性加害者が小学校の中学年、高学年の女子との関係の中でそんなふうな認識を持っている。あるいは、十二歳の女子児童に対する性加害をした四十九歳の男性、私とYちゃんは付き合っていました、恋人同士だったんです、それを周りの人たちがぶち壊したんです、私がロリコンでYちゃんは被害者だといって引き離したんです、私はそんな人たちによって犯罪者にさせられました、おかしいのはどっちだって言いたいです、というような認識を持っている性犯罪の加害者がこうした性犯罪を再び起こさないように、そのことによって新たな被害者絶対に生まないように、直接この加害者に働きかけ指導すると、で、再発防止の計画まで立たせるというのが、立てさせ守らせるというのがこの保護観察官が取り組んでいる性犯罪者処遇プログラムというものだと思うんですけれども、皆さんのお手元の資料の二枚目にこうした認知行動療法という考え方、考えというか取組ですね、プログラムについて概要が書かれていますけれども。
そこで、保護局長、こういう身勝手な認知をこのプログラムでどのように克服させるのかと、再発防止のためにどんな取組を実際されるのか、ちょっと御紹介いただけますか。
○政府参考人(押切久遠君) 保護観察所においては、性犯罪再犯防止プログラムの中で、性加害を肯定するような認知の癖に気付かせ、これを別の認知に変えるための課題に取り組ませるなどして、性犯罪に結び付くおそれのある認知の癖や自己統制力の不足等の問題を改善し、再び性犯罪をしないようにするための対処法を習得させています。さらに、プログラムにおいては、子供に対する性加害を行った者については子供への性的空想の影響等を自覚させ対処方法を学ばせるなど、その特性を踏まえた指導内容を個別に追加して実施し、処遇の実効性を高めているところです。
引き続き、保護観察所においては、本プログラムの着実かつ効果的な実施に努めてまいりたいと存じます。
○仁比聡平君 もう一度三枚目のところを見ていただいたら、子供に対する性加害者の認知の癖というのが下の方に列挙されていますよね。愛情を持っていれば子供に性的な行為をしても構わないとか、子供と性的な行為をすることはその子にとって性教育になるとか、子供であってもしぐさや態度で大人を誘惑してくることがある、子供が性的な行為をされても親に言わないのは性的な行為をされることが嫌ではないからだなどなど。こうした認知のゆがみを抱えた性加害者に再犯を絶対にさせないというための今ほど御紹介いただいたプログラム、それをほぼ一対一で保護観察官と性犯罪者が行っているものなんですよ。
これ、とても重要で、けれども、余り知られていないという取組かと思うんですけれども、まず先に、効果をどう評価するかと、こういう取組の評価についてですけれども、令和二年の三月に再犯等に関する分析結果というのが出されました。御覧のとおり、プログラムの非受講群二六・二%が性犯罪の再犯に至ったのに対して、このプログラムの受講群は一五・一%ということで、再犯抑止効果が示唆されたという評価になっていまして、それはそうだろうなと思うんですね。
けれど、このプログラムを終了してなお一五・一%の受講者が性犯罪を再犯していると、これは重大ですよね。この平成の年代に、十八年頃から始まったこのプログラムの取組というのは大切な成果を上げていると思うし、工夫もされてきていると思うんですけれども、なおプログラム受講者の一五%程度が再犯に至っていると。
これを更にもっと効果を上げて性犯罪をなくしていくというために、保護局、取り組むべきことは何ですか。
○政府参考人(押切久遠君) お答えいたします。
性犯罪再犯防止プログラムについては、子供に対する性加害を行った者等に対応した指導内容を追加するなど、その一部を改訂し、昨年四月から実施しているところですが、今後も、改訂後のプログラムの運用状況等を把握しつつ、保護観察対象者の再犯防止に一層効果的なものとなるよう、その着実な実施に努めてまいります。
また、プログラムを効果的に実施するためには、性犯罪者処遇に関わる保護観察官の処遇能力の向上が重要です。この点、法務省においては、保護観察官を対象として、性犯罪者に対する処遇を効果的に行うための技能を向上させることを目的とする性犯罪対策研修を毎年実施しており、こうした研修等を通じ、保護観察官の処遇能力の向上に努めてまいりたいと存じます。
○仁比聡平君 そのとおりだと思うんですよね。そのとおりというのは、つまり、この再犯の防止にとってゴールはないわけですよね。言わば模索しているということでもあろうかと思うんですよ。その最前線といいますか、直接、性犯罪者なり、あるいは再犯に至ること絶対にさせてはならない犯罪者の保護観察に取り組んでいるのが保護観察官、一人一人の保護観察官だということだと思うんですよね。
この認知の癖、これを新たな認知、この犯罪に至らない認知に変えさせてそれを守らせ続けるという、この取組というのは本当に大変だと思うんですよ。ゆがんだ認知が、現実に性加害を行ったということによって、それを正当化しようとする心理が働いて更に固着されると。で、それが強化されていく。日常を一旦取り戻したような感じがあるけれども、その中でストレスがため込まれて、何らかの引き金で、例えばこの子はかわいいとか、付いていこうというみたいな、対象が目の前に出てくるとつい歩いて付いていってしまうとかいうですね、そういうことが引き金になって再犯に至るというようなことを絶対にやめさせるという取組ですよね。言わば、対象者の人格の底深い、奥深いところに踏み込んで自覚させて、そしてそうしたゆがんだ認知に基づく犯罪を犯さないためのスキルを身に付けさせるということだと思うんですけれども。
ちょっと先に、大臣、こうした保護観察官の専門性というのはこれもうとっても高いものだし、それから重い役割を担っていただいていると思いますが、大臣、いかがですか。
○国務大臣(小泉龍司君) 思いますね、非常に強く。今日お話を伺って、その高度な専門的な知識と実行力、そういったものがなければ対応できないでしょうし、また、そのプログラム自体がまた開発されつつ、改良されつつ、更新されていくものなんでしょうね。そういったものを学び取って実践の場で力を出すというのは非常に高度な技術であり、高度な人間性が必要だし、また、でも、それに大きな効果、これからだと思いますけれども、期待したいですね。また、この分野についての力を入れていくという、そういう認識も持ちました。
○仁比聡平君 そのとおりだと思うんですよ。
続きに、全国の保護観察官の配置の現状を資料でお配りしていますけれども、もう時間がないので私から申し上げますが、日本中で千五百人程度しかいらっしゃらないんですよね。かつ、観察所の所長を始めとした管理職だったり、あるいは本省で政策形成なんかに当たったりしていらっしゃる保護観察官がいらっしゃいますから、現場で実際のその犯罪者に直接指導している保護観察官は千百九十七人しかいません。日本中で千百九十七人しかいないわけですよ。例えば、一番小さいのは松江の保護観察所ですけれども、十一人しかいません。島根県、どれぐらい広いと思っていますかって。
この中で、性犯罪者だけじゃありませんけれども、この再犯の防止の地域の計画を立てるための、個別の処遇ではなくて、再犯防止計画を各都道府県で立て、地域で実践しようとしているじゃないですか。この地方の会議に法務省を代表して参画をしたりしているわけですよね。こうした保護観察官が、今大臣もおっしゃった、研修で自ら技能を高めていく、日本中の技能を前進させていく。
それから、具体的に言うと、土曜、日曜とか夜とかにプログラムがあったら受けられるのにという退所者もいたり、現状は満期釈放される人には保護観察が付けられませんから、だから、そうすると、満期釈放される人、あるいは保護観察期間が終わった人たちに対してどういうふうに取組ができるのかということを政策としても工夫しなきゃいけないわけですよね。
こういう認知行動療法の取組を担える民間あるいはクリニックなどを広げたいというふうに思うけれども、現状は地方に行くとないですよね、クリニック。そうした取組を前進させて、性犯罪や再犯が起こらない社会をつくるための要が、私、保護観察官だと思うんですよ。
だから、抜本増員の決意を大臣に最後伺いたいと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(小泉龍司君) 令和六年度の概算要求の時点では七十九名の増員を要求しております。これ、さっき鈴木先生の御指摘もありましたけど、これをまず実現させること、そしてこれを継続すること、できればもっと増やすこと。だけど、非常に説得力のある増員要求だと私は思いました。
まあ法務行政全体に増員が必要なんですけれども、少なくとも、この分野について、高い技術を持ち、ピンポイントで、そういう犯罪を犯す認識の癖がある人にピンポイントでこれを伝えていくということについては、非常にコストに対して大きな成果が得られる可能性がありますので、そういう説得を含めて財政当局に更に強くお願いをしていきたいと思います。
○仁比聡平君 頑張ってください。
終わります。