○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
今年の裁判所職員定員法は、政府の不当な定員合理化計画に最高裁が昨年から引き続き協力をするものです。その結果、技能労務職員及び速記官の減員、また書記官、家裁調査官については現状維持にとどまると、現場の増員要求に応えるものになっていないわけですね。裁判所の権利保障機能の後退を招くこうした定員合理化計画に最高裁が協力を続けることは許されるものではなく、私はこの態度そのものを基本的に改めるべきだと思います。したがって、この法案には反対の立場を取らせていただきたいと思うんです。
その上で、今日は、いわゆる判検交流の下で国の訟務検事を務めた裁判官が、裁判所に戻った後、実質的に同じ事件の裁判官になっている問題と裁判の公平と、この問題について伺いたいと思います。
まず、訟務局長に簡潔に、訟務検事というのは一体どんな人で、その任務は何なのか、お尋ねをいたします。
○政府参考人(定塚誠君) 委員御承知のとおりだと思いますが、訟務検事について法令上の定義はございません。実際には、全国に法務省の職員あるいは法務局の職員という形で、国の訴訟の代理をする業務、さらには近時、予防司法あるいは海外の紛争処理ということを携わっている、そういう職員のことを訟務検事というふうに申し上げております。
○仁比聡平君 つまり、国が当事者になる裁判の代理人、国民が国の行政行為の憲法違反などを争う裁判においては被告の代理人を務めるのが訟務検事なわけですね。
具体的に、二〇一三年以降、生活保護基準が三回にわたって引き下げられた、これによって憲法二十五条の定める生存権が侵害されているではないかと、この国の政策の憲法二十五条及び生活保護法違反を問うている集団事件が提訴をされています。この集団事件において、さいたま地方裁判所で国の代理人、訟務検事を務めた裁判官が、裁判所に戻って直後、金沢地方裁判所で闘われているこの生存権裁判の裁判官になった、これが大問題になっています。
弁護団からこの裁判官は裁判官たる資格なしと忌避の申立てがされ、この決定がなされたところではあるんですが、その裁判の当事者、弁護団、関係者から法務省と最高裁に対して、この集団訴訟事件において、この裁判官と同じように、いわゆる判検交流によって訟務検事として国の指定代理人として訴訟活動を行った後、裁判官の職務に復帰した人物は何名いるのか、全ての氏名と訴訟活動を行った地域、職務に復帰した際ないし現在の所属を明らかにされたいという要望が強く出されていますが、私はこの要望はもっともなことだと思うんですね。当然答えるべきだと思いますが、法務省、最高裁、それぞれいかがですか。
○政府参考人(定塚誠君) 御指摘のとおりの公開質問状をいただきまして、法務省といたしましては回答ができる範囲で全て回答したというふうに思っております。
先ほどありました全ての訟務検事についての担当事件を明らかにしろという御指摘でございますけれども、現在、訟務検事は全国で百十五名おります。全国で一万件の事件が国の事件としてかかっております。一人頭、大体一人当たり百件くらいの件数を担当している、しかも、代理人の立場で関与せずに監督にとどまる者とか担当者の交代が頻繁にあるものなども多くありまして、それぞれの担当者がどのような事件を担当しているのかということを全て申し上げるということは非常に困難でございます。
また、裁判所に復帰した後、裁判官がどのような職務を担当されるのか、あるいは合議事件で行うのか、単独事件で行うのか、そういったものは全て裁判所の方でお決めいただくということになっております関係で、私どもの方としては、開示、公表することを差し控えていただいたということでございます。
○最高裁判所長官代理者(堀田眞哉君) お答え申し上げます。
最高裁判所といたしましては、訟務検事として出向をしておりました後、復帰をいたしました裁判官が、訟務検事としての出向中、個別具体的にどういった事件において国の指定代理人としてどのような訴訟活動を行っていたのかということにつきましては具体的に把握をしておらないところでございまして、御指摘のような情報について開示をすることはできないというところでございますので、その点につきましては御理解賜りたいと存じます。
○仁比聡平君 いや、到底理解できるはずがない。そんな把握していないとか把握できないとか、そう言って流せるような問題ではないんですね。事は司法制度の命であるべき裁判の公平に関わる問題です。
この金沢地裁に赴任して裁判官を担当した裁判官の忌避を認めた三月三十一日付けの決定には、この裁判官がさいたま地方裁判所の訟務検事の時代に、全国規模で展開される事案については法務省内で検討が行われて国として足並みをそろえて訴訟活動をすることが当然であるという大前提の下で、さいたま事件で唯一の訟務検事として被告国の主張書面作成に実質的に関与したのみならず、この金沢の事件の被告国の主張書面作成にも何らかの影響を及ぼしたことが合理的に推測されると認定をしているわけですね。
しかも、この裁判官は、二〇一五年の三月二十五日までさいたま事件の最初から国の代理人として関わった上で、転任してその明けた四月一日から金沢事件の裁判所の構成する裁判官に右陪席としてなっているわけです。
つい先週まで国の主張を認めさせるための訟務検事をやっていた法曹が、四月に入って着任した金沢地方裁判所では右陪席に座っていると。そんなことが裁判の公平であるはずがない。当事者も国民も、そんな裁判を信頼できるはずがないじゃありませんか。だからこの忌避の申立てが認められているわけですね。裁判官の忌避の申立てが認められるというのは極めて異例のことです。
最高裁に御紹介いただきたいと思いますが、いただいているその決定書の五ページ、マイナス五行目からの結論部分を御紹介ください。
○最高裁判所長官代理者(堀田眞哉君) 御指摘の平成二十八年三月三十一日の金沢地裁の決定でございますが、お求めの箇所は、五ページ下から五行目の通常人においてというところからでよろしゅうございますか。
お求めの該当箇所を読み上げさせていただきます。
通常人において公正で客観性のある裁判を期待することができないとの懸念を抱かせるに十分であり、かつ、このような懸念は単なる主観的なものではなく、事件との特別な関係を有するという客観的事情に基づくものであるということができるという記載がございます。
○仁比聡平君 公正で客観性のある裁判を期待することができない、それがこの事件においての裁判所の判断なわけですよ。
ところが、この裁判官はこうやって忌避されるまで自らその裁判から回避するということをしませんでした。これが判検交流が生み出した結果なんじゃないですか、今。だって、ついこの間まで国の代理人として闘っていたわけだから、自分が裁判官になったら公平な裁判ができないか、あるいは公平さを疑わせる、これは誰が見たって明らかであって、であれば、自ら、その裁判には関われません、前の任地でこういうことをやっていましたということを述べてその裁判には関わらない、回避するというのが私は法曹として当然のことだと思いますが、この裁判官はそうしなかったんですね。それは結局、国の代理人として闘っていても裁判官をやるのは当然だと、そういう法曹を判検交流の結果生み出してきているということなんじゃないんですか。
私は、国が被告になる裁判で、その訴訟の方針というのがその担当する訟務検事の一人の法曹としての法的確信に基づかない場面をたくさん見てきたというふうに思います。つまり、原局と言われる行政庁や官邸の方針に左右をされる、そうした訟務検事としての活動に慣れてきたそうした裁判官が、今度は裁判官として国を被告として憲法違反が争われている事件のこうした裁判を担当する、しかも、そうした経歴というのは国民には分からないわけですから、これ、岩城大臣、国民の裁判を受ける権利を侵害し、裁判の公平を壊すものだと思われませんか。
○国務大臣(岩城光英君) まず、法曹は法という客観的な規律に従って活動するものでありまして、裁判官、検察官、弁護士のいずれの立場においてもその立場に応じて職責を全うするところに特色があります。裁判官の職にあった者を訟務検事に任命するなどの法曹間の人材交流は、裁判の公正、中立性を害するものではなく、国民の期待と信頼に応える多様で豊かな知識、経験、そういったものを備えた法曹を育成、確保するために意義あるものと認識をしております。
国側の訴訟代理人を務めた裁判官出身者が裁判官として復帰した後に担当する事件については、これは裁判所において判断される事項でありまして、当該事件を回避すべきかどうかは当該裁判官において判断される事柄でありますので、法務省としてお答えする立場にはございません。
もっとも、裁判官として復帰した後に法務省出向中に担当した訴訟と同種の訴訟を担当することについては国民に誤解を与えかねないという指摘も当然ありますので、そのような誤解を生じさせないためにどのようなことが考えられるかにつきましては今後検討してまいりたいと考えております。
○仁比聡平君 今後検討したいという御答弁はそれはそれで重要なことで、これ真剣に検討を求めたいと思うんですが、大臣が前提にされた国の裁判の都合というのはそれはあるんですよ。これに裁判官が給源として応えるとか、あるいは多様で豊かな法曹、裁判官をつくるとか、よくこれまで言われるそんな抽象的な話じゃないんですよ。具体的に起こっている事件について、あなたは裁判官として本当に公平ですかと、そんなことないじゃないかと問われているわけですよね。
私は最高裁に最後お尋ねをしたいと思うんですけれども、今回、忌避の申立てによってこの裁判官は裁判体から排除をされました。けれども、忌避の申立てというのは裁判官の具体的な経歴を知らなければできることじゃないんですよ。今回は全国の弁護団の連携によってその訟務検事としての経歴が明らかになったから忌避の申立てに至りましたけれども、一般的に国民は裁判官の経歴を知りません。国民に対する不意打ちあるいは不公平を回避するためには、具体的に求められているこの集団事件の担当をやっている裁判官の訟務検事としての経歴、生存権訴訟の訟務検事を行ってきた経歴、これ少なくともちゃんと調査をして開示をするべきではありませんか。
○最高裁判所長官代理者(堀田眞哉君) お答えを申し上げます。
先ほどお答えを申し上げたところでございますけれども、訟務検事として出向をしております者は裁判官の身分を離れて国の指定代理人としての訴訟活動等を行っているものでございまして、このように裁判官の身分と離れた形で担当した事件に関する情報について最高裁において把握するのがそもそも相当かどうかという問題もございますし、実際上もそれを詳細に把握をするということは困難であるというふうに考えているところでございます。
なお、裁判官の経歴という点についてでございますけれども、裁判官の経歴につきましては訟務検事としての出向の経歴も含めて開示をされてきているところでございまして、そういった経歴という観点につきましては、当事者の立場におかれましても当該裁判官の経歴を知り得るという状況になっているということでございます。
○委員長(魚住裕一郎君) 仁比君、時間です。
○仁比聡平君 はい。
時間が来ましたから終わりますが、つまり裁判官の経歴そのものは聞かれれば答えると言っているわけですから、それを聞いて断固としてただしていくのが弁護士やあるいは国民の裁判を受ける権利を本当に十分なものにしていく保障だと思いますが、けれども、その大前提でおっしゃっているのは大きな大間違いですよ。
この集団事件で国の代理人になってきた人が今度は裁判官になる、それについて容認するような姿勢を示すということは、つまり現にどの裁判でも行っているということを認めているに等しいんです。それは日本の司法制度を根幹から信頼を壊すものであると、断固としてこうした判検交流はやめるべきだということを強く主張して、今日は質問を終わります。