○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

今回の再婚禁止期間を百日に短縮するというこの法改正は、女性を始めとした運動の中で強く求められてくる中で、最高裁判所の違憲判決に基づくものであって、我が党は賛成をいたします。

今日お尋ねしたいのは、この七百三十三条、そして七百三十三条の再婚禁止期間を置いていることの理由として密接不可分な嫡出推定規定、父性を推定する七百七十二条の立法の趣旨を今回改めてどのように考えるかということについてなんですね。

まず大臣に、端的に、この改正案が提案をされているわけですが、この七百三十三条の一項の趣旨、立法目的というのは、これはどのようなものだとお考えでしょうか。

○国務大臣(岩城光英君) 民法が女性について再婚禁止期間を設けている趣旨は、嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあるものと理解をしております。

仮に再婚禁止期間そのものを廃止した場合には、嫡出推定が重複した場合に子の父をどのように定めるかが問題となりますが、例えばDNA鑑定により法律上の父子関係を確定するという制度を採用いたしますと、法律上の父子関係が子の出生時に確定せず、子の福祉に反する事態が生じ得ます。DNA鑑定の信用性が高まっている現在におきましても、鑑定をしない限り父子関係が確定しない事態が生じ得るのは問題でありまして、再婚禁止期間により嫡出推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことによって子の利益を図る必要性、これは大きいものと、そのように考えております。

○仁比聡平君 まず前段として父子関係の推定の重複を回避するためであるというお話があって、後段のDNA鑑定などによって確定するだけに時間が掛かるではないかという議論については、そうした場合がどれほどの場合なのかということを後ほど少し議論させてもらいたいと思うんですけれども、この七百三十三条の立法趣旨については、これは明治民法以来様々な議論がされてまいりました。

そこで、ちょっと細かいですから民事局長にお尋ねをしますが、昨年十二月の最高裁判決でも山浦裁判官が反対意見で詳しく紹介をされているとおり、明治民法の成立時期には血縁の有無を判断する科学的な手段が存在しなかったということを前提に、一つは血統の混乱の防止、つまり、前の夫の残した胎児に気付かずに離婚直後の女性と結婚すると、生まれてきた子が自分と血縁がないのにこれを知らずに自分の法律上の子としてしまう場合が生じ得るため、これを避けるんだということや、あるいは、旧憲法下においては家制度を中心とした男性優位の社会が国体の基本とされていたという歴史的な社会背景、歴史的、社会的な背景があった下で、例えば姦通罪、近親婚の禁止、重婚の禁止などと再婚禁止は同じレベルで規制されていたと。姦通罪というのは、家の血統や父権の維持のために認められた封建的色彩の強い規制であったのであり、再婚禁止ともその趣旨を共通にする部分があると明治民法の時期の立法の趣旨を述べておられるわけですが、その後、憲法の制定によって、民法の改正によってこうした趣旨が当てはまるものではないということは、これは当然なんだと思うんですけれども。

改めてお尋ねします。この今回改正される民法七百三十三条は、今申し上げたようなものは立法目的ではない、当たらないということでしょうか。

○政府参考人(小川秀樹君) ただいま御指摘ありましたように、七百三十三条の立法趣旨については様々な議論ございます。

例えば、今の六か月の期間を合理的に説明しようとすれば、やはり一定の、単なる重複の防止を超えた部分が一つの説明の理由になろうかというふうに考えておりますが、御案内のとおり、今回の最高裁判決はそういったものを否定した上で百日が合理的なものだというふうに考えているわけでございますので、したがいまして、七百三十三条の趣旨自体は嫡出推定の重複の回避ということになると考えております。

○仁比聡平君 おっしゃるとおり、最高裁判決の多数意見は、本件規定の立法目的は、女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し、もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると述べておるわけです、局長もうなずいておられるとおりなんですが。

この再婚禁止期間を置く意味についてのこれまでの議論の中でもう一つ、こんな議論もあるんですね。私にはよく論理的につながらないんですけれども、女性の貞操保持義務との関係で議論すると。女性には貞操保持義務があるのであって、これが離婚をした後にも再婚禁止の関係で何だかというみたいな議論をされる向きがあると。そういう女性の貞操義務というのは、これは全く当たらないということでしょうか。

○政府参考人(小川秀樹君) 女性の貞操義務ということは、今回の改正に関することで根拠となるものではないというふうに考えております。

○仁比聡平君 という下で、つまり、この再婚禁止をどう考えるか、あるいは再婚禁止と密接な父性の推定、七百七十二条をどう考えるかは、子の福祉のためなんですよね。最高裁の言うとおり、父性の推定の重複を回避する、もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐというこの趣旨からしてどうなのかということを考えなきゃいけないんだろうと思うんです。

そこで、大臣、今回新たに七百三十三条の二項の一号、二号というふうに整理されることになりますけれども、現行法と同じ趣旨の二号の方、離婚の後に出産した場合というものは再婚禁止を適用しないというこの規定と七百七十二条による父性の推定との関係も含めて、趣旨を端的にお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(岩城光英君) 再婚禁止期間を設けた立法目的でありますが、これは嫡出推定の重複を回避するためでありますことから、嫡出推定の重複が生じ得ない場合には再婚禁止期間の規定を適用する必要はございません。

民法第七百七十二条第一項により、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定されますが、女性が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合には、その後にその女性が再婚し懐胎したとしても、その懐胎は前の夫との婚姻期間中の懐胎でないことは明らかでありまして、懐胎した子が前の夫の子と推定されることはございません。

したがいまして、この場合には、嫡出推定の重複が生じ得ないことから再婚禁止期間の規定を適用しないこととしております。

○仁比聡平君 今の大臣の御答弁を七百七十二条との関係で、局長、ちょっと確認しますと、最高裁の判決の補足意見は、今の場合について、七百七十二条の規定による父性の推定を及ぼす必要がないという場合であるというふうに述べているんですが、そのとおりでいいでしょうか。

○政府参考人(小川秀樹君) そのとおりでございます。

○仁比聡平君 つまり、離婚など前婚が解消された後に出産をしたという場合であれば、その後、後婚の中で出産する子が前夫の子ではないというか前婚で妊娠したことではないということが明らかなわけで、そのときには七百七十二条の父性の推定規定は及ばない、働かないということなわけです。

そうすると、先ほど来、三宅理事や矢倉理事も確認をしておられるこの今後の運用、新設二項一号によるこの運用の理解がどうなるのかと。

つまり、これからは運用としては、例えばDVなどで長く離婚の調停あるいは裁判も決着をしなかった、やっと成立した、これで離婚の届けをする、それと間近、まあ極端には同時にでもあるのかもしれないですけれども、婚姻届、後婚の婚姻届を出し、その際に尿妊娠検査によって妊娠していないということを医師が証明するということになるならば、それは後婚の婚姻届は受理される、再婚禁止期間は働かないと、そういうことになりますね。

○政府参考人(小川秀樹君) 証明書の取得の関係で一定の期間が掛かることは、先ほども申し上げましたように四週間程度掛かるわけでございますが、今の例でありますと、後婚の届出は受理されるということでございます。

○仁比聡平君 つまり、この尿検査という、今日においては、信頼できるし、かつ簡便にもなった、比較的安価にもなったというこの技術の発展によってそうした扱いができるようになった、そうした法になったということなんですよね。

このときの立法の理由というのを嫡出推定規定との関係でいいますと、つまり、そうした場合は、七百七十二条の二項、特に後段の三百日規定の推定がこれは働かない場合、及ぼす必要がないからそういうふうになっているという理解でよろしいですか。

○政府参考人(小川秀樹君) そのとおりでございます。

○仁比聡平君 ということになってきたときに、そもそも我々がこの再婚禁止規定で回避すべき父性推定が重複する場合というのは一体どれぐらいの場合、どんな場合でどれほどになるのかということが、この最高裁の十五人の裁判官の中でも大議論になっているわけですね。

その下で、反対意見を述べられた鬼丸裁判官は、再婚の禁止によって父性の推定の重複を回避する必要があるとされる場合とは、結局、前婚の解消のときから百日が経過していない女性が前婚中に懐胎したけれどもまだ出産していない場合というごく例外的な場合に限定されることとなるという認識を示され、山浦裁判官も同様の認識を示しておられるわけですけれども、その認識、是非はちょっとおいておいて、どんな場合がこの推定が重複するかもしれないという場合になるのか。その場面としてはこういう場合なんだという認識で、局長、よろしいでしょうか。

○政府参考人(小川秀樹君) 今回の改正では、先ほど申しましたように二項の一号、二号で適用除外の規定を設けておりますので、それを前提として申し上げますと、女性が前婚中に懐胎しているか又はその可能性が否定できない場合であって、いまだ出産には至っていない、その場合に限られるということだと思います。

○仁比聡平君 そのとおりですよね。

ですから、これまでも皆さんが紹介されているように、多くのカップルは、後婚の届出時、妊娠はしていないわけです。あるいは離婚時に妊娠していないんですね。何だか女性がずっといつもいつも妊娠しているかのような、そんな錯覚なりあるいは偏見なりを前提に法を考えるというのはこれはおかしな話なのであって、ですから、離婚時に妊娠をしていないということが信頼する医師の証明によって明かされるならば、これはその再婚禁止、適用する必要がないというのはこれはもっともな話なんだと思うんですよ。

そこで、更に考えるべきではないかなと私が思いますのは、この七百七十二条の三百日推定規定そのものの合理性なんですね。七百七十二条で三百日規定を置いているというこの趣旨についても様々なこれは議論があっております。この理解について、大臣、平成二十四年の最高裁判決がこの七百七十二条に関してあるんですけれども、この中で補足意見あるいは反対意見を述べられた裁判官が、七百七十二条というのは父子関係を速やかに確定することにより子の利益を図るという趣旨であるということを述べておられる。つまり、お父さんが誰かということを早くに確定するのは子の利益のためであるということを述べている。

この七百七十二条の二項後段の三百日推定規定というのはそういうものだという理解でよろしいですか。

○国務大臣(岩城光英君) 御指摘のとおりだと思います。

○仁比聡平君 ということになると、この七百七十二条の推定というのをどんなふうに考えるのかというのはよく議論しなきゃいけないんですね。といいますのは、法律の初学者はこの推定規定というのは極めて厳格なものだというふうに最初学びます。先ほど来出ている前夫からの嫡出否認の訴えか親子関係不存在確認の訴え、これによってしか覆せない推定なんだということを学んでしまうがためにいろんな混乱が起こるんですけれども。

ちょっと局長に確認しますが、実際には、二百日後に生まれた者を夫婦間のというか父性の推定をするという前段の規定は、そもそももう戦前から、子供を夫婦がうちの子だ、嫡出子だというふうに届け出れば、二百日たっていなくても嫡出子として父性を推定する、推定するというよりも届出を受理するというふうになっていますよね。

○政府参考人(小川秀樹君) お答えいたします。

いわゆる推定されない嫡出子ということで、昭和十五年、これは大審院の判例を踏まえまして、戸籍の実務としては、大審院の判例は内縁の関係が先行しているということを認定しておりますが、戸籍実務ではそこが形式的審査でできませんので、取扱いといたしましては今御指摘いただいたとおりの取扱いをしているところでございます。

○仁比聡平君 そして、三百日規定の方というのは、これは先ほど来議論のあるように、平成十九年に通達が出されて、離婚後に懐胎したというときにはこれはその推定働かないというふうになっているわけでしょう。

○政府参考人(小川秀樹君) 平成十九年に民事局長通達が出ておりまして、離婚後に懐胎したことが医学的な証明ができる場合には前夫の子と推定されないという取扱いをするということとしております。

○仁比聡平君 という下で、先ほど申し上げたような極めて限定した場合に直面するのがこの三百日問題なんですよ。その典型が無戸籍児問題なんですね。

なぜ無戸籍児が生まれるのか。先ほど七六%の方々がこの嫡出推定の規定ゆえにというふうにおっしゃっているというアンケートが紹介されましたけれども、局長、七百七十二条の二項がどうして無戸籍の原因になってしまうんですか。

○委員長(魚住裕一郎君) 小川局長、時間ですので簡潔に。

○政府参考人(小川秀樹君) 前夫の子として届出をされるということを嫌われる、好まないという趣旨だというふうに理解しております。

○仁比聡平君 時間がなくなってしまいましたけれども、つまり、もう縁のない、顔も見たこともない前夫の子供として戸籍を届けなきゃいけなくなるとか、あるいはそれを争うのに前夫に訴えを起こしてもらわなきゃいけないとか、あるいは後婚の夫に、実のお父さんに裁判を起こしてもらうにしてみたって、そのときに前夫を裁判所から呼ばれてしまうかもしれないとか、そういった前夫との関わりというのを恐れ、実際に危険なことがあるということから、この三百日規定がそういう場合にしか働かないのにそういうことがあることから無戸籍児が生まれるんですよ。

私は、ここの実態を、実際の審判あるいは家裁の調査などの実情をしっかりと調査をした上で、この七百七十二条の規定そのものを見直していくという議論を大いにすべきだというふうに思います。そうなってきたときに再婚禁止期間の置く意味というのはもうありませんから、男女平等だという立場からこの規定は撤廃に進んでいく、そうした議論を強く求めて、今日は質問を終わります。