○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表し、民法等一部改正案について質問いたします。
戦後民法は、一九四七年、日本国憲法施行に伴い、家父長制を柱とする家制度を廃止し、女性と子供を無権利者とした明治民法を根本的に改めて出発しました。しかし、嫡出、非嫡出の差別や、父の子に対する支配権の色濃い親権概念、懲戒権など、差別的規定をそのまま引き継ぐ不十分さを残しました。
刑法においても、性犯罪における抗拒不能要件や堕胎罪など、憲法に照らし改正されるべき不当な規定が残されています。
憲法二十四条は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と定めています。
本改正案も、憲法と国際人権水準の要求に応えるものにならなければならないと考えますが、法務大臣、いかがですか。
戦後、憲法二十四条の完全実施を求める民法改正運動は高揚し、本法案の柱の一つである再婚禁止期間の削除は、男女平等の見地から、既に昭和二十九年の法制審議会民法部会身分法小委員会で検討されていました。
世界人権宣言を始め国際人権水準の発展、とりわけ一九七九年に採択された女性差別撤廃条約は、我が国の民法改正運動を大きく励ましました。
一九八五年、ようやく政府はこの条約を批准し、新国内行動計画が策定され、九一年には、具体的施策として、男女平等の見地から夫婦の氏や待婚期間の在り方等を含めた婚姻及び離婚に関する法制の見直しを行うと盛り込まれたのです。
一九九六年、法制審議会によって仕上げられた民法改正要綱は、こうした運動の中で、婚姻年齢の男女平等、再婚禁止期間の見直し、選択的夫婦別姓の実現、嫡出、非嫡出を問わない子の相続分の平等など、家族法制の抜本的な改正を目指した極めて重要なものでした。
以来、二十六年がたちます。法務大臣、この間、その実現に背を向け続けてきたのが自民党政治ではありませんか。
法は改正されず、深刻な状態に置かれた当事者の真摯な訴訟によってその不作為がただされ続けてきました。国籍法非嫡出子差別をめぐる二〇〇八年違憲判決、婚外子相続分差別をめぐる二〇一三年違憲判決、そして、再婚禁止期間の一部を違憲とした二〇一五年判決など、憲法違反の判決を下されなければ重い腰を上げず、それでも抜本的な改正を避け続けてきた姿勢は、法務大臣、もう改めるべきではありませんか。
本法案は、女性のみに課せられた再婚禁止期間を削除するものです。
明治二十三年の旧民法は、血統の混乱を防止する、妊娠の有無が女性の体型から分かるのは六か月などとして、離婚した女性全てに再婚禁止期間を定め、戦後民法はこれをそのまま引き継ぎました。単に父子関係の推定の重複を避けるだけであればほかの手段があるにもかかわらず、女性に対してのみ婚姻の自由を著しく制約してきた憲法違反がようやく正されるところに本改正の大きな意義があると言うべきです。
今日、立法府と行政に問われているのは、封建的な性差別を拭い去り、個人の尊重、ジェンダー平等をあらゆる法制度と施策に貫くことではありませんか。法務、男女共同参画担当大臣、それぞれ伺います。
政府は、嫡出推定規定の見直しで再婚禁止が不要となったと説明しています。元々、嫡出という用語は、戦前の家制度の下、家督相続の跡取りである長男を嫡男と特別扱いし、婚外子を排除するなど、正統か正統でないかを意味する差別的概念です。法務大臣、この用語そのものをもうやめるべきではありませんか。
嫡出推定の見直しについて、法務省は、無戸籍児、無戸籍者の深刻な問題解消のためといいますが、問題は、現行法の妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する、婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に、つまり破綻した法律婚中に懐胎したものと推定するとの規定をそのままにするところにあります。
改正案は、妊娠が再婚届の前でも、再婚届出後に生まれたらその夫の子と推定する規定を置くものですが、両親が様々な事情で法律上の婚姻を届け出ない場合、現行法同様の問題が残ることになります。
戸籍上は夫、けれど、DVやモラハラなどによって婚姻関係が破綻し、苦しんできた女性が、新たなパートナーとの間で子を授かることは決して非難されることではありません。ところが、出生届を出せば、離婚が成立していない戸籍上の夫が子の父と推定されてしまう。それでは無戸籍者問題はなくならないのではありませんか。大臣、問題をどのように解決しようとしているのですか。
国籍法三条の改正は問題です。外国人と日本人との子として認知された子が、血縁のない事実が判明した場合、遡って日本国籍を失う懸念があります。何ら責任のない子が不法滞在扱いされ、住民票や健康保険がなくなるなら、日本で生まれ、日本人として円満に暮らしてきた生活の基盤とアイデンティティーが奪われることになります。法務大臣、どのように解決しようとしているのですか。この部分は削除すべきではありませんか。
懲戒権は、長年、虐待を正当化する口実になっていると厳しく指摘されてきました。にもかかわらず、相次ぐ児童虐待という重大な事態に迫られ、親権は子の利益のために行使されるべきものと明記した二〇一一年民法改正でも懲戒権は削除されませんでした。
本法案による削除は、体罰禁止を明記した二〇一九年児童虐待防止法改正など、党派を超えた努力がようやく実るものです。法務大臣、余りに遅過ぎたというべきではありませんか。
国連子どもの権利委員会は、二〇一一年、どんなに軽いものであっても子供に対するあらゆる形態の暴力は認められないと我が国に求めています。
本法案で、親権者に対して、子供の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならないと求める規定を置くことは大切です。ただ、突如法案に盛り込まれた子の心身の健全な発達に有害という文言が、健全な発達に必要なしつけだなど、新たな虐待の口実に使われてはなりません。子どもの権利委員会の指摘も踏まえ、そうした懸念を払拭する法務大臣の答弁を求めます。
翻ってみたとき、九六年法制審答申のうち、今や実現していないのは選択的夫婦別姓だけです。速やかに実現すべきではありませんか。
また、同性婚を認めないことは合理的根拠を欠き、法の下の平等に照らし違憲であると厳しく指摘した二〇二一年札幌地裁は、性自認が自らの意思に基づいて選択、変更できないことは、現在は確立した知見になっていると述べています。大臣はどう受け止めていますか。
女性差別撤廃条約を実効ならしめる個人通報制度を定めた選択議定書は速やかに批准すべきです。同意見書を採択した地方議会は、九月までに百六十四府県市町村に上ります。
女性差別撤廃委員会は、二〇〇三年、我が国への総括所見で、選択議定書により提供される制度は、司法の独立性を強化し、女性に対する差別への理解を進める上において司法を補助するものであると強調しました。その意義を、来日したパトリシア・シュルツ委員は、人権の保護における司法の基本的役割は国際的な審査を受け入れることによって強化されるのですと述べられました。当然のことです。ところが、その意義を問う私の質問に、葉梨前法務大臣は、コメントをすることは控えさせていただきたいと答弁を避けました。
そこで、改めて伺います。
齋藤法務大臣並びに外務、男女共同参画担当大臣、条約委員会の総括所見の意義をどのように理解していますか。
自民党は、統一協会と半世紀にわたり深く癒着し、反共、改憲、ジェンダー平等への敵対で一致し、相互に利用し合ってきました。その影響を拭い去り、憲法と国際人権水準に照らし、個人の尊重、多様性が光る社会を実現をするよう強く求めて、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣齋藤健君登壇、拍手〕
○国務大臣(齋藤健君) 仁比聡平議員にお答え申し上げます。
まず、本改正法案と憲法及び国際人権水準との関係についてお尋ねがありました。
本改正法案の内容は、憲法並びに我が国が締結した条約及び確立された国際法規に反するものでないと考えています。
次に、平成八年の法制審議会の答申の実現についてお尋ねがありました。
平成八年二月にされた法制審議会の答申の内容のうち、女性の婚姻適齢の引上げ、嫡出子と嫡出でない子の間の法定相続分の区分の撤廃及び再婚禁止期間の短縮については、既に法改正がされています。
選択的夫婦別氏制度の導入に関しては、平成八年及び平成二十二年に、法案の提出に向け、法制審議会の答申を踏まえた改正案を準備しました。しかし、この問題については国民の間に様々な意見があったことなどから、改正法案の提出にまでは至らなかったものと認識しております。
なお、法務大臣として、自民党の姿勢についての評価は差し控えたいと思います。
次に、法改正に関する姿勢についてお尋ねがありました。
法制審議会の平成八年の答申のうち法改正に至ったものは最高裁判所の違憲判決が契機となっていますが、本改正法案の嫡出推定制度の見直しや女性の再婚禁止期間の廃止などは最高裁判所の違憲判断が存在するわけではなく、違憲判決がされない限り抜本的な改正を避け続けるといった御指摘は当たりません。
次に、個人の尊重とジェンダー平等についてお尋ねがありました。
現行法の女性の再婚禁止期間の定めは、平成二十七年最高裁判決においても合憲とされていますが、本改正法案により、結果として、男女の区別なく、再婚禁止期間がなくなります。
本改正法案では、離婚等により婚姻を解消した日から三百日以内に生まれた子であっても、母の再婚後に生まれた場合には再婚後の夫の子と推定することとしたため、推定の重複により父が定まらない事態は生じなくなることから、再婚禁止期間は、その必要性がなくなり、廃止することとしたものです。
本改正法案は幾つかの内容を含んでいますが、全体として、憲法に定められている個人の尊重、法の下の平等、両性の平等の理念に合致するものと考えています。
次に、嫡出の用語の見直しについてお尋ねがありました。
嫡出でない子という用語について、最高裁判所は、民法の規定上、法律上の婚姻関係ない男女の間に出生した子を意味するものとして用いられており、差別的な意味合いを含むものではないと判示しています。
法制審議会民法(親子法制)部会においても、一部の委員から、嫡出という用語を見直し、婚外子という用語にする意見も出されましたが、この用語についても差別的であるとの指摘がされるおそれがあるなどの意見もあり、嫡出の用語の見直しは要綱に盛り込まれなかったものと承知しています。
法令用語については、国民の意識や社会情勢の変化等を踏まえ、必要に応じて見直しをしていくべきものと考えており、引き続き、そうした情勢等を注視していきたいと考えています。
次に、母が離婚や再婚をしていない場合における無戸籍者の解消についてお尋ねがありました。
本改正法案では、子及び母にも否認権を認めることとしており、母が離婚又は再婚をしていないため、真実の父と異なる者の子と推定される場合でも、否認権が適切に行使されることによって無戸籍者問題の解消が図られるものと考えています。
法務省としては、引き続き、無戸籍の方に寄り添った支援を継続するなど、必要かつ可能な支援を行い、否認権が適切に行使されるように取り組んでまいります。
次に、本改正法案における国籍法の改正についてお尋ねがありました。
本改正法案は、認知が事実に反する場合には国籍の取得は認められないとの従前からの確立した規律を維持することを明らかにしたものであり、削除することは相当ではありませんが、無国籍者の発生を防止する等の配慮は重要であると認識しています。
法務局においては、日本の国籍を取得するための手続や外国の大使館等における所要の手続に係る案内を無国籍者の身分関係や意向等を踏まえて行う等の取組を行っています。また、退去強制手続を受けることになった場合でも、個別の事案に応じ、例えば本邦で学校教育を受けているなどの事情を考慮し、法務大臣の裁量によって在留特別許可が付されることがあります。
無国籍者の置かれた立場に配慮しつつ、無国籍状態の解消に向け、可能な対応をしてまいります。
次に、懲戒権に関し、民法第八百二十二条を削除する本改正法案の提出に至る経緯について、遅過ぎではないかとのお尋ねがありました。
平成二十三年の民法改正において、同法第八百二十条に子の利益のためにとの文言を加え、令和元年の児童福祉法等の一部を改正する法律の附則において、民法の懲戒権の規律の在り方について検討を加える旨の規定が置かれました。
そこで、令和元年六月、法務大臣から法制審議会に対し諮問を行い、その答申を経て、法務省において本改正法案を作成、提出したものであり、このような経緯を踏まえると、同条の削除が遅過ぎたとの御指摘は当たらないと考えています。
次に、子の心身の健全な発達に有害という文言が新たな虐待の口実として使われる懸念についてお尋ねがありました。
本改正法案の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動とは、子に不当に肉体的又は精神的な苦痛を与え、その健やかな身体又は精神の発達に悪影響を与え得る行為をいいます。そして、この要件に該当するか否かは、行為者の主観を基準に判断されるのではなく、親権者が子の心身の健全な発達に必要な行為であると考えていても、客観的に監護教育権の行使として相当ではないと認められる行為は、子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動に該当し、許されないと考えています。また、体罰に該当する行為は当然にこの要件に該当し、許されないと考えています。
次に、選択的夫婦別氏制度についてお尋ねがありました。
法務省は、平成八年の法制審議会の答申を受け、同年及び平成二十二年に選択的夫婦別氏制度を導入するための法案を準備しましたが、国民の間や当時の政権内にも様々な意見があったこと等から、法案の提出には至りませんでした。
夫婦の氏の在り方については、現在でも国民の間に様々な意見があり、今後とも、国民各層の意見や国会における議論を踏まえ、その対応を検討していく必要があると考えています。
次に、同性婚に関する札幌地裁判決の受け止めについてお尋ねがありました。
御指摘の札幌地裁判決では、同性愛者に対して、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらも享受する法的手段を提供していないことは、その限度で憲法第十四条第一項に違反するとの判断がされたと承知しています。また、この判決では、同性愛は人の意思によって変更することが困難なものであって、このことは確立された知見に至っているとの判断がされたと承知しています。
もっとも、この判決は確定前の判決であり、また、同種訴訟の大阪地裁判決では、憲法第十四条第一項に違反しないとの異なる判断がされており、さらに、同種訴訟が他の裁判所にも係属しているといった事情があることから、まずはそれらの判断等を注視してまいりたいと思います。
次に、個人通報制度を定めた女子差別撤廃条約の選択議定書についてお尋ねがありました。
二〇〇三年に採択された女子差別撤廃委員会による日本政府報告審査についての総括所見において、御質問にある指摘がされたことは承知しております。個人通報制度は、条約の実施の効果的な担保を図るとの趣旨から注目すべき制度と認識しております。個人通報制度の受入れについては、所要の検討が必要であると認識しております。
引き続き、外務省を中心とした政府全体で各方面の意見を聞きつつ、同制度の導入の是非について真剣に検討を進めてまいりたいと考えております。
最後に、個人が尊重され、多様性が光る社会の実現などについてお尋ねがありました。
自民党に関する御指摘については法務大臣としてお答えを差し控えますが、政府は、これまでも、多様性が尊重され、全ての人々がお互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる共生社会の実現に向けた取組を着実に進めてきたところであり、今後ともこの取組を推進してまいります。(拍手)
〔国務大臣小倉將信君登壇、拍手〕
○国務大臣(小倉將信君) 個人の尊重とジェンダー平等をあらゆる法制度と施策に貫くことについてお尋ねがありました。
男女共同参画社会基本法の第三条においては、男女共同参画社会の形成は、男女の個人としての尊厳が重んぜられること、男女が性別による差別的取扱いを受けないこと、男女が個人として能力を発揮する機会が確保されることその他の男女の人権が尊重されることを旨として、行わなければならないという基本理念が示されております。
その上で、同法の第八条では、立法府、行政府を含む国は、そうした基本理念にのっとり、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する旨定められております。
女子差別撤廃条約の選択議定書についてのお尋ねがありました。
選択議定書に規定される個人通報制度について、政府としては、条約実施の効果的な担保を図るという趣旨から注目すべき制度であると考えており、真剣に検討を進めているところです。
御指摘の総括所見については、条約実施における個人通報制度などの意義について委員会の見解を示したものと認識しております。
内閣府としては、男女共同参画社会の形成の促進の観点から、外務省を始めとする政府全体での検討について、関係府省とよく連携をしてまいります。(拍手)
〔副大臣武井俊輔君登壇、拍手〕
○副大臣(武井俊輔君) 女子差別撤廃条約の選択議定書に関する総括所見についてお尋ねがございました。
まず、同選択議定書に設けられております個人通報制度は、条約の実施の効果的な担保を図る趣旨から注目すべきものであると考えております。
その上で、女子差別撤廃委員会から出されます見解などにつきまして、我が国の司法制度や立法政策との関係でどのような対応をすべきかなど検討するべき論点がありますことから、各方面の意見などを踏まえ、早期締結について真剣に検討をしているところでございます。
総括所見の内容につきましては、我が国に対し法的拘束力を有するものではございませんが、関係省庁にしかるべく情報を共有し、関係省庁で連携して十分に検討することとしております。(拍手)