仁比聡平議員は4月23日、参院法務委員会で、警察などでの取り調べの録音・録画を義務化する「可視化法案」(民主党提出)の質問に立ちました。

仁比氏は、「踏み字」や自白強要で冤罪(えんざい)がつくり出された志布志事件(鹿児島県)を例に、代用監獄での長期間身柄拘束や長時間の違法な取り調べ、自白偏重などの構造的な問題を放置したままでは、国民のための司法は実現できず、刑事司法の信頼回復や冤罪の防止は困難であることを強調しました。

仁比氏は、鹿児島県警が、「信頼回復の努力中」という時期(昨年三月)に、喫煙で補導した少年の態度が反抗的だとして警察署内の道場で足払いを掛けて何度も転倒させるなどした警官が特別公務員暴行陵虐容疑で書類送検された問題を指摘。「これが警察の真相の解明か、更生の意欲を引き出すやり方か」と追及しました。警察庁の米田壯刑事局長は「真相の解明でも更生の意欲を引き出すものでも到底ない。誠に遺憾だ」と謝罪しました。

仁比氏は「現場や取調官の認識がどうなっているのか、現実から出発しなければ冤罪や人権侵害をなくすことはできない。密室司法に裁判員を巻き込むことになる」として、取り調べの全面可視化の重要性を主張しました。

提案者の民主党・前川清成参院議員は、「捜査の適正化によって冤罪をなくすという意味でも、任意性の判断の上からも(全面可視化は)大変必要だ」と答えました。

同法案は、24日の参院本会議で、日本共産党、民主党、社民党の賛成多数で可決されました。(2009年4月27日(月)「しんぶん赤旗」)

【会議録】質疑、賛成討論

平成二十一年四月二十三日(木曜日)(未定稿)
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
〔委員長退席、理事松村龍二君着席〕
この全面可視化の問題について、今、大臣から手足を縛って歩けと言わんばかりのものだというお話が出ましたけれども、私は目をしっかり見開いて刑事司法の現実をちゃんと見ようじゃないかという提案だと思っております。
今日、これまでの法務省や警察庁の御答弁を伺っておりますと、どうもこれまでの取調べを変える必要はないと言わんばかりのお立場のように聞こえますので、ちょっと質問、通告と順番が違うんですが、まず警察庁刑事局長にお尋ねしたいと思うんですね。
志布志事件で鹿児島県警への信頼というのは地に落ちたわけです。この信頼を回復すると言ってこられた時期のことだと思うんですけれども、昨年の、つまり平成二十年の三月二日、この志布志署のお隣に鹿屋署がありますが、ここの警察官二人が、喫煙をしていたということで十七歳の少年を補導して、その少年に対する行為によって特別公務員暴行陵虐罪容疑で書類送検されたということがございました。これは事実ですか。
○政府参考人(米田壯君) お尋ねの事件、そのとおり、特別公務員暴行陵虐の被疑者ということで検察庁に送致をしております。
○仁比聡平君 これ、新聞報道で紹介しますので、もし違っているというんだったらお話しいただいていいんですけれども、鹿屋署の二人の警察官が、喫煙していた少年、十七歳を補導して、態度が反抗的だとして、警部補は署内の道場で少年の頭を黒板に数回擦り付けたり、足払いを掛けて数回転倒させたりしたというわけですね。これ、結果としては不起訴になっているようなんですけれども、その不起訴時の理由について、少年を更生させたい思いからやった行為だというふうに次席検事が説明したという記事もございます。
今日、この起訴、不起訴についての当否をもちろん私、言うつもりはございませんが、この道場で黒板に頭を擦り付けるとか、足払いを掛けて転ばせるとか、これがあれですか、真相の解明ですか、あるいは、これが先ほど来議論があっている更生の意欲を引き出すということなのか、局長、どうですか。
○政府参考人(米田壯君) これは、真相の解明とかあるいは更生の意欲を引き出すというようなことでは到底ないというように考えております。
大変遺憾なことでございまして、処分は先ほど委員の御指摘のとおりで、これはちょっと警察として特にコメントできませんけれども、このように事件処理をいたしまして、そして検察庁に送致をしたということでございます。
○仁比聡平君 つまり、ほんの一年前のことですよ。志布志事件が起こって、たたき割りが行われていた時期、お隣の鹿屋署も決して無縁ではなかったと思います、県警挙げての捜査をやったわけですから。その志布志事件において、ありもしなかった事実がさもあったかのように収れんされていくという邪悪な変遷をもたらした違法な取調べと、捜査があれほどの弾劾を受けて、県警は信頼が地に落ちて、私も県警本部長、お会いしましたけれども、信頼回復するために努力をしているというふうにおっしゃられていた時期に現場では少年を道場でこんな目に遭わせる。反抗的だったかどうかは知りませんけれども、関係ないじゃありませんか、そんなこと。反抗的であろうが何であろうが、道場に呼び出して、道場に呼び出してじゃないでしょうね、連れていってこうした目に遭わせるということが現に行われているのが日本の警察なんだということなんですよ。
〔理事松村龍二君退席、委員長着席〕
今日の議論は、統計だとか、あるいは取調べの抽象的な必要性、一般論的なと言ってもいいですけれども、そうしたことを、議論を、前提に、されていますが、私は、現に取調べの現場が一体どうなっているのかと、それを担っている取調べ官は一体どういう認識でやっているのかという、ここの現実から出発しなかったら冤罪や人権侵害をなくすことはできないし、裁判員制度の実施を目前にして国民の皆さんの期待にこたえることは決してできないと思うわけです。
私、大臣、先ほど目を見開いてというふうに申し上げたのは、そうした捜査の現場を私たち政治家がしっかり直視して、ここで国際人権法や私たちの憲法、そして刑事訴訟法に照らして何が求められているのかということをしっかり決断をしていくことが必要な時代になっていることを申し上げたいと思うんですね。
もう一つ、鹿児島県警にかかわって資料をお配りいたしました。
これは、こうした志布志事件などもあって、取調べが適正に行われているかの監督が必要だという議論があって、鹿児島県警においては、全国よりもやや先駆けて取調べの監督官制度というのを運用を始めたわけです。その実態に関して、南日本新聞が監督官が取調べ状況を目視で監督した回数など運用の実態が分かる関係の文書を開示してくれというふうに請求したら、鹿児島県ないし県警は、文書は存在するが、全面的に不開示、一切明らかにできないという決定をしたというわけですよね。事実ですか。
○政府参考人(米田壯君) 昨年十二月に被疑者取調べ監督制度の試験運用状況に関する公文書が開示請求がございまして、鹿児島県の情報公開条例に基づいて不開示とする旨を回答したというように聞いております。
○仁比聡平君 鹿児島県の条例の運用にかかわる話だからというのが今の局長の答弁の御趣旨なんだろうと思うんですけれども、鹿児島県警には警察庁からたくさんの幹部が、出向というんでしょうか、行っております。本部長もそうですよね。
この記事によりますと、不開示の理由は、「取り調べ件数が明らかになると、捜査の進捗状況が推察され捜査に支障が生じる」などとされているようなんですけれども、こんなへ理屈はないでしょう。取調べの中身も個人名も抜きにして県警全体の取調べを監視している回数が明らかになったら、何で捜査の進捗状況、捜査に支障が生じるんですか。私には全く理解がなりません。
これ、鹿児島県警だけではなくて、全国で取り組んでおられる取調べの監視ですね。これというのは透明性を確保しようということが趣旨なんだと思うんですが、いかがですか。
○政府参考人(米田壯君) 取調べ監督制度は、警察内部で、捜査を担当しない部門によって内部でのチェック機能を生かして、そして取調べの適正化に資するというものでございます。
その透明性という点につきましては、その情報公開に関しましては、これは各県の情報公開条例の解釈、運用によるものであろうと思っております。
それから、刑事裁判におきまして、その部分が何か争点に関連するということになりましたら、争点関連証拠ということで監督制度の運用状況に関する文書というものが開示請求の対象とはなり得るというように考えております。
○仁比聡平君 当該事件において裁判上の必要で証拠開示を全面的にやっていくべきだというのは、これは私は当然のことだと思いますし、今日議論になっていますこの法案での証拠の標目の開示なども含めて全面的な証拠開示を私は求めたいと思うんですが、刑事手続においての証拠開示の問題とは別の問題として、市民が刑事司法に判断権者として直接参加するという裁判員制度を実施されるそういう時代にあって、刑事司法に対する国民的な監視こそが私は求められていると思います。
これしきの情報公開に応じることができずに市民を裁判員裁判に臨ませるというのは、結局、これまでの密室司法、人質司法、ここに市民を巻き込もうとするものではないのかと、警察はそんなつもりなのかと、悪事に加担させるつもりかと、そういうふうに言われても仕方がないと思うんですが、私、こういう態度は情報公開においても改めるべきではないかと思いますけれども、いかがです。
○政府参考人(米田壯君) 警察庁におきましては、各県の情報公開条例に基づいて適切に情報を開示していくように指導してまいりたいというように考えております。
○仁比聡平君 これから実際にこんなことが繰り返されたら本当に警察の信頼は地に落ちますよ。局長のお立場から今日はそこまでしか答弁ができないのでしょうから、これ以上は求めずに次の問題に移りたいと思うんですけれども。
この記事の一番下の段に、御覧いただきますように、監督官の一人がこう述べたというので、「取り調べの目視は三十秒、一分のときもある」というわけですね。先ほど志布志事件の踏み字のお話が出ていましたけれども、三十秒、一分見ていて、ここで問題がありませんでしたということで何の担保になるんですかということが私の申し上げたいところでございます。
この間、検察や警察が何の取組もしていないとは私は申し上げませんけれども、こうした取組を経てもなお、捜査組織、警察組織の根深い体質というのはいささかも変わっていないのではないかと私は思うんです。
提案者にお尋ねをしたいんですが、そうした状況の下で今国会で昨年に続いて改めてこの法案を提出し、そして成立を願われていると思うんですけれども、その必要性をどのようにお考えでしょうか。
○前川清成君 もう何度も繰り返しておりますので簡単に申し上げますが、今、仁比委員が御指摘になられたように、捜査を適正化すると、それをもって冤罪をなくすという意味でも大変必要ですし、来月二十一日から始まる裁判員制度において任意性の判断で裁判が長期化してしまい、裁判員の皆さん方に過大な御負担を掛けない、そのためにも必ず必要だと思っています。
仁比先生の友情に甘えて一分間だけお時間をいただきたいんですが、先ほど松村委員の御発言の中に、捜査実務において調書を作らない場合もあると、それを無視しているんじゃないかとか、あるいは私たちが報復があっても当たり前と考えているんじゃないかなどの大変看過し難い御発言がございました。敬愛する松村先生ですけれども、私たちが提案しております条文の三百二十二条二項、これを御覧いただきましたならば、その御発言が誤りであるということを容易に御推察いただけると思います。
それと、私たちも治安の維持は極めて大事だと思っていますし、国民の安心、安全を守ることは政治の大変重要な役割だと思っています。そういう意味で、私たちは正しい警察の大応援団のつもりなんですが、先ほど米田刑事局長が誘拐事件を例に挙げて、現場で聞き出すこと、これもあたかも刑事訴訟法百九十八条で言う取調べのようにおっしゃいましたけれども、そういう御発言が国会で確定してしまいますと、むしろ捜査に支障が来すのではないかと。それは刑訴法の取調べとして扱うのが適当なのか、むしろ警察官職務執行法等々で規律されるべき問題なのか、この点は是非十分に御検討いただいて御答弁をいただかなければならないということを付け加えさせていただきます。
○仁比聡平君 私も、前川委員始め提案者の皆さんが刑事司法の適正な在り方について一貫して御質問もされていることをよく承知をしているわけで、この大切な取調べの全面可視化の問題について、余り現実から離れた、それこそイデオロギッシュな議論みたいになってしまうのはいかがなものかというふうに思っております。
昨年、参議院で可決はしたが、衆議院では残念ながら成立ということにならなかったわけですね。そこで、今国会における法案の審議に何を期待をするのかということについて提案者の方にもお尋ねをしたいと思うんですけれども、私は、こういうときにこそ、国会での審議を尽くすということの意味や国民的な機能が果たされるときはないと思うんです。
世論を見ますれば、この全面可視化を求めるという声は大変あるわけですね。けれども、警察庁や検察庁の方では先ほど来のような御議論がある。このときに、どういう点が中心の争点であって、その点について、どのような根拠やあるいは実態の調査に基づいて、これはあるいは国際的な調査ということも含めてということですけれども、それに基づいて国会で議論がなされているのか。このことが真摯に議論が尽くされることが必要だと思います。
そして、そうした審議の経過が国民の皆さんに明らかにされて、国民の皆さんが当委員会の審議の行方に大変注目もいただいて、その中で国民的な判断がどこに向かっていくのかと。それだけ国民的な合意を形成していくのに十分な審議の時間や期間というのをやっぱり私たち国会は持っていく必要があると思うんですね。
今日は、趣旨説明がなされて、こうして審議に入って、この後採決も予定をされているという本当に慌ただしいことが昨年に続いて繰り返されるわけです。このまま衆議院で昨年と同じような扱いにされるということは私はあってはならないと思うし、大変残念なことだと思いますが、提案者、いかがですか。
○松岡徹君 昨年のこの法案を、同じような法案を提案したときは、私たちは何としても今年の五月二十一日からスタートする裁判員制度にとって必要不可欠な整備すべき制度だという立場で提案をさせていただきました。
仁比委員が御指摘のように、思いは私たちもそのとおりでございまして、しっかりとした議論をするというのは、この法務委員会の中だけの議論ではなくて、まさに日本の司法制度の大事な根幹を成すところだと。まさに裁判員制度が目の前に迫って、この議論は国民の課題としてもあるいは問題としても議論になるような、徹底した議論を是非とも私たちも積み上げていくようにしたいというのが本音であります。
去年はああいう事態になりましたけれども、私たちは是非とも、今日ここで採決までというふうになってはおりますが、衆議院の場においては是非とも国民をも巻き込んだような徹底した議論がなされるように私たちは期待をしておりますし、同時に成立がされるように期待をしているところであります。仁比委員の問題意識としては共有をするところがたくさんあるということを申し上げたいと思います。
○仁比聡平君 委員長に、あるいは委員会の同僚議員の皆さんにお願いも申し上げたいと思うんですけれども、私、このテーマにかかわって、今日も話題になっておりますが、諸外国の運用の制度や実情、また我が国の取調べ等捜査方法のありよう、国際人権法の求める理念や価値判断と我が国の現状などについて、当委員会での引き続きの調査、加えて参考人の質疑も含めて行うべきだと考えております。
加えて、昨年来ですか、一貫して求めてまいりましたけれども、冤罪の被害者の方を直接呼んで違法な取調べの実態というものを私たち自身が直接伺うというような取組もあっていいのではないかと思いますので、よろしく御検討をお願いしたいと思います。
○委員長(澤雄二君) 今の御提案については、後刻理事会で検討させていただきたいと思います。
○仁比聡平君 そうした中で、大臣、その国際人権法条約の理念と我が国のこうした議論について少しお尋ねをしたいんですけれども、世界人権宣言あるいは国際人権規約に基づいて、自由権規約委員会や国連の拷問禁止委員会からこの日本の刑事捜査の在り方について大変厳しい勧告が相次いで重ねられてきたわけです。
一つ、二〇〇七年の五月に出されました国連拷問禁止委員会の総括所見について取り上げますと、端的に言いまして取調べ過程の全面録画を直ちに実行する、あるいは警察拘禁期間、代用監獄を始めとして警察の下に被疑者が長期間勾留されるというこの状況を変えるべきであると、あるいは取調べの時間について法的規制をするべきであると、こうしたテーマが出ているわけですね。
今日あれこれに大臣の所管外のことまでお尋ねするわけにもまいらないと思うのですけれども、今日テーマになっております取調べ過程の全面可視化というのは、つまり国際人権の感覚から見たときに看過し得ない構造的な問題を抱えている日本の刑事捜査と不可分のものとして全面的な可視化をするべきではないのかという勧告が出ているんだと思うんです。
これに対して日本政府が国連に答えている中身はもう今日あれこれ繰り返されてきましたから大臣に改めてお答えいただく必要はないんですけれども、私は政治家としてあるいは大臣としてお尋ねしたいんです。日本はこの国連の人権理事会に立候補されました。人権理事会に立候補されるときに日本は主要人権条約を誠実に履行していますというふうに述べているんですね。これは当然のことだと思います。国連からこうした指摘が重ねて行われると、つまり国際人権法の水準に照らしたときに日本はおかしいですよというふうに何度も何度も言われるということについて、大臣はどんなふうにお感じなんでしょうか。
○国務大臣(森英介君) 十分な御理解がいただけていないということは誠に残念に思いますけれども、本件の最終見解は国連文書として公表されたものでございますので、これを踏まえまして、今後ともこの拷問を許さないという価値観を国際社会と共有し、我が国の実情等を勘案しつつ適切に対処してまいりたいと思っております。
○仁比聡平君 今日、前の質問の中でも、前の議員の質問の中でも我が国の実情というお話が何度も何度も出てくるわけですね。それぞれの国や社会にそれぞれの実情があるのはそれは当たり前です。だけれども、それだけを述べていたのでは国際社会とか国際人権とかいうのは成り立たないでしょう。
加えて、刑事捜査というのが人権侵害の危険性を持っているというのは、これは重大な犯罪的な結果が起こって、その真犯人や真相を究明するというそのプロセスにおいては人権侵害的な状況が起こり得るというのは、これは殊更我が国だけの問題ではなくて、世界中どこでも、どの社会でも同じなんですよ。だからこそ、デュープロセスという理念が発達をしてきたのであり、我が国の憲法三十一条は正面からそれを採用したわけですね。そういった我が国の憲法の理念というのは国際人権法の水準に照らして決して遜色はない、本当にその水準の先頭を行っているような条文になっているんですけれども、だけれども刑事捜査の実態はそこから懸け離れているということが私は問題なんだと思うんですよ。
先ほど、大臣、実情に応じてとおっしゃいました。実情を無視しろと言っているわけではないんです。だけれども、理念の問題、しかも人権や刑事司法の在り方というここの理念の問題はもっと真剣に受け止めるべきではないかと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(森英介君) これまでも申し上げ、今確かに刑事手続というのは被疑者、被告人の権利保障と一方で真相の解明という、時に相対立するような要請の調和を図る役割を担っております。そういう意味で、当然、委員会が指摘する各点についてはそれを刑事手続全体の在り方との関係において検討すべきであるというふうに考えておりまして、これは先ほど来申し上げているとおりのことでございます。
○仁比聡平君 時間がなくなりましたから、今の点も踏まえた上で、最後、提案者に一問伺いたいんですけれども、それは一部録画ではなぜ駄目かということにかかわる話なんですけれどもね。これまでこの委員会で、虚偽の自白というのがなぜ起こるのかと、人がやってもいないことをさもあったかのように、やったかのように供述するというのは、なぜそういうことが起こるのか。あるいは目撃証人が本当は見ていなかった、あるいはそのようなことは見ていなかったことが後から明らかになるんですけれども、あってもいないことをさもあったかのように供述するということがなぜ起こるのかと。そこに刑事裁判が供述証拠を使用せざるを得ない中で大変な危険性が潜んでいると思うわけです。
志布志事件でも経験をしましたように、供述の変遷が繰り返されるということもあります。あるいは、取調官の誘導ないし働きかけによって記憶そのものが変容するというふうなことも指摘をされているわけですね。
私は、そうした危険性が潜む供述証拠は全面的に、初めから最後まで録画をして初めてその任意性や信用性を判断し得ると思いますが、提案者はいかがでしょう。
○前川清成君 事例的には仁比委員のおっしゃるとおりですし、事例として一つ付け加えるのであれば、あの免田事件においては三日三晩寝かせずに取調べを続けたということもあったと思います。
本質的なことを申し上げれば、やはり刑事手続、捜査も含めた刑事手続というのは、私たちの社会に対して害を加えた人、要するに犯罪者に対して立ち向かう、そういう手続でありますので、どうしても私たちの基本的人権に関する考え方とかがその意味では弱くなりがち。ですから、この刑事手続の場面においては、やはり人権保障あるいは手続の公正さ、適正さ、これというのは幾ら強く言っても決して言い過ぎることはないだろう、そんなふうに考えております。
○仁比聡平君 諸外国の研究の中で一つだけ最後紹介しておきますと、アメリカのノースウエスタン大学のロースクールの教授でございますスティーブン・A・ドリズィン教授がせんだって来日されまして、国会でも勉強会がありましたので、松野提案者あるいは私、一緒に参加をさせていただいたんですね。
この中で、アメリカにおいてのお話ですが、警察の捜査官が特別の訓練学校に送られて、尋問技術を学ぶとともに拘束された被疑者の認識、判断、決定を操って自白に導くための訓練を受けている、こうしたことを多くの人は知らないだろうという文章があるんですけれども、愛媛の県警から長時間の取調べによって被疑者を弱らせるという、そういうねらいが文書で明らかになったこともあるわけでございます。
やっぱり全面可視化が必要だということを強く申し上げて、質問を終わります。

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○委員長(澤雄二君) これより討論に入ります。
御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。
○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、刑事訴訟法の一部改正案に対する賛成の討論を行います。
我が国の刑事司法は、志布志事件に示されたように、被疑者を代用監獄に長期間拘束し、踏み字など、無理やり自白を獲得しようとする構造的問題を持っています。このような取調べに基礎を置く結果、冤罪、誤判が後を絶たず、多くの裁判所が被疑者の身柄拘束を認め、捜査段階の調書を安易に採用し、有罪を認定してきました。
国連の自由人権規約委員会、拷問禁止委員会の再三の勧告、指摘をまつまでもなく、これが国際人権基準に著しく反することは言うまでもありません。
国民参加の裁判員制度の実施を前に、こうした自白偏重の冤罪をつくり出してきた土壌をそのままにして、あってはならない冤罪に裁判員を巻き込むことは断じて許されないことです。捜査、取調べにおける全面可視化は、捜査の適正と刑事司法が失った信頼を取り戻す上で不可欠の条件です。
裁判員制度の導入を機会に国際基準を遵守し、真に国民のための司法を実現するその努力を呼びかけて、賛成の討論といたします。