法務委員会20080529
第169回国会 参議院法務委員会 第13号
2008年5月29日 仁比聡平参議院議員 |
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
午前、木庭先生の質問の最後に大臣から既に総括的な答弁がなされてしまったような感じなんですけれども、その中でも、金融庁のこれまでの監督行政に対する、厳しいと私言っていいと思いますが、指摘がなされました。前回に引き続いて、まず、他人の生命に掛ける保険、典型は団体定期保険でございますけれども、これをどう考えるのかという点について、まず金融庁にお尋ねしたいと思うんです。
被保険利益という概念について私前回取り上げましたけれども、この点について実は金融庁との関係でも、ここ二、三週間、どのように商品の認可に当たって考えておられるのかということを尋ねてきたんですけれども、担当者の方の方ではこれを考慮しているというふうに御発言になってみたり、昨日の通告のレクのときには、いや、何だかよく分からないというような御答弁になってみたり、この保険法案のこの審議の中で、この基本的な問題についてどんな立場でもいいけれども確たるお答えがないということ自体が私はちょっと信じ難い思いがしているんですね。
それで、今日、ちょっとはっきり国会答弁としていただきたいんですが、商品認可に当たって被保険利益を一般にどのように考えておられるのか。総合福祉型の主契約、ヒューマンバリュー特約、それぞれについてはどう考えているのか、お答えください。
○政府参考人(三村亨君) 被保険利益につきましては、現行保険法制上、一般的には損害保険において保険事故が発生することにより被ることのあるべき経済的利益とされ、契約の効力要件となってございます。他方、生命保険におきましては契約の成立要件とはなっていないと、そういうことでございまして、総合福祉団体定期保険とヒューマンバリュー特約につきましては、いずれも生命保険でございますので、実際の損害の多寡にかかわらず定額による保険金が支払われるもので、被保険利益の存在は契約の成立要件とはなってございません。
○仁比聡平君 そうすると、生命保険としての総合福祉型の主契約やヒューマンバリュー特約それぞれについて、前回の審議の中でも御答弁されたでしょう。どういう目的をこの契約は持っているのか、この保険は持っているのかということをお答えになりましたが、これは一体何なんですか。
○政府参考人(三村亨君) 総合福祉団体保険につきましては、遺族の救済を目的とする契約、趣旨、目的の契約でございます。また、ヒューマンバリュー特約につきましては、企業の従業員の死亡による代替雇用者の採用あるいは育成費用等の経済的損失に備えるという必要性から、これを被保険利益というわけではなく、一定額、一定の金額が支払われる、死亡に際して支払われる、そういう契約になっておるということでございます。
○仁比聡平君 そうしますと、主契約の方は、これは遺族補償のための保険、これを被保険利益と呼ぶのか呼ばないかは、金融庁はお考え違うのかもしれないけど、これは遺族補償という意味での被保険利益的なものと、そういう理解になるんですかね。
○政府参考人(三村亨君) 厳密な意味での被保険利益ということではなくて、遺族に対する弔慰金等のお支払が確保されるように死亡に際して一定の金額が支払われる保険形態だと、そういうふうに理解をしております。
○仁比聡平君 その点もやっぱりあいまいなんですけれども、ヒューマンバリュー特約の方の、お手元に改めてもう一度資料をお配りしていますけれども、ヒューマンバリュー特約によって企業が損失を補てんされるその例というようなことが書いてあるわけですが、代替雇用のそういったコストをてん補すると、これ企業にとっての損害保険なんじゃないんですか。従業員が亡くなるということによって企業に損失、損害が生ずる、これをてん補する、これ損保じゃありませんか。何か僕そこ全然分かんないんですけれども。不当な利益を得ることは防止をされるようになったというふうに言うけれども、だけれども、被保険者たる従業員とこの企業が受け取るこの保険金、これどういう利害関係がありますか。
従業員が欠けることによって生ずる損失というのは死亡の場合だけではございません。資料の三枚目に、これ国会図書館で調べていただいた企業規模別離職者の動向、平成十八年度のものをお手元にお配りいたしました。この調査によりますと、日本の常用労働者数は約四千三百六十万人で、そのうちこの一年間に離職した総数は七百五万人程度になるわけですね。このうち死亡、傷病による離職、これは人数として見れば十二万三千人にすぎなくて、全常用労働者数に占める割合、離職率は〇・二八%にすぎないんです。ちなみに、中途退職、中途離職の方々は一五・四五%になるんですね。このほか定年で退職される方々もある。
だから、企業にとって途中で離職をする方があるというのは、これ言わば当たり前のことであって、ですから下級審ではこういう判決もございます。団体定期保険に加入する企業は、企業規模が大きく社内に代替人材を多く抱えている上、労働市場において比較的容易に代替人材の確保をなし得る環境にあり、また人材の補充のための採用はルーチンとして日ごろから予定されていることであり特別の出費とは言い難いということで、この企業損失という考え方自体に批判が向けられているわけでございます。そうした中で、どうして死亡によって退職する者だけが自らの命を担保にしたその保険金で企業の人的損害を保障しなければならないのかと、この声にどう答えるのかということなんですよ。
政務官、副大臣が財金委員会の対応だということで政務官においでいただきましたけれども、実際、過労死、中でも過労自殺がこの間急増を更にしております。過労死に追い込んだ、そういった企業がその命を担保にした保険金を受け取るなんて許されないと、この遺族の声に政治家としてどうお答えになりますか。
○大臣政務官(戸井田とおる君) ヒューマンバリュー特約は、被保険者である従業員の同意を前提に、企業が従業員の死亡による代替雇用の採用、育成費用等の経済的損失に備えるとのニーズで対応するため、従業員の死亡や高度障害の発生を保険事故として保険金が支払われる商品であります。したがって、ヒューマンバリュー特約について合理性を欠くとはまで言えないと考えております。
○仁比聡平君 企業にとっては、それは従業員が死んだら保険金が入ってくるんですから、その企業の立場、あるいはその商品を、もう二千七百万人という規模の従業員がそこに被保険者となるという、こういう形で商品を売っている保険会社の側、ここにとってみれば、今政務官がおっしゃったように合理性がもしかしたらあるのかもしれないですよ。
だけれども、それぞれの個別の従業員にとってみてどうですか。過労自殺にまで追い込むような長時間労働がある、それが研修という名前で、金融庁、されている場合があるんですよ。その中で命を亡くしたという、そういう場合に、保険金が例えば二千万円、企業の側に入ると、変じゃありませんか。これは感情の問題じゃなくて、私は、モラルリスクというんであれば、まさにモラルの問題であり正義の問題だと思いますけれども、政治家としていかがです。
○大臣政務官(戸井田とおる君) 委員の言われることはよく理解できると思っております。
○仁比聡平君 よく理解できるという御答弁を私たちはどう受け取ったらいいんでしょうかね。
別の角度でちょっとお尋ねしたいと思いますけれども、これ契約の構造としても、法務大臣、よく私たちが日常的に実感する生命保険とこの団体生命保険というのは契約の構造が大きく違います。
この資料の二枚目を御覧いただければ分かりますが、従業員が一括して団体として被保険者になるわけです。ですから、契約はあくまで保険会社と企業の間にあるんですね。ですから、この委員会で度々問題になってきた同意の問題も、この上のポンチ絵、下のポンチ絵にあるとおり、従業員と企業の間での同意の確認を行うというふうにそもそもの商品構成がされているわけですよ。これを金融庁は認可しておられると。これは、一人一人の個人が生命保険に加入しようかということで契約をする、被保険者が契約者と違う場合、その場合に同意を取るという問題とは私は場面が全く異なると思うんですね。その上、このヒューマンバリュー特約は企業の損失を保障するためだというと。
政務官も私の指摘はそのとおりではないかというふうに今ほど御答弁があったんですけれども、今度の保険法案が基本法、一般法としてこういったものやあるいは個別の保険も同じように規律するんだから、だから、こうした場合の指摘がいろいろあっても、特にこの法案の解釈としては一般法としてするしかないという趣旨の御答弁が相次いできましたけれども、だったらば、この団体定期保険の特性に着目し、その目的が何にあるのか、どこにあるのかということに着目した特別の立法、これは保険法の特別の節を置くというような形でもいいし、別の単行法を作るということもあり得ると思いますけれども。こういった特別立法をやるという法制は、これは外国にはあるんですから、こういったものを検討されてはいかがですか。大臣、いかがです。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 外国の例は事務当局からお答えをいたしますが、団体生命保険の場合は、特にヒューマンバリュー特約等が付きますと若干性質が変わってくるということはよく分かりますが、しかしながら、わざわざ別の法律でというところまでは考えていない。将来的な課題としては私は考え得ることだとは思っております。
要は、先ほど申し上げましたように、保険会社が強くて保険契約者が弱いということと同時に、それは企業は、大きな企業は強くて、そこの従業員は弱い立場にある。この間、あれは四川省の大地震やあるいはサイクロンのときかな、我々の所属する自民党から連絡が来て、あなたたちの歳費から幾らかずつ寄附をして送るから拒否したい者は申し出よと、こういうのが来たわけでございまして、これは政党も強いけれども、我々もみんな一人ずつ選挙を経てきている強い立場だからいいわけでありますが。
団体生命保険の場合、それこそ、どこか食堂に張り出してあるから、よく読んで、入りたくない者は申し出よというようなやり方では絶対駄目だということで、真意に基づく同意がどうしても必要だと、普通の生命保険と同じように被保険者の同意が必要だということが強く強調されなければいけないわけでございまして、したがって、そこの被保険者である社員が契約の内容を全く理解していないというケースがあるかもしれない。その会社は立場が強くて、強制的におまえ入れというケースもあるだろうということがどうしても気になるわけでございまして、そういうような団体生命保険の契約がなされることは絶対に認めるわけにはいかないわけですが。
ただ、法務省はそれを毎日見張るわけにはまいりませんので、そこのところは、団体生命保険についてはとりわけ金融庁が厳しく管理監督をしてもらいたいと、私はそう思います。
○仁比聡平君 外国の法制の例については、また時間があればお尋ねをしたいと思いますけれども。
〔委員長退席、理事山内俊夫君着席〕
例えば、法制審議会の保険法部会の会議録を拝見しましても、この同意の問題で、今大臣がおっしゃっているのと同じことを審議の委員の中からも声が出ているんですね。ある方は、会社と従業員というのは力関係からいって対等ではないという、そういうことがあると。だから、被保険者である労働者の同意が必要であるという条件を付したとしても、会社の意に反して被保険者、労働者が同意をしないということが実質的にはできないという、そういう状況があるのを十分懸念されるところなのだから、そうなってしまうと今回の法律案の規定自体も無意味なものになってしまいかねないという、そういう指摘があるわけでございます。
そういった状況の中で、今大臣もお触れになった、金融庁がどのように取り組んでこられたのかということなんですけれども、これまでヒューマンバリュー特約、あるいは団体定期保険の従業員の同意がどのようにして取られているとされているか、このことを調査をされたことというのはありますか。
○大臣政務官(戸井田とおる君) 他人の生命の保険契約に関し、従業員が被保険者になる場合、加入時に当該従業員本人の同意の取得を求めることが必要とされております。
金融庁としては、ヒューマンバリュー特約について保険契約を締結する場合には、被保険者から個別に同意する旨の書面に署名又は記名押印することにより……
○仁比聡平君 それは分かっています、政務官。
○大臣政務官(戸井田とおる君) はい。被保険者同意の確認を行うか、あるいは契約者である会社から被保険者となることに同意した者全員の署名又は記名押印のある名簿を提出させることにより被保険者同意を行うことを求めております。
また、検査においても、ヒューマンバリュー特約を含め、他人の生命の保険契約に係る被保険者の同意の取得状況について検証を行っているところであります。
金融庁としては、今後ともこのような検査監督の中で、同契約における被保険者同意の確認を確実に行うよう、保険会社を指導監督してまいりたいと思っております。
○仁比聡平君 結局、そういった監督指針での事前の言わば指導ということはやっているんだけれども、現場でそれが本当にやられているかどうか。
先ほど、署名捺印の同意があることを確認するなんというふうな話がありましたけれども、話を聞きますと、会社側が預かっているその印鑑、これをぽんぽんぽんぽんその会社の担当者が押してそれ出しているなんという、そういう話まで私は聞いております。そういった実態を調べていないでしょうということなんですよ。
これ、三村さんにお伺いしますけれども、これ実態を調査するべきじゃありませんか。
○政府参考人(三村亨君) 金融庁におきましては、先ほど政務官の方から御答弁をいたしましたように、個別の検査におきましてヒューマンバリュー特約について検査をしておりまして、個別の検査結果については言及できませんけれども、個別の検査監督、日々の検査監督の中できちんと指導してまいりたいと考えております。
〔理事山内俊夫君退席、委員長着席〕
○仁比聡平君 実際にその監督の中で、検査の中で、この同意というのは実は真意に基づいていないんじゃないのか、あるいは同意していないのに勝手に判こだけ押されているんじゃないのかと、遺族に了知させると言うけれども、了知させていないんじゃないのかと具体的に指摘をした例がありますか、過去に。過去にあるかないかです。
○政府参考人(三村亨君) 実を申し上げますと、平成十七年の検査事務年度の金融検査指摘事例集におきまして、他人の生命の保険契約に関する被保険者の同意の取得に係る指摘事例として、被保険者以外の者が被保険者の同意書に押印をしていると、そういった事例を指摘をしていることがございます。
○仁比聡平君 その指摘、そういった事態を発見して、このヒューマンバリュー特約や団体定期保険のこの在り方に関して何か根本的な解決、打開やりましたか、対策打ちましたか。
○政府参考人(三村亨君) 先ほど、政務官からの答弁の繰り返しになりますが、ヒューマンバリュー特約につきましては、日々の監督の中で、被保険者から個別に同意をする旨の書面に署名を行う、あるいは記名押印等といったことを指導するとともに、個々の検査において見ているところでございます。
○仁比聡平君 大臣、こういう状況なんですよ。
ですから、保険法の趣旨について大臣がおっしゃるようなお考えが仮にそうだとしても、だけれども、この法律を通すというだけで、今の金融庁のこれまでの監督行政が改まるということなんですかね。私は本当に疑問に思いますし、そこにゆだねていいのかということを改めて指摘をしたいと思うんです。
時間がなくなってきましたので、大臣にもう少し認識を深めていただきたいという意味で、投資性の高い保険商品、ハイリスクの商品の問題について金融庁にもう一回聞きますけれども、バブル期に変額保険、これ大問題になりました。これ銀行が一時払いをその保険料させるということで、フリーローンというのと組み合わせて、百万人を超えるかというような規模の大きな被害が高齢者を中心に起こったわけです。
今もその苦情、被害というのは後を絶たないんですが、金融庁はその被害実態や規模の調査を行ったことがありますか。
○政府参考人(三村亨君) バブル期におけます変額保険の被害状況に関しては、当時の監督官庁でございます大蔵省において、生命保険会社における変額保険契約高の推移あるいは当局等に寄せられた苦情などを把握するとともに、各生命保険会社に対してヒアリングを実施したと承知をしております。
○仁比聡平君 それでも、そのヒアリングなんかも含めて公表できる資料がないというふうに、昨日、今日にかけて私は金融庁に確認をしたところでございます。
こういった事態の中で、保険給付の履行期について最後ちょっとお尋ねをしておきますけれども、先ほど民事局長から、保険給付を行うために確認が契約上必要とされる事項と、これを確認させるんだというお話があって、ここの解釈本当に明確なものなのかどうか、私は本当はお尋ねしたいところですけれども、ここにかかわって、現場の調査の実態というのがどうなのかということを御紹介したいと思います。
実際、損保の裁判などをやっておりますと、保険会社の側が、事故や傷害とは到底因果関係がないような過去の病歴、中でも他人に知られたくないような被害者の病歴、これをプライバシーを侵害するような形で聴取をしてきて、これを法廷に顕示して、まさに嫌がらせで、早く低額の和解をした方がいいよと言わんばかりの訴訟態度を私も度々経験をしてきたんですけれども、二〇〇五年の十月の十八日に金融庁の長官に対して、業務改善命令を含めた対応を求める申立てがなされております。
お名前は伏せますが、長野県の交通事故の被害者の方からですけれども、この方は、保険会社はあいおい損保、そこの恐らく委託を受けたということだと思いますが、損害保険リサーチという損害調査会社に、自分はそこの調査を同意をした覚えもないのに、申立人の診療その他プライバシーについて調査をさせたほか、一か月にわたって申立人とその奥さんの毎日の生活を張り込みをし尾行調査をし、毎日の日常生活を盗み撮りをされていたと。そのことが、裁判の証拠保全手続の中で保険会社が提出した資料によって初めてその被害者側に明らかになったわけですね。その被害者の奥さんは、これまで毎日の日常生活を盗み撮りされていたという事実を知って、監視の目におびえて夜眠れない状況が続いて、次第に精神的に異常を来してしまった。言葉がもう出なくなる。そういった中で、この申立て自体は二〇〇五年ですけれども、今日までそんな深刻な状況が続いているんですよ。
金融庁は、この申立てを受けて何かの処分をしましたか。
○委員長(遠山清彦君) 三村参事官、簡潔に御答弁ください。
○政府参考人(三村亨君) 御指摘のありました申立書に対する当庁の対応につきましては、個別の契約に係る事案でもあることから、コメントは差し控えさせていただきたいと思います。
○仁比聡平君 何言っているんだ。私がこの申立人やその代理人と何の相談もなく質問していると思っているんですか。
二〇〇五年の十月に申立てをして以来、あなた方はこの書面を受け取っておきながら何の連絡もしていないでしょう。これだけ深刻な事態を保険契約者、被保険者に対してもたらしながら、その告発を受けてもこうやって動かないというのが金融庁のこれまでの監督行政の実態ですよ。政務官、そうなんですよ。こういう実情の中で、監督行政にゆだねれば足るという、そういう私は発想は成り立たないと思うんです。
実際に、保険契約法、契約法、その効力の問題としてもしっかりとした見直しが今後求められると、今回の法案は大きな問題を抱えているということを改めて申し上げまして、時間が参ってしまいましたから、質問は終わります。
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