○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
 まず、法曹養成について、お伺いしたいと思っておりました基本的な問題は大体これまでの議論で出たところです。そこで、絞って二つだけお尋ねしておきたいと思うんですが、まず、文科省においでいただきました。
 中教審で、ロースクール支援の見直しだとか、あるいは定員削減の方策だとか、この検討のお話はこれまでも出ましたので伺いませんが、法学未修者が基本をより重点的に学べるための仕組み、この検討あるいは実施の準備というのが、昨年七月の会議においては一年以内を目途に結論を得るという課題になっていると思うんです。
 司法試験の法の改定も来年からということにもなる関係もあって、理念とか、あるいは長期的な議論はこれまでもありましたから、それは割愛いただいて、当面どのような具体化が図られるのかについて伺いたいと思います。

○政府参考人(中岡司君) お答えいたします。
 昨年七月の法曹養成制度関係閣僚会議決定におきましては、法学未修者が基本的な法律科目をより重点的に学ぶことを可能とするための仕組みについて検討することとされておりまして、中央教育審議会法科大学院特別委員会におきまして具体的な議論を行ってきたところでございます。
 本年の三月には、中央教育審議会の法科大学院特別委員会におきまして議論の基本的方向性が取りまとめられました。その中で、法学未修者に対する法律基本科目の単位数増加やその配当年次の在り方の見直し、また、進級時に学生の学習の到達度などを確認する共通到達度確認試験、これはまだ仮称でございますけれども、それの導入などが提言されたところでございます。
 これに基づきまして、文部科学省といたしましては、その実現に必要な具体的な措置の検討に着手しておりまして、基礎、基本の修得の徹底など、法科大学院教育の質の向上に努めてまいりたいと考えております。

○仁比聡平君 時期的なめどや、今年度あるいは来年度、どんなことが具体的にロースクールの現場で変化が起こるのかということがちょっとよく分からないんですね、私まだ。ちょっと引き続きこの点は質問をしていきたいと思います。
 二つ目の点は、大臣に、プロセスとしての法曹養成課程そのものといいますか、全体、ここについての認識をお尋ねしたいんですけれども、ロースクールで法理論と実務の基礎的素養を修得しているということを前提に、司法試験においてそれが確認をされて、一年になった司法修習では、法律実務の汎用的な知識、技能と、高い職業意識や倫理観を備えた法曹として養成をしていこうというのが全体としてのプロセスなんだと思うんです。ですが、これがもう、今日もるる指摘をされているような、言わば危機的状況になりかねないというようなことが指摘をされている。
 私、ちょっと乱暴かもしれませんが、二つだけポイントを絞ると、以前に御質問をしました貸与制の弊害、私は給費制の復活が必要だと思いますが、つまり、経済的な格差ということと、もう一つは、予備試験に象徴的なバイパスや飛び級という問題が、戦後の我が国の法曹養成の理念である法曹一体、統一修習という理念を壊してきているんじゃないのかと。その下で、従来は司法修習における修習専念義務と。希望する進路とは違っても、事実、証拠に向き合って、仲間たちや先輩法曹と徹底して議論しながらその素養を身に付けていくという、ここに専念をしてもらうし、しようということが修習の一番中心の理念だったと思うんですが、ここがどうも大きく壊れている。
 かつての司法修習と違って、ロースクールが基礎的な部分をしっかり身に付けるということになるわけですから、ロースクールから司法試験を経て司法修習まで、この戦後の日本の法曹養成の理念である法曹一体、統一修習、こういう理念に照らしてどう立て直すべきなのか。ここが課題なのではないかと思うんですが、大臣、いかがでしょう。

○国務大臣(谷垣禎一君) 現在も法曹を一体として養成していく、修習していく、そういう理念は私は崩れていないと思っております。やはりそういうことは、何というんでしょうか、努力をしていかなければならない目標ではないかと、このように思っております。
 ただ、やはりそのプロセスとしての養成というのが、今までの議論で、幾つかのやはり養成があったと思います。一つは、やはり一点で選ぶ、司法試験だけで選ぶというと、その司法試験に相当な負荷が掛かって、技術的な勉強にどうもウエートが行ってしまったのではないかと、それをやっぱりプロセスで是正しようとした。もう一つは、先ほどの御議論ですが、やはり法律家に求められる素養といいますか、いろいろな学ばなければならないものが多様化している、司法修習だけではなかなかうまくいかない、だからそれは法科大学院というものに多様な、何というんですか、法律家としての素養を期待したということがあったと思います。
 問題は、結局、四年制大学というものを基礎に築いてきた日本の法学教育というものとの接合が、そこに要するに接ぎ木をしたわけですけれども、あのアメリカのロースクール、そこが私うまく接げない弊害が起きてきているのではないかと、私の認識はそういう認識でございまして、仁比委員がおっしゃる統一修習等々のあれを裏切っているのではないかというのは、必ずしも私はそう思っておりません。

○仁比聡平君 私も壊してしまっているということを言っているつもりはありませんで、そうした懸念が、このまま危機的状況が進行すると、一人一人の法曹、法曹というのは、とにかく一人一人の自覚や資質というのが本当に極めて高く問われるものだと思いますから、そうした議論をきちんと深めながら、国民に開かれた司法、国民のための司法というその司法改革の理念を今改めて国民の皆さんに分かりやすい形で、改革を改めて進めていくということが必要ではないかと思っております。
 法曹養成についてはこの限りですので、司法法制部長と文科省は退席していただいて構いません。

○委員長(荒木清寛君) それでは、中岡審議官、大塲室長、小川司法法制部長は退席してください。

○仁比聡平君 引き続き、四月十七日の当委員会で質問をさせていただきました戸籍窓口業務の民間委託について伺いたいと思います。
 振り返ると、戸籍法は平成十九年に改正をされました。私もこの委員会でその質疑を行いましたけれども、明治以来、また戦後の憲法下、家制度をめぐる大きな変化だとか、戸籍や除籍謄本の不正取得や人権侵害という事態も起こる中で運用が改められてきた戸籍の公開制度を見直して、また戸籍の記載の真実性を担保するための極めて重要な改正が行われたと思います。そこでは、証明の手続でも、そして届出においても、本人確認が法律上の仕組みとされて、言わば要に位置付けられたわけですね。
 民事局長に、この改正目的に照らして本人確認はどのような役割を果たすのか、まず伺いたいと思います。

○政府参考人(深山卓也君) 今お話に出ました平成十九年に戸籍法が改正されまして、認知、婚姻といった戸籍のいわゆる創設的届出、これが窓口に出頭した者によってされる場合には、その者がその事件の本人であるかどうかを確認することについての規定が設けられました。また、窓口に出頭した者について届出事件の本人であることの確認ができなかった場合、こういう場合には、届出を受理した上で、届出事件の本人に対してその旨を通知するという制度も設けられました。
 これらの改正は、それまで通達に基づいて行われていた本人確認について、扱いが不統一で、虚偽の届出がされて戸籍に真実でない記載がされる措置としては不十分だという指摘がされたことを踏まえて、扱いを全国的に統一するべく法制化したものでございまして、戸籍の記載の正確性を担保するという意義があったものと思っております。

○仁比聡平君 法務省が、戸籍の窓口での本人確認が法律上のルールになりましたという、こうしたリーフレットをわざわざ作って周知を図られたように、それまでの扱いとは違って、窓口でえらく面倒なことを言われるというような、一時期はそうした混乱といいますか、こともあったぐらい厳格化されたわけですね。
 この改正の際に民間委託は想定されていましたか。

○政府参考人(深山卓也君) 平成十九年の改正の内容として、民間委託を特に前提とした改正内容というのは特にはないものと承知しております。

○仁比聡平君 法制審の審議過程でも外部委託を前提にした議論は一切行われていないと思いますが、そうですか。

○政府参考人(深山卓也君) 確かに、戸籍事務の外部委託がされることを前提として、それに備えた改正内容の検討というのはされていなかったものと思います。

○仁比聡平君 つまり、外部委託は、もちろんと言うべきだと思いますけれども、想定されていなかったわけです。
 そこで、今局長から御紹介いただきました創設的届出、これ、認知や婚姻、離婚、縁組、そして離縁という、こうした身分行為に関わる重大な届出なんですね、に関する本人確認について伺いたいと思います。私、勉強してみて、改めて重いものだというふうに思いました。
 例えば、離婚届を男女二人で届けに来るという場合がありますね。その届出の窓口がその二人の本籍地でない場合も、その男性、女性、それぞれが本人であるということが確認をされたら、本籍地への不受理申出の確認は行われないわけです。例えば、妻が離婚届が出されることを恐れて不受理届の申出をしていても、目の前に窓口に来た女性が本人であるという、窓口によって確認をされれば、届出という、不受理届が行われているかどうかの確認そのものが行われない、そういう扱いになるわけですね。
 仮に、巧妙な成り済ましというのがたくらまれた場合、顔写真付きの典型は運転免許証ですが、この写真との照合というのも実はそう簡単じゃない場面がいろいろあると思います。その写真が撮られたときから時間がたっている間に容姿が大きく変わる、変貌するということもありますし、眼鏡だとかいろんな付けている物だとか髪型だとかで、実際には単純ではない。
 加えて、法の仕組みではそうした写真付き証明に本人確認を限りませんから、健康保険証などの写真のない書類を妻に黙ってこっそりと持ち出して、そうした場合は窓口職員から本籍などに関する聞き取りを行われるわけですが、そこで聞かれそうな本籍地だとか生年月日だとかは、事前に言わば偽装妻に教示するということは当然あり得るわけです。
 本人確認には、こうした多くの健全な届出や証明の窓口対応の中に含まれ得るそうした不正や手口を未然に防止するということが期待されているのではないでしょうか。そのためには、窓口で問いを発したときの答えぶりだとか挙措動作の不自然さ、そうしたものも判断の重要な要素になるということは、偽装縁組についてそうした窓口での経験を踏まえて法務省が通知を出されたこと、そのことを考えたって分かることだと思うんですが、局長、いかがでしょう。

○政府参考人(深山卓也君) 窓口に来た者が本人かどうかの確認というのは、これは委員も御指摘のとおりですけど、まずもって法律の建前では、運転免許証等の公の身分証明書と対比をして本人であるかどうかを確認する。しかし、そういうものが提出されない場合もあり得る。その場合には、これも御指摘のとおりですけれども、その方に対して、生年月日であるとか、あるいは親族の氏名であるとか、そういうことを質問をする、それに対する答えを聞いて本人かどうかを確認するという方法を取るということがございます。
 いずれにせよ、そこの窓口に来ている人が創設的届出をしているその人であるかどうかということを確認する手段として、一般的にはもう身分証明書、運転免許証とかパスポートとかそういうもので確認をしますが、そういうものが一切出せないという場合に、手段としては、今言ったような形で、質問を発して確認をするという方法が予定されている、こういう順序でございます。

○仁比聡平君 その仕組みはそのとおりなんですが、私がお尋ねしたのは、その本人確認が健全な場合といいますか、例えば婚姻届で、二人で、もう結婚しました、僕ら本当に幸せになりますといって届け出てこられているとき、もちろん本人確認はするけれども、いや、それは幸せなことで、そういうケースばっかりだったら本当にうれしいことなんですが、ではなくて、巧妙な成り済ましをあえて行ってくるという場合がその中に紛れ込んでくるというのが窓口の実態なわけで、その日常業務の中でそうした不正をできるだけ見抜いてほしいというのがこの制度の改正の期待だと思うんですよね。
 その本人確認というのは、例えば挙措動作、問いを発したときにちょっと間が空くとか、ちょっとおかしいんじゃないかとか、そうしたことも判断の重要な要素になるのではないかと。いかがでしょう。

○政府参考人(深山卓也君) 今のように、問いを発して、質問をして本人確認をする場合には、その答え方も、あるいはそのときの動作等も、本人であるかどうかの確認の要素になるというのはそのとおりだと思っております。

○仁比聡平君 本人と確認をされれば、ほかの問題なければ受理決定がされて離婚の法的効果が発生するわけですね。後日、実は成り済ましであったということが分かって、妻が不受理届を本当は出していたのにということで紛争になれば、その受理決定を法的に争うほかなくなるわけです。本人確認というのはそれだけ重要で、受理、不受理と私は密接不可分だと思います。
 時間外の戸籍届についても伺っておきたいと思います。
 時間外でも、例えば一方の届出人が危篤の状態に陥っている、その生きている間に婚姻届を出したいという、そうしたこともあって、そうした届出の後先というのは身分関係、例えば相続関係を左右するわけですよね。それで、届出は休日でも時間外でも受領する扱いになっています。それに対応する職員について、市区町村長が何らかの任命行為を行い、地方公務員と同等の職責を課した上で受領権限を与えた職員などによって行われるべきであって、委託警備員などの民間業者について、守秘義務、懲戒処分など、地方公務員として当然の職責が与えられていない人による対応はできないという運用になっていると思うんですね。そうした趣旨や本人確認の重要性、これは現在も将来も変わらないと思いますが、局長、いかがでしょう。

○政府参考人(深山卓也君) 今委員から御紹介がありましたように、運用として、これは民事局長名の通達、それから課長名の依命通知等々で運用上の指針が示されているところですけれども、時間外に創設的届出を受領する者につきまして、任命行為を行って、地方公務員と同等の守秘義務等を課した上でそのような事務を取り扱わせるというのは、これはそういう運用になっているというのは御指摘のとおりでございます。

○仁比聡平君 もう一点、十九年の改正で、戸籍謄本を請求するといった証明の要件や手続も厳格にされました。窓口でも郵送による請求でも、交付請求に対しては職員による一件ごとの交付決定を行うべきものであって、まさか交付後に、翌日何百通とまとめて決裁するといった扱いはあってはならないと思いますが、局長、いかがでしょうか。

○政府参考人(深山卓也君) 戸籍の謄抄本の交付請求がされた場合に、その交付の要件に該当するかどうかという判断は、当然のことながら一件一件について一件ごとに市区町村の職員が行うべきものと思っております。

○仁比聡平君 そうした戸籍事務を、市区町村長の事務ということになっているわけですが、法定受託事務なんですが、もちろん首長さんが自分ではできませんから、代わって行う戸籍事務の補助者という概念があります。この補助者は、取扱いでは市町村長が選任し、異動させたときには法務局にその旨を報告しなければならないとなっていて、その氏名や生年月日、経歴などが法務局に報告される、そういう扱いですね、局長。

○政府参考人(深山卓也君) そのとおりの扱いとなっております。

○仁比聡平君 民営化が仮に請負で行われた場合に、市区町村長は委託先で誰が働いているのかを把握できないんですね。これ、すれば偽装請負ということになります。これはもうこの準則に沿うものとは全く言えないことになります。こうしたことを始め、戸籍法とその運用実務に関する通達などはおよそ民間委託を想定していないのであって、これ、もし丸ごと委託を進めるとなれば、法とこれまでの運用との矛盾は私は激しくなるばかりだと思うんです。
 これは私の感想ですが、昨年三月に三百十七号通知というのがありまして、これ局長、読みますと、一般的に本人確認は事実上の行為、補助的行為であるかのようにも読めるんですよね。ですけれど、今日お話を改めて伺ってみても、本人確認には様々な重みや場面があって、一律に全てが事実上の行為だと決め付けられるものではないのではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

○政府参考人(深山卓也君) 本人確認の方法は先ほど述べたとおりで、一番の原則的なやり方は、運転免許証等々の身分証明の公的書類等を出していただいて御本人であることを確認する。これは事実的な行為、裁量性のない事実的な行為だと思いますが、本人確認でもそのような手段が取れない場合に、戸籍のデータを見ながら質問を発して、その答えぶりによって本人であることを確認するというやり方も、先ほど来申し上げているとおり、許容されております。このやり方は機械的、事実的な行為とは言いにくいんではないかという御指摘であれば、それはそういう面があると思っております。

○仁比聡平君 大臣、感想だけでも伺いたいんですが、いずれにしても、平成十九年改正法のこの重みに照らしたときに、本人確認だとか不受理申出の制度趣旨がいささかも揺らいではならないと思うんですが、いかがでしょう。

○国務大臣(谷垣禎一君) 平成十九年の戸籍法改正というのはなかなか大きな改正だったと私も思います。一つは、今まで戸籍は公開制度だったけれども、個人情報の保護も図ろうということですし、それから、記載の真実性を担保するためにもいろいろな制度をつくっていこうということであったわけですね。
 そこで、今おっしゃった平成二十五年三月の民事一課長の通知がございますが、これは当時、戸籍事務の一部を民間の事業者に委託できる場合を整理し、そういうことが始まってまいりましたので整理しておこうということでございますが、要は、ここで言っていることは、市町村がそのような委託を行う場合であっても、平成十九年の戸籍法改正の趣旨に基づいて、戸籍の謄抄本の交付請求の要件該当性の判断あるいは創設的届出における本人確認、これは厳正かつ適切に処理される必要があると、こういうことだろうと私は思います。

○仁比聡平君 ありがとうございました。