○仁比聡平君 私は、日本国憲法が保障する豊かな人権の実現こそ、我々が取り組むべき喫緊の憲法問題であることを強調したいと思います。
同性婚について札幌高等裁判所が、恋愛や性愛は個人の尊重における重要な一要素であり、これに関わる性的指向は生来備わる人としてのアイデンティティーなのだから、個人の尊重に関わる法令上の保護は同性愛者も同様に享受されるべき重要な法的利益であり、憲法二十四条一項は婚姻の自由、すなわち、結婚するかどうか、いつ誰と結婚するかは当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきことを定めているのだから、同性間の婚姻も異性間の場合と同じ程度に保障されることを明らかにし、同性婚を認めない現行民法及び戸籍法は少なくとも現時点において立法裁量の範囲を超え、憲法二十四条、十三条、十四条に反するとした判決から私たちは何を学ぶべきでしょうか。
そこには、制定当時は想定されていなくとも、個人の尊重についての認識の明確な発展を背景に、自由と人権の保障は全ての人に享受されなければならないという姿勢があります。それは、本来、国会こそ持たなければならない姿勢です。これだけ裁判所の違憲判断が積み重なってなお、極めて慎重な検討を要すると背を向け続け、特定の家族観を人々に押し付け苦しめる政府・与党に憲法改定を語る資格はありません。政府は人権侵害の苦しみを何だと思っているのか。
五月一日、水俣病の公式確認六十八年目の慰霊式典当日、環境大臣と患者団体の懇談の最中に、被害者の発言が三分を超えるや、政府職員が話を遮り、マイクの音を切り、取り上げて、怒号が飛び交う事態になりました。国は、加害企業と並ぶ水俣病被害発生、拡大の加害者であり、患者救済の重い責任からどうしたって逃れることはできないのに、政府・与党にはその自覚さえないのではありませんか。
一年前、政府・与党が押し通した改悪入管法の根底には、国家にとって好ましくない外国人の在留を禁止し、強制的に退去させるという、底深い外国人差別と排外主義があります。外国人の人権は在留制度の枠内で与えられているなどと言って、人間としての当然の権利を認めない時代錯誤に無反省のまま、選ばれる国になどなれるわけもありません。
こんな人権後進国のままでいいはずがない、この声こそ正面から受け止め、憲法の実現に力を尽くすべきことを求め、意見といたします。