○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、育成就労の創設、永住資格の取消し拡大など、入管難民法、技能実習法等改定案について、総理及び関係大臣に質問いたします。
まず、我が国の人手不足の実態と政治の責任について、本法案の衆議院代表質問で、自民党議員から我が国における労働力確保策を問われた総理が極めてあっさりと、働き方改革に取り組むこと等により、女性、高齢者などの活躍を促進し、引き続き人材確保に取り組んでまいりますと答弁して済ませたのには驚くほかありませんでした。総理にはその程度の認識しかないのですか。
失われた三十年という長期にわたる経済の停滞、衰退は国民生活に深刻な困難をもたらし、そこに円安、物価高騰の打撃が加わっています。この十年で実質賃金は増えるどころか年間二十四万円も減っている、世界で異様な賃金が上がらない国、日本。その最大の要因は、財界の要求に応えて労働法制の規制緩和を繰り返し、低賃金で不安定な非正規雇用を四割にまで広げてしまったことにあるのではありませんか。
消費税の連続増税、年金、医療、介護など社会保障の負担増と給付削減が繰り返され、世界有数の高い学費や貧しい奨学金によって若者が背負わされている借金は、この三十年間で七倍、総額十兆円に上ります。
総理、その自民党政治に反省はないのですか。政治の責任で抜本賃上げと待遇改善を進める、人間を大切にする働き方への改革こそ焦眉の課題ではありませんか。
農業、農村ではどうか。深刻な後継者不足の下、衆議院の宮城公聴会でもJA宮城中央会の佐野和夫会長が、農業現場の人材がなくなったという一番は、労働に見合う収益がないということ、つまり、生産物の価格が転嫁されていないというのがずっと続いていることが一番である、やはり対価をしっかりと生産物に組み入れていただいて、再生産できる体制づくりを取ることによって、後継者も農村地域も潤って活性化が成り、人材もそこに育っていくというふうに思っておりますと述べられたとおりです。
農水大臣、生産コストを償う価格保障、所得補償こそ農業における人手不足打開の決め手ではありませんか。
建設労働者の減少、高齢化に歯止めが掛からない中、建設業の持続可能性を考えたとき、処遇改善と担い手確保、育成はもはや一刻の猶予もありません。若者の入職を阻んでいる低賃金、長時間労働、完全週休二日の低い割合の打開こそ喫緊の課題ではありませんか。設計労務単価を引き上げても現場で働く労働者に回らない多重下請構造をどう正すのですか。国交大臣にお伺いします。
そうした失われた三十年の当初、労働者であることも労働法も、労働法の適用も認められず、奴隷的な単純労働力としてその酷使が大問題になったのが研修生制度でした。一九九三年、それに接続して技能実習生が創設され、当時数百人だった技能実習生は、労働者としての保護が課題となった二〇一〇年改正、二〇一七年の技能実習法、また二〇一九年の特定技能創設の制度改定を経て急増を続け、令和五年末で四十万四千五百五十六人、特定技能二十万八千四百六十二人、合わせて六十一万三千十八人に上っています。
総理、能登半島地震の被災地で浮き彫りになったように、技能実習生や特定技能労働者は、既に地域経済にとってなくてはならないレギュラーメンバーなのではありませんか。
一方、入管庁の言う失踪者はこの間も急増し、令和四年で九千六人に上ります。その原因をどのように分析し、なくしていくのか。法務大臣、農水大臣、国交大臣にそれぞれお尋ねします。
安価で都合よく働く単純労働力としてのみ受入れ拡大を重ねてきたいびつな在留管理政策によって、人間として当然の家族帯同や永住は認められず、差別的低賃金と不当待遇、転籍の自由を認めない奴隷的労働で、多額の借金を背負わされ、ブローカーの食い物にされる深刻な人権侵害が後を絶ちません。職場での暴力やセクハラ、パワハラ、最低賃金違反や賃金未払などの労働関係法令違反が繰り返され、失踪者も増え続けています。
総理、長年にわたってこの事態が改善されないのはなぜだと考えますか。
経団連は、二〇二二年二月、今日、我が国は国際的な人材獲得競争に劣後しつつあると提言しましたが、労働者としての人権を認めない恥ずべき身勝手の挙げ句、自縄自縛に陥っているというべきです。外国人労働者を使い捨てにしてきた自民党政治を根本から改めるべきです。以上、総理の基本認識を伺います。
ところが、本法案で技能実習に代わるものとされる育成就労は、看板の掛け替えにもならないのではないか。
技能実習制度の人権侵害構造の根本には、移住労働者を食い物にする送り出し機関や監理団体、受入れ企業を排除し切れない仕組みと、労働者自身が生活と権利を守る最後のとりでである転籍の自由を認めないことがあります。
本法案でも本人の意向による転籍を制限する理由について、法務大臣は、労働者として適切に権利保護していく制度として、制度の魅力を向上させる、そういう観点に立てば一年を目指すのが相当と言いながら、人材育成上の懸念、人材流出の不安を強調し、最大で二年までの範囲内で制限を認めることとしたと答弁しています。
結局、日本人が定着しない職場に来てもらって囲い込みたいというのが本音ではありませんか。その制限期間は当該産業分野を所管する省庁が政令で定めるといいますが、どのような基準で定めるというのですか。法務大臣、お答えください。
福島大学の坂本恵教授は衆議院の公聴会で、門戸を開けば外国人労働者が押し寄せる時代は既に終わったということを知るべきです、指摘されました。純粋で黙々と働く途上国の若者に来てほしいなどというのは今や幻想です。
総理、外国人で穴埋めをしようという発想はもう拭い去るべきです。いかがですか。
国境を越えた移住労働は当然です。外国人労働者が自身の意欲に沿い、キャリアアップと将来設計を描ける人間らしい労働を実現するには、求職者と求人企業のニーズのマッチング、すなわち労働条件の事前明示とその履行確保こそ重要だと考えますが、厚生労働大臣、いかがですか。
最後に、永住資格の取消し事由拡大について総理に伺います。
永住者は、日本国内で居住していても、加齢、病気、事故、社会状況の変化など、長年日本で生活していくうちに許可時の条件が満たされなくなることは起こり得ます。税金等の少額未納が発生した場合や、過失犯も含めた軽微な犯罪の場合に在留資格を取り消されることがあり得るという立場に置くこと自体、永住者に対する深刻な差別であると考えます。
これは、在日本大韓民国民団の声明の一節です。横浜華僑総会を始め在日華僑団体は、連名で、日本と中国の交流は長い歴史があります、現在、日本で生まれ日本語しか分からず、日本にのみ生活基盤を有する二世から六世の永住者も多く、全てが日本市民と共に善良なる市民として地域社会の発展に貢献しています、この度の日本政府の入管法改定案は永住者の生活、人権を脅かす重大事案と認識し、是正を強く求めますと声明を上げています。こうした声をどう受け止めますか。
総理は、一部において公的義務を履行しない場合があるといった指摘があると言いますが、具体的にどのような事実があるのですか。こんな抽象的な理由で、有識者会議で話題にもならなかった永住資格取消しを突然持ち出し、押し付けるのは、むき出しの排外主義を世界に発信することにほかならないのではありませんか。こんな人権後進国であっていいはずがない。
本院における徹底審議を求め、質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣岸田文雄君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(岸田文雄君) 仁比聡平議員の御質問にお答えいたします。
賃金が上がらない要因や、抜本的な賃上げと待遇改善を進めることについてお尋ねがありました。
我が国経済は、バブル崩壊以降、長引くデフレ等を背景に、他国と比べて低い経済成長が続き、この間、賃金や成長の源泉である投資を抑制せざるを得ず、結果として消費の停滞や経済の体温とも言える物価の低迷、さらには成長の抑制をもたらしたことから、賃金が伸び悩んだと考えています。
政府としては、長年にわたり染み付いたデフレ心理を払拭し、賃金が上がることが当たり前との方向に社会全体の意識を一気呵成に変えていく必要があると考えています。昨年を大きく上回る春季労使交渉での力強い賃上げの流れに加え、来月からは一人四万円の所得税、住民税の定額減税を行い、物価上昇を上回る所得を必ず実現してまいります。
さらに、物価上昇を上回る賃上げの定着に向けて価格転嫁の取組の強化や省力化投資の支援等を進めるほか、持続的に賃金が上がる構造をつくり上げるために、リスキリングによる能力向上支援等による三位一体の労働市場改革を働く人の立場に立って進めるとともに、非正規雇用労働者も含め働く方々が能力を発揮し、公正な待遇を得て働けるよう、働き方改革を推進してまいります。
技能実習制度の改善や外国人労働者の在り方についてお尋ねがありました。
受入れ機関が労働基準関係法令違反に至る理由や、技能実習生が失踪に至る理由は様々であり、一概にお答えすることは困難ですが、一部の受入れ機関の遵法意識の欠如や監理団体による指導監督の不十分さ、技能実習生側の経済的な事情等が影響しているものであると考えております。また、本人意向による転籍が認められておらず、労働者の権利保護が不十分であるなど、制度的な問題も認められたところであります。
政府においては、これまでも技能実習法の制定、運用など、制度の改善や適切な運用に努めてきたところですが、今回、様々な指摘も踏まえ、制度自体を抜本的に見直し、技能実習制度に代わる制度として育成就労制度を創設することとしたものであります。
育成就労制度では、人材育成と人材確保を目的とした上で、本人の意向による転籍を認めるなどの転籍制限の緩和や、受入れ機関や送り出し機関の適正化など、制度全体を適正化するための方策をしっかりと講じているところであり、外国人が使い捨てにされるといったことがないよう、受け入れた外国人材の育成や日本人と同等の待遇確保にしっかりと取り組んでまいります。
外国人材による人材確保の在り方についてお尋ねがありました。
外国人材の獲得に係る国際的な競争が激化している状況等に鑑みると、単純に外国人を受け入れるのではなく、外国人にとって魅力ある制度を構築し、選ばれる国になることが必要不可欠であると認識をしています。
そのためには、外国人の人権を適切に保護することはもちろんのこと、賃金を含む適正な労働条件等の下、安全、安心に暮らし、働くことができる環境を整備することが重要であり、今般の育成就労制度はそのような観点から検討を踏まえた内容になっていると考えています。
また、政府としては、賃金水準の向上等のため、賃上げの促進、イノベーションや生産性向上に向けた国内投資の拡大、スタートアップの育成等に関する取組も行っているところです。
外国人から選ばれる国になるため、引き続き外国人の受入れ環境の整備に取り組んでまいります。
永住許可制度の適正化についてお尋ねがありました。
法務省においては、従前から、永住者の一部について、入管の永住許可の審査において必要とされる期間、税を納付し、許可の取得後に滞納するなどの事案があると指摘を受けており、実際に永住者に関連する審査の中でそのような事例を確認していると承知をしております。
その上で、法務省においては、このような問題に対処するため、有識者からの御意見等を踏まえ、一部の悪質な場合について在留資格を取り消すことができるとするもの、できるとするとしつつ、その場合でも永住者の我が国への定着性に配慮し、原則として他の在留資格に変更することとするなど、慎重に検討して制度を立案したものであると承知をしております。
本改正は、日本で生活する大多数の永住者に影響を及ぼすものではなく、受け入れた外国人と日本人が互いに尊重して生活できる共生社会の実現のためにも必要なものであると考えており、むき出しの排外主義などの批判は当たらないと考えております。
残余の質問については、関係大臣から答弁をさせます。(拍手)
〔国務大臣小泉龍司君登壇、拍手〕
○国務大臣(小泉龍司君) 仁比聡平議員にお答えを申し上げます。
まず、技能実習生の失踪についてお尋ねがありました。
技能実習生の失踪原因は様々であり、明確に特定することは困難でありますが、一部の受入れ機関側の不適正な取扱いや技能実習生側の経済的な事情などが影響しているものと考えております。
これまで、こうした失踪の問題も含め、技能実習法の下、制度の適正な運用に努めてまいりましたが、さらに、育成就労制度の下では、転籍制限を緩和し、労働者としての権利保護をより適切に図るなどの方策を講じることで失踪の問題の解決を図ってまいりたいと考えております。
次に、育成就労制度における転籍制限についてお尋ねがありました。
本人の意向による転籍を制限する期間については、労働者としての権利保護の観点を踏まえつつ、人材育成上の懸念等への対応として主務省令で定めることとしております。
そして、具体的な期間を定めるに当たっては、有識者等から成る新たな会議体の意見も踏まえて、政府が最終的に判断することを想定しております。また、その際には、同一の育成就労実施者の下でどの程度の期間、育成を継続して行うことが必要と認められるかといった観点等を踏まえつつ、検討を行うことになると考えております。(拍手)
〔国務大臣坂本哲志君登壇、拍手〕
○国務大臣(坂本哲志君) 仁比聡平議員の質問にお答えいたします。
農業における人手不足打開策についてのお尋ねがありました。
今後、農地などの食料の生産基盤を維持し、食料の安定供給を図るためには、次世代の農業人材をしっかりと育成、確保していかなければならないと考えております。
このため、就農に向けた様々な資金メニューでの支援や、機械、施設等の導入支援、サポート体制の充実などに取り組むとともに、農業労働力確保に向けて、労働力調整のための体制構築や魅力ある労働環境確立の取組を支援してまいります。
また、外国人材については、農業知識や科学的素養等の学習機会の提供、技能試験の円滑な実施や相談窓口の設置などの取組を支援し、中長期的に活躍できる人材を確保、育成してまいります。
なお、お尋ねのありました所得補償についてですが、農業人材の確保のために農業者の所得の確保を図ることは重要ですが、そのための方法は所得補償や価格保証ではないと考えています。
農業者や、生産性向上や付加価値向上に取り組むとともに、生産から消費に至る食料システムが共同で合理的な価格の形成を実現することにより収益性を向上することが重要と考えており、政府として、このような農業者の努力を後押ししてまいります。
次に、失踪者の失踪原因と対策についてお尋ねがありました。
農林水産省では、個別経営体からの相談などにより失踪を把握した場合には、可能な限り同じ職場の技能実習生等への聞き取りを行い、失踪理由を把握するように努めています。失踪原因については、明確に特定することが困難な面もありますが、実習実施者の不適切な取扱いや技能実習生側の事情によるものと聞いています。
また、出入国管理庁からは、業種別、国籍別の失踪者数や、失踪防止対策に係る周知啓発のリーフレット等が共有されており、これについては、農業や漁業の業界団体等で構成される技能実習事業協同組合を通じ周知に努めているところです。
その他、失踪防止のため、契約提携時における雇用条件書の提示の周知、技能実習事業協議会を通じた現状、課題の共有、相談窓口の設置や優良事例の収集、周知等の取組を行っているところであり、引き続き外国人材が働きやすい環境の整備に向けて取り組んでまいります。
以上です。(拍手)
〔国務大臣斉藤鉄夫君登壇、拍手〕
○国務大臣(斉藤鉄夫君) 仁比聡平議員にお答えいたします。
まず、建設業の担い手確保についてお尋ねがありました。
建設業がその役割を将来にわたって果たし続けられるようにするためには、担い手の確保対策を強化することが急務であります。
このため、今国会に建設業法等の改正案を提出し、適正な労務費の確保と行き渡りを図るとともに、長時間労働の是正や週休二日の導入拡大に不可欠である適正な工期設定を推進することとしました。これらは重層下請構造の是正にも資するものと考えております。
次に、外国人労働者の失踪についてお尋ねがありました。
失踪の原因としては、一部の受入れ企業側の不適切な取扱いなど、様々なものがあると認識しております。
国土交通省としましては、関係省庁と連携して失踪対策に取り組んでおり、企業の失踪防止対策についてリーフレットの周知を図るほか、建設分野独自の取組として、建設キャリアアップシステムへの登録を義務付けることで、社会保険への加入状況を見える化し、処遇の確保を徹底しているところでございます。
こうした取組を着実に進め、失踪対策に努めてまいります。(拍手)
〔国務大臣武見敬三君登壇、拍手〕
○国務大臣(武見敬三君) 仁比聡平議員の御質問にお答えいたします。
労働条件の明示とその履行確保についてお尋ねがありました。
外国人労働者に対し、適切に労働条件を明示し、その履行を確保することは重要です。
現行の技能実習制度では、技能実習計画の認定申請時に、技能実習生に対し労働条件などを母国語で説明した上で締結した雇用契約書等の提出を求めるとともに、外国人技能実習機構の実地検査等を通じて、適切な処遇が確保されているかを確認、指導等しており、育成就労制度においても同様に労働条件の適切な明示とその履行確保に努めてまいります。
以上です。(拍手)