第170回国会 参議院法務委員会 第4号
2008年11月25日 仁比聡平参議院議員

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
この六月四日の最高裁判決なんですが、これ大臣も御覧になったかと思うんですけれども、この判決が言い渡されたときの当事者の子供たち、本当にうれしそうな笑顔の映像、ニュース、御覧になったんではないかと思います。
この子たちもそうですが、日本国民である父から生まれた子でありながら日本国籍を取得できない子供たちがこれまで外国人だといっていじめられたり、戸籍や住民票もない、児童手当や扶養手当あるいは健康保険もない、入学できなかった子供たちもいる。パスポートの取得も認められなかったり、あるいは外国籍の子が在留ビザを数年ごとに更新をしていかなきゃいけない。本当に流れている血も、そして暮らしているのも、本人は日本人だという、そういう思いであるにもかかわらず、その尊厳が認められないという実態が長く続いてきたわけでございます。
そういった意味で、私、最高裁の判決を受けて、結婚や家族の変化を踏まえて世界の流れに沿った本当に画期的なものだと思いましたし、何より、子供たちの最善の利益を優先するという立場で大変重い判決だと思いました。
先ほど他の先生からもお尋ねがありましたけれども、こうした子供たちの救済をこうした形で図った最高裁判決を大臣がどのように受け止めていらっしゃるか、まずお尋ねしたいと思います。

○国務大臣(森英介君) それまで法務省としてはこの条項は合憲であると主張してきたところでございまして、この違憲判決が出たときも時の鳩山法務大臣が衝撃的な判決であったという発言を委員会でされました。そのぐらい画期的な判決だったと思いますけれども、遅くとも平成十五年当時には合理的な理由のない差別として違憲であると判断されましたのを受けまして、この国の三権の一つである最高裁判所の判決によってこのような判断が示されたのを受けまして、法務省としては、その趣旨を踏まえて、国籍法第三条第一項が憲法に適合するよう速やかな法改正を目指してまいりました。
今般、様々な手続を経た上で国会に御提出いたしまして、慎重な御審議の上に速やかに御可決をいただきたいと念じているところでございます。

○仁比聡平君 そうした法案を提出をしておられる大臣として、お一人の政治家として、この最高裁の事案の当事者となった子供たち、あるいは同じような、今後この法改正によって国籍を取得し得る子供たちに対してどんな思いでいらっしゃいますか。

○国務大臣(森英介君) そういったいろいろな非常に不遇な状況に置かれた子供たちに対しましては、情においては忍び難いものがありますけれども、しかしながら、これまで、先ほど申し上げましたとおり、最高裁でも合憲というふうに判断されてきた対応でございますので、それはその時点ではやむを得なかったと思います。
これからは、今回改正されました法案にのっとりまして、この点については子供たちの立場を尊重して対応していくことが日本国政府としても必要であろうというふうに思っております。

○仁比聡平君 大臣が情において忍びないとおっしゃった、それが私は政治家としての大臣のお気持ちだろうと思いますし、にもかかわらず、これまで法務省、国がこの規定が合憲であると主張をして最高裁まで争ったという、ここが最高裁によって言わば断罪されたというところに私は画期的なところがあるんだと思うんですよ。政府はこの判決を受けて今回の法改正を提案しておられるわけですから、私は過去のことをもう今更とやかく言うつもりはないのです。そういった意味で、この最高裁判決がどういう枠組みでどういう価値を重んじてこういう判決を下したのか、このことを今回の改正に当たってしっかり言わば確認をしておきたいというふうに今日は思っております。
少し最高裁判決の中身に立ち入っていくわけですが、まず、どういう判断の枠組みで現行法を憲法違反だと判断をしたのかということについて、先ほども千葉理事から少しお話ありましたが、この現行法が、同じく日本国民である父から認知された子でありながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は、その余の要件を満たしても日本国籍を取得することができないという区別という、つまり、準正によって嫡出になった子とそれから嫡出でない子、この区別が憲法十四条に違反するのかしないのか、こういう問題の素材を置いているわけですよね。
ですから、判決理由の中には、例えば「その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。」とか、「日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが、日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない。」とか、つまり嫡出子か非嫡出子か、ここにおいての区別が差別である、憲法十四条に反するのであると、そういう判断をしたわけですね。
これ、局長で結構ですが、確認をください。

○政府参考人(倉吉敬君) ただいま委員御指摘のとおりでございます。できれば、この大法廷判決の論理的な枠組みについて御質問だと思いますので少し申し上げたいと思いますが、よろしいでしょうか。
この大法廷判決は、要するに、国籍の定め方については、これは憲法十条で法律で定めると書いてあるんだ、だから立法府に裁量権が与えられていると。しかしながら、その裁量権を考慮してもなお今委員の御指摘のあった嫡出子と嫡出でない子との間の区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められないとか、あるいは立法目的自体はいいんだけれども具体的な区別とその立法目的との間に合理的関連性が認められない場合、この場合には合理的な理由のない差別として憲法十四条一項に違反するという、こういう枠組みを打ち立てました。
その上で、本件の区別というものは、設けているその基本的な立法目的でございますが、これは、血統主義を基調としつつ、我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に限り生まれた後における日本国籍の取得を認めることとしたものだと、これ自体は合理的であると、こういたしました。
二番目に、昭和五十九年にこの規定が設けられた当時、この当時においては、婚姻を要件として我が国との結び付きを示す指標と見るということはなおこの立法目的との間に合理的関連性があったと、ここまで言いました。ここまでは法務省も同じでございます。
この次が違ったわけでございますが、しかしながら、その後の我が国における、先ほど委員が御指摘になった、家族生活の実態が変わってきただろうとか、それから意識も変わってきただろうとか、それから国際的な状況も変わってきただろうと、そういうことをいろいろ考えると、準正を日本国籍取得の要件としておくことについて、少なくとも今日においてはこの立法目的との間に合理的関連性を見出すことは難しいのだと、こう言いまして、その今日においてはというのは、遅くとも、本件の上告人らが届出を出した平成十五年当時は遅くとも違憲になっていたと、このような判断をしたわけでございます。

○仁比聡平君 いや、局長、詳しいじゃないですか、やっぱり、さすがに。これまで国会で衆議院の審議も通じてこうした議論を余りされてないと思いますので、私、是非続けてさせてもらいたいと思っているんですが。
今局長が御紹介をいただいたような判断枠組みを最高裁が採用したということについて、もちろん憲法研究者あるいは国際人権法や民法の研究者を含めていろんな評論が当然この判決受けてされているわけですけれども、その中で、立法目的との間に合理的関連性が認められるか否かというこの判断枠組みは、憲法学上のいわゆる厳格審査基準を取ったに通ずるものがあるのではないかという憲法研究者もいらっしゃいます。
今日はそのこと自体をどうこう言うつもりはないんですが、そうした厳しい判断をしていく要素となったのは、一つは国籍が持っている意義だと思うんですね。その国籍の意義について、重要性について判決は、「我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。」というふうに述べていますけれども、これは法務省も同じ見解だと伺ってよろしいですか。

○政府参考人(倉吉敬君) 法律上はそのとおりでございまして、公的資格ということに関して言えば、国籍があるかないかで公務員になれるかなれないかとか、そういう違いがございます。
それから、公的給付については、法律上はいろいろあれですけれども、少なくとも運用上は、現在住んでいる外国人についてはできるだけ、教育の面も含めて、それなりの配慮がされていると承知しております。

○仁比聡平君 確かに運用上はいろんな配慮がされているが、法的には違うわけですよね。
その国籍が、判決は続けてこう言うわけですね、「子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄」によって左右されていいのかという問題だと思うんですよ。この点については法務省としてはどのようにこの判決を受け止められていらっしゃるんですか。

○政府参考人(倉吉敬君) この点については最高裁の判決の当否自体を私ども言う立場にはございませんが、結論においてはもうまさにそれを受け止めるしかないわけでありまして、非常に重く受け止めているところでございます。
先ほども申しましたように、ただ、これは、この規定ができていた当時からおよそ婚姻を要件としているというのは、国家との重要な結び付きを示す指標として婚姻なんというのはおよそ役に立たないのだと、こう言っているわけではありません。その後のいろんな状況の推移等から、今日ではそのような結び付き、婚姻だけを結び付きと見るのは妥当ではないのだと、こういうふうに判断しているものだと受け止めております。
ただ、いずれにいたしましても、そのような憲法違反であるという判断がされたわけですから、これは十分に重く受け止めて対処しなければいけないということで今回の法案を提出している次第でございます。

○仁比聡平君 判決は、「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは、子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。」と。そのとおりなんですよね。
子供は子供として一人の人格です。その親の結婚するしないということによって子供の本当に大切な国籍というものが左右されてはならないというこの考え方は、私は本当に立法府として正面から受け止める必要がある、政府にもそのことを重く受け止めていただきたいと改めて申し上げておきたいと思うんですね。
それで、先ほどから局長が繰り返しておっしゃっておられます、この前の改正時は立法目的との間に関連性はあった、けれどもその後変わったというその判決の中で、時間がございませんので一つだけ取り上げたいと思うんですけれども、それは国際法との関係、特に国際人権法との関係なんですね。
判決は、「諸外国においては、非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあることがうかがわれ、我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約にも、児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。」というふうに述べまして、簡潔な文章ではありますが、世界の動向だけでなく、この国際人権B規約、それから児童の権利に関する条約、これを最高裁が判決理由の中で特に示して理由としているというところは、私、大変重いものがあると思うんです。
これ、局長、通告してないので申し訳ないけれども、このそれぞれの条約がどんな規定をしているかというのは御案内ですか。

○政府参考人(倉吉敬君) 若干うろ覚えではありますが、出生によって子は差別されないと、それから、子供が無国籍であってはいけないという意味で必ず国籍を有しなければならないとか、本件に関連するものとしてはそういった条項があったと思います。

○仁比聡平君 ありがとうございます。
自由権規約あるいは児童権利条約は、児童は出生による差別を受けない、児童は国籍を取得する権利を有すると定めておりますし、児童権利条約は更に、児童が無国籍となる場合を含めて国籍を取得する権利の実現を確保するというふうにございます。女子差別撤廃条約には、子の国籍に関して、女子に対して男子と平等の権利を与えるという規定もあるわけです。
これまで、自由権規約委員会やあるいは児童権利委員会あるいは女子差別撤廃委員会、これらが、この国籍取得における嫡出子と非嫡出子の間の差別、この区別を差別としてとらえて様々な意見を繰り返し発表してきたわけです。日本国政府が提出した報告書を審査した上で、この婚外子差別についての懸念が度々表明をされてまいりました。
そうした意味では、今度の最高裁判決は、この婚外子差別、非嫡出子差別についての国際社会の指摘、国際機関の指摘、これを正面から受け止めたものだというふうに評価をされているわけですけれども、この点については、法務省、どんなふうに受け止めていらっしゃいますか。

○政府参考人(倉吉敬君) 最高裁が、我が国が批准している条約それから規約等を一つの、この本件規定の立法当時は合憲であったけれどもその後変わったということの根拠として挙げているということは、十分に受け止めております。

○仁比聡平君 更にこの点についてよく深めていきたいと思うんですが、時間ありませんから、最後に、この最高裁判決の文脈で、先ほど来テーマに上がっています偽装認知ですね、これ判決では仮装認知という言葉を使っているんですが、最高裁がこの点についてどう考えたのかということについてだけ最後確認をしたいと思います。
最高裁は、文章で言いますと、仮装認知のおそれについて、「そのようなおそれがあるとしても、父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることが、仮装行為による国籍取得の防止の要請との間において必ずしも合理的関連性を有するものとは」言い難いと言っているんですね。これ、どういう意味なんでしょうか。
最後にこれだけ聞いて、終わりたいと思います。

○政府参考人(倉吉敬君) これは、最高裁の判決の書いている意味はどういうことかということだと思いますので、評価をしているつもりは全然ございませんで、要するに、仮装認知に対する対策をどう取るかということはまさに立法府の問題であって、それは本件の条項、つまり婚姻だけを条件、婚姻をしていなければ届出で国籍を取得することができないんだということを決めている、その規定の当否とはかかわりがないと、こういうことだと思います。
だから、婚姻の要件は排除した上で、削除した上で、偽装認知の問題は別問題なんだからそれは考えなさいと、こういうことではないかと思っておりまして、今回罰則を新設したのもその趣旨でございます。

○仁比聡平君 つまり、婚姻要件のあるなしと仮装認知というのはこれは関係ないという話だと思いますので、(発言する者あり)えっ、違いますか、今の話そうなんじゃないですか。

○政府参考人(倉吉敬君) 委員長、よろしいですか。

○委員長(澤雄二君) 倉吉民事局長。

○政府参考人(倉吉敬君) 婚姻要件を外すことによって偽装認知の危険が高まるかどうか、そのことについては最高裁判決は言っておりません。高まるとしても、これに対してどうするかということ、そういったことはこの婚姻要件を外すかどうかとは関係がないんだと、こう言っているのだと思います。申し訳ありません。

○仁比聡平君 つまり、高まるとも高まらないとも言っていないんですよね、判決は、ということだと思いますので、もし、後でよく勉強して、またあれば次回にお尋ねしたいと思います。
ありがとうございました。