○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、この参議院においても、先週水曜日の審議入り強行以来、実質僅か七日の間に行われた国会の自殺行為というべき暴走の数々に満身の怒りをもって抗議するとともに、特定秘密保護法案に断固反対の討論を行います。

 同僚議員の皆さん、今この瞬間も、立場を超えて国会を包囲し、国の隅々から噴き上がっている、希代の悪法、特定秘密保護法案廃案、今国会成立などもってのほかという圧倒的な国民の声がどう聞こえているのでしょうか。私たちは、この世論を敵視し、テロ行為とその本質において変わらないなどと威嚇した政治家と断じて同じ立場に立ってはなりません。これほどの重大法案の行方に世論が集中する中で、法案への賛否さえ明らかにせずに退席をした議員諸君の態度は、私にとって到底理解し難いものであります。

 与党諸君、与党諸君、昨日の特別委員会において、先ほど中川委員長が報告をしたような採決など存在をしておりません。審議中に突然自民党委員が立ち上がり、議場が騒然とする中、私は自民党理事及び委員諸君の席に迫って断固抗議の声を上げましたが、僅か二メートルほどの間近にいた私にさえ、何の動議かさえ聞き取ることはできませんでした。まして中川委員長に聞こえたはずがないではありませんか。これ自体、国会議員の質問、討論、採決の権利を奪う重大な憲法違反であります。

 なぜ与党は、ここまで暴力的に審議を打ち切り、採決を強行しようとするのか。それは、この法案を審議すればするほど、幾たびもの修正や弁明答弁を重ねても、到底覆い隠すことのできない重大な問題点があらわになるからです。それは、本法案の骨格それ自体が、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という日本国憲法の基本原理を根底から覆す、極めて危険な違憲性を本質としているからであります。

 第一に、特定秘密の指定は政府に委ねられ、政府が保有する膨大な情報の中からその恣意的判断で勝手に決められることです。国民は、何が秘密かも秘密とされる社会の中で、自分が近づいた情報の中身も分からないまま処罰され得るのです。そんな国にしてよいのか。断じて許すわけにはいきません。

 政府が、幾ら特定秘密の範囲は別表で防衛、外交などに限定されていると繰り返しても、秘密指定の要件が、我が国の安全保障にとって著しく支障を与えるおそれがあるという広範かつ曖昧なものである以上、際限なく指定されるおそれがあることは余りにも明白です。

 昨日、自民、公明、維新、みんなの四党が新たな機関の設置で再び合意したと報じられ、総理が責任を持ってチェックする仕組みをつくるなどと言いますが、一昨日の総理答弁さえ密室協議で修正されるなど、結局、幾ら名ばかりの第三者機関をつくっても、法案の危険性は何も変わらないことが一層明らかになっただけではありませんか。法案の危険性はいささかも減じられていません。

 そもそも、我が国の国家秘密のほとんどは日米安保体制の根幹にかかわるものです。核密約も沖縄返還密約も隠し続け、我が党が米国で公表された文書そのものを国会で示して追及しても、目の前にあるものをないと、うその答弁を繰り返してきたのが歴代自民党政府ではありませんか。在日米軍の特権や基地の運用にかかわる取決めは、今なおその全容を明らかにしておりません。原発、TPPを始め、国民が強く求める情報を今でも隠し続けているのが政府・与党であります。

 しかも、修正合意によって、秘密の指定期限は六十年に延長されました。六十年前の旧安保条約当時の非公開文書が特定秘密に指定されれば、百二十年以上にわたって国民に明らかにされないことになります。まさに永久秘密ではありませんか。

 密約の存在さえ認めず、反省すらせず、日米軍事同盟のやみを一層拡大するなど、断じて認めることはできません。

 第二に、本法案で、懲役十年以下の重罰と威嚇や適性評価の名によるプライバシー侵害と権力の監視にさらされるのは、限られた公務員の殊更な漏えい行為だけではなく、広く国民の普通の日常とその自由であり、知る権利にこたえて巨大な行政機関の秘密に迫ろうとする取材と報道の自由だということです。

 政府・与党は、一般の国民は一切処罰の対象となりませんとか、報道機関や取材の自由は配慮されるなどと繰り返してきましたが、捜査機関が罰則違反の容疑を抱き、その事件で必要と判断するなら、逮捕、勾留で身柄を拘束した密室での取調べも、捜索、差押えも行われる、そのことは刑事司法を所管する大臣、総理も認めたとおりです。故意や目的を明らかにするのだといって、自白の強要や盗聴など違法捜査が横行する危険は一層強まることになります。しかも、その逮捕や捜索差押令状にも、起訴状や判決にも、秘密の中身は明らかにされません。刑事裁判の証拠としての秘密の開示も極めて困難であることもはっきりいたしました。

 これは、国民の裁判を受ける権利、弁護を受ける権利、裁判の公開原則は踏みにじり、処罰は憲法違反ではないのかを国民が争うことを困難にする暗黒裁判にほかならない。まさに、報道機関から国会議員、広範な国民に至るまで、捜査機関の一存で容易に処罰することを可能とする弾圧立法そのものであります。こうした重罰法規は、それだけで言論、表現の自由を萎縮させ、民主主義社会をその土台から掘り崩し、日本を暗黒社会とするものです。

 さらに、政府が秘密を取り扱う者に行う適性評価によって、精神疾患や飲酒の節度、借金など、国民の機微なプライバシーを根こそぎ調べ上げる国民監視の仕組みがつくられることになります。

 しかも、その調査にかかわる機関には、自衛隊の情報保全隊や公安警察、公安調査庁が含まれることも明らかになりました。情報保全隊は、自衛隊の中でも一般市民に対しても思想信条を含めた洗いざらいの調査を行い、イラク戦争反対運動に対する不当な監視は裁判でも違法と断罪をされています。公安警察は、この間流出した情報によって、違憲の思想信条の調査、網羅的な不法な監視活動を行っていることが発覚をしています。

 法案は、これまでも行われてきた情報機関の不当な調査活動に法的なお墨付きを与え、公務員のみならず、国から事業を受注して特定秘密の提供を受けた民間企業やその下請企業で働く労働者、派遣労働者、さらに、その対象者の家族、親友、友人、知人と限定なく監視の対象を広げていくのであります。

 第三に、法案が、特定秘密と指定されれば、情報の国会への提供さえ政府の裁量に委ねるばかりか、秘密会に提供された秘密を同僚議員に話すだけで重罰を掛けるなど、国会の国政調査権、議員の質問権を乱暴に侵すものです。この法案は、国民主権と三権分立、議会制民主主義の根幹を壊すものと言わなければなりません。

 皆さん、本法案反対、廃案の声はこれまでになく広範に、そして急速に噴き上がり、山田洋次さんや宮崎駿監督など映画関係者の反対する会、ノーベル賞受賞者の益川敏英さん、白川英樹さんなど学者の会、全国に広がる連日のデモなど、その広がりは国民的というべきものになっています。

 数々の暴挙を重ねて、安倍政権がこの世論から逃げ切ったと考えるなら、それは大間違いであります。追い詰められているのは安倍政権と暴走する与党の側であります。たとえ多数を頼んで強行しても、法案の施行など許さない、廃止を求める国民の闘いは一層燃え盛ることになるでしょう。この暴走を突破口に、憲法の明文改憲を狙い、集団的自衛権の行使容認や国防軍創設を企てようとも、強権と戦争国家への道を許さない国民の団結の前に、一層の反撃を浴びることになるでしょう。

 与党諸君は、その暴走の一歩一歩が政権の基盤をますます掘り崩していることを知るべきであります。一人の政治家として反対の票を投じようではありませんか。かつて、軍機保護法、治安維持法の体制下、大本営発表で国民を欺いたあの戦争の誤りを再び繰り返してはなりません。

 日本共産党は、広く国民各層と手を結んで、憲法を高く掲げ、米軍とともに海外で戦争をする国に変える企てと断固として闘う決意を申し述べ、反対討論を終わります。(拍手)