○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

まず、そもそも憲法二十八条と公務員の労働基本権について吉田参考人がどうお考えかをお尋ねをしたいと思います。

憲法二十八条に照らしても、そして、ILOから度重なる勧告を受けているように、国際労働基準に照らしても、労働基本権を奪われた状態にある我が国の国家公務員の権利というのには、これは重大な問題があると思うんです。私は労働基本権の早期かつ完全な回復が必要だと思うわけですけれども、この労働基本権の回復問題について吉田参考人はどのようにお考えでしょうか。

○参考人(吉田耕三君) まず、現状の労働基本権制約の状況についてですけれども、今委員御指摘のように、憲法二十八条では労働基本権が勤労者に保障されております。その勤労者には公務員も含まれているという解釈が取られております。他方、公務員は全体の奉仕者だということは憲法上規定がありますし、それから、そういう公務員の諸基準というのは法律で定めるという規定も、憲法七十三条ですか、たしか、ございます。

したがいまして、そこのぶつかりということでいえば、基本的に、例えば公務員給与は法律で決めるものなのか、労使交渉で労働協約で決めるべきものなのかというところの整理があります。

現在の法制というのは、給与というのは法律で決めるということを前提に、協約締結権を認めない、そしてスト権も認めないということを取っておりますが、労働基本権は憲法上認められているということがありますので、その代償措置として様々な国公法上に身分保障等の規定があるのと同時にというか、それ以上に、中心的な役割として人事院を設けて、人事院の勧告というものが認められているわけです。

この勧告というのは、国会と内閣、内閣に対しては同じ行政部内ですから当然でしょうけれども、国会に対して行政機関である人事院が直接勧告することができるようになっているということは、非常に大きな特色というか、強い権限として与えられているというのはまさに憲法上の問題があるからだというふうに考えております。

そして、今の労働基本権の回復問題、あるいはILOとの関係ですけれども、ILOの理解でいうと、国の行政に従事する職員については労働基本権が、というか、協約権といいましょうか、それが必ず保障されなければならないというふうには言っていないと私は思っております。その代わりその場合には代償措置が講じられる必要があるというのがILOの見解です。

ただ、これは条約の問題になるわけですけれども、日本政府はずっとILOに対して、全ての一般職の非現業公務員というのは国の業務に従事する職員に当たるから、だから労働基本権も制約してもいいんだという、そういう解釈をしてきております。ですから、そこの理解の違いというのがあるのかないのかというのが先生御指摘の点としてはあるのかなと思います。

そして、労働基本権回復についてどうかということですけれども、やはり、自律的労使関係について、国家公務員制度改革基本法十二条で、「国民に開かれた自律的労使関係制度を措置するものとする。」という規定がありますけれども、これは国民の理解の下にという留保が付いているわけで、国民の理解を得ながら検討を進めていく必要があるということだろうと思います。

自律的労使関係制度というのは、公務の労使交渉ということについて言えば、給与決定について市場の抑止力が働かない、そういう内在的制約がないとか、あるいは今のような、国会の民主的コントロールが働くということだとすると、使用者たる大臣が自力では協約を結べない、つまり国会の承認がなければ法律ができないわけですので、そういう意味で使用者側の当事者能力には限界があるんじゃないかとか、あるいは、ヨーロッパなんかでいいますと、協約権とスト権というのは一体のものとして議論されておりますが、スト権については全く議論がされていないというような現状がありますので、この自律的労使関係制度をどう措置するかということについては、多面的な観点からなお検討の余地があるというか、議論すべきところが多いのではないかというふうに個人的には考えております。

○仁比聡平君 今のようなお話を伺っていましても、一々議論はいたしませんけれども、そのような整理をしてきたことによって、そもそも憲法二十八条の保障する公務員の労働基本権がゆがめられているではないかと私は申し上げたいと思うんですね。

今も吉田参考人から、その制約されている労働基本権の代償措置という人事院の役割のお話があるわけですが、代償措置の要となる人事院の役割というのがあるわけですが、その人事院自身が公務員給与のマイナス勧告を行ったり、あるいは二〇一二年には人事院の勧告の水準をはるかに超える七・八%給与削減ということが行われてきたわけですね。これは労働基本権を回復しないまま公務員労働者に不利益を強要するもので、許されないと声が上がるのは当然であって、加えて、吉田参考人はそうした経過に、言わばそうした経過に関与してこられたし、指揮してこられたと言ってもいいかと思うんですが、今はどのようにお考えですか。

○参考人(吉田耕三君) まず、マイナス勧告についてですけれども、今の公務員給与決定の基準というのは民間準拠ということでありまして、官民の水準を精確に比較をして、もし民間が高ければ賃上げになりますし、公務員が高ければ賃下げというか、ここでいうマイナス勧告になるというルールであります。ですから、そういうルールを適用してマイナス勧告が出たといいましょうか、デフレ経済の下でそういうこともあり得るわけで、マイナス勧告をしたから人事院勧告が機能していないということは、私はそうは必ずしも考えておりません。

それから、いわゆる給与削減の法案でございますが、これは、東日本大震災が起きたときに、その費用を負担するということも含めて、一部の職員団体も合意をして七・八%の引下げの法案が人事院勧告を経ずに提出されて、そして成立した、国会でお認めいただいたということでございます。

その経緯の中では、人事院としては、勧告を経ずに給与を上げたり下げたりすることは労働基本権制約の下では問題があるということを申し上げてきました。ただ、この引下げ自体は、東日本大震災という未曽有の危機の下で非常に特例的に行われること、そして国会がお決めになったという事情もあって、万やむを得ないというふうに考えたところですけれども、基本的にそういう勧告を経ずに給与が上がったり下がったりすることが許されるというふうに私は思っておりません。

○仁比聡平君 今の問題も、政治から独立した第三者機関としての人事院とは何かということが問われていると思うんですが、端的に、最後、内閣人事局による公務員人事の一元管理という問題がこの間進んでいるわけですが、これは人事院の機能を弱めるものではありませんか。

○参考人(吉田耕三君) 内閣人事局の今の一元管理というのは、幹部人事について、適格者名簿を作って、そしてその名簿を踏まえて各任命権者が任命するという、言わばその任用の仕組みだと思いますけれども、幹部人事の任用については元々人事院が直接関与してきたわけではありません。要するにそれは各大臣の任命権でございます。そして、今回も、各大臣の任命権はそのまま残った上で、言わば資格の候補者リストを作る段階で内閣が一定の関与をするというふうになったものでございます。ですから、それによって人事院の今例えば公正性の確保とか代償機能とかがゆがめられたり弱められたりするものではないというふうに考えております。

なお、外から幹部に人を連れてくるような場合には、まさにそういう公正性の確保の上で疑念が出る場合もありますので、そのプロセスの中では有識者の意見を聞いた上で行うべきだという人事院の意見等を反映した政令が作られているところでございます。

○仁比聡平君 終わります。