○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、民法の一部を改正する法律案について質問いたします。

本法案は、民法が定める成年年齢を二十歳から十八歳に引き下げようとするものです。

大人も子供も、一人の人として基本的人権、自己決定権が尊重されなければなりません。成年年齢の引下げは、現在未成年者とされている十八歳、十九歳の若者の自己決定権を拡大する積極的な意義を持ち、欧米諸国を始め国際社会の趨勢にも合致するものです。

一方、我が国において今成年年齢の引下げを行うことについては、それに伴う大きな問題が存在し、国民的な合意が成立しているとは言えない状況にあります。

今日の成年年齢引下げ法案提出へとつながる契機は、二〇〇七年の第一次安倍政権による改憲手続法の強行でした。これを動かそうとすれば、十八歳とされた国民投票権年齢と選挙権年齢を一致させなければならず、以来、選挙権年齢、さらには民法上の成年年齢を始め様々な法律が定める年齢区分の引下げが政府と与党の課題とされるようになりました。

二〇一五年九月、自民党は、成年年齢を速やかに十八歳へ引き下げる旨提言し、その中で、大人と子供の分水嶺を示す各種法令には国法上の統一性が必要であるとして、年来重大問題となってきた少年法適用年齢も十八歳未満に引き下げるのが適当としています。

そこで、法務大臣に伺います。

少年法はもちろん、法律による年齢区分は、それぞれの立法目的や保護法益によって定められるものであって、国法上の統一性や分かりやすさだけで決することはできないのではありませんか。

本法案による成年年齢の引下げは、民法上、十八歳、十九歳の若者に未成年者取消し権の保護がなくなること及び親権者の子に対する親権や監護義務がなくなることが大きな焦点になります。十八歳でそれらの保護を外すこととした理由は何ですか。具体的にお示しいただきたい。

民法の定める成年年齢を十八歳に引き下げるのが適当であると答申した二〇〇九年十月の法制審最終報告書は、ただし、現時点で引下げを行うと消費者被害の拡大など様々な問題が生じるおそれがあるため、引下げの法整備を行うには、若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要である、民法の定める成年年齢を十八歳に引き下げる法整備を行う具体的時期については、関係施策の効果等の若年者を中心とする国民への浸透の程度や、それについての国民の意識を踏まえた国会の判断に委ねるのが相当であるとして、被害拡大を解決する施策の実現、施策の効果の浸透、国民の意識という三つのハードルを課しました。

法務大臣、このハードルはクリアできたのですか。

大臣は、クリアしているものと考え、国会の判断を仰ぐために法案を提出したと述べました。しかし、道半ば、達成できていないというのが、衆議院で招かれた参考人の大方の意見です。

内閣府が二〇一三年に行った成年年齢に関する世論調査によれば、十八歳、十九歳の者が親などの同意がなくても一人で高額な商品を購入するなどの契約をできるようにすることに反対、どちらかといえば反対は七九・四%に上りました。先月二十五日、読売新聞の世論調査でも、十八歳成人に反対が五六%に上っています。にもかかわらず、クリアできたとする具体的な根拠は何ですか。

また、二〇〇九年に法制審の最終報告がなされた後、研究者や日弁連、消費者関係団体が参画した検討の会議を行ったことはありますか。

法制審は、国民の意識を踏まえた国会の判断に委ねるとしました。

紹介した内閣府の世論調査は、二〇〇八年、二〇一三年と五年ごとに行われ、今年、その年に当たります。今年の調査さえ待たずに法案を推し進めるのは、何歳で大人かという日本社会のありように関わり、とりわけ国民的合意が求められる法改正において、やってはならないのではありませんか。

とりわけ、契約や取引に関する若者保護規定である未成年者取消し権が、高校生を含む十八歳に引き下げられることの影響は大きいものがあります。

未成年者も売買や貸し借りなど法律行為ができますが、それに親権者など法定代理人の同意がないときは後から取り消すことができるというのが未成年者取消し権です。

例えば、高額のローンを組んで高級車を買ってしまったり、返せないサラ金を借りてしまったり、どんな失敗をしても、二十歳になっていなかったと証明するだけで、だまされたとか脅されたと立証するまでもなく取り消せます。この言わば鉄壁の防波堤があるため、悪質業者も二十歳未満の若者たちには手を出せずに来ました。

法務大臣、こうした未成年者取消し権の意義と果たしている役割についてどのように考えますか。

また、消費者契約法改正案により新設される取消し権の対象は、不当な勧誘行為による契約などに限られます。未成年者取消し権のそれは全く異なるにもかかわらず、消費者被害への対策として十分とされた答弁の意味を御説明ください。

法制審最終報告書には、成年年齢を引き下げる場合の消費者保護の具体策として、若年者の特性に応じて事業者に重い説明義務を課すこと、若年者の社会経験の乏しさによる判断不足に乗じた契約の取消し権を付与することが挙げられています。

消費者担当大臣、今般の消費者契約法改正案はこれに程遠く、余りにも不十分です。いつまでに改正を進めるのですか。

国民生活センターなどのデータによれば、二十歳を境界線として消費者被害が増加しています。相談件数で見ると、マルチ商法の被害相談は十二倍、フリーローン、サラ金の相談は十一倍というのです。

法案によれば、高校生も含む十八歳にも、こうした被害を防ぐ未成年者取消し権を外すことになりますが、法務大臣、本当に大丈夫だと考えますか。

婚姻年齢を男女とも十八歳に統一する改正は、家庭における個人の尊厳と両性の平等を保障する憲法十四条、二十四条に照らし、当然のものです。

法務大臣、これは、成年年齢の引下げのいかんにかかわらず、統一されるべきものだったのではありませんか。

これで、一九九六年の法制審答申にもかかわらず政府が法案を提出しないのは、選択的別姓制度だけです。今や我が国だけとなった夫婦同姓の強制をあくまで解消しない不作為が、別姓を選択するという生き方、信条を法律婚から排除することになっています。これをどうお考えですか。

二〇一六年に実現した十八歳選挙権は、若者の政治参加、国民主権を実現する重要なものです。しかし、成年年齢の引下げは、若い世代の貧困や閉塞感も大きな問題となる中で、どのように若者の自立を保障していくのか、確立した保護を今外していいのかが問われる全く別の問題です。

本法案の審議に当たる国会の役割は、極めて重いと言うべきです。政府・与党が決めたからといって、押し付けることは絶対に許されません。広範な国民の皆さんの声、若者世代の声、有識者の意見を聞き、若者たちが置かれている実態をしっかり検証しながら、国民的議論を慎重に行おうではございませんか。

徹底審議を強く求めて、質問を終わります。(拍手)

〔国務大臣上川陽子君登壇、拍手〕

○国務大臣(上川陽子君) 仁比聡平議員にお答え申し上げます。

まず、法律による年齢区分を定めるに当たって考慮すべき事由についてお尋ねがありました。

法律で定められている年齢要件は、それぞれの法律の趣旨や立法目的に基づいて定められていることから、その変更の可否を検討するに当たっても、それぞれの法律の立法目的等を考慮する必要があると考えられます。

本法律案で民法の成年年齢を引き下げることとした理由の一つとしては、成年年齢を選挙権年齢と一致させることが、法制度としての一貫性や簡明性という観点から望ましいという点が挙げられます。もっとも、それのみを理由とするものではなく、十八歳、十九歳の若者の自己決定権を尊重し、成年年齢を現在の若者の経済取引の実態に合わせるといった観点なども考慮した上で、成年年齢を引き下げるのが適当であると判断したものです。

次に、十八歳、十九歳の若者を未成年者取消し権及び親権の対象から外す理由についてお尋ねがありました。

今般の成年年齢の引下げは、公職選挙法の定める選挙権年齢が満十八歳以上に改められたことや、今日の十八歳、十九歳の若者には独立した主体として生活している者も多いといった社会的な実態等を考慮し、若者の自己決定権を尊重するとともに、その積極的な社会参加を促すことにより、社会を活力あるものにすることを目的とするものです。

このような理由から、十八歳、十九歳の若者を独立した大人として扱うこととしたため、結果として、これらの若者が未成年者取消し権や親権者の保護の対象から外れることになったものです。

次に、法制審議会の最終報告に掲げられた条件の充足についてお尋ねがありました。

政府としては、法制審議会の最終報告で掲げられた条件を満たしているものと考えております。もっとも、政府としては、成年年齢の引下げに伴う懸念を払拭するために、今後も環境整備のための施策の更なる充実強化を図る必要があると考えており、国民の一層の理解が得られるよう、引き続き努力してまいりたいと考えております。

次に、法制審議会の最終報告書の条件が充足されたと判断する具体的な根拠についてお尋ねがありました。

これまで、政府としては、消費者被害の拡大の防止に資する施策や若年者の自立を促すような施策など、環境整備の施策に取り組んできており、これらの施策は着実に効果を上げてきたと判断しております。

したがって、法制審議会の最終報告で掲げられた条件を満たしているものと考えております。

世論調査の結果は、国民の意識を確認する手段ではあるものの、唯一の手段ではなく、環境整備に向けた諸施策の実施状況等の事情もその手段となるものと考えております。政府としては、環境整備に向けた施策の実施状況等に鑑み、これらの施策も国民に浸透してきているものと考えております。

また、今後も、平成三十四年四月一日の施行日までの期間を用いて、更なる環境整備の施策の充実やその周知の徹底に努め、成年年齢の引下げについて国民の十分な理解が得られるよう努めてまいりたいと考えております。

次に、研究者等が参加する検討会議を行ったかどうかについてお尋ねがありました。

法務省としては、環境整備に向けて実施された施策が着実に効果を上げていると考えられることや、今後の施策の充実について具体的な計画があることなどから、成年年齢の引下げについて国会の判断を仰ぐことが適切であると判断いたしました。

したがって、引下げの条件が満たされたかどうかを判断するために、日本弁護士連合会や消費者関係団体などが参加した会議を開催したことはありません。

次に、成年年齢引下げに関する世論調査の実施についてお尋ねがありました。

成年年齢の引下げの是非及びその時期を判断するに当たっては、世論調査の結果も一つの考慮要素ではあるものの、最終的には、各種の環境整備の施策の効果等を総合的に考慮して、これを判断すべきものと考えております。

そして、選挙権年齢が引き下げられ、現実に十八歳、十九歳の若者が選挙権を行使しているといった社会経済情勢の変化や、各種の環境整備のための施策が一定の成果を上げてきたことを踏まえ、この時点で成年年齢の引下げについて国会の判断を仰ぐのが相当であると判断して、本法律案を提出したものです。

次に、未成年者取消し権の意義とその果たしている役割についてお尋ねがありました。

民法第五条が規定する未成年者取消し権は、未成年者が法定代理人の同意を得ないで行った法律行為については、原則としてこれを取り消すことができるとするものです。

この未成年者取消し権は、未成年者の保護を図るためのものであり、未成年者の消費者被害を防ぐ役割を果たしているものと認識しております。

次に、消費者契約法の改正が未成年者取消し権の代償措置として十分であるかについてお尋ねがありました。

若年者の消費者被害への対策としては、消費者教育により自立した判断力を育てることが重要であり、その上で、悪質な勧誘行為が行われた場合等を対象として、取消し権等の制度的な保護を与えることが適切であると考えております。

今般の消費者契約法の改正により、不安をあおる告知や人間関係の濫用等によって締結された消費者契約に関する取消し権が追加されますが、これは、若年者を中心に発生している消費者被害事例等を念頭に置いたものであり、消費者教育の充実等の他の施策と相まって、十分な消費者被害への対策となるものと考えております。

次に、十八歳の若者を未成年者取消し権の保護の対象から外すことの是非についてお尋ねがありました。

消費者教育については、平成三十二年度までを集中強化期間として、更なる充実強化を図る取組が進められていると承知しております。

また、今国会には、若年者を中心に発生する消費者被害事例を念頭に置いた取消し権を追加すること等を内容とする消費者契約法の一部を改正する法律案が提出されております。

さらに、本法律案の施行後は、多くの若年者は高校三年生の途中で成年に達することになるため、自らの問題であることをより強く意識して高等学校等における消費者教育を受けることになると考えられます。

法務省としては、以上のような施策を通じて、民法の成年年齢の引下げにより新たに成年と取り扱われることになる十八歳、十九歳の若者の消費者被害の拡大を防止することは可能であると考えておりますが、引き続きその対策に万全を期したいと考えております。

次に、婚姻開始年齢の引上げを行うべき時期についてお尋ねがありました。

現行法において女性の婚姻開始年齢が男性のそれよりも低い理由については、一般に女性の方が身体の発達が早いこと等が挙げられており、現行の規定が憲法に違反するものとは考えておりませんが、婚姻生活を営むに当たり、社会的、経済的成熟度を重視すべき現在においては、男女の差を維持することは相当ではありません。

御指摘のとおり、成年年齢を十八歳に引き下げることと婚姻開始年齢を男女とも十八歳に合わせることに論理的な必然性があるわけではないと考えておりますが、成年年齢を十八歳に引き下げることとしながら女性の婚姻開始年齢を現行法のままとした場合には、女性のみ成年年齢と婚姻開始年齢が一致しないことになり、男女の取扱いの差異がより際立つことになって、相当ではないと考えられます。

このため、今般の成年年齢の引下げに伴い、女性の婚姻開始年齢を引き上げるとしたものです。

最後に、選択的夫婦別氏制度の導入についてお尋ねがありました。

選択的夫婦別氏制度の導入の是非は、単に婚姻時の氏の選択にとどまらず、夫婦の間に生まれてくる子の氏の問題など、我が国の家族の在り方に深く関わる重要な問題であると考えており、平成二十九年十二月に内閣府が実施した世論調査の結果をきめ細やかに分析などした上で、今後の対応を検討してまいりたいと考えております。(拍手)

〔国務大臣福井照君登壇、拍手〕

○国務大臣(福井照君) 仁比議員にお答えを申し上げます。

法制審最終報告書と今般の消費者契約法改正案との関係につきましてお尋ねがございました。

本改正案は、法制審最終報告書が指摘する、成年年齢引下げに対応した消費者保護施策ともなっているものでございます。

具体的には、個々の消費者の知識及び経験を考慮した上での情報提供を事業者の努力義務として明示をしております。また、社会生活上の経験の乏しさに着目して、不安をあおる告知や恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用を、取消しの対象となる不当な勧誘行為として追加をしております。

更なる消費者保護政策につきましては、消費者被害の状況等を勘案しつつ、必要に応じて検討してまいる所存でございます。(拍手)