○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、入管法、技能実習法等改定案に反対の討論を行います。
その理由の第一は、永住者の在留資格取消事由の拡大は断じて許されないからです。
自民党政治の外国人差別と排外主義はどこまで底深いのか。
昨年、難民申請者の強制送還など深刻な人権侵害をもたらす入管法改悪が強行され、約束したはずの日本生まれの子供と家族への在留特別許可さえ出ないまま今月十日施行されたことに強い恐怖と怒りが広がっています。
今度、突然法案に持ち込まれた、義務を遵守せず、故意に公租公課の支払をしないという取消事由は、永住資格を軽微な義務違反を端緒に入管の裁量で取り消し得る不安定な地位へと百八十度変えるものです。
永住者は、本来、在留期限や活動に制限がない最も安定した在留資格であり、華僑や在日韓国・朝鮮人、日系ブラジル人を始め、その方々が日本社会で暮らしている歴史的背景や定着性に照らし、より安定した法的地位とされなければなりません。
税や保険料の滞納は、病気や事故、倒産や廃業などを契機に誰にでも起こり得ることで、督促や分納、生活支援、悪質ならば法的手続が取られるのに、なぜ外国籍の永住者だけ人格的生存の基盤そのものである在留資格を奪われなければならないというのか、その立法事実を政府は最後まで具体的、明確に示せませんでした。
横浜華僑総会の曽徳深参考人が知ったのは五月十二日と述べたように、この条項は、当事者団体にも全く知らされないまま、突然、自民党によって持ち込まれたものです。総理は、当事者のヒアリングは行っていないが当事者の意見は適切に踏まえているなどと強弁しましたが、恥ずべき牽強付会というべきです。
総理が言う六年前の第七次出入国管理政策懇談会でも、当事者は呼ばれず、有識者からは逆に、少なくとも根拠のデータを見せる必要がある、エピソードとしてこんなひどいことがありましたよというだけのエビデンスで政策を判断するというのにはやや問題が出てくるなど、強い反対意見こそコンセンサスになりました。それを聞き捨て、この機に無理やり押し通そうというのが岸田政権でありませんか。
政府は、悪質な義務違反への対応だと言い訳を繰り返し、最終盤、本人に帰責性があるとは認め難く、やむを得ず支払えないような場合には必ずしも悪質とは言い難い、そのような場合は故意とは言えないと答弁するに至りましたが、そんな読み方は法令用語として不合理と言わざるを得ません。
条文は余りに過度で広範であり、権利制約規範としての明確性を極めて欠いています。ガイドラインを作ると言いますが、それは行政裁量の運用方針でしかなく、権利制約を正当化する根拠にはなりません。
結局、法案は、入管が国家にとって好ましい振る舞いをしないと見た永住者を在留管理のまないたにのせ、生殺与奪の権を握ろうとするものであり、永住者をそうした立場に置くこと自体、深刻な外国人差別、抜き難い排外主義を世界に発信することにほかなりません。恣意的な重大な危険を新たに生み出す法案に予見可能性はなく、永住者の生活を萎縮させ、ひいては外国籍住民全体の地位を不安定にしかねません。
在留カードの常時携帯義務を始め入管法上の義務は、職務質問の武器として、警察と入管一体の不当な取締りによる人権侵害を引き起こしてきました。
愛知県警が若手警察官必携の執務資料として、外国人は入管法、薬物事犯、銃刀法等、何でもあり、必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持ち、徹底した追及、所持品検査、入国管理局への照会、所要の捜査を行うと徹底してきたようなレイシャルプロファイリングは一掃されなければなりません。
政府はしきりにルールを守ってもらうと言いますが、国際人道法、国際人権水準に反しているのは政府・与党、入管の方ではありませんか。戦後も入管行政に底深く続く外国人差別と排外主義から抜け出す第一歩として、この条項は削除すべきであります。
また、在留カードとマイナンバーカードの一体化によるプライバシー侵害の危険は重大です。
反対する第二の理由は、人権侵害を繰り返してきた技能実習制度の廃止こそ出発点だったにもかかわらず、育成就労と言い換えるだけで、看板の掛け替えにさえなっていないことです。
失踪はこの五年間だけでも四万人に上りますが、その原因究明と再発防止は曖昧にされ続けてきました。個々の失踪者の実情は業所管省庁には知らされず、能登半島地震では何人の実習生がどこで被災したのか、その数さえ政府はつかんでいないことが大問題となりました。
外国人労働者を一人の人間、住民としてきちんと受け入れていくためには、入管支配から脱却し、国境を越えた移住労働として、正面から職業安定、労働者保護に取り組む根本的転換が必要です。
転籍について、法案は、実習先の不正行為などやむを得ない場合に加え、本人の意思による変更を可能とするとしていますが、転籍の自由は、不当な搾取から自らを守り、労使対等を実現する最も中核的な権利であり、その期間制限は不当です。有識者会議は一年が相当としましたが、法案はさらに、最大で二年とし、三年の育成就労では事実上転籍ができないことになりかねません。
また、日本語や技能の修得を要件とすることで、日本語教育をしない、技能試験を受けさせない不当な監理支援機関や就労先ほど転籍できなくなるのは根本的な矛盾です。
監理団体はどうか。研修制度以来、外国人労働者を食い物にしてきた悪質なブローカー、人材ビジネスと利権の温床になってきたのに、監理支援機関と看板を掛け替えるだけです。
五年で四万人の失踪者に対し、監理団体の許可が取り消されたのは四十八件にすぎません。監理費の不当を理由に許可が取り消されたことは一件もありません。一人当たり月八万円以上もの監理費は不当です。それも一概に申し上げるのは困難として容認し、事実上野放しにし、もたれ合ってきたのです。これでは、幾ら悪質な関係者を排除するといっても、何も変わらないではありませんか。
育成就労への派遣解禁は重大です。派遣手数料の更なる負担は労働者の待遇を更に悪化させ、新たな搾取の仕組みになりかねません。
さらに、法案は、送り出し機関への手数料の上限や、育成就労の受入れ分野、業務や技能、求められる日本語能力、さらに転籍制限の期間など、受入れの重要な基準を主務省令に委ね、その中身はこれから業界団体と相談しながら検討するというだけです。人権侵害を生み出してきた構造に反省なく、人手不足対策だと前のめりの政府に白紙委任などできるはずもありません。
今日は名前は伏せますが、手の届きやすい価格帯でおいしいと人気の大手菓子チェーンで特定技能労働者が生産計画の都合で何か月も待機させられ、その間、給与ももらえない事態が現に起こっているのではないか。法務大臣は、現にそういうことが起こっていると思われますと認めながら、適切な指導など、法務省だけで決められるものではないかもしれませんとはっきりしません。
育成就労を接続してキャリアアップを図るという特定技能も、安価な労働力として使い捨てにされているのが現実なのです。
日本経済が直面する最大の課題は、実体経済の抜本的改革であり、賃上げと非正規雇用の打開こそ要です。外国人労働者をなお安価で都合の良い単純労働力と考えるなら、経済転換も人手不足打開もありません。
こんな人権後進国のままでいいはずがない。人があって材がある。横浜華僑総会の曽参考人の言葉に学ぼうではありませんか。
苛烈な外国人差別と迫害の歴史、真の共生社会への強い要求を真正面から受け止め、日本共産党は全力を尽くす決意を申し上げ、討論といたします。(拍手)