契約「取消権」まで奪う

18・19歳も悪質業者の標的に

 民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げるとともに、若者として保護する年齢を関係法律ごとに規定する改定案が、自民、公明、維新だけで強引に審議入りしています。「18歳でおとな」となることで何が変わるのか、問題はなにか、日本共産党の仁比聡平参院議員(弁護士)に聞きました。(聞き手 岩間萌子 北野ひろみ)

 現在の民法は「年齢20歳をもって、成年とする」(第4条)と定めています。これを18歳に引き下げるのが今回の改定案ですが、飲酒や喫煙、ギャンブルなど多くの若者保護規定は、20歳のままで変わらないように立法上の手当てがされています。ところが、契約や取引に関する若者保護規定である「未成年者取消権」(第5条)だけは18歳に引き下げられるのです。ここが一番大きく変わってしまう点です。

 未成年者も、売買や貸し借りなど「法律行為」ができますが、それに親権者など法定代理人の同意がないときは後から取り消すことができる、というのが未成年者取消権です。例えば高額のローンを組んで高級車を買ってしまったり、返せないサラ金を借りてしまったり、どんな失敗をしても、「20歳になっていなかった」と証明するだけで、「だまされた」とか「脅された」と立証するまでもなく取り消せます。この“鉄壁の防波堤”があるため、悪質業者も20歳未満の若者たちには手を出せずにきたのです。

 高校生も含め18歳、19歳の若い世代からこの防波堤を外してしまって本当に大丈夫なのか。取引の独立した主体としての社会的経験が一律に成熟しているといえるのか。マルチ商法やサラ金も含めた社会の危険にさらされることになり、若者の本当の自立も妨げてしまうことになるのではないか。日本弁護士連合会(日弁連)や消費者団体から、重大な懸念が出されていますが、その検討は十分にされていません。

世論も反対多数

 私は、4月5日の参院法務委員会で、これらの問題を指摘し、引き下げの理由はどこにあるのかただしました。

 ところが上川陽子法務相は、「成年年齢を引き下げたから」、「国政上、18歳以上の人を一人前のおとなとみて将来の国づくりの中心とする政策的判断をしたから」と述べるだけでした。自民党は「国法上の統一が必要」と繰り返してきました。つまり、政府・与党がそう決めた、そう判断したということ以上の理由はないのです。飲酒や喫煙について「心身の未成熟による悪影響」、ギャンブルについては「依存への脆弱(ぜいじゃく)性」から保護を変えないのに比べても異様です。

 政府は、2009年の法制審議会答申が「成年年齢を18歳に引き下げるのが適当」としたといいますが、この答申自体が、引き下げの時期は▽消費者被害拡大に対する施策が実現しているか▽その施策の効果が広まっているか▽国民の意識となっているかの“三つのハードル”を課していました。ところが、政府が今回の改定案を提出するにあたって、それらの条件が満たされたかどうか検証する、日弁連や消費者保護の団体が参加した検討会さえ開かれていません。

 13年10月の政府の世論調査でも、「18歳、19歳の者が親などの同意がなくても一人で高額な商品を購入するなどの契約をできるようにすること」に、「反対」「どちらかといえば反対」は合計79・4%に上っています。法案が国会で審議入りした4月24日に「読売」が出した世論調査でも、引き下げに「賛成」は42%で、「反対」が56%と上回っています。

国民的な議論を

 そもそも、成年年齢の引き下げの動きが強まったきっかけは、07年に第1次安倍政権が憲法改悪のための国民投票法を強行したことでした。このとき国民投票権年齢は18歳とされましたが、選挙権年齢と一致しないことから憲法改正国民投票を動かせませんでした。そこで18歳選挙権の実現と、もう一方で20歳成年制度とさまざまな若年者保護をどうするかが自民党政治の重要課題となり、そのもとで成年年齢を引き下げるとしたのが09年の法制審答申です。

 第2次安倍政権復活後の2016年に実現した18歳選挙権は、若者の政治参加、国民主権を実現する重要なものです。しかし、若い世代の貧困や閉そく感も大きな問題となるなか、社会的未経験につけ込む被害からの保護を外していいのか、は全く別の問題です。それは少年法の適用年齢引き下げ問題にもつながります。国会で、若者たちが置かれている実態をしっかり検証しながら、国民的議論が慎重に尽くされなければなりません。

 今回、一緒に提出されている民法改定には、男女の婚姻年齢の18歳統一という当然実現されるべきものも含まれています。しかし若者の実情も知ることなしに、自民・公明や維新が、数の力で無理やり強行するなど、絶対に許されないのです。(しんぶん赤旗 2018年5月8日)