○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
今日は大臣に、婚外子の相続分に関する差別を憲法違反とした最高裁の決定を踏まえて、民法に残された差別的条項全ての改正に向けた所信をお伺いをしたいと思います。
この九月の最高裁決定を受けた原告のお一人が、私の生きる重みは二分の一ではない、ようやく自分の価値を取り戻したとコメントをされました。
我が国においては、法令が憲法に適合するか否かについては個別具体的な事件の裁判の上で必要な限りにおいてなされるという付随的審査制を取っておるわけですから、こうした原告の言わば闘いがあったればこそ今回の違憲決定というのがなされたわけですね。そうした意味で、この最高裁の決定まで一言で言えない困難を乗り越えて闘ってこられたこの原告の方々に、私はまず敬意を心から申し上げたいと思うんです。
この民法の婚外子相続分の規定について大臣にまず伺いたいのは、最高裁が憲法違反とした理由ですね。憲法二十四条及び国際人権規約、あるいは児童の権利条約に基づく国連委員会の勧告をも踏まえて、憲法十四条一項に違反すると。この最高裁の決定というのは極めて重大なのではないかと思います。あるいは、重要なのではないかと思うんですね。
私どもにとりまして、民法というのは言わば基本法中の基本法だと思うんですが、この基本法が憲法に違反すると、そう判断をされたことの重みを所管大臣としてどのように受け止めておられるでしょうか。
○国務大臣(谷垣禎一君) これは、先ほど来から御答弁を申し上げているところですが、今の委員の御指摘にもあったように、法令が憲法に違反しているかどうかということは裁判所が、最高裁判所がその権限を持っているわけです。私どもは、私は今行政府の中にいる人間でございますが、やはり日本全体の統治システムとして、裁判所がそういう判断を下されたら、それを尊重して対応すべきものであると、このように考えております。それがやはり日本国憲法の下における国家秩序をうまく動かしていく大きなゆえんであると、このように考えております。
○仁比聡平君 最高裁がそうした判断をされた、であるから、三権分立という観点からして尊重すべきであるということの中身、その判断の中身、最高裁の、ここについて、もう一度ちょっと大臣の御見解を伺いたいんです。
今度の最高裁決定ではこういうくだりがあります。本件規定の合理性は、個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らし、権利が侵害されているか否かという観点から判断されるべき法的問題であると。つまり、憲法が保障する二十四条を始めとした基本的な人権の保障、そして法の下に平等であらねばならないという十四条の原則、この観点から権利が侵害されているか否かという法的問題であると。
私流に少し言い換えますと、人権問題であると。現行の民法規定が基本的人権や平等原則に違反する言わば人権侵害の規定になっていると、権利侵害の規定になっていると、こう断ぜられて憲法違反という決定が出た。このことの重みについてどのような御認識ですか。
○国務大臣(谷垣禎一君) それを判断する権限は、日本国においては最高裁判所が持っておられるわけですね。ですから、そのような判断をされたということを、やはり日本国憲法を尊重して、日本国の国家統治システムというのをうまく動かしていく、いかなければいけないと、閣僚としている私の責任でございます。
したがいまして、先ほど来申し上げているような、それを尊重すべきものだと答弁しておるわけでございます。
○仁比聡平君 私は、この規定の権利侵害性をしっかりと正面からとらえて、内閣や私ども国会が、いわゆる政治部門がしっかりとその最高裁の決定の重みをまず受け止めなければならないと思うんですね。
そこで、最高裁においでいただいていると思うんですが、日本国憲法の施行後、法令そのものが憲法違反とされた判決や決定、これは法律用語では法令違憲というふうに呼ばれます。こうした判断がされた場合には、この当参議院においては、議院運営委員会に違憲決定の、判決決定の正本が机上に配付をされて、私ども国会が作っている立法が憲法違反と断ぜられましたという報告がなされるわけですね。私は、今回、その場面に自分自身が出会って、大変重たいものだというふうに感じました。こうした違憲判断というのは憲法施行後何件あっているでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(永野厚郎君) お答えいたします。
日本国憲法施行後、最高裁判所がした、ただいま委員の御指摘のあった法令違憲の裁判の件数は、同じ法律の条文等に対して判断しているものもまとめまして、実質的な件数を数えますと九件となります。
○仁比聡平君 その九件のうち、刑法のかつて存在した尊属殺を重く処罰するという規定は、国会が法を改正するまでにしばらく時間が掛かり、そのことについて大変大きな批判や議論がありました。であるけれども、この尊属殺規定というのは、違憲判断後、検察自身がその条項においては起訴しないという運用がされたことによって、実際にはその法律というのは言わば死文化していたわけですね。
そのほかの違憲判断決定に対しては、基本的にその判断のすぐ近くの国会、直近の国会に政府から改正案が提出をされて、それが成立をするというふうになっております。選挙制度の議員定数不均衡をめぐるものについては、そうなっていない場合もありますが、それでも、国会として選挙制度をめぐる協議会などを設けて、この判断を具体化するために、問題を解消するために努力がされているわけですね。
もし今回の相続分差別の違憲決定についてそうした対応が取られないとするならば、極めて重大な話になるわけです。その点の重みについて、与党の議員の中から、司法判断が出たからといって国権の最高機関たる国会がはいはいと従うわけにはいかないなどとの発言がなされているという報道があるんですが、この発言があったかないかは置いておいて、こうした理解というのは、大臣、当たりませんよね。
○国務大臣(谷垣禎一君) 私は、先ほど来申し上げているように、最高裁判所が法律、法令が違憲であるかどうかというのを判断する権能、最終的な権能を持っているわけです。それをやはり尊重していくというのは、これは議会人としても、もちろん行政府にいる人間は当然のことでありますが、議会人としてもそれを尊重していかれるのが正しいと思います。
○仁比聡平君 そこで、私は、この問題というのは極めて長きにわたって議論をされてきた問題だということについての大臣の認識を伺いたいんですが、政府はもう既に、男女平等の実現に係る新国内行動計画という一九九一年から九五年の計画の中において民法規定の見直しということを政策目標として掲げられました。法務省も、昭和五十四年以来、度々そうした動きをしておりまして、一九九一年には法制審議会に法制の見直しを諮問をして、法制審は一九九六年の二月に法律案の要綱を答申をしたわけです。
世界を見ますと、同じような区別の規定があったドイツやフランスでも差別は解消されたと。そうした下で、日本政府あるいは日本の国会ではこの改正が行われないと。この日本の政府のあるいは国会の不作為が憲法違反とされたのだというその御認識はありますか。
○国務大臣(谷垣禎一君) 当時の、私も立法府の一員でありましたから、どういう表現でしたらいいのか。しかし、今国務大臣として、行政の中におります国務大臣として国会のそういう御判断を論評するつもりはございません。
○仁比聡平君 一九九六年に法制審の答申がなされて、法務省は提出できる法案を作成をいたしました。にもかかわらず、その後、ずっと国会提出もなされていないと。この点が私は、最高裁の決定や、その最高裁が判断の根拠としている国連委員会などから厳しく指摘をされているのだと、そう受け止めるべきだと思うんですね。
外務省においでいただいていますが、この最高裁決定も援用している国連委員会の勧告、これは元々、国、すなわち日本政府に向けられたものだと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(新美潤君) お答え申し上げます。
今委員から御指摘ありました各種の人権条約の委員会からの勧告は、各締約国に向けられたものでございます。
○仁比聡平君 この締約国、すなわち政府に対して向けられた勧告、これが繰り返し厳しく行われてきた以上、本来、司法の違憲判断を待つことなく、私は、国、政府がこたえるべきだったと思います。大臣、その点いかがですか。
○国務大臣(谷垣禎一君) 我が国が批准した国際人権規約、諸条約に基づき設置されました各委員会から、今、仁比委員がおっしゃったようないろいろな指摘があったことは十分承知しております。
ただ、国内においても多様な意見があった、また現在でもあるわけでございます。私は、今、先ほど申し上げましたような観点から、一日も早く我々の案をまとめて国会にお出ししたいと思っておりますが、相当大きな意見の対立も国内にあったことも事実だと考えております。
○仁比聡平君 今、大臣が今もおっしゃられた、国内においても多様な意見があったし今もあるというこの理由付けといいますか、これを日本政府は国連のそれぞれの委員会に対しても繰り返し述べてこられたわけですが、これが国連の委員会からどのように受け止められているのかという点についてお尋ねをしたいと思うんです。
こうした国連関係の委員会からの勧告は、今回の決定に援用された人権規約委員会や児童の権利条約委員会のみではありません。女性差別撤廃条約に基づく女子差別撤廃委員会から、本年の九月三日付けで日本政府に対する書簡が届いていると思います。
そこでは、二〇〇九年の七月に女子差別撤廃委員会において多くの日本政府に対する勧告が最終見解としてなされたわけですが、この最終見解のうち、民法の差別的条項の改正にかかわる問題と、もう一つ、女性たちの社会的な地位の向上にかかわる問題と、この二点がフォローアップ事項として手続にのせられました。二年間のうちに更なる情報を提出するようにというこのフォローアップ手続に基づいて、二〇一一年の八月、そして二〇一二年の十一月に日本政府が追加情報を提出をしているわけですが、二〇一三年の九月三日、今年の九月三日には、この夏、開催された委員会において、日本政府の対応は勧告を履行していないもの、不履行であるという判断をしているわけですね。
その上に立って、次回の定期報告、これ二〇一四年の七月とも伺っていますけれども、この次回の定期報告にどのような追加的情報を提供するように勧告をされているか、外務省、紹介をしてください。
○政府参考人(新美潤君) お答え申し上げます。
今委員から御指摘がございましたとおり、九月三日付けのバーバラ・ベイリー女性差別撤廃委員会フォローアップ報告者から日本政府にあてられた書簡の中においては、嫡出である子と嫡出でない子の相続分を同等化することを内容とする勧告に対する日本政府の対応は勧告不履行であるという旨述べるとともに、日本政府に対して、次回の政府報告において追加的情報を提供するように勧告を受けております。
これを受けまして、御指摘がございましたとおり来年の七月に次回の報告提出が予定されているわけでございますけれども、この中にいかなる内容を盛り込むかということについては、法務省と協議しつつ検討していきたいと考えております。
○仁比聡平君 私の質問は、書簡の中身そのものを紹介してくれませんかということだったんですが、ちょっとそうならなかったので私から紹介をしますと、勧告が履行されていないという判断は婚外子相続分差別の問題にとどまりません。
婚姻年齢を男女共に十八歳に設定すること、女子差別撤廃条約の規定に沿って夫婦に氏の選択を認めること、相続分を同等化すること、そうした要請について、締約国は民法改正法案を提出しておらず、この問題について引き続き国民の議論を深めることを望んでいることを示したが、これは勧告が履行されていないものと判断すると。六か月の再婚禁止期間を廃止する法律規定の準備についてという要請について、締約国日本が民法改正法案には再婚禁止期間の短縮が盛り込まれているということを示したが、委員会の勧告は再婚禁止期間の短縮ではなく廃止に係るものであって、勧告は履行されていないものと判断すると。そうした不履行の判断なんですね。
その上で、来年の定期報告で、男女共に婚姻適齢を十八歳に設定すること、夫婦に氏の選択を認めること、嫡出である子と嫡出でない子の相続分を同等化することを内容とする民法改正法案を採択することが第一番目。二番目、女性のみに課せられ男性には課せられていない六か月間の再婚禁止期間を廃止する法規定を採択することが勧告なわけです、この九月の。
外務省、この私の紹介に間違いはないと思いますが、その確認と、そして改めて、来年に迫っているこの定期報告でどのような報告をなされるおつもりですか。
○政府参考人(新美潤君) バーバラ・ベイリー・フォローアップ報告者からの書簡の内容については、委員のおっしゃったとおりの内容でおおむねございます。
それを踏まえまして、それに対して日本政府として次の来年七月に予定されております政府報告にいかなる内容を盛り込むかについては、繰り返しで恐縮でございますけれども、法務省とも協議をしつつ検討していきたいということでございます。
○仁比聡平君 そこで、先ほどの大臣のお話なんですが、国内においても多様な意見がある、あるいはあったというお話ですけれども、今度の最高裁の決定も、法律婚主義を前提として子の相続分の区別が合理的かということを議論をしているわけですね。それをしかも、まず法律問題であると。これは私から考えれば人権問題であるということで憲法違反の判断をしたわけです。
こうした判断を前にして、言わば国民世論、多数者の世論というものをもって問題を解消しない理由となるのかというと、これはならないということは、法律家としての大臣ももうよく踏まえておられることだろうと私は期待をしたいわけですね。
もし、最高裁も違憲と判断をした現在においてもなお国民世論を理由にしてこの問題の解消を図らないとすることになるなら、これは国民世論に対する責任転嫁ではありませんか。
○国務大臣(谷垣禎一君) 私は、先ほど来かなり注意深く御答弁をしたつもりでありますが、日本国において法令が違憲であるかどうか最終的な判断権を持っているのは最高裁判所でございます。その最高裁判所が違憲であるとした以上、当然それを尊重しなければならない、これは当然のことだと思います。
他方、委員はいろいろな国際条約、国際人権関係の委員会からの勧告等を挙げられて、いろいろな国内世論があるというだけでそれをしないのはおかしいではないかという議論もなさいました。法務大臣になりまして私が少し驚いている点は、いろいろな日本が参加している国際機関ないしは条約から、日本もこのような法律を制定せよと勧告を受けているものがたくさんございます。その勧告を果たせていないものもたくさんございます。しかし、果たせない理由は様々でございます。あえて単純化して無礼の言にわたるのをお許しいただけば、保守の側が反対してできないものもございます。今、革新という言葉があるかどうか分かりませんが、いわゆる革新の方々が反対して動かないというものもたくさんございます。
私は、ですから、先ほど来慎重に言っておりますのは、国際世論がこう言っているからとか、人権規約がこう言っているからというような形で、私、議論は慎重に避けてまいりました。最高裁判所、法令が違憲であるかどうか最終的な判断権限を持っている最高裁判所がそういう判断を下した。しかも、事柄は私人間で起こる権利関係の基準をどう与えるかという問題であると。一日も早くやらなければならないと私は思っております。これは世論の問題ではありません。日本国の統治システムがうまく動くか動かないかという問題だろうと私は思っております。
○仁比聡平君 私は、今回の憲法違反と断じた決定が、国際人権関係の委員会からの勧告をその判断の根拠として踏まえている、そのことをもって大臣とこうした議論をさせていただいているわけです。大臣が、先ほどお話のあったような様々な問題が国際社会から指摘をされているというのは、それはそのとおりだろうと思うんですが、我が国の最高裁判所がそうした国際人権委員会の勧告を踏まえて憲法違反と断じたと、ここは重いでしょうというのが私の思いですし、大臣も恐らくその点は踏まえておられるのだろうと思いますし、踏まえていただきたいと思うんですね。
最後に、この民法に残っている差別的規定の問題は、言わばこうした委員会室の中での空中戦ではなくて、現実に切迫した被害の根深さ、その解消は本当に切迫しているというふうに私も思います。婚外子相続分に関して言いますと、相続は日々発生しているわけですし、これを裁判あるいは遺産分割の審判に訴えて出るというのは、これは極めてそれ自体が困難なわけですね。そうした事態をこの最高裁決定が出てもなお国民に強いるのかという問題ですし、この決定の中にも、この九百条四号ただし書の前段の存在自体が出生時から婚外子に対する差別意識を生じさせていると、そうした認定もありまして、この婚外子相続分の規定の違憲性の解消というのは、これはもうせっぱ詰まっていると思います。
この大きな根拠として、民法の一九四七年の改正以降、婚姻や家族の実態が著しく我が国で変化し多様化をする中で、婚姻、家族の在り方に対する国民の意識も変化をして、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるということも最高裁は判断の理由として述べているわけですね。これは、先ほど申し上げた他の差別的規定に関しても当てはまるものであると私考えます。是非、婚外子相続分の解消については速やかに、そして、残される民法規定の、残されている民法の差別的規定の改正も速やかに大臣に進めていただきたいということを求めまして、時間参りましたので質問を終わります。