○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
警察庁にまずお尋ねをいたします。
愛知県警、愛知県警察本部地域部地域総務課が出している若手警察官のための現場対応必携という執務資料、二〇〇九年四月付けの資料があります。
皆さんのお手元にその内容を記載した裁判の訴状の抜粋をお配りしていますけれども、そこにあるとおり、この執務資料には、十五、不良来日外国人の発見という、題する項があって、次のような記述があります。大きく三項目、私の方で紹介をします。
心構え、旅券を見せないだけで逮捕できる、エクスクラメーションマーク、外国人は入管法、薬物事犯、銃刀法等、何でもあり、エクスクラメーションマーク二つ、応援求め、追及、所持品検査を徹底しよう、エクスクラメーションマークを三つも付けています。
対応要領、一見して外国人と判明し、日本語を話さない者は、旅券不携帯、不法残留、ごめんなさい、不法在留、不法残留、薬物所持、使用、拳銃、刀剣、ナイフ携帯等、必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持ち、徹底した追及、所持品検査を行う。
もう一つ。旅券を提示しても必ず本署へ同行する、理由は偽造旅券の疑い、不法在留等の疑い、特に中近東系(イラン人等)は薬物密売、それに絡む抗争事件の関係者の疑いがあるので、刑事課に報告するとともに、入国管理局への照会を行い、以後所要の捜査を行うこととなる。
こうした記述は現にあるんですが、警察庁、事実ですね。
○政府参考人(和田薫君) 御提示の資料については確認することができない旨、愛知県警察から報告を受けております。(発言する者あり)
○仁比聡平君 どよめきの声が議場から上がっていますが、二〇〇九年四月ですよ、二〇〇九年四月。ほんの十五年前でしょう。これも確認できないと。それで警察が成り立つんですか。捜査が成り立ちますか。警察行政が成り立ちますか。
執務資料、こういう若手警察官のための現場対応必携という執務資料が存在するというのは、これは愛知県警も認めているわけですね。
○政府参考人(和田薫君) 繰り返しになりますが、御提示の資料については確認することができない旨、愛知県警察から報告を受けております。
○仁比聡平君 愛知県警も愛知県警なら、警察庁も警察庁ですよね。
五月二十八日の当委員会の答弁、議論で福島みずほ議員が、在留カードの常時携帯義務違反の摘発例について、二〇二三年は六件にすぎないと、立法事実はないではないかと、その対比で二〇一四年は千五百九十四件もあったと、これ何でこんなに違うのかという質疑がありました。そのとき、警察庁はこう答弁をしたんですよ。昔のことでもあり、確たる理由については判然としないと。二〇一四年、十年前のことも昔のことですか。
これ、あるものはあるんですね。今更ごまかそうとしているのは、どこまでやましいことをしてきたか、そのことの自白にほかならないと私は思います。
警察庁に改めて、この資料の存在と記載の内容を調べて、この当委員会に報告してください。理事会で協議をいただきたいと思いますが、委員長、お願いします。
○委員長(佐々木さやか君) ただいまの件につきましては、後刻理事会において協議いたします。
○仁比聡平君 大臣、歴史から目を背けてはならないんですよ。どれだけ苛烈な差別や迫害が行われてきたのかというその歴史そのものを知り、だからこそ真の共生社会を求める強い要求がある、そのことを正面から受け止める責任が私たちにあるのではありませんか。
二枚目の資料、大臣、ちょっと見てください。
これは二〇二二年九月に東京弁護士会が調査結果を報告した資料ですが、レーシャルプロファイリングによって過去五年の間に職務質問の経験があるという方々が、二千九十四人の回答のうち六二・九%、六割を超える。かつ、質問を受けた回数は二回以上が七二・七%に上るんですね。中には、六回から九回も五年の間に次々職務質問を受けたという方が一〇・八%、十回以上という方も一一・五%いらっしゃるんですよ。
個別の、自由記載のところ、そのまま紹介します。
見た目だけで薬などを持っているのではと疑われた。終始乱暴で失礼な態度で、いきなりズボンを脱がされ、下のものを見られた。侮辱的だし差別的。とても心が傷ついた。何も持ってないのを確認したら、謝りもせず、脱がせたまま立ち去っていった。本当に失礼だし、警察官としてあり得ない。警察庁、そのとおりでしょう。
もう一人の方はこうおっしゃっています。
敷地から十歩も離れていない自宅のごみ捨場で声を掛けられ、在留カードを所持していないことで交番まで連行された。学生証を見せて、在留カードは家にあるから、家まで同行してもいいから見せますとお願いしたものの、扉出る瞬間から在留カード所持していないと犯罪と言われた。そのまま警察署まで連行され、三、四時間ほど、全身を触られ、指紋を取られ、経緯を質問された。その後、パスポートのコピーが必要とのことで警察車で家までまた行かれて、自宅やパスポート、自分の顔の写真を二十枚、三十枚撮影された。また、在留カードについてもコピー取りたいから一か月内に警察署まで来て提出しろと言われていたので提出はしたが、自宅から警察署がかなり遠くて大変だったと。
在留カードがあるんですよ。つまり在留資格があるんですよ。そうした外国籍住民の方々にこんな仕打ちをしている、このことについて、大臣、どんな御認識ですか。
○国務大臣(小泉龍司君) 一般論として申し上げますが、外国人に対する不当な差別や偏見はあってはならないものだと認識をしております。
今回の、今御指摘がありましたこの資料に関しては、法務省の所管外で、警察官の職務質問という法務省の所管外の事柄であり、法務大臣としてお答えすることは困難であることを御理解いただきたいと思いますが、我が入管庁に関して申し上げれば、入管庁においては、人権と尊厳を尊重し礼節を保って職務に従事することなどを内容とする出入国在留管理庁職員の使命と心得を策定しており、摘発の場面にかかわらず、全ての入管職員が意識を持って職務に従事しているものと認識しておりますが、なおしっかりと督励をしていきたいと思います。
○仁比聡平君 大臣がおっしゃるようなことなら、仮放免者への人権侵害やウィシュマさんの事件なんて起こらないんですよ。何を言っているんですか。
第一、所管外と今おっしゃいましたけど、所管外じゃないでしょう。警察はこうやって摘発をしたら入管に照会すると言っているじゃないですか。当たり前ですよね。戦後、入管と警察は、入管法違反の摘発において、警察による防犯、捜査活動と密接一体に連携してきた。これは当たり前でしょう。警察と入管が別々ですなんて成り立たないでしょう。逆に、どう連携してきたのか、どう密接にやってきたのか。密接にやらないと、この法案においての、この法律に規定する義務違反の端緒さえつかめないでしょう。
丸山次長、そうなんじゃないんですか。
○委員長(佐々木さやか君) この際、申し上げます。
傍聴の方は御静粛にお願いいたします。
○政府参考人(丸山秀治君) お答え申し上げます。
一般論として申し上げれば、入管法に規定する義務の違反を入管庁が認知する端緒としましては、入管庁の職員が業務を遂行する中で在留カード不携帯等の義務違反を把握する場合や、本法案で新設します第六十二条の二の規定に基づき国又は地方公共団体の職員からの通報により義務違反を把握する場合が想定されるところでございます。
○仁比聡平君 国又は地方の職員って、つまり警察官のことでしょう。警察署のことじゃないですか。捜査活動でも、あるいは行政警察活動でも。第一、二〇〇九年に特別永住者への外国人登録証、在留カードの常時携帯義務をなくしていくときに、永住者についてはこれは残したと、そのときに入管は、即時確認の必要があると述べました。その即時確認というのは、それは入管もやるかもしれないけど、圧倒的には警察官がやるわけですよ。
この東京弁護士会のアンケートに表れているように、自宅から十メートルのごみ捨場に行っているだけなのに、おい、こらと声を掛けて、在留カード見せろと言うわけですよ。そこで即時に出せなければ警察署まで連れていくわけですよ。その武器として、常時携帯義務を永住者にも課してきたわけでしょう。
今回の法案で、この法律に規定する義務とは何かと以前の委員会で問いまして、理事会に入管庁がそれを、これで全部ですと、二十七項目に分けて、改正法案第二十二条の四第一項第八号のこの法律に規定する義務違反として取消し事由に該当し得る場合という表をお出しになりました。
これで全てだということなんですけれども、この中身、もう本当に広いですね。在留カードについて言うと、常時携帯義務だけじゃありませんよね。記載事項の変更届などが、例えば十四日という制限があって、これを超えたら罰則でこれを担保している。
代理届に関するものなどもありますが、日本籍住民とは違って外国籍住民にはこんな重い義務が刑罰をもって課されているのかと驚きますけれども、つまり、刑罰が科されている以上、これが全部警察活動の対象になりますよね。それが端緒だということですね、次長。
○政府参考人(丸山秀治君) 今般、入管法、いろいろ罰則がございますので、その罰則が関わる事務については警察等の取締りの対象になるものも、一部、まあ過ち上の部分はあろうかと思います、そこはちょっとならないのかと思いますけれども、罰金刑とはなろうと思います。
○仁比聡平君 資料にお配りしましたが、理事会にこう説明したじゃないですか。今申し上げているこの法律に規定する義務とは、出入国管理及び難民認定法が定める永住者が遵守すべき義務全般をいい、第九章(罰則)によって、入管法上その遵守が担保されているものをいう(退去強制事由に該当するものを除くと。これでしょう。
○政府参考人(丸山秀治君) お答え申します。
ただいま委員読み上げの部分については、理事会で御説明させていただいた資料でございます。
○仁比聡平君 そうなると、大臣、つまり、この様々な幅の広い義務が、入管はもちろんですが、警察によって、それから公租公課などに関しては国や自治体の職員からの通報によって、取消し事由の対象として入管のまないたの上にのってくるということになるわけですよ。それが何を意味するかと。
横浜華僑総会の顧問の曽参考人が五月三十日の参考人質疑の中で、次のように述べられました。
ちょっと政治的な対立が入ってきたときに、日本の警察が台湾側の肩を持つんですね。そうすると、いつも大陸側に対してマークをするみたいなことをやります。例えば、パスポートを欲しいんだったら大陸の学校をやめてこっちへ来なさいみたいな、そういうのが実は日本の官憲と一緒になってやっていたという。だから、個々人に対してはもうやっぱりマークするような立場で、結局は、在留カードじゃなくて登録票ですね、そういう例がたくさんありますと。
こういう苛烈な差別や迫害、その歴史をちゃんと我々が学んで、永住者の生活の基盤であるこの法的地位、在留資格をもっと安定的なものにする、それが私たちのやるべきことじゃありませんか。
○国務大臣(小泉龍司君) 今回の措置は幅が広い義務違反だという御指摘もありましたけれども、最終的に、当事者の話を聞いて、一方的、機械的に取消し事由に当たるという判断をするものではありません。また、取消し事由に当たったとしても、それが必ず取消しという形ではなくて、変更という措置に多くの場合はなっていくであろうと、そういう段階を踏んでいくわけであります。
そして、今委員がおっしゃった、歴史の中で様々な人権侵害が、差別が行われてきた、そういう事実については、もちろんそれをしっかりと踏まえてそういうものを乗り越えていく、そういうものを直していかなければならないと思います。共生社会をつくるというのは、もちろんそういう営みも重要な要素として入っていると思います。
ただ、一方で、在留されている方々、永住者の方々も含めて、日本のルールにも従ってもらわなければならない、こういうふうにお願いをしなければならない部分もあります。双方向の努力、双方向の信頼関係で共生社会というのは成り立っていくんだというふうに私は考えます。
○委員長(佐々木さやか君) この際、申し上げます。
傍聴の方は御静粛にお願いいたします。
傍聴人は、傍聴規則により、議事に関する賛否の表明その他議事の妨害になるような行為は禁止されております。これに従わないときは退場を命ずることもありますので、念のため注意を申し上げます。
○仁比聡平君 思わず声を上げなければならないほどひどいことが目の前で強行されようとしているわけですよ。だから怒りがほとばしるんです。当然のことだと私は思います。
今、大臣、ルールとおっしゃいましたけど、話も聞かずに一方的に取り消したら駄目なのは当たり前ですよ。いきなり取消しじゃなくて変更するというけど、それは、取り消すぞという広範な行政裁量を振りかざして行われるわけでしょう。そこが、それ自体が永住者に対する深刻な差別にほかならないと広範な声が上がっているわけです。
大臣、せんだって、様々な悪質と考えられる事案というふうにしかおっしゃいませんでした。今日、少し詳しく幾つかほかの例も出されましたけど、一度永住者になってしまうと後は払わなくていいんだと明言している例、それを大臣は悪質だと判断されたんでしょう。そして、それがこれから悪質だと判断される典型例だとおっしゃるんでしょう。けれど、仮にも在留資格を取り消す理由にするんであれば、それを、悪質性というのを、大臣が悪質だと思ったということでそのままにしたら基準として意味はないですよね。悪質というその判断の基準は何なんですか。
○国務大臣(小泉龍司君) 突き詰めていけば、あえて支払をしない場合に、永住者という在留資格を認めた前提を、あえて公租公課についての支払をしない、あえて滞納で行くということを自らの意思で決めたということは、在留資格を認めた前提、永住者という在留資格を認めた前提を自らの意思で許可後に欠くに至る、放棄するという点において、永住者の在留資格を認め続けることは相当ではないと考えられます。これが、あえてあるいは故意にというふうに申し上げていること、そして、それを平たく言えば悪質だという要素、ここに、そういうふうに申し上げることができると思います。
○仁比聡平君 やっぱり分からない。この本当の最後になってきてもまだ分からない。
前回は自民党の質問に対して、本人に帰責性があるとは認め難く、やむを得ず支払えないような場合には必ずしも悪質とは言い難いというような旨の答弁もありましたけれども、結局それを判断するのは入管であり法務大臣ですよね。そうすると、取消し事由として具体的な不払の金額や回数も規定することは相当でないと入管庁言いますから、自治体や国税庁としては、結局、滞納全件を入管に通報することになるんじゃないのか。だって、判断は、悪質かどうかの判断は入管にしかできないって話になるわけでしょう。
横浜市の担当者の方が華僑総会の曽さんの訪問を受けてこう述べられたという報道があります。
中華街や中華街に暮らす皆さんは横浜市にとって経済的、文化的に重要な財産です。一緒に町づくりをしてきた仲間であり、不安は理解できる。曽顧問が言うように立法事実を欠いたまま法案が出てきたのなら、同じ公務員として異例との感想を抱く。滞納の問題が起きたとしても、国籍にかかわらず粛々と徴税の手続を進めればいいはずだと。
これが当たり前の姿だと思いますよ。住民と自治体の協働にくさびを打ち込んで入管が我が手のひらに乗せるようなこと、それは共生への重大な逆流だということを厳しく指摘をして、時間がなくなりましたので私の質問を終わります。
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平です。
我が党は、審議の終局に反対いたしました。それは、法案の意義そのものがいまだ定まっていないからです。とりわけ、永住者の資格取消しの要件、育成就労の重要事項の大方が委ねられる主務省令の在り方、そうした問題について、更に参考人質疑を含めた徹底した審議を尽くすことがこの参議院法務委員会の責務ではないかと強く申し上げましたが、委員長は、理事会派が……
○委員長(佐々木さやか君) 傍聴人の方は御静粛にお願いいたします。
○仁比聡平君 了承したとして、この委員会に終局を諮ることもなく終局をされました。断固として抗議を申し上げます。
会派を代表して、議題となっております出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案に対し、修正の動議を提出いたします。
その内容はお手元に配付されております案文のとおりですが、概要を申し上げると、第一に、入管法第二十二条の四第一項に新たな第八号及び第九号を追加する改正規定、すなわち永住者に対して、入管法に規定する義務を遵守せず、又は故意に公租公課の支払をしないことなどを在留資格取消し事由とする規定を削除して、行わないこととし、第二に、これに伴い、永住許可の要件明確化に関する同法第二十二条第二項の改正規定及び国又は地方公共団体の職員の通報を定める同法第六十二条の二を加える改正規定を削除して、行わないこととすること、その他所要の規定を整理することです。
その趣旨について御説明申し上げます。
永住者は、本来在留期限や活動に制限がない最も安定した在留資格です。その法的地位は、その方々が日本社会で暮らしている歴史的背景や定着性に照らし、より安定したものとされなければなりません。
ところが、法案は、その在留資格を軽微な義務違反の摘発や通報を契機として取り消し得る不安定な地位へと百八十度変えようとするものです。安定した生活の根幹であり人格的生存の基盤である永住資格の取消し事由を拡大しようとする政府から、その必要性すなわち立法事実は、最後まで具体的、明確に示されることはありませんでした。
結局、法案は、入管が、公的義務の不履行、すなわち国家にとって好ましい振る舞いをしないと見た永住者に対し、在留資格を根本から取り消し得る行政裁量をもって在留管理のまないたにのせ生殺与奪の権を握ろうとするものであり、そうした立場に置くこと自体が深刻な外国人差別であり、抜き難い排外主義の現れです。永住者の重要な権利を制約しようとする目的自体、不当と言わなければなりません。
政府は悪質な義務違反への対応だと言いますが、仮にそうした目的のためだとしても、法案の規定は目的達成の手段として余りに過度で広範であり、権利制約規範として極めて不明確です。
審議最終盤になって、入管庁は、本人に帰責性があるとは認め難く、やむを得ず支払えないような場合には必ずしも悪質とは言い難い、そのような場合は故意とは言えない旨の答弁をするに至りましたが、そもそも条文自体にはそのような限定は一切なく、そのような読み方は法令用語として不合理と言わざるを得ません。ガイドラインを作ると言いますが、それは行政裁量の運用方針でしかなく、権利制約を正当化する根拠にはなりません。
こうして法案は、入管庁の広範な行政裁量による恣意的な永住資格の取消しという大きな危険を新たに生み出すものであり、予見可能性なく永住者の生活を萎縮させ、ひいては外国籍住民全体の地位を不安定にしかねないものです。
戦後も、出入国管理行政に底深く、抜き難い外国人差別と排外主義から抜け出す一歩とするために、何とぞ委員各位の御賛同を呼びかけ、提案理由の説明といたします。
以上です。
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
自民党政治の外国人差別、排外主義はどこまで底深いのかと。昨年、難民申請者から送還停止効を奪う改悪入管法がこの委員会で強行されました。今度は、永住者の在留資格取消し拡大法案を突然持ち出して、こうして強行する。
反対理由繰り返しませんけれども、断固としてこの二法案には反対です。大臣はしきりにルールを守ってもらうと言いましたけれど、ルールと言うなら、国際人道法、難民条約など、国際人権水準に反しているのは、政府・与党、入管行政の方ではありませんか。
第二に、育成就労創設する法案について。技能実習制度の廃止こそ求められ、政府の検討においてもそれが出発点だったはずにもかかわらず、技能実習を育成就労と言い換えただけで、看板の掛け替えにもなっていないからです。人権侵害の防止、是正と言いながら、その担保はありません。増え続けている失踪者についても、その原因究明、再発防止はあやふやにされ、本法案でも温存されかねません。
転籍についてはどうか。やむを得ない場合に加え、本人の意思による就労実施者の変更を可能とすると言いながら、転籍の自由の保障とは言い難い内容です。労働者にとって転籍の自由は不当な搾取から自らを守る最も中核的な権利であり、だからこそ、その期間制限は有識者会議で一年が相当とされました。ところが、法案は最大で二年とし、これでは育成就労三年のうち二年間の間は転籍できず、結局実質的に転籍はできないことになりかねません。
また、法案は、研修生制度以来、外国人労働者を食い物にする悪質なブローカー、人材ビジネスの温床構造となってきた、その中心にある監理団体を監理支援機関と看板を掛け替え、そのままにしています。監理費は実費と言いながら、不当な監理費を理由として監理団体の許可が取り消されたこともありません。悪質な監理団体を排除するどころか、野放しにし、もたれ合ってきたという批判を免れないではありませんか。
さらに、育成就労に派遣形態を解禁することは大問題です。派遣手数料の更なる負担は、育成就労労働者の待遇を悪化させることになります。新たな搾取の仕組みになりかねない派遣形態の育成就労はやめるべきです。
そして、法案は、基本方針や分野別運用方針はもちろんのこと、業務、技能、日本語能力などの目標や内容、外国人労働者が送り出し機関に支払う手数料の上限など、育成就労労働者を適正に受け入れる基準について、数々の問題を主務省令で定めるとしかしておらず、審議でその中身を聞いても明らかにできないままです。
数々の人権侵害を生み出した構造に反省なく、人手不足対策にのみ前のめりの政府に白紙委任するなど、立法府として断じてやってはならないことです。
在留カードとマイナンバーカードの統合により、プライバシー侵害の危険も重大です。
人手不足社会を打開するには、そもそも、日本経済の実体経済の抜本的改革、中でも抜本賃上げ、非正規の打開こそ必要なのではありませんか。外国人労働者を安価で都合の良い単純労働者となお考えるなら、経済の転換にも人手不足打開にも逆行をしていきます。
国境を越えた移住労働は当然であり、横浜華僑総会の曽参考人が述べられたとおり、人があってこそ財がある、永住者を始め、外国人労働者、外国籍住民の法的地位の安定と難民条約に基づく難民認定、入管収容、仮放免における苛烈な人権侵害の打破、こうした人権後進国を抜け出す我々の取組こそ本当に大切だということを改めて強調し、日本共産党はそのために全力を尽くす決意を申し上げて、反対討論を終わります。
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