第186通常国会 3月17日 法務委員会

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

 冒頭、前回の所信質疑で、選択的別姓につきまして、大臣の人権問題とは捉えていないという趣旨の御発言にちょっと委員会室もどよめいたんですが、それちょっと伺いたいんですね。

 法務当局からも、前回、婚姻に際し同姓を強制している国は我が国だけだという趣旨の答弁がございましたが、その民法の下で、自分の氏のまま別姓を選んで法律婚をしたくてもできない、あるいは通称使用でも日々つらい思いをしていると、こうした苦しんでいる方々がたくさんいらっしゃるわけです。今日、ここの議論に踏み込んでというつもりはないんですが、こうした現状は現行制度の下で起こっている人権問題であって、だからこそ国際人権条約の関係機関から我が国に対して繰り返し勧告が重ねられていると。私はまさに人権問題だと思うんです。

 大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(谷垣禎一君) 御指摘のように、前回のこの法務委員会の質疑におきまして、私は、選択的夫婦別氏制度の導入は必ずしも人権問題とは考えていないと答弁をいたしました。その趣旨は、私としては、人権問題、これは憲法が保障する基本的人権を侵害するおそれのある問題と捉えた上で、この選択的夫婦別氏制度を導入するか否かの問題は、そのような意味での人権問題には当たらないのではないかという理解を述べたわけであります。糸数先生の御質問に対する御答弁だったと思います。

 それで、いずれにしても、選択的夫婦別氏制度の導入の是非は、家族制度の在り方として大事な問題でありますので、引き続き慎重に検討してまいりたいと思いますが、人権委員会、国連での議論についてもお触れになりました。あの議論の立て方については日本政府は、累次そのことは、何というんでしょうか、人権問題ではないという趣旨の答弁を日本政府としてはしてきているということを申し添えておきます。

○仁比聡平君 問題をどう解決するかということについて、今のところ残念ながら立場が違うかもしれないですし、その国連への報告といいますか、というところでそういう表現を使っておられるというのはそうなのかもしれないんですが、問題となっているのは基本的人権が侵害されているのか否かという問題であって、侵害されていると強く主張する国民の中で問題が起こっていると。そういう問題であることを曖昧にしては絶対にならないと私は思うんですね。

 これから、大きなテーマとして、大臣ともあるいは政府当局の皆さんとも議論の上解決をしていかなければならない問題だと思いますので、そのことを指摘をして、今日のところはこの問題はちょっと終えて、外国人技能実習生問題について伺いたいと思っています。

 外国人研修生・技能実習生制度は、技能移転を通じた国際貢献を建前としながら、実際には低賃金単純労働力を受け入れる手段として使われてまいりました。特に団体監理型において、劣悪な環境、長時間労働、時給三百円などという最賃違反、あるいは月数万円の強制貯金やパスポートの取上げなどの権利侵害が後を絶たず、実習生の自殺や過労死、あるいは失踪が大問題となってきたわけですね。

 その無権利状態に置かれながら、権利を主張すれば本人の意に反して強制帰国させられる。そうなると、母国の送り出し機関に担保に取られている巨額の保証金や家、土地を没収されてしまうために、実習生たちは権利主張もできずに奴隷的労働に縛られてきたという実態があります。

 こうした中で、二〇〇九年に入管法改定が行われましたが、この改定によって深刻な権利侵害が根絶されたのかといえば、私はそうではないと思うんですね。

 入管局長にまずお尋ねしたいと思うんですが、昨年の十月に愛知県の、今日はT食品とイニシャルで申し上げておきたいと思いますが、T食品という実施企業が、実習生に対する賃金不払を中心とした理由で不正行為認定を受けて、五年間の受入れ停止の処分を受けました。これはどんな事件ですか。

○政府参考人(榊原一夫君) 個別の事案につきましては、その内容の詳細について回答を差し控えさせていただきますが、一般論として申し上げれば、法務省令に規定しております不正行為類型に該当する行為を行ったと認められた場合には、不正行為の通知をし、類型に応じて最長で五年間の受入れが停止されることとなります。

 不正行為を通知された機関におきましては、技能実習生に対し賃金の不払があった場合は不払分の賃金を清算するよう指導しており、また、技能実習が継続できなくなった場合は、当該技能実習生が技能実習を継続できるよう法務省令において監理団体は新たな実習実施機関を確保するよう努めることとされており、当該不正行為について技能実習生に責めがなく、引き続き我が国での技能実習を希望するような場合には、技能実習が継続されることが可能となるような仕組みが設けられております。

○仁比聡平君 事実として不正行為認定がされたこと自体は、前提とされた御答弁だったわけですけれども。

 私から申し上げますと、ベトナムから元々実習の目的は食品加工という形で若い女性たちが日本に来て、けれども実際には弁当のセットという単純作業なんですよ。だから、本来は午前八時から午後五時までという実習時間のはずだったんですけれども、何しろ弁当屋さんですから、早朝の五時からお昼過ぎまでと、それが彼女たちの三年間の現実になってしまった。こうした不正行為の結果、不払という問題も起こったわけですが、彼女たちは実習の実りなく帰国することになりましたが、帰国後、母国の送り出し機関から保証金の返還を拒まれるという事態にまで立ち至ったわけですね。

 二〇〇九年の改定の柱の一つが、こうした不正が起こらないようにという監理団体による監理なんですね。入管の技能実習生の入国・在留管理に関する指針というものを見ますと、技能実習は監理団体の責任及び監理の下に行われる、監理というのは、技能実習計画に基づいて適正に技能実習が実施されているか否かについて、その実施状況を確認し、適正な実施について企業などを指導することであると、そういうふうに言われているわけですが、私が今取り上げているT食品という技能実習の監理団体は、入管当局への申請上はC協同組合でした。ここが適正な監理をしていたなら、こんなことにはなっていないはずなんですね。この件では愛知県労働組合総連合から、C協同組合は名目のみ監理団体であり、株式会社Iというあっせん機関、ブローカーに監理が丸投げされているという申告がなされています。このC協同組合やI株式会社に対する不正行為認定は、入管局長、されたんですか。

○政府参考人(榊原一夫君) 個別案件の事案につきまして詳細な回答は差し控えさせていただきます。

 一般論として申し上げれば、法務省令におきまして監理団体の責任を規定しておりまして、先ほど委員からも御指摘がありましたように、技能実習が適正に行われるよう技能実習生に対する講習を実施することや、技能実習の実施状況を確認するため、監理団体が技能実習実施機関への訪問指導を行うことや、それから技能実習実施機関に対する監査を行うことなどを規定しております。

 さらに、平成二十四年十一月には法務省令を改正いたしまして、監理団体や実習実施機関が不正行為を行った場合、直ちに地方入国管理局等に報告することとされていることを技能実習生の受入れの要件とし、あわせて、当該不正行為事実の報告を怠る行為を不正行為として追加するなどの措置を講じ、監理団体の責任について一層明確化を図ったところでございます。

○仁比聡平君 二〇〇九年の今局長が紹介されたような改定にもかかわらず、現実に私が今日指摘をしようとしているような問題が起こっている以上、私、国会の審議ももっと、個別事案を具体的には話せなくても、踏み込んで発言をしないと関係者に対する問題提起にならないのではないかと思います。

 私、二〇一〇年に至るまで何度かこの問題取り上げてきたんですが、二〇一〇年の三月の十六日のこの委員会で、実習生を食い物にする悪辣なブローカーや研修生ビジネスを排除すべきだという趣旨の質問をいたしました。そのとき、当時の入管局長や当時の千葉景子法務大臣は、ブローカーが実習実施機関に対して不正行為を指南するなど、関与の度合いによっては不正行為になり得る、悪辣なブローカーが監理団体に例えば非常勤職員として入り込んで技能実習計画を作り監理するというようなことは排除されなければならないと、そうした趣旨の答弁をなさっているんですね。

 その後作られたこの指針には、申請上監理団体とされている団体が名目のみ監理団体となり、実際の監理は他の機関が行うような場合は、当該技能実習は監理団体の責任及び監理の下に行われているとは認められず、不適正な受入れとなりますとはっきり書いてあるんですね。

 私が今日取り上げているこのC協同組合だとかI株式会社というのは、この不正行為にまさに当たっているんじゃないんですか、局長。

○政府参考人(榊原一夫君) 委員御指摘のとおり、監理団体が外部の機関に講習や監査などの業務を言わば丸投げしているような場合は、監理する体制を有していないとして不正行為に該当することとなりますが、外部の機関を指揮命令しながら業務の一部を分担させていた場合は必ずしも不正行為に該当するものではありません。

 また、不正行為が行われた場合、できる限り速やかに調査を開始し、不適正な事実が確認された場合には不正行為を通知しておりますが、複数の違反の疑いがあるような場合、複雑な事案については調査の過程で賃金の不払などが証拠書類等により確実に認定できれば、その段階で賃金の不払等により不正行為を通知して、まずは技能実習実施機関の技能実習生の更なる受入れを停止させるとともに、技能実習生の利益の回復を促した上、引き続き送り出し機関の保証金の問題等複雑なものにつきましては調査を継続し、事案を解明する措置をとっているところでございます。

○仁比聡平君 局長からそうした一般論としての御答弁ですので、今おっしゃられている立場が本当に現場で徹底されて、具体的に悪質なやからに対して厳しく処分を下すと、やっぱりここを大臣に求めたいという思いなんですが。

 資料が手元に私たくさんありますが、いろいろな問題があってここで資料配付するわけにはいかないのですけれども、私が申し上げているこのI株式会社を中心にした実習生の受入れというのがどんな実態かと。

 これ、ベトナムでの募集、面接から始まって、一貫してこのI株式会社が実習生の監理を行っているんですね。私の手元にはベトナムにおいて実習生に対して渡された申請受理票についてという書面がありますが、ここには、日本に来て関係機関からいろいろ問われるときがあるんだけれども、それの問答集、問答例というのもI株式会社の名前で渡されているわけですね。ここには、受入れ機関を聞かれたらC協同組合と言いなさいと、こういう紙は絶対にほかの人には見せちゃいけませんよというようなことまで書いてある。

 担当者としてFという人物が明記されていますけれども、日本に来日した後に月一回T食品に来て訪問監理をするのも全てこの人物なんですね。一貫してはばかることなくI株式会社であることを名のって行動しています。ですから、実習生たちはC協同組合の職員や役員には実習中は一度も会ったことがないんですよ。

 新しい改訂後の制度では講習が少なくとも一か月行われなければならないということになっていますが、実際に行われたのは僅か一週間で、しかもI株式会社の建物に一週間彼女たちを寝泊まりさせて行った、そのまますぐ弁当のセットに向かわせているわけです。

 こうした不正が明らかになった後、未払賃金の清算や帰国の手配も行っていますけれども、ここもI株式会社の名前で行われています。これが丸投げでないというんだったら一体何が丸投げかと。局長に本当は聞きたいところですけど、答えにくいでしょうから、もうちょっと述べて大臣の所信を伺いたいんですが、大体、株式会社というのはこれは営利目的なんですよね。ですから、当局の指針の中でも、株式会社が技能実習に関する職業紹介を行っていた場合というのは典型的な、不正行為の典型例として明記されているわけです。

 一方で、申請上監理団体とされているC協同組合の住所を調べてみますと、既に二〇〇九年から介護施設が運営をされていて、技能実習を監理する体制など全く存在しないんですね、まさに名目だけと。

 私は、これからこういうブローカー的なやり方、食い物にするやり方を根絶していくためには、この現実に申告で明らかになった事実を徹底して調査を続けて、このC協同組合だとかI株式会社だとか、ここに対して厳しい処分を下す、一罰百戒と、その立場で臨むべきだと思いますが、大臣、いかがでしょう。

○国務大臣(谷垣禎一君) 法務省では、従来から、不適正な受入れを行っている疑いのある実施機関あるいは監理団体に対しては実地調査を実施して、不正行為と認められたものは、その類型によりますけれども、最長五年受入れ停止をするというような対処をしてまいりました。

 それから、関係機関との連携を強めるとか監理団体に対する啓発活動等様々な取組を行っているわけですが、不適正な受入れを行っている疑いのある実習実施機関や監理団体に対しては、入国審査官だけではなく、入国警備官と協働して調査体制の強化を図ってきたところでございます。

 全体のいろいろな問題は、私の諮問機関でございます出入国管理政策懇談会の下で分科会を設けて今議論を、今年の年央までに問題点、改善点等々あればまとめていただこうということで、今一定の方向性を出していただく議論をしておりますが、委員の御指摘になりましたような技能実習の適正化をしていかなきゃいけない。今後ともきちっと取り組んでまいりたいと思っております。

 ベトナムの事例とおっしゃいました。今日はちょうどベトナムの国家主席も国賓としておいでになっておりますので、不適切なことがないように頑張りたいと思います。

○仁比聡平君 もう一問、その下で、今、建設労働者不足の緊急対策として技能実習生の活用が挙げられているわけです。

 大臣、事、技能実習制度を人手不足解消の方策として例えば今の三年を五年に延長するなどという類いのやり方は、技能移転による国際貢献という本来の目的から全く筋違いであって、私は許されないと思うんですが、いかがですか。

○国務大臣(谷垣禎一君) 今年の一月二十四日、関係閣僚会議をいたしまして、建設分野においてやはり人手不足が相当深刻であると、そこで外国人材の活用について、この年度内、この三月までということでございますが、年度内をめどに時限的な緊急措置を決定しようと、それを目指していこうということが確認されております。

 それで、これを受けて今各省庁の事務レベルで詰めを行っているところですが、確かに復興に対して人手が足りないということで阻害になっているというようなことでは困りますし、オリンピックも成功させなきゃならないとは思っておりますが、建設分野における外国人材の活用に関して技能実習制度の拡充で対応していけばいいという考え方があることも私は承知はしております。しかし、この技能実習制度の趣旨との関係において詰めを要することがまだたくさんあるのじゃないかと私は思っております。

 そこで、法務省としてはどういう対応が適切なのか、具体的なニーズも踏まえながら、産業や治安や労働市場への影響など、様々なことを考えて検討をきちっと進めたいと考えております。

○仁比聡平君 詰めを要することがたくさんあるというのは、また、私、そうやって詰めていけば絶対にこれは許されないということになると思うんですけれども、そのことを期待もし、あり得ないと思うんですね、人手不足のために技能実習生を活用するというのは。

 国際機関からも引き続き厳しい指摘がされているこの技能実習制度については抜本的に見直しが必要であるということを指摘をいたしまして、時間が参りましたので、終わります。