○仁比聡平君
私は、日本共産党を代表して、改憲手続法改正案に断固反対の討論を行います。
安倍総理が、何が何でも集団的自衛権の行使を容認しようと、事もあろうか解釈改憲の閣議決定をあと僅か一週間の今会期中に迫るなどという立憲主義破壊の暴走に、国民的怒りは日を追うごとに広がっています。
解釈改憲であれ明文改憲であれ、我が国憲法の根幹である憲法九条をなきものにし、日本を戦争をする国に変える憲法改悪は断じて許されない、それが多くの国民の声であります。
そもそも、改憲手続法は、七年前、戦後レジームからの脱却、時代に最もそぐわないのは憲法九条と唱えた第一次安倍政権によって強行された九条改憲と地続きのものです。
その内容自体、改憲案に対する国民投票に最低投票率の定めがなく、投票権者の僅か一割、二割の賛成でも改憲案が通り得る仕組みになっていることを始め、最も自由であるべき国民の意見表明と国民投票運動を不当に制限し、改憲案の広報や広告を改憲推進勢力に有利な仕組みにするなど、できるだけ低いハードルで改憲案を通せるようにした極めて不公正かつ反民主的なものであり、それは国民主権と憲法九十六条の理念、趣旨に反する根本的欠陥にほかなりません。
投票権年齢、公務員などの運動規制、国民投票の対象といういわゆる三つの宿題も、参議院における十八項目にも及ぶ異例の附帯決議も、そうした重大問題に発したものでした。
ところが、本改正案は、その根本的欠陥をそのままに、宿題は解いたと強弁して、国民投票をとにかく動かせるようにしようというものであります。それは、解釈改憲の暴走と車の両輪であり、憲法破壊と日本国憲法との相入れない矛盾を打開するための明文改憲の条件づくりにほかなりません。
法案は、第一に、現行法が義務付けたはずの選挙権年齢の十八歳への引下げを棚上げし、国民投票権年齢だけを確定するとしていますが、これは、七年前、当の発議者が、選挙権年齢を投票権年齢とともに引き下げることは国民投票の大前提、最低限の条件と繰り返した答弁にも真っ向から反するものです。
中でも重大なのは、国民投票権年齢と選挙権年齢の一致を求める法律上のリンクを切り離し、選挙権年齢の十八歳への引下げについての法律上の期限をなくしてしまう点です。これでは、改憲案が発議されたとき、国民投票は行うのに、その改憲案を発議する国会議員は選べないことになる、それは不条理だという若者たちの声にどう答えるのですか。法的担保をなくせば、投票権年齢と選挙権年齢の不一致が長期間継続する事態も排除できません。
憲法審査会における幾人もの参考人から、憲法改正には政治的判断能力があるとされながら選挙権は認めないのは憲法十五条の参政権平等原則に反する、憲法九十六条に言う国民と十五条に言う国民は主権者として政治に参加する点で一致しており、両者の年齢は共に引き下げることが選挙権平等の当然の要請である、また両者の不一致は立法不作為であるなど、厳しい指摘がなされました。
我が党の質問に対して、発議者自身が、不一致が長い間放置されれば憲法上の問題になり得ることを認めているのであります。憲法違反の蓋然性ある法案をそのまま通していいはずがないではありませんか。
第二に、法案は、公務員による国民投票運動の自由が広範に制限されかねない規定を設けるとともに、さらに罰則や組織による国民投票運動の規制を検討するとしていますが、それは公務員や教育者の運動を規制することによって、広く主権者国民の自由な意見表明や国民投票運動を抑え込み、取り返しの付かない萎縮的効果をもたらすものであって、宿題を解くどころか、とんでもない逆行であります。七年前、国民投票運動は自由であるとして削除された、裁判官など特定公務員四職種への禁止規定の復活はその象徴です。
一般の公務員について、発議者は、純粋な国民投票運動は許されるが、政治的目的を伴った行為は許されないなどと言いますが、その切り分けは極めて曖昧であり、憲法上許されない過度に広範な規制にほかなりません。
公務員法による政治的行為の禁止は、極めて限定された制限列挙です。いわゆる堀越事件最高裁判決は、公務員の政治活動は、公務員の職務遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められない限り自由であるとしています。公職選挙法で禁じられる地位利用も、職権行使そのもの、又は職権を濫用して行われる場合に限られています。公務員法や公選法で何ら問題とされないことが、改憲案の是非をめぐって世論が沸騰する中行われる憲法改正国民投票運動においては許されないなど、あり得ないではありませんか。
さらには、本改正案発議に当たって、七年前の審議で調査検討が強く求められてきた最低投票率制度を検討さえしていないなど、参議院附帯決議を一顧だにしていないことも明らかになりました。
改憲手続法の根本的欠陥という背理に更に背理を重ねて、とにかく動かせるようにしたと強弁して動かすなら、そうした欠陥の露呈は避けられないでしょう。そうなれば、行われる国民投票に重大な瑕疵が生まれることになります。
憲法は国民のものであり、主権者の力で時の権力の手を縛るものであります。憲法改正の決定権は国民一人一人とその総意にある、それが憲法九十六条の趣旨であります。どんなに法律の条文だけは整えても、憲法破壊を許さない国民的世論の広がりが立ちはだかるでしょう。
欠陥だらけの改憲手続法は、改定ではなく廃止すべきことを強く求め、反対討論を終わります。(拍手)