中小水力発電の普及と拡大に関する質問主意書

政府は、二〇一四年四月十一日に閣議決定したエネルギー基本計画の中で、原子力発電を重要なベースロード電源と位置付け、可能な限り低減するとしながらも、原発ゼロを求める国民世論に反し、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の原因究明、反省もないまま再稼働の方針を打ち出している。

政府は、ベースロード電源を「発電(運転)コストが、低廉で、安定的に発電することができ、昼夜を問わず継続的に稼働できる電源」と規定し、原子力の他に一般水力、地熱、石炭火力を挙げているが、発電コストのみでなく、発電施設の建築コスト及び耐用年数、発生する廃棄物及び処理費用、事故発生時に必要な避難費用及び損害賠償費用など、各電源ごとに算出し、比較するべきであるが、これらの数値さえ明らかにせず、原子力発電が低廉であるとの評価は極めて不当である。

再生可能エネルギーの導入目標も、「これまでのエネルギー基本計画を踏まえて示した水準を更に上回る水準の導入を目指す」にとどまっている。再生可能エネルギーの抜本的普及を求める国民世論に応えるためには、再生可能エネルギーを原子力発電より優先して給電する仕組みに改め、再生可能エネルギーの数値目標を定めるとともに、固定価格買取り制度(以下「FIT」という。)をより実態に即した制度にすることが求められる。

再生可能エネルギーの中で、中小水力発電は、安定供給性に優れたエネルギー源であり、未開発地点も多く、政府も積極的な導入の拡大を目指すとしてFIT申請時の手続を簡素化するなどしているが、事業者や各自治体、研究者からは、FITが制度上抱える問題点が指摘されている。技術の進歩によって、河川や農業用水路だけでなく、水道管の流水を活用した発電など、今まで経済的に利用できないとされてきた小水力も開発が期待され、地域活性化や新たな雇用の創出に寄与しており、小水力発電を促進する制度設計が求められる。

よって、以下質問する。

一 日本における水力発電のポテンシャルについて

経済産業省資源エネルギー庁(以下「同庁」という。)は、技術的・経済的に利用可能な水力を「包蔵水力」と位置付け、水力発電のポテンシャルを論じており、同庁が毎年発表している「中小水力開発促進指導事業基礎調査(発電水力調査)報告書」の中で包蔵水力を示しているが、その数値は一九八六年六月時点の「第五次発電水力調査」の技術水準、経済水準に基づいている。二〇〇九年三月に発表した全国の未開発地点は二千四百六十六箇所、合計出力は六百七十五万キロワットとしているが、これも過小評価である。

1 再生可能エネルギーの普及を論じるには、最先端の技術水準でポテンシャルを把握する必要がある。同庁によると、我が国に降り注ぐ水力エネルギーを「理論包蔵水力」といい、年間七千百六十七億キロワットアワーあると推計されている。これは、我が国の年間総消費電力の七割に当たる。その中で技術的、経済的に利用可能な地点を積算して求めたのが「包蔵水力」である。この数値は、技術の進歩に従って増えるものであるにもかかわらず、一九八六年以降、全国的な調査を行わなかった理由を明らかにされたい。

2 FIT導入後、今まで経済的な事情で利用を見送られてきた案件も含め、今後再生可能エネルギーの普及が見込まれる。経済的な収支が見直されている中で、一九八六年当時の判断のままでは、エネルギー資源を的確に把握しているとは言えない。当時の調査で利用不可と判断した地点を明らかにされたい。また、その判断の根拠となった基準、考え方、計算式を示されたい。

3 全国的に再調査を行い、水力発電ポテンシャルの見直しを行うべきではないか。また、水力発電ポテンシャルを活用するため、政府はどのような取組を行うのか明らかにされたい。

二 中小水力発電における買取り価格の設定について

FITの認定状況を踏まえ、二〇一三年度末に行われた調達価格等算定委員会において、再生可能エネルギー事業の拡大の動きが報告されている。水力発電において、FITの開始により、「採算性の観点から従来は開発を見送っていた案件の見直しや、中小水力発電の開発に向けた地域での協議会の設立等、開発に向けた動きが活発化。さらに、制度の開始を受け、老朽化した小水力発電設備を改修して、事業の継続を検討する事業者が増加している」としているが、制度の適用を受けた新規運転開始実績は、二百キロワット未満の区分で二十二件、二百キロワット以上千キロワット未満の区分では七件、千キロワット以上三万キロワット未満の区分では零件であった。相談件数も含めればそれぞれ六十件、五十件、三十件であるが、抜本的普及とは言いがたい。FIT申請の九割は太陽光発電事業であり、実績を踏まえて価格を更新したのも太陽光発電だけであった。その他の電力については、価格を据え置き、経過を見守るといった議論にとどまっている。

1 中小水力発電の価格を据え置いた理由を明らかにされたい。

2 小水力発電の普及に関して電力供給事業者からは、「出力規模だけでなく、導水路、水圧鉄管のコストを決定付ける平均勾配により価格を決定づけてはどうか。開発地点の勾配条件により水量と落差が同じでも、導水路や水圧鉄管の建設コストは大きく異なるからである」との提言がなされている。

また、民間企業と連携した事業を計画している福井県の担当者は、水量の豊富な場所が、人里から離れていることが多いため「インフラ整備に費用がかかり、自治体単独で採算がとれるまで数十年かかる」と述べている。

さらに、新潟県で設置可能な水力発電機は、百キロワット未満のものが多いとされており、実証実験を経て五十五キロワットの設備を設置する見通しだが、太陽光パネルと異なり、環境に合わせた特注品となると、設置費用が高価となることが多いため「水力発電機が特注品となった場合などは採算が合うかどうか不透明である」と指摘されている。

こうした提言や問題に対して、政府としてどのように対応するのか。より条件を細分化した価格設定、各地の送電網の整備や各変電所への大型蓄電池の設置、特注発電機を制作する地元企業への支援などを行うべきではないか。

三 中国地方小水力発電協会の要請について

中国地方では、広島中央農業協同組合(JA広島中央)などを中心とした中国小水力発電協会が、事業用小水力発電所を運用してきたが、一九七〇年には九十箇所あった小水力発電事業が、二〇一二年では五十三箇所まで縮小している。急峻な地形を利用した施設であることから、度重なる水害などに遭うことが多くなり、老朽化した水路や発電施設の改修工事の頻度が増している。加えて、百キロワット未満の発電所は、FITによる単価三十四円でも投下資金の回収が厳しいため、六十年間行ってきた中小水力発電事業において、継続、拡大の意思があるにもかかわらず、継続運転すら危ぶまれている。

1 中国小水力発電協会によると、既設水力発電施設のFIT適用要件による試算は「建屋内設備の更新及びランニングコスト三億三千万円」だったが、いざ申請を行うと、「水路・水圧鉄管の更新」も求められ、その費用はさらに二億円かかるという試算になった。九十五キロワットの出力で、二十年間の売電料の見込みは三億八千万円であり、FITへの移行を断念せざるをえないと指摘している。

自然エネルギーはその特性上、施設と発電に要する設備の耐用年数が異なる場合が多く、全てを新設しなければ効率的な発電事業が行えないものではない。耐用年数五十年、六十年といった施設や、農業用水路など、今後二十年以上使用が見込まれる施設をいかし、建屋内設備のみの部分的更新においても、FIT適用を認めるべきではないか。

2 中国地方では、前記三の1のとおり年間約二万世帯分の電力を五十年以上にわたって支えてきた中小水力発電事業の存続が危ぶまれている。また、全国で二千箇所以上とされる未開発地点の中にも、百キロワット未満の発電機設置の可能性がある。小水力発電事業の継続、再開、新規参入にも資するよう、出力百キロワット未満の区分と買取り価格を新設すべきと考えるが、いかがか。

3 同庁によると、FITの価格設定には、発電に通常要するコストの中に、災害時における機器損傷による買換え、修理等の費用も含まれているというが、その積算根拠を示されたい。また、自然災害等によって発電能力が損なわれた際に、「FIT適用から災害による損傷までの期間に売電で得た収入」が、「初期投資及びそれまでの期間、発電に要したコスト」を賄うことのできない場合、修繕費用への支援を検討すべきではないか。

4 FIT移行に係るコンサルティング費用などへの助成や、コンサルティングを行う専門家不足が指摘されているが、対応策について、政府の見解を明らかにされたい。

右質問する。