○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
先週の連れ合いの他界に際しまして、佐々木委員長や山崎元議長を始め同僚委員の皆さん、また小泉大臣にも温かい心配りをいただき、心から感謝を申し上げます。皆さん、本当にありがとうございました。
今日は、官から民へといって小泉構造改革の中で推し進められた市場化テストによって、登記業務における官製ワーキングプアがつくり出されているという問題についてお尋ねをしたいと思います。
お手元に全国の法務局本局の地図をお配りをいたしましたけれども、この本局の下に支局、それから出張所などを含めて、全国あまねく三百九十九か所に法務局が所在をし、登記及びその証明などによって、住民の権利に直接関わる重要な業務が行われているところです。
ところが、そのうち登記事項証明書の交付などの登記簿等の公開に関わる事務、いわゆる乙号事務は、市場化テスト法の施行、二〇〇六年度当初からずっとこの十八年間、官民競争入札の対象業務とされてきました。十八年間ずっと市場化テストの対象になってきた業務というのは、この乙号事務を含めて二業務しかありません。
その下で、二〇二二年に、受託業者である日本郵便オフィスサポート、これ今度の十月まで全国二十三局において受託をするわけですけれども、ここにおいて印紙代金を着服したという事件が発覚をいたしました。
これ、どんな事件なのか、どう対処したのか、民事局長、いかがですか。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
委員御指摘の印紙詐取事件でございますが、高知地方法務局須崎支局において、乙号事務の受託事業者である日本郵便オフィスサポート株式会社の元社員が、平成二十五年十月頃から令和四年五月二十三日までの間に提出された登記事項証明書等交付請求書等のうち、少なくとも四百八十七件の請求書等について、手数料相当額の収入印紙に係る購入代金として合計百二十八万八千四百円を着服したものであると承知をしております。
法務省といたしましては、受託事業者の報告書の内容及び高知地方法務局において調査した結果から、受託事業者において委託業務を実施するために必要な業務運営体制が脆弱であることなどの不備が認められたため、高知地方法務局から当該受託事業者に対し、令和四年八月十日付けで業務運営体制の不備を速やかに是正するよう指示するなどの対応を取ったところでございます。
○仁比聡平君 業務運営体制の不備を是正するよう指示したというふうに言うんですけれども、ちょっと入札の記録を調べてみますと、この須崎支局における人員体制というのは一・八五人というふうになっているようで、恐らくフルタイムの人が一人で、あとは短時間の労働者が二人か三人かで交代するというような体制の中でこうした着服事件が起こったということなんじゃないかと思うんですけど、この業務運営に、つまり正すべき不備というのは、業務運営に必要な人員が確保できていないと、端的に言えば人が足りないと、受託している金額では必要な人が足りないと、そういうことを指摘したということですか。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
法務省として受託業者に指摘させていただいた内容といたしましては、この乙号事務の委託業務を実施するために必要な業務運営体制が脆弱であるというところが不備だということで、その是正を指示したということでございます。
○仁比聡平君 脆弱であると言っただけで何が変わるんですか。
この会社は、労働組合との誠実な団体交渉を拒否して、中労委まで争われました。中労委における和解に関する書類を皆さんのお手元にお配りしていますが、その中に、会社は、団体交渉の議題が本社が権限を有する内容である場合には、交渉権限を有する本社の者又は本社の役職を兼務する支社の者を出席させるということが和解条項の中に含まれているように、つまり、本社権限に属する事項についての団交を拒否してきたわけですね。
一年以上にわたって賃金交渉ができないという状態にこの会社の労働者は置かれていました。労使慣行さえ否定をしてきたと。これは労働関係法令に反するのではありませんか。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
委員御指摘の今の事案につきましては、法務省民事局の担当者が令和五年九月六日付けで民事法務労組支援共闘会議から緊急要請書というのを受領しておりまして、ここに、日本郵便オフィスサポート株式会社と同社の労働組合との間で労働紛争が継続し、労働委員会の手続を経て、最終的に和解が成立した旨の情報は承知をしているところでございます。
もっとも、この緊急要請書の内容によりましても、日本郵便オフィスサポートについて労働社会保険諸法令に違反する事実が直ちに確認、認定されるというものではなく、個別の民間業者に、民間事業者における労使関係の問題や係争についてコメントすることは差し控えさせていただきたいと考えております。
○仁比聡平君 私は、それが驚くべき認識だと思うんですよ。法務省は、これまでも、こうした不正事案が起こるたびに、数々起こってきたんですけど、受託事業者が賃金額などの雇用条件をどのように設定するかといった具体的な事業の遂行については、労働社会保険諸法令を遵守している限りは受託事業者の判断に委ねられるべきものと繰り返すだけですよ。その結果、この日本郵便オフィスサポート、これは千五百名ほど労働者がいるはずですけれども、これ十月以降、この会社、受託業者じゃなくなるんですね。この間、二月、三月に行われた入札に参加をしませんでした。そうしたら、千五百人どうなるんですか。
この会社は、今なお雇用は継続されるのか、有休は引き継がれるのか、賃金はどうなるのか、全く分からないという状態に労働者を置いています。そうした会社に、長年にわたって法務省の本来的な業務である登記公開業務を丸ごと委託してきたと。大臣、このことに反省はないんですか。
○国務大臣(小泉龍司君) 今局長から御説明を申し上げたと思いますが、不備があった、またそれに対して改善計画を出してもらい、また様々な指示も行ったと、こういう経緯はあります。これは非常に遺憾なことであり、確かに一つの問題点ではあると思いますが、全体として見ると、この日本郵便オフィスサポート株式会社、労働社会保険諸法令に違反するとの事実、これが確認され、認定されているわけではありません。
したがって、今後とも我々はしっかり法令遵守については把握をしてまいりますが、引き続きこのオフィスで業務を行ってもらうと、こういう判断に至ったわけでございます。
○仁比聡平君 つまり、今のような大臣のような認識で、今度の十月までこの会社が業務を行う。十月以降は受託業者じゃなくなるんだけれども、千五百人ほどの労働者はどうなるかもまだ分からないと。強い不安に駆られているの、当たり前じゃないですか。
そうした中で、労働組合が取ったアンケートの中でお二人のちょっと声を紹介しますが、お一人は、四年に一度受託会社が変わることで、有給休暇のリセット、乙号事務を理解していない受託会社及び担当者になることもあり、その都度一から説明、賃金交渉など苦労しますとおっしゃっています。もう一人は、勤続十年以上になりますが、時給は最低賃金並みの金額で、新人の方とほぼ変わらない金額です、正直、単純作業ではない仕事内容で、利用客とのやり取りで責任も大きいと感じることも多いです、入札で期間が決められているため受託会社にそこまでの責任もないのかもしれませんが、現在の乙号の責任者並みの知識と経験のある人材が定年を迎えたときにどうなるのか不安が残りますと。本当にそうだと思いますよ。
以前は民事法務協会の正規職員でした、この乙号事務を担当する労働者は。その労働者たちをこの市場化テストによって短期の三か月とか六か月雇用の不安定雇用に変えてしまって、賃金も熟練をまるで考えない、評価しない、最低賃金に張り付いた低賃金です。社会保険料の負担も免脱をする、時間外手当は不払にする、人員を削減すると。そういう中で、コスト削減と言いながら、結局適切な人材の確保を掘り崩してきたんじゃないのかと。
法務省は、実施要項の中で、要領の中で、適切な人材の確保を求めると言っていますよね。だけど、現場で起こっているのは、こうやって、持続的な、円滑で安定的な登記事項の証明始めとした業務のその継続性を掘り崩してしまったと。大臣、そう考えませんか。
○国務大臣(小泉龍司君) これは、全体のその仕組みとしては、元々国家公務員である法務局の職員が行っていた業務、これを、民間事業者の創意工夫を活用することによってより良質かつ低廉なサービスを実現するために改革が行われ、平成十九年にいわゆる公共サービス改革法が改正され、乙号業務について民間への委託が可能になりました。ですから、フレームワークとしては、民間の創意工夫、競争、そしてコストダウン、しかしサービスの質は変わらない、こういうものを目指す法律なんですよね。
そこで、これまでも民間委託業務を実施してきましたが、これまでのこのスキームの評価について申し上げれば、公共サービスの質を確保しながら経費の削減を実現することができていると、こういうふうに我々は見ております。制度趣旨にかなった運用が行われてきたと、このように認識をしております。
引き続き、この改革法の趣旨に沿った運用を進めるとともに、もちろん、受託業者による労働社会保険諸法令の遵守、これについてはしっかりとウオッチをし、また入札等の機会を通じて適切に把握、確認もしてまいりたいと思っております。
○仁比聡平君 果たしてそれが、小泉大臣の本当の政治家としての信念なのかと。これまでの小泉構造改革の下での大臣の幾つかの発言などを振り返ってみたときに、本当にそんな答弁でいいんですかと思いますね。
公共サービスの質の確保、経費の削減ができているというふうに今も大臣おっしゃった。以前、上川大臣もこの委員会でおっしゃっている。一体、誰の力で、誰の頑張りで質の確保が、辛うじてできているとすればですよ、やれているんですか。不安定で低賃金のそういう状態に置かれても、この仕事は大事だと思って頑張っているそうした現場の職員の人たちの力で辛うじて支えられているわけでしょう。それが長続きするはずがないということが現場の声じゃないですか。競争に委ねれば全てうまくいくという、その市場化テストそのものがもう破綻しているんだと。もう二業務しかないんですよ、市場化テストやっているの。この乙号事務を外すべきじゃないですか。
お手元に、十月以降もなお四つの法務局の仕事を増やして十二法務局で受託業者になる株式会社東武という受託業者について、労働組合から三月二十一日付けで出されている申入れ書をお配りしました。
お手元に御覧のとおり、印紙売場のレジ金の着服が疑われる事案の指摘や、時間外労働を認めない、あるいはハローワークの求人と異なる時給である、有給休暇が残っていても欠勤を促してくる、社会保険料を払わないような雇用契約を押し付けてくる、果ては、一月二十四日現在、年末調整もまだされていない、源泉徴収票もまだ届いていない、雇用更新契約書は遅れて届くというような数々の指摘がされています。
この実態調査も行わないまま入札を進め、契約をしたのかと、そのことが問われているんですね。大臣、少なくともこの実態調査はちゃんとやると、ちゃんと労働組合に対して調べた上で回答すると、そのことを約束すべきじゃありませんか。
法務省民事局の予算速報というのを見ると、防衛費の増額や少子化対策の抜本的強化への対応を背景として、法務省全体の予算を縮減することを念頭に、例年になく厳しい対応を求められ、物価や賃金が上昇している中にありながらも、経費の大幅な圧縮を図る観点から、この乙号事務委託経費が減額されたということだと思うんですよ。
そんなやり方やめると、まずこの実態調査やると、お約束いただけませんか。
○委員長(佐々木さやか君) 申合せの時間を過ぎていますので、答弁は簡潔にお願いいたします。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
民事法務労組支援共闘会議が作成いたしました株式会社東武に関連する申入れ書について御指摘、委員御指摘のような記載がされていることは承知をしております。
しかしながら、本年十月以降の受託業者を決定した令和五年度の乙号事務の民間競争入札におきましては、全ての入札参加者について労働社会保険諸法令を遵守していることの有無を社会保険労務士会の実態調査も行って確認した上で、各法務局、地方法務局において落札事業者を決定しているものでございます。
御指摘の株式会社東武についても同様の手続をしておりまして、その決定手続に問題はなかったものと認識をしております。
○仁比聡平君 とんでもない認識だと思います。
今日は終わります。