193通常国会2017年5月11日参法務委員会『民法改正案(債権関係)参考人質疑』

 

○参考人(山野目章夫君) おはようございます。

本日は、意見陳述の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。早稲田大学の山野目と申します。勤務する大学におきまして、法科大学院の教育研究に携わっております。民法を専攻分野としております。この度、審議されております民法の一部を改正する法律案を政府が準備するに当たりましては、法制審議会の調査審議が行われましたところ、この審議会の下に設けられた専門部会の幹事を務めました。この経験に基づき、本日はこの法律案について所見を述べさせていただきます。

顧みますと、ここで御審議をお願いしております民法の一部改正は、政府において、二〇〇九年、法務大臣がその諮問機関である法制審議会に対し、その準備の作業を促す諮問をしたことに端を発するものでございました。法務大臣の諮問八十八号であり、それによりますと、民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について、同法制定以来の社会経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする等の観点から、国民の日常生活や経済活動に関わりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があるところから、その見直しの内容として適切なものを検討してほしいというものでありました。この諮問を受け、法制審議会には専門部会が設けられました。その部会の会議は九十九回に及び、部会の審議の一環として行われました分科会も加えますならば、会議は百回を超えるものでございます。

この調査審議の成果を反映する法律案は、二〇一五年三月三十一日、民法の一部を改正する法律案として閣議で決定され、その年の常会において内閣から衆議院に提出されました。この後、御高承のとおり、法律番号の年に係る事務的な修正がありましたものの、その余は原案のとおりに衆議院において可決され、御院に送付されて本日を迎えます。

改めてここで法務大臣の諮問を読み返しますと、まず民法の内容を社会経済の変化に対応したものにしようという観点がございます。

今般の法律案の全般がこの観点を背景とするものでありますが、その観点から見て二つほど注目されるものを挙げますと、まず、明治に民法を作った当時は、高速鉄道や航空機、宅急便、生命保険、損害保険、倉庫取引やインターネットを利用するための契約を公衆を相手として大量にされることは想定されておりませんでした。今日、私たちは、これらを欠いて生活や事業をすることはかないません。その際、一々契約条件を精密に把握しなければならないことは煩わしいですし、半面、事業者が提示する契約条件に著しく不適切なものが含まれている場合、それをまた一々交渉をして外すということも難儀でございます。そこで、法律案におきましては、定型約款と呼ばれる概念を用意し、それが契約に組み入れられる要件と、著しく不当な契約条項が契約の内容とならないとするためのルールが用意されております。

また、金銭債権から生ずる利息や遅延損害金などの附帯金の利率を当事者が定めなかった場合の利率は、現在、年五分とされておりますが、今日の金利情勢から申しますといささか高過ぎると感じます。そこで、改正規定の施行時に年三%にするところから始め、法令で定める計算方法に従い、三年ごとに見直すという仕組みを取り入れようとしております。

そのほか、弊害が見られる個人保証の中でも、特に第三者保証について、保証人となる者の意思確認の仕組みを新しく導入しております。五年にわたる法制審議会の調査審議の間には、これと並行して様々な関連する取組もされました。個人保証の問題は、並行した中小企業庁と金融庁、そして日本商工会議所と全国銀行協会の取組により、事業資金の融資で保証の安易な徴求を控えるよう促す試みが始まっております。また、今般の民法を改正する法律案には、入居者が借家を退去する際の敷金の精算の在り方という市民生活に身近な問題につきましてもルールの明確化を図っているところに注目をしておきたいものでございます。

お話の後半に参りますと、法務大臣の諮問は、民法を国民一般に分かりやすいものとするということも求めております。こちらも二つほど話題をお出しするならば、まず、債権が時間的にいつまで続くかという消滅時効の問題は、現在誠に複雑であります。

演芸を業とする者が一生懸命に歌を歌ったり演奏したりして、その報酬の時効は一年であります。労働基準法が適用されれば二年になりますけれども、いずれにしても、なぜこのように殊更に短くするか、それ自体よく分かりませんし、お金を貸す債権の時効より短いということについて納得感が得られるか疑問であります。しかも、その貸金の債権も、銀行の融資の債権は五年、法人である貸金業者のものも五年、しかし、個人の貸金業者の債権は十年、信用金庫のものも十年というふうに、困惑を禁じ得ない複雑さがあります。

これらを整理し、改革の方向としては、原則として権利行使可能時から十年の経過で消滅時効の完成が認められるほか、権利行使が可能であることを債権者が知ったときから五年の経過でも消滅時効の完成が認められるというふうに、すっきりしたものにしようとしております。

また、時効とは異なるお話を取り上げますと、契約と申せば、その基本の中の基本は何と申しましても売買でありますが、これも論議がいたずらに複雑な部分があります。売買がされた物にきずがあったというような場合は売主の担保責任により解決されますが、担保責任の理解をめぐり学説理解は複雑に対立し、理解が簡単ではありません。契約成立前に物が壊れて駄目になっていた場合の諸問題も、六法全書には書かれていない概念で処理されており、とても国民に分かりやすいとは感じられません。改正をお認めいただくことになりますと、これらの場面の全ては契約解除と債務不履行の損害賠償を基本とする統一のルールにより解決が与えられます。

もちろん、契約は売買のみではなく、そのほか民法が規定を用意する典型的な十三個の契約のうち、今般何らかの見直しがされようとしているものは実に十個に及びます。

このような内容が盛り込まれている法律案でありますところ、今後この法律案の国会における審議を経て、その帰趨が定まった後の課題ということにつきましても考えるところがございます。

再び二〇〇九年の法務大臣の諮問に立ち返りますと、まず、そもそも今般の民法の見直しは、国民の日常生活や経済活動に関わりの深い契約のルールをより良いものにしようという観点から始められたものであり、この観点からの仕事はこれからも続けられなければなりません。実際にも、既にさきの常会において成立を見ました平成二十八年法律第六十一号による消費者契約法の改正により、消費者が契約を取り消す権利の拡充なども図られております。

また、さきの法務大臣の諮問は、差し当たり民事基本法典である民法のうち債権関係の規定の見直しを求めるものでありましたが、この観点におきましても、いわゆる六法全書に載っているような基本的な法律について、これからも社会経済の動向を踏まえた内容の見直しを検討し、また漢字片仮名交じりの漢文調の堅苦しい文体を改めていくことが望まれます。例えば、商法の運送の部分を見直すとともに、商法の法文を現代語化することなども取り組まれております。これらの政府の施策の積み重ねにつきましても、立法府におきましては引き続き御関心を抱いていただきたいとお願いするものでございます。

なお、本日は、申し上げてまいりました民法の改正の法律案に加え、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案も議題とされていると理解しております。民法は他の多くの法令と関連があり、今般改正に伴い、他の各種の法令のどこが変わるかも見落とすことができません。関係する法律の整備といたしましては、商法や消費者契約法、さらに借地借家法など国民生活にとって重要である基本的な法律が、提案されている民法の考え方と整合するようにするために措置が提案されてございます。

また、この度の法律案が御院において原案の基本的な内容に即して採択されるに至るということになりますならば、政府としてはその施行の準備を進めることとなりますが、民法を改正する法律案の附則によりますと、新しい規律の大部分は公布から三年以内に政令で定める日から施行するとされております。この最大で三年という期間が周知期間となります。

明治に民法が制定されてからこの方、空前の規模の改正であり、内容が多岐にわたり、従来の考え方を改める事項がある傍ら、確立した判例や通説として定着している考え方を確認する事項も見られます。消費者保護や企業法務の実務において、施行までに新しい民法のルールを十分に理解してもらうことが求められます。大学における教育や国家試験の施行、また司法修習など、教育や資格試験の実施に際しても必要な準備をしなければなりません。

新しい民法のルールは、細かな例外はあるにしても、基本は、その政令で定められる日の以後に発生した債権、また施行日以後に締結された契約に適用するものとされます。施行日前に生じた法律関係は、なお従前の例によるものとされます。例えば、東日本大震災から六年がたちますが、津波被害や原子力損害賠償の権利を主張しようとする人々の権利の主張は、新しい消滅時効の制度に影響されることなく現在において有している法律的な立場が保たれるものとされております。

これらの実施に向けての留意点を含め、御院におかれましては議題とされております法律案につきまして鋭意充実した御審議をいただき、また、それらが国会として議決をいただく際は、政府において適切に施行の準備を進めることを切望いたします。

以上が所見でございます。ありがとうございました。

○委員長(秋野公造君) ありがとうございました。

次に、辰巳参考人にお願いいたします。辰巳参考人。

○参考人(辰巳裕規君) 兵庫県神戸市で弁護士をしております辰巳と申します。本日は、発言の機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。

私は、現在、日弁連の消費者問題対策委員会の多重債務問題を担当する副委員長をしております。本日は、民法改正の中でも保証の問題を中心に意見を述べさせていただきたいと思います。

私が保証人の問題に関心を持つきっかけとなったのは、やはり商工ローンの問題になりました。少し商工ローン問題というものを振り返ってみたいと思います。

ちょうど私が平成十年に弁護士を神戸市で始めたときですけれども、当時はまだ阪神・淡路大震災の傷痕から地元の中小企業も癒えていない、そういう状態でしたが、その中小企業を二重、三重に苦しめていたのが商工ローンでした。当時、京都に本社のあった日栄という商工ローン業者がありまして、大変取立てが厳しく、弁護士が付いた後も法律事務所に直接乗り込んできたり、あるいは裁判所の待合室に従業員が入ってきたりということも当時は平気でございました。

私の依頼者で建設業をしていた個人の方ですが、同業者や親族を日栄からの借入れの保証人としていた方がいましたが、保証人が厳しい取立てを受けて、その取立てを受けた保証人から今度責められるという結果になりまして、結局その方はその後消息不明になってしまったということがありました。

ほかにも、商工ローンの事件では、自殺未遂をして首に生々しい傷が残ったままでおられた自営業者の方、あるいは自営業をしていた夫を自殺で失った配偶者の方など、自殺に絡む事案というものも当時は珍しくありませんでした。日栄の従業員の恐喝的な取立てが大きく報じられたのはそれから数年後のことだったというふうに覚えております。

商工ローンなど事業者向けの融資は、小規模な事業者でもやはり一千万円を超えるような高額な借入れとなることが少なくありません。大手企業の会社員や公務員など比較的経済的に余裕のある方が保証人となる場合でも、やはり事業者向け融資の保証債務を一括で返済をするということは、多くの場合、困難を伴います。親族や同業者など情義的な関係があり、主債務者には迷惑は掛けないと頼まれて、自分は一円ももらうことなく無償で親切心から保証人となった普通の方々が、ある日突然高額の保証債務の返済を迫られる、家族含めて生活破綻に追い込まれるということになります。商工ローン問題というのは保証人被害の問題であったというふうに理解しております。

ところで、この商工ローンでは根保証という問題がありました。百万円の借入れを保証したつもりなのに、知らない間に極度額目いっぱいの一千万円の追加融資分についての保証の責任を負わされたという訴えも当時たくさんありました。

平成十六年民法改正において、保証契約は書面で行うこと、貸金等根保証契約については極度額を定めることなどが定められました。もっとも、この極度額については現行法でも上限はございません。

また、時の経過とともに主債務者の経営状態も、あるいは保証人自身の生活状態というものも変化していきます。保証契約の時点では大丈夫である、合理的であると判断したとしても、その後に主債務者の経営状態が悪化していく、あるいは保証人さん自身の生活が変わっていくということもあり得ます。根保証は、限度額や期間の制限がありますけれども、しかし、保証人に予想外の負担をなお及ぼす危険な、特殊な保証契約であるという点は今も変わらないと思います。

もう一つ、商工ローン業者の話になりますが、商工ファンド、SFCGという会社がございました。SFCGに特徴的であったのは、複写式の契約書に公正証書作成のための委任状を忍ばせておいて、保証人が知らない間に執行認諾文言付きの公正証書が作られ、主債務者に不履行があると、裁判なしに保証人が突然給料や売掛金などが強制執行されるという、公正証書の濫用の取立て被害が発生した点にあります。

保証債務を請求される裁判が起こされたときに、保証人は利息制限法や民法上の錯誤あるいは信義則違反などを主張して保証債務の減免を争うことが可能な場合もあるのですが、突然裁判もなしにいきなり生活の糧となる給料や売掛金が差し押さえられると、保証人は理論上は請求異議訴訟を起こすことになりますが、しかし、多くの保証人にとって、給料や売掛金などが差し押さえられた状態で司法に救済を求めるということは困難な状態となります。

この公正証書の濫用が問題となった際に、公証人サイドからは、印鑑証明書と実印を確認している、委任状という書類があることをしっかりと厳正に確認しているから、法律に基づいて公正証書を作成しているというような弁解があり、公正証書が濫用されてしまったことについての問題意識は余り感じられませんでした。

そこで、日弁連消費者問題対策委員会では、平成十六年に日本の公証人制度の母法であるドイツの公証人制度の視察調査を行いました。ドイツでは、公証人に教示義務、日本でいえば説明助言義務でしょうか、が損害賠償責任に裏付けられた法的義務と定められていること、中立公正な立場から両当事者に教示義務を尽くして公正証書を作成しており、市民に高い信頼を得ていることを目の当たりにして深い感銘を受けました。公正証書は、単に立派な経歴を持つ方が公証人となって作成しているから権威があるというものではなく、法律専門家が予防司法の観点から教示義務を尽くした上で公正証書を作成するからその公正証書に高い信頼が得られているということでした。教示義務は、ドイツでは公証人制度のマグナカルタであるとの説明もありました。

日本においても、公証人法二十六条あるいは施行規則十三条等の規定がございますが、これらは努力規定であり法的義務ではない、公証人は積極的な調査義務は負わないというのが判例、通説とされているようです。関西での表現かもしれませんが、公正証書を取得することを公正証書を巻くという表現などを使うことがあります。公正証書は、何か債権回収のためのテクニックであるかのように扱われることがあります。SFCGも公正証書を飛び道具と称して公正証書を濫用していました。

改正法案における保証意思宣明公正証書のみならず、養育費の不払であるとか、あるいは任意後見など、今後、公証人、公証制度の役割というものは非常に重要になっていくと思われます。しかし、公証人法は、明治時代から大きく改正はされていません。公証人の意思確認義務、教示義務あるいは説明助言義務を法律上の義務とすることを中心とした公証人法の改正も併せて検討する必要があると考えております。

なお、平成十八年には、あの有名なグレーゾーン金利をめぐる最高裁判決というものがございましたが、この最高裁判決もシティズという商工ローン業者をめぐる裁判でありました。そして、このシティズも第三者個人保証人を徴求していました。私が担当した最高裁の事件における依頼者も、サラリーマンの保証人の方でした。貸金業法四十三条のみなし弁済をめぐって裁判をずっと争い続けて、最高裁でようやく逆転ができ、保証債務の負担を軽減することができました。

このような商工ローン被害あるいは消費者金融の多重債務被害を受けて、同じく平成十八年の十二月、第一次安倍政権下ですが、高金利引下げ、過剰融資規制を柱とする改正貸金業法が与野党全会一致で成立し、その後、官民挙げた多重債務改善プログラムが実施され、多重債務被害は大いに減少しております。もっとも、改正貸金業法においても、保証被害の救済については残された課題となっております。ちょうどそのような時期に、今般の民法改正、債権法改正の動きが活発化してきました。

私は、民法改正と聞いて、真っ先にやはりこの保証の悲劇をなくすことが必要であると考え、民法改正では保証人保護制度の拡充に取り組むべきだと考えて、消費者問題対策委員会から日弁連の債権法改正を担当する委員会にも参加して、法制審の議論について、日弁連から選出された法制審委員、幹事のバックアップという形で今日まで関わっております。

法制審議会では、保証人保護の拡充に向けて大変熱心な議論が積み重ねられてきました。様々な利害関係を乗り越えて、保証人保護拡充のために様々な規律が法案として結実することに至ったことについては、私は保証人保護の観点からも前進であると評価したいと思います。

日弁連の保証についての意見につきましては、本日お配りさせていただいた資料の二以下に付けさせていただいておりますが、私のレジュメの資料一の三ページ目から、日弁連の保証についての意見と、それについて法案に反映させていただいたかどうかをマル、バツ、三角という形で付けさせていただいております。おおむね日弁連が求めた項目の多くが基本的には取り入れられたと考えており、今国会で改正を是非実現していただきたいと思います。

もっとも、以下に述べるような課題もなお残されておりますので、今国会において、可能な点については修正も視野に御検討いただくとともに、それでも残された課題については、平成十六年民法改正においては保証に特化した改正がなされておりますので、同じように今般の民法改正をステップに、引き続き更なる保証人保護の拡充のための改正を目指していただきたいと思います。

残りの時間で、若干ですけれども、この改正法案の残された課題について意見を述べさせていただきます。

まず、第三者個人保証の原則禁止についてです。

法制審では、第三者個人保証の原則禁止は残念ながら見送りとなり、保証意思宣明公正証書の作成を要件とする制度となりました。

資料一のレジュメの一ページ目から二ページ目にも記載しておりますが、保証は個人破産、多重債務の大きな要因となっております。また、保証は自殺の大きな要因ともなっております。これに対して政府では、多重債務改善プログラムの取組、あるいは自殺総合対策大綱による取組などを進められておりますが、多重債務あるいは自殺の要因としてこの保証人という問題が挙げられているところです。

さらに、資料一の二ページ目(三)ですけれども、円滑な起業、ビジネスを起こすという起業ですね、それから円滑な事業承継、再チャレンジの機会の保障など、中小企業の活性化は我が国の成長戦略にとって重要な課題の一つとなっておりますが、個人保証がこれらを阻害しているという指摘はいろいろなされており、金融庁の監督指針あるいは経営者保証ガイドラインにおいて、個人保証に依存しない融資慣行の確立が目指されているところです。

地域経済活性化支援機構法改正法の附帯決議では、個人保証に依存しない融資を確立すべく、民法(債権法)その他の関連する各種の法改正等の場面においてもガイドラインの趣旨を十分踏まえるよう努めることとされております。

民法改正においても第三者個人保証の原則禁止に可能な限り踏み込むことで、これらの施策を後押しするような取組を進めていただきたいと思います。

資料一のレジュメの五ページになります。真ん中の辺りですけれども、例えば第三者保証の原則禁止については、創業者支援、エンジェルというような個人保証が必要であるということが言われることがありますが、仮にそうであるならば、そのような創業時においてのみ例外的に第三者個人保証を認めるなど、そのような措置がとれないかと考えております。また、先ほど述べた予想外の責任を負う可能性のある貸金等根保証契約について第三者保証を禁止してはどうかとも考えております。国会の政治的な判断で、民法改正においても第三者保証の原則禁止に一歩でも踏み出していただきたいと思います。

次に、保証意思宣明公正証書についてですが、資料一、五ページ目以下です。

公正証書が商工ローンに濫用されたことは先ほど述べたとおりです。改正法案では、公証人に意思確認義務も説明助言義務も定められておりません。公証人法二十六条、施行規則十三条はございますし、通達による適正化もなされると思いますが、法的義務として位置付けられない限りは、公証人による意思確認は実効的な制度とはならないのではないかと考えます。むしろ、保証意思公正証書の作成に続けて、同日連続して保証契約自体も公正証書で、しかも執行認諾文言付きで行われるならば、債権者に取立ての道具を与えるだけともなりかねません。

公証人の意思確認というものを厳格にする、保証人を慎重にさせるということであれば、保証契約に先立って作成される公正証書は少なくとも保証契約の前日、一日前に作成されることを要件とすべきです。一日だけでも、一晩だけでも熟慮期間を与えていただきたいと思います。

なお、保証債務をめぐる事案では、無効、取消し、信義則違反など、保証人にもいろいろ言い分がある場合が少なくありません。改正法案では情報提供義務違反の取消しも追加されております。保証人がその責任の有無や範囲を裁判で争う機会を実質的に与えるために、保証契約には執行認諾文言を付さないということも検討すべきと考えます。

次に、大きな問題となっております配偶者保証の例外についてです。

個人の事業者の事業に従事する配偶者については、公正証書の作成すら要しないとされております。多くの場合、夫が個人自営業者である場合の妻が予想されると思いますが、夫に仕事上も、あるいは経済的にも、家庭においても何らかの関係下、影響下にある下で保証人にやむを得なくなってしまうというのが情義的な保証としての妻の保証人ではないでしょうか。

中小企業団体からは強い要望があったということですが、本来は個人自営業者も配偶者を保証人にしたくはないというふうに思います。法制審議会でも多くの委員、幹事がこの配偶者保証の例外には反対していると伺っております。既にこの法文の死文化、あるいは限定解釈を唱える方もおられます。立法の段階で、今の段階でこの配偶者保証の例外の規定は削除することを検討していただきたいと思います。

残り時間短くなりました。

レジュメに指摘させていただきましたけれども、保証契約締結時の情報提供義務、これが盛り込まれたことは大いに評価したいと思いますが、これが実効的に取消し権が行使できるように、例えば公正証書に情報提供の有無や内容を記載することも検討されてよいと思います。また、支払能力を超えるような保証というものが果たして合理的かということについても、改めて見直しが必要になるかというふうに思います。

多重債務という観点からは、保証以外にも諾成的消費貸借や、あるいは法定利率の問題などもありますが、時間の関係もございます。レジュメの方に問題意識を記載させていただきたいと思います。

私の意見は以上としたいと思いますが、法制審議会で結実した議論を基に、この参議院の法務委員会においても充実した審議が行われて立法が実現することを期待いたしております。

以上です。

○委員長(秋野公造君) ありがとうございました。

次に、山本参考人にお願いいたします。山本参考人。

○参考人(山本健司君) 大阪で弁護士をしております山本健司でございます。本日はこのような意見陳述の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。

お手元にお配りさせていただいております資料を御参照いただきながら、今般の民法改正法案に関する所見を述べさせていただきたいと思います。

資料一の一ページから二ページに図解をさせていただきましたとおり、高止まりしている我が国の消費者トラブルへの対応策として、社会的な被害の防止や拡大阻止に有効な業法による行政規制の整備とともに、実際に発生した個々の被害者の被害救済に有効な民事私法による民事ルールの整備、具体的には、基本法である民法と特別法である消費者契約法の整備は極めて重要な立法課題であると考えます。

私は、日弁連消費者問題対策委員会において、他のメンバーとともに、法制審議会で審議されておりました債権法改正論議の諸論点について、消費者保護という観点からその内容を検討し、その時々に意見を述べてまいりました。

通し番号二十三ページ以下の資料三は、平成二十三年六月に法制審議会のヒアリングに呼んでいただいた際に、日弁連消費者問題対策委員会の有志のメンバーで作成、提出した意見書です。当時はまだ中間論点整理が終わった段階で、最終的に法制化が見送られた項目を含め五百以上の検討項目がありました。この当時からこのように意見を述べておりました。

この資料三の二の、通し番号で言えば五十ページから六十二ページでは、内閣府が平成十九年に行った不当条項に関する調査結果を抜粋させていただいております。同じく通し番号の七十五ページから七十六ページでは、暴利行為に関する裁判例を抜粋させていただいております。また、別冊資料のブックレットは、消費者への影響という観点から見た民法改正法案の重要論点について、法案の内容の紹介とともに残された問題点をまとめた文献でございます。それぞれ、定型約款、暴利行為、その余の消費者の利益に関係する諸規定に関する今後の御審議のお役に立てていただけましたら幸いでございます。

資料一の二ページの二の部分にお戻りいただけますでしょうか。

今回の民法改正法案への基本姿勢を申し上げます。我が国の民事私法の基本法である民法を国民に分かりやすいものとし、かつ社会経済の変化にも対応したものとすることを目指す今回の法案に賛成をいたします。冒頭にも申し上げましたとおり、民事私法による民事ルールの整備は我が国において非常に重大な立法課題であると考えます。是非とも今国会での成立をお願いいたします。

もっとも、定型約款に関する規定など、一部には規定内容や条文の適用範囲を施行前に明確にしておいていただきたい規定がございます。それらについては、実務に誤った理解や運用を招かないよう、今後の国会の御審議における内容の明確化と法務省の逐条解説等による周知をお願いいたします。また、暴利行為規定など残念ながら法制審議会の議論の過程で今回の改正法案には盛り込まれなかった重要な民事ルールについて、検討の継続と今後の法制化をお願いいたします。

以下、いささか細かくなりますが、個別論点に関する意見を申し上げます。

まず、定型約款に関する意見です。資料一の四ページを御覧ください。

最初に、五百四十八条の二第一項が規定するみなし合意規定と同条二項が規定するみなし合意除外規定に関する意見です。

第一に、みなし合意規定では、契約締結前の個別の約款条項の開示や認識可能性が組入れ要件とされておりません。この点が消費者など相手方に過酷な結論を招来することになってはならないと思われます。そこで、みなし合意規定については、相手方がおよそ知り得ないような定型約款を無制約に契約内容とすることを認める法文ではないこと、もし重要な約款内容を事業者が説明しなかった場合には、信義則上の説明義務の義務違反となる場合があり得ることや、みなし合意除外規定によって契約の内容とはならない場合があり得ることについて、今後の御審議における明確化と周知をお願いいたします。

第二に、みなし合意除外規定は、条文を一読すると、約款使用者に一方的に有利な内容の契約条項を押し付けた場合、いわゆる不当条項の事案だけに適用される規定のように見えます。そこで、みなし合意除外規定については、不当条項の事案のみならず、通常想定し難いような契約条項の不意打ちという事案、いわゆる不意打ち条項の事案にも適用されることについて、今後の御審議における明確化と周知をお願いいたします。

第三に、みなし合意除外規定と消費者契約法十条との相互関係が明確ではありません。そこで、第一に、みなし合意除外規定に基づく組入れ除外の要件と消費者契約法十条に基づく無効の要件が共に満たされる場合、消費者がいずれも主張できること、第二に、消費者の消費者契約法十条に基づく無効主張に対して事業者がみなし合意除外規定に基づく組入れ除外を抗弁として主張することはできないことにつき、今後の御審議における明確化と周知をお願いいたします。

次に、五百四十八条の四が規定する定型約款の変更に関する意見です。五ページを御覧ください。

契約の一般原則からすれば、既に成立した契約の内容を相手方の同意なく一方的に変更することは、理論的にも、相手方の権利利益への影響の大きさという観点からも、本来許されないはずです。その例外規定である本条について、もし仮に、実体要件イとして記載しております要件、すなわち、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更に関する規定の有無、内容、その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときという要件が緩やかに解されてしまうような事態となれば、消費者など定型約款の相手方の地位は極めて不安定なものになってしまいます。

そこで、定型約款の変更規定については、事業者に定型約款の無制約な変更を認めるような趣旨の法文ではないこと、慎重に判断される必要がある例外的な規定であること、相手方の重要な権利利益を制約するような約款変更はそれに見合うだけの目的の正当性と手段の相当性を備えることが不可避であること等について、今後の御審議における明確化と周知をお願いいたします。

また、仮にこの変更要件を相手方の不利益な方向に緩和する特約を定めても、文字どおりの法的効力が認められてはならないものと考えます。この点についても、今後の御審議における明確化と周知をお願いいたします。

次に、暴利行為に関する意見です。六ページを御覧ください。

急速に進む高齢化社会の進展と高齢者被害の増加の中、改正法案が暴利行為規定の明文化を見送ったことは非常に残念なことです。暴利行為規定は高齢者被害の救済策として非常に有用であり、引き続きの御検討と法制化をお願いいたします。

次に、取消しの効果に関する意見です。七ページを御覧ください。

詐欺・強迫取消しに基づく取消しの場合、被害者には原状回復義務がないと考えないと、加害者のやり得となり、社会正義に反する結論となってしまうと思われます。そこで、民法上の詐欺取消し、強迫取消しや公序良俗違反に基づく無効についても、消費者契約法六条の二と同様の規定を明文化しておくべきではないかと考えます。少なくとも、詐欺の被害者等には原状回復義務がないという解釈論につき、今後の御審議での明確化と周知をお願いいたします。

次に、今回の法案で実現しなかった諸規定に関する意見です。三ページの(四)の部分を御覧ください。

法制審議会の議論の過程で、情報提供義務、説明義務、役務提供契約、いわゆるサービス契約に関する中途解約権などの民事ルール、抗弁接続、複数契約の解除、格差契約に関する解釈規定などの有益な諸提案が今回の改正法には盛り込まれないことになりました。それらについて、今後の法律の運用や社会実態を踏まえた法改正に向けた引き続きの御検討をお願いいたします。

最後に、消費者契約法の改正に関する意見です。三ページの(五)の部分を御覧ください。

法制審の議論の過程で、消費者契約に関する特則規定は今回の改正民法には盛り込まれないこととされ、その立法化は消費者契約法の改正に委ねられました。消費者契約法は、昨年五月に一部論点の法改正がなされ、現在、残る論点を内閣府消費者委員会の専門委員会で議論中です。民法が定める民事ルールを実質的に補完する消費者契約法についても、早期改正の実現を併せてお願いいたします。

国会において民法改正法案に関する充実した議論がなされ、今国会で成立することを期待してやみません。

以上で私の意見陳述を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。

 

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

三人の参考人の皆さん、本当に今日はありがとうございます。

債権法改正の総論について、これまで随分御意見を伺いました。私、端的に三人の参考人に一問だけ伺いたいと思いますのは、過失責任主義と帰責事由の考え方というのが今度の改正で変わったのかと。私はそうではないと思うんですけれども、山野目参考人、辰巳参考人、山本参考人、それぞれいかがでしょうか。

○参考人(山野目章夫君) 契約及び取引上の社会通念に照らして責めに帰すべき事由があるかどうかということを見定めた上で損害賠償責任の成否を定めるというルールを提案申し上げているところでございます。

責めに帰すべき事由の方は、現在の法制においても存在をしているものでありまして、そうしますと、その上にのせた契約及び取引上の社会通念ということが一体いかなる意味を持つのかということが議員お尋ねのことに関わって重要になってくるであろうというふうに感じます。

法制審議会における調査審議のプロセスを顧みますと、大づかみに図式化して申し上げますれば、まず、契約に照らして責めに帰すべき事由があるかないかということを考えましょうということが出発点でした。

それはどういうことかと申しますと、契約ではない不法行為の損害賠償のときには、言わば純粋に客観的な過失責任主義とでも申し上げたらよろしいんでしょうか、交差点で出会い頭にぶつかった自動車、その運転者が加害者で、被害者が歩行者であるというときに、全然関わりのない一般市民同士の接触によってそういうアクシデントが起きたときの賠償責任の成否は、客観的に運転者、加害者に過失があったかどうかということを問うて判断するということになりますということでしてまいりましたし、これからもそうなんだろうと思います。

しかし、契約というものを、決して強制されて契約をしたわけではありませんで、基本原則は、自由で契約関係に入った人同士の間でどういうレベルの義務を果たさなければいけないのですかということを考えれば、それは、そういうピュアな客観的な判断ではなくて、その契約に即して判断されるべきでしょうという発想がありまして、ここでまず契約に照らして責めに帰すべき事由を判断すべきだという議論が始まります。

しかし、これに対しては一方で懸念が唱えられまして、ということは契約に書かれたことが絶対で全てなんですねと、契約の内容をコントロールする側、極端に言うと、契約書に自分に有利なことを書き込ませる側のみが自分の狙った法的解決を獲得することができる者になってしまうんですねという懸念が出されることになります。

決してその契約を強調している側の議論というのはそうではないはずなんですけれども、しかし規定がそう読まれてしまうんではないんですかという懸念に応えていくために、今度は、契約と並べて社会通念に照らしてというのが入ってきていいのではないかという議論になります。

ところが、今度は、そういたしますと、社会通念に照らしてというのはどういうことですかと。世の中の空気がみんなそっちに流れているようなときがある。例えば、ある時点での日本の社会が政治的にみんなでこっちの方でやろうみたいなことが有力になってきているときに、何かそれを基準にして個別の取引の中身が解釈されるんですかと。それは何か乱暴な言葉を使えばちょっとした全体主義であって、そういうことでいいんですかという懸念もまたそれに対する再反論として出てくるわけですね。

そこで、いやいや、申し上げているのは、何か政治的な社会の空気のようなそういう社会通念なのではなくて、その取引をする人たちが普通どう考えますかということを言っているんですよと。それを考慮しろというのは全然常識的な話であっておかしくはないのではありませんかという議論になりますが、しかし、そのことも規定上はっきりさせてほしいというお話になりますから、社会通念の上に取引上のというふうに付くことになりまして、でき上がったものは、契約及び取引上の社会通念に照らして責めに帰すべき事由があるかないかということを判断せよというような、新しく出てくる概念がどうしても慣れ親しまないところがありますけれども、法制審議会の調査審議における苦心の産物であるというふうにお受け止めいただいて、また立法府においてこれを御覧いただければ有り難いと考えます。

○参考人(辰巳裕規君) 帰責事由が過失責任主義を取って、維持しているのか放棄したのかなどというところは、これはもう民法学者の先生方、山野目先生もいらっしゃいますが、の中での学理的な問題ですので、ちょっと私はコメントはできないんですが、実務家という立場から考えますと、ふだん契約があり、契約違反あって、お金貸したのに返してくれないといったら、返してくださいというところに余り過失責任主義というのは意識しない、契約不履行の場合は。ところが、医療過誤とか労災とか、そういう安全配慮義務違反、学校事故とかも含めてですね、そういう場面ですと、かなり不法行為に基づく損害賠償と似た構造を取っていて、安全配慮義務の中でやはり予見可能性であるとか過失に似たようなことを検討していくという作業があります。そのときに、過失責任主義というものが維持されているのかいないのかというのは非常に大きな問題になるかもしれません。

ですので、契約の単なる債務不履行と安全配慮義務違反の損害賠償という場面についてはひょっとすると少し考えが違うのかもしれないなと思いつつ、この先はちょっとやはり学者の先生に更に理論を深めていただきたいなというふうに思うところです。

○参考人(山本健司君) 御質問いただきましてありがとうございます。

理論的な評価については分かれるところはあるかもしれないと思っております。しかしながら、少なくとも実務上は、これまでと運用と大きく変わることはないであろうというふうに思っております。

以上です。

○仁比聡平君 実務上の運用変わるところはないという山本先生のお話は私もそのとおりかなと思うんですが、第三者保証の問題について辰巳参考人から傾聴すべき御意見をいただきました。

まず、金融の円滑が第三者個人保証を原則禁止すると阻害されるのではないかというこの疑問に対して、いただいている資料では具体的な御意見がおありだと思うんですけれども、先ほど述べられる時間がなかったかと思いますので、そこについての御意見を伺いたいと思います。

○参考人(辰巳裕規君) 御質問ありがとうございます。

私の資料一、レジュメの五ページ目の上の方に書かせていただきました。やはり保証が取れないと金融の円滑が阻害される、これは例えば貸主の、利息制限法の金利、出資法の金利引下げのときも、利息を下げると借りられない人が増えますよというような話も出たりしました。常に借主というのはこういう恐怖に置かれております。

しかし、この金融円滑が本当に阻害されるかどうかというところを考えたときに、まず問題なのは、本当は保証人なしでも融資できるにもかかわらずもし保証を取って融資しているのであればそれが問題だし、あるいは、貸し渋りというものが起こる懸念があるのであれば、やはりそれはそちらを是正するという姿勢が要るのではないかというふうに思うところです。

それから、制度上やはり保証人が取れる制度になっているのであれば、金融機関としたらやはり債権保全にベストを尽くすという観点からは、やはり制度上取れるものは取るということになっていくのではないかというふうにも思います。取れる制度だから取っているという面もあるのではないかというふうに思っております。

果たして本当に、支払能力がない方を保証人に取って結局破綻しても債権回収にはならない。じゃ、何のために取っているのかというところがございます。本当に円滑が阻害されるのか。現に今も監督指針の下で第三者保証は取らない運用が原則的になっているというところで、多分、千葉銀行さんの、以前の審議のときの例なんかも引かれていて、その割合は大変低いのだというのが示されているというふうに思っておりますので、果たして本当に生じるのかというのは、むしろこれまで余り、今回の改正の中では、少し科学的なというか経済学的な調査ということが余りないままイメージ論で、借りられなくなってしまう、阻害されるというのが少し走っているのかなというふうに思います。

保証人がなくても借りられるのであれば中小企業さんはそれが一番良いというふうに考えているはずですので、中小企業さんが保証人制度がなくなると困ると言っているのは、それはやはり借りられるというところを確保してあげるということが一方では必要ではないかというふうに思います。

○仁比聡平君 そうした下で、今回の改正案は公正証書による保証意思の確認ということになっているわけですけれども、先ほど辰巳参考人が述べられたような、商工ローンあるいはクレジット、サラ金、ヤミ金などの被害に対して、私も同じような弁護活動を経験をしてきたわけですけれども、特に公証人あるいは公正証書の取られ方の件について少し伺いたいんですが、当時、日弁連の意見書なども出されまして、けれども、先ほどお話のあった、印鑑証明と実印が押してある委任状があればこれは本人の意思であるというような判断が公正証書の作成においてされてきたと。その現実の公証人役場での運用というのは変わったんでしょうか。

○参考人(辰巳裕規君) 当時と今とまず一つ違う点は、改正貸金業法の下で、貸金業者は委任状を取って公正証書を作ることはできなくなっているというので、かつての形の、金融会社の従業員が債務者、保証人の代理人となって公証役場に行く、その結果、公証役場にその借主、保証人が一度も足も運んでいないのにいつの間にか公正証書が作られているという事態は防がれているということは前提としてはあると思います。

ただ、その上でですが、弁護士なので一番公証役場に縁があるのは遺言の場面ということになりますが、やはり事前に契約書とかあるいは案文とかを公証人さんとの間で、弁護士がほとんどファクスとかしてあらかじめ案文とか作るまでお膳立てをしてから日を決めてみんなで公証役場にぞろぞろと行く、それで公正証書を作るという作業をその日にもう一気に行うというのがやはり実務かなというふうに思っていまして、その際に丁寧に説明がされる、いろいろこういう権利がありますよ、こういう問題がありますよというふうにおっしゃってくださる公証人さんもいれば、本人さんたちがこういうふうに申し出ているからということで、もう黙々と公正証書の作業をされる公証人さんもいると思います。

そこはやはり個々人の公証人さんの、皆さんそれぞれ法曹としての経験積んだ上でお仕事をされているわけですが、しかし、ある人はこうで、ある人は違うというようなことではやはり問題があるので、公証人が当事者に対して直接法的な意味を分かりやすく説明して、意思を確認した上で立派な公正証書ができ上がるという仕組みを制度としてどうつくるかということが大事かと思います。

○仁比聡平君 今の点に関わって、改正案四百六十五条の六で、公正証書を作成しようとする、保証人になろうとする者が具体的な保証債務の内容について公証人に口授しなきゃいけないと。この口授というのは何なのかと。話をしていて意味が分かっていないんじゃないかと公証人から見たら考えられるとき、あるいは、口ごもって、単に記憶をさせられていることを述べているだけじゃないのかとか、いろんな場面が想定されるんですけれども、その際の公証人のサイドには、その意思があるということの確認の義務みたいなもの、あるいは辰巳参考人のおっしゃった教示義務のようなもの、こうしたものがこの法文上はどう考えたらいいのか。公証人の義務が果たされていないということになればその公正証書は無効であると評価されるべきだと思うんですが、そうした規定は今回の改正案の中にはないんですけれども、ここはどう考えたらいいと思われますか。

○参考人(辰巳裕規君) 今般の改正法案そのものには、公証人の面前で口授をして、それに基づいて公証人が公正証書を作成するとしか書いていないわけでして、口授の際に意思について疑問があったりしたときにどうするかということはこの改正法案の中にはどこにも書いていない。それは、公証人というのは法律家として、そういう問題があればそういうことを指摘し、問題があれば作らないのだというふうには説明されるわけですが、それはどこにも担保するものがない。もちろん、先ほどお示ししました公証人法の二十六条には無効とか取消しになるものについて公正証書を作ってはいけませんよという規定があったり、そういうことを施行規則ではちゃんと確認しなければいけませんよということが書いてある。

これは法文としては非常に立派な規定ですので、じゃ、これを実際に法的義務としてきちっと各公正証書を作成する際にそれが実現できるような手当てというものをどうしていくか。現に立派な施行規則がありますから、例えばこれを法律上公証人法に格上げするとかも含めて検討はされていいのかなというふうに思います。

○仁比聡平君 山本参考人、あと一分しかなくなって申し訳ないんですが、これまでちょっとお述べになる機会がなかったと思うんですけれども、暴利行為、これは見送られたということですが、典型的な幾つかの具体例と、これを法律上考えるべきだというお考えについて、少し聞かせてください。

○参考人(山本健司君) 御質問いただきましてありがとうございます。

配付資料の七十五ページを御覧いただけますでしょうか。具体的な裁判例の事例を見ていただいた方がイメージ湧いていただけるんじゃないかなと思います。

二番の奈良地裁、平成二十二年七月九日判決の事例でございます。これは認知症の女性に呉服や宝石を買わせ続けたという案件なんですけれども、財産の管理能力が痴呆症のために低下している原告に対して、それを知りながら、個人的に親しい友人関係であるかのように思い込ませて、これを利用し、原告自身の強い希望や必要性のない商品を大量に購入させ、その結果、原告の老後の生活に充てられるべき流動資産のほとんどを使ってしまったものであると。このような売買は、その客観的状況において、通常の商取引の範囲を超えるものであり、民法の公序良俗に反するというべきであるというふうな、この事案については公序良俗で救われた案件ですけれども、このような類型について明示的に一つの類型として、暴利行為としてその契約は無効になるというふうな規定を設けていただくというのが一つ明示的な暴利行為規定の成文化として有用ではないかというふうに思っております。

以上です。

○仁比聡平君 ありがとうございました。

 

 

○参考人(高須順一君) 高須でございます。本日は、発言の機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。

私は、日本弁護士連合会から推薦を受け、二〇〇九年十一月から審議が開始されました法制審議会民法(債権関係)部会の幹事としてその審議に参加させていただきました。そこで、今回の改正法案に対する日弁連の基本的立場を含めた私の意見をまずお話しさせていただき、その上で、今回の改正項目の中でも、市民生活あるいは取引社会との関係において重要と思われる幾つかの論点について、今回の改正法案に至る法制審の議論の経過を説明させていただきたいと思っております。よろしくお願い申し上げます。

まず、今回の改正法案に対する日本弁護士連合会の意見、評価でございますが、日弁連としては、今回の改正法案について、保証人保護の拡充や約款ルールの新設等、健全な取引社会を実現するために必要かつ合理的な改正提案になっていると評価させていただいており、賛成という立場を表明しております。

お手元の、配付をお願いしてあります資料の四になりますが、平成二十七年三月十九日付けの民法(債権関係)の改正に関する要綱に対する意見書がそれでありまして、一部にはなお道半ばという部分はあるにせよ、一八九六年制定以来百二十年余を経過した民法、債権関係法についてその現代化に真正面から取り組んだその意義は十分に盛り込まれた内容になっていると評価させていただいております。

なお、日弁連が今回の改正法案についてどのような評価をしているか、また、法制審議会の審議に対して日弁連がどのように取り組んできたかにつきましては、やはりお手元の資料の二と三でございますが、改正法案の評価、あるいは日弁連のこれまでの取組というA4一枚物のペーパーに、より見やすい形で記載されておりますので、これも御覧いただければと思います。この日弁連の評価は、私自身のそれと同様のものであります。

そもそも民法という言葉についてでございますが、幕末から明治維新にかけて活躍した津田真道によって初めて日本語に翻訳され、以後定着した言葉とされております。津田がこの民法、この法律を民法すなわち民の法と翻訳したことにはやはり意味があることであり、この法律は民に寄り添い、民のためになる法でなければならないと思っております。

そのような観点から考えた場合に、今回の改正法案は、保証人保護といった民の要請に応えるものであり、また、日常生活を行うに当たり今やその存在を無視することはできない約款取引についても、その規律を新たに設けることとなり、民の健全な経済活動を支える重要なルールになると考えております。また、今回、消滅時効制度などもより分かりやすいシンプルな内容にすることが目指されており、全体として、二十一世紀に入った日本社会において、津田がまさに民法と名付けた法の内容としてふさわしい改正法案になっていると思っております。

以上のような視点から、今回の法案に盛り込まれました重要テーマについて幾つか御説明をさせていただきます。

お手元の資料の一、「民法(債権関係)改正法案の概略」、これは主に関係する改正法案を抜粋したものでございますが、これを御覧いただければと思います。

まず、個人保証人の保護を強く意識した保証法制の改正でございます。様々な工夫が盛り込まれておりますが、中でも、今回の改正において、事業資金とするために金融機関から融資を受けるようないわゆる事業用貸金契約について、個人が保証契約を締結する際には、原則として、保証人になろうとする人は、公証人から一定の説明を受けた上で、公正証書で公証人に対し保証意思を有する旨を表示しなければならない、この規律、法案四百六十五条の六でありますが、この規定は重要な改正条文であると考えております。保証人になろうとする人が、保証契約締結に先立ち、直接の利害関係を有しない公証人と話をすることにより、よく考える機会をつくる、その意味で、保証人にならざるを得ない状況下にある人にいま一度考える権利、熟慮する権利を与えるものであると評価できるものと思っております。

個人保証人の保護という問題は今に始まったものではなく、古くから存在する問題ですので、一方では保証契約が経済活動において必要とされているという場面がある、このことを十分に踏まえて、一歩一歩進めていく問題であると考えております。

法制審議会において、中小企業の資金調達の必要性、そのために個人保証に頼らざるを得ない実情があることが参加メンバーである委員から表明され、その点も十分に考慮した規定として今回の改正法案の規律になったと理解しております。今後、更に検討していくべき事柄が残されているとしても、百二十年余の歴史を経て、これまで相対でなされてきた保証契約に公証人が一定の関与をする制度が設けられ、それをもってこれから保証契約を締結しようとする保証人によく考える権利、熟慮する権利が保障されることは大きいと考えております。

次に、定型約款でありますが、この規律も大変重要なものであると考えております。日弁連も強くこの規律の導入を主張してきた経緯がございます。

約款取引が現在の取引社会において日常的に行われているということは言うまでもないことだと思います。電車に乗れば運送約款、ホテルに泊まれば宿泊約款、携帯電話を購入すればそれに伴う分厚い約款というように、私たちはこの種の約款を介在させた契約行為を日常生活において繰り返し行っております。

しかしながら、約款の内容を契約締結時に確認し契約を締結するということはまれだと思います。一定の約束事が書かれているのだろう、これぐらいの認識はあるとしても、その具体的な内容はよくは承知していない、そのような取引が日常的に行われているということだと思います。約款を利用した契約のことを希薄な合意などと呼ぶところです。このような中で、今回の改正法案が民法が規律する約款の内容を定型約款として定義付け、さらに不当条項、不意打ち条項と呼ばれるルール、つまり契約の拘束力から逃れるための規定を設けたことは大変に意義のあることと考えております。

法案五百四十八条の二第一項は、約款を利用して行う契約について、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものである場合、これを定型取引として民法の規律の対象となることを明らかにしています。この定型取引の定義において、不特定多数との画一的な契約を想定するのみならず、その内容が画一的であることがその双方にとって合理的である、そのことを必要としている、その旨を宣言していることは重要だと思っております。あくまで契約当事者の双方にとって内容が合理的なものであることを要求し、そのような約款取引についてこれを保護し規律するという姿勢を示したことは、約款取引が日常となっている現代の契約社会において意義のある改正になると思っております。

そして、この法案五百四十八条の二第二項が、約款の条項については一定の場合には有効な合意にはならない、合意があるとはみなさないとしたことは、いわゆる不当条項、不意打ち条項と呼ばれていたものの明文化であり、現代約款取引において、認めるべき約定は認め、認めるべきでない約定は排除するという明確なルールを設けることができたと理解しております。

そもそもが、約款取引が適正かつ実効性ある形で運用されることは約款を使用する企業にとっても重要なことでありますから、これらのルールの明確化を実現したことは企業経済活動の健全性の維持にも役立つものであり、調和的な規定を作ることができたと理解しております。

続きまして、消滅時効制度の改正でございます。

今回の改正法案でも大幅な変更が試みられているところでございます。民法が定める規律というものの中には、専ら法律家が裁判等を行うときのルールを定めている、そのような規律も存在いたします。私が個人的には大変関心を持っております詐害行為取消し権の規定などがまさにそれに当たります。この詐害行為取消し権につきましては、日常生活を営む中でお目にかかるようなものではないと思っております。

しかし一方で、民法の規律の中には、ごく普通の日常生活の中で、弁護士や裁判所の関与など無縁の場面においても問題となるものがあると思います。消滅時効などというのはまさにそのような規律であり、一定期間経過した後に支払を請求されたようなケースにおいて、それってもう時効じゃないのということが脳裏をよぎるという場面が間々あると思います。

そのようなときに、さてどうするか、とりあえず民法を見て確かめよう、今はインターネット全盛の時代でありますから、家庭に六法全書がなくても、ともかくネットで調べようなんということは幾らでもあると思います。そんなときに民法のルールが余りにも複雑だと、結局よく分からない、判断が付かない、諦めるとなってしまっては、もはや民のための法律とは言えないと思います。ここではシンプルで分かりやすい規律が必要になるところだと思っております。

今回、消滅時効に関しては、話を複雑にしていた短期消滅時効に関わる規定を削除し、債権の消滅時効は、権利を行使し得ることを知ったときから五年か、権利を行使し得るときから十年のいずれか早い方、つまり主観的起算点と客観的起算点にそれぞれの一定の時効期間を割り当てる一律の制度としてこれを整理しています。時効のような身近な法律問題に関わる分野は、分かりやすいことが何よりでございます。そのような改正法案になっていると思っております。

最後に、法定利率を取り上げたいと思います。

これは私たちが日常に関わるという問題ではありませんが、万一のときに重要となる規定です。現行民法四百四条では法定利率は年五分、五%と定められています。そして、この利率が、例えば交通事故被害に遭ったようなときの損害賠償金額の算定の際に重要な役割を有することになります。逸失利益に関する適正賠償額を定める際に中間利息控除ということが問題になるということでございます。

この点、平成十七年の最高裁判決が、民法は民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられると判断しており、そこで現在の損害賠償実務では、年五%の割合による減額、つまり中間利息控除が行われています。

しかしながら、バブル期の高金利の時代であればともかく、現在の経済環境では、現時点でもらった金銭を銀行に預金したところでそれほどの利息を期待することはできません。金融機関等にお金を預けておけば五%の運用益が生じて、結果的にそろばん勘定が一致しますよなどと言える人は恐らく一人もいないと思います。

そこで、この中間利息のこと一つを考えても、今の法定利率五%は社会の実情に合っていない、もっと低い利率にする必要があるということだと思います。しかし一方で、余り急激な利率の変更は、変更前のケースと変更後のケースで大きな違いをもたらすこととなり、それにより不利益を受ける人に不公平感をもたらすことになります。改正の必要を感じながらも、改正による弊害も危惧される。

法制審議会でもとても難しい審議でありました。最終的には、大幅な利率の変更を避け、改正法を施行する際の出発点となる利率は年三%とする。その上で、今後の金利相場についてどのような急激な変化があるかは分かりませんので、そのような大きな変化があった場合には対応できるような緩やかな変動制を取るということも改正法案の内容となっております。極端な改正にならないようにしつつも社会の実態に合わせる、このようなことを試みた改正法案になったと思っております。

以上の次第であり、今回の改正法案は、一八九六年、明治二十九年以来の社会の変化に対応するものであり、かつ公に対する民、この民に関わる、民に寄り添う改正になっていると思います。まだまだ努力しなければならない問題、まだまだ考えなければならない問題もありますが、百二十年間改正をしないできたという状況を考えれば、その全てを今回の改正で解決するということは困難であり、今後も、民の法である民法については、これを更に民のためのものにするための不断の努力を続けていかなければならないのだろうと考えております。

以上をもちまして、私の説明とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。

○委員長(秋野公造君) ありがとうございました。

次に、鳥畑参考人にお願いいたします。鳥畑参考人。

○参考人(鳥畑与一君) 静岡大学の鳥畑です。

本日は、百二十年ぶりの抜本的改正と言われる本法案審議において貴重な発言機会をいただき、御礼を申し上げます。

実は昨年、内閣委員会でカジノ問題で参考人で呼ばれましたが、本来は自己資本規制の国内金融に対する影響、金融行政についてを研究分野の一つとしております。とはいえ、法曹界の大家の先生方と比して余りにも浅学非才であり、かつ門外漢であります。そういう金融学者からの一意見としてお聞き流しいただければ幸いです。

まず、本法案趣旨説明にもありますように、保証人の保護を図るための保証債務に関する規定の整備を一つの柱とした本法案において、保証人に対する主要な債務者の財産や収入等の情報提示義務など、数多くの保証人の保護規定が新設又は強化されたことを評価するものです。とはいえ、衆議院法務委員会等の質疑でも指摘されましたように、事業債務に対する第三者保証の原則禁止や保証人の負担能力を超えた保証責任の制限、いわゆる比例原則の見送りなど、依然として多くの課題が残されております。このことは、近年の担保、保証に過度に依存しない中小企業金融の政策的推進や金融実務の到達点、とりわけ第三者保証が原則禁止とされている現実に対して、民法という基本法が二、三周遅れるばかりか、逆方向への影響を与えてしまうのではないかと懸念するものです。

本日は、事業活動に係る第三者保証の原則禁止を通じた人的保証に依存しない中小零細企業金融の促進こそが、金融機関の定性的評価を軸とした事業性に着目した融資に対する目利き能力を高め、ひいては中小零細企業の健全な育成、発展に貢献することを訴えさせていただきたいと思います。

現行民法制定以降の金融技術の発展は著しく、企業の経営内容や将来性に対する信用評価手法等の発展は顕著であり、金融庁金融行政方針等においても、担保、保証に過度に依存しない、事業を見た融資の転換促進が掲げられているところです。実際、中小零細企業への融資における担保、保証への過度な依存の弊害がバブル経済崩壊以降顕著となり、デフレ経済の克服を含めた日本経済の健全な発展を妨げている要因の一つとしての認識が共有されています。

主たる債務者の信用補完を行う保証は法人保証と個人保証に分けられ、個人保証はさらに経営者保証と第三者保証に分けられますが、物的担保が乏しく、かつ企業と経営者個人が一体となっている傾向、いわゆる法人個人の一体性が強い中小零細企業においては個人保証が重要な役割を果たしてきました。とりわけ経営者保証は、信用補完、債権保全とともにモラルハザードの防止等の経営の規律付け、情報の非対称性の克服に資する役割が大きいとされます。中小企業の八七%が経営者保証を提供しているように、中小零細企業において、経営者保証が金融の円滑化において重要な役割を果たしていますが、後述しますように、過度の依存からの脱却が政策的に追求されているところです。

一方で、第三者保証については、そのような経済的合理性や経済的貢献が乏しい上に、その弊害の大きさがバブル崩壊後に社会問題化し、金融の現場では第三者保証を原則禁止とする取組が進んできています。

二〇〇六年三月には、中小企業庁は、事業に関与しない第三者が個人的関係等によりやむを得ず保証人となり、その後の借り手企業の経営状況の悪化により、事業に関与していない第三者が社会的にも経済的にも重い負担を強いられる場合が少なからず存在することは、かねてより社会的にも大きな問題にされてきているとして、信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止を行っています。

また、二〇一〇年の金融資本市場及び金融産業の活性化のためのアクションプランの「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行を確立し、また、保証履行時における保証人の資産・収入を踏まえた対応を促進する」という方針を受けて、二〇一一年七月には、金融庁は、個人連帯保証に関する監督指針の改正についてで、経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立を各金融機関に求めています。

新たな監督指針においては、経営者以外の第三者の個人保証については、副次的な信用補完や経営者のモラル確保のための機能がある一方、直接的な経営責任がない第三者に債務者と同等の保証債務を負わせることが適当なのかという指摘がある。また、保証履行時における保証人に対する対応いかんによっては、経営者としての再起を図るチャンスを失わせたり、社会生活を営む基盤すら失わせるという問題を生じさせるのではないかという指摘があることに鑑み、金融機関には、保証履行時において、保証人の資産、収入を踏まえたきめ細やかな対応が求められるとして、一、個人連帯保証契約について経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする方針を定めているか、二、例外的に経営者以外の第三者との間で個人連帯保証を締結する際には、「信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止について」における考えを踏まえているか、三、契約者本人による自発的な意思に基づく申出によるものであって、金融機関から要求されたものでないことが確保されているか、四、保証債務弁済の履行状況及び保証債務を負うに至った経過などその責任の度合いに留意し、保証人の生活実態を十分踏まえて判断される各保証人の履行状況に応じた合理的な負担方法とするなど、きめ細やかな対応を行う態勢となっているか等を検証するものとしています。第三者保証が例外的に認められている場合であっても、契約者本人が自発的な意思に基づき申出を行った旨が記載され、自署、押印された書面の提出での確認が求められています。

これを受けて各金融機関の融資においては、第三者保証を原則求めないことが通常となってきております。日弁連、保証制度の抜本的改正を求める意見書によれば、第三者保証人非徴求割合は、政策金融公庫一〇〇%、商工組合中央金庫九九・九%、信用保証協会九九・八八%となっています。衆議院質疑の中でも、第三者による自発的な申出による個人連帯保証契約はほとんどないと答弁されています。

さらに、経営者保証についても、二〇一三年の経営者保証に関するガイドラインにおいて経営者保証に依存しない融資の一層の促進がうたわれ、一、法人と経営者との関係の明確な区分、分離、二、財務基盤の強化、三、財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保などの一定の条件を満たす融資においては経営者保証を求めないことが金融機関に求められました。法的強制力はなく、経営者及び金融機関による対応についての自律的な準則という位置付けではありますが、現実に経営者保証を付けない融資が拡大しつつあり、新規融資の一四%が経営者保証を付さないものとなっています。経営者保証ガイドラインで重要なのは、経営者保証が行われた場合でも、支払能力に対して過度な保証負担を回避し、かつ保証履行時において一定の財産を手元に残すことで家計の破綻を回避し、その再生基盤の維持を確保しようとしている点です。

中小零細企業における個人保証については、既に第三者保証については原則禁止とされ、さらに経営者保証についても依存を減らす取組が推進されているのが金融の現場の到達点です。この方向性は、全国中小企業家同友会が政策的要求として、個人保証に過度に依存しない金融制度の確立は、円滑な創業や事業承継、事業の拡大を進め、地域経済の振興を図る上で不可欠であるとし、全国商工団体連合会も担保や人的保証に依存しない融資慣行の普及に努めるとするように、中小零細企業の切実な要求でもあります。審議の過程では、ある中小企業団体の強い要求に基づいて第三者保証の原則禁止等が見送られたとのことですが、広範な中小企業団体の要求に基づくものと言えるのでしょうか。

第三者保証の原則禁止は、同時に経済的にも合理的な方向性であると言えます。すなわち、過度に個人保証に依存することは、金融機関の融資時における審査や融資後のモニタリング機能を通じた情報生産へのインセンチブを低下させ、その結果、中小零細企業の事業性や経営者の資質などの定性的評価に基づいた審査能力を弱める結果になります。さらに、個人保証を負うことで、経営者の新たな事業への挑戦や抜本的な企業再建、事業承継等を妨げることが指摘されています。

第三者保証は、経営者保証の補完を通じて上記の弊害を促進するとともに、経営者による第三者保証への依存は、経営者の規律等を低下させ、モラルハザードを引き起こす可能性もあります。第三者保証の特性として指摘されている情義性、未必性、軽率性、無償性、利他性、これらは、第三者保証を引き受ける当人が経済的合理性よりも人間関係に左右され、正確なリスク評価に基づかない安易なリスク負担を引き受け、報酬がない下で突然の支払能力を超えた過大な負担を強いられることを招きます。このことは、経営者の規律を高めるどころか、健全な市場経済と金融取引をゆがめる前近代的な融資慣行とも言えます。

また、このような特性を持つ第三者保証の問題性は、公正証書作成による意思確認のみでは、これまでの質疑でも指摘されたように是正できません。予見不可能なリスクについて一般的、抽象的な説明では、第三者に自己責任ではない負債を負わせることを防止することはできません。審議において明らかにされている公正証書作成に伴う弊害の大きさに鑑みれば、第三者保証の正当性を公正証書に委ねることは避けるべきと考えます。

このような第三者保証については、日弁連が一四年二月の意見書、保証人保護の方策の拡充に関する意見書でも述べているところです。

ところが、今回の法案では、第六回部会、改正に関する検討事項で、「個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たないこともあって、例えば、自殺の大きな要因ともなっている連帯保証制度を廃止すべきであるなどの指摘もあるところである。」、「このような状況を踏まえ、保証に関する規定の見直しに当たり、どのような点に留意して検討を進めるべきか。」とされていましたが、結果的には、第三者保証の全面的禁止は中小企業の円滑な金融を妨げる、金利負担の上昇等による借り手の負担を増大させるとして見送られ、公正証書作成による意思確認で代替されることになりました。

しかし、現実に金融の現場では第三者保証の原則禁止が一般的となっており、民法上原則禁止とすることが金融の円滑を妨げることはあり得ないと考えます。現に中小企業庁の第三者保証の原則禁止においても、一、実質的な経営権を有している者、営業許可名義人又は経営者本人の配偶者が連帯保証人となる場合、二、経営者本人の健康上の理由のため事業承継予定者が連帯保証人となる場合、三、財務内容その他の経営状況を総合的に判断して通常考えられる保証のリスク許容額を超える保証依頼がある場合であって、当該事業の協力者や支援者からの積極的な連帯保証の申出があった場合は例外とされており、原則禁止の場合でも金融の円滑に障害をもたらしていないのが現実ではないかと考えます。

また、エンジェル投資家等の第三者保証のニーズについても、物上担保で対応可能であるほか、例外規定として対応すればいい問題であり、第三者保証の原則禁止を妨げる要因とはなり得ないことはこれまでの質疑で明らかではないかと考えます。全面禁止にできないから原則禁止を飛ばして公証人に委ねるというのは論理的な飛躍であり、同時に、公正証書作成の諸コストを中小零細企業、保証人に強いるばかりか、公証人制度の不備を第三者保証の負担という形で転嫁するものと言えます。

配偶者を公正証書の作成対象外とする点においても、主たる債務者との一体性がある場合であっても公正証書を義務付けることで障害をもたらすことは考えにくいものと考えます。経営と家計の一体性、そして主債務者と配偶者の経済的一体性があればこそ、自動的に保証人となることを当然とするのではなく、夫婦財産の独立性の原則を含め個人としての主体性を尊重した保護を強化すべきと考えます。このことは、中小零細企業経営の破綻と家計の破綻の連鎖を防ぐ意義を有するものと考えます。保証に依存しない金融の目標が過度の負債による個人又は家庭の破綻を防ぐことにあることを忘れてはいけないと考えます。

全国中小企業家同友会は、経営者の資力に比例した限度でしか保証人は責任を負わない原則の確立として、保証債務履行の際、その前二年間を平均した年間可処分所得の二倍に保有資産の価額を加えた額の限度まで保証人の責任を減じるとして、個人保証を代替する制度の必要性として個人保証共済制度の創設を提案しています。個人保証における負担能力を超えた保証責任の是正についても比例原則の導入をお願いするものです。

以上、私の発言を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。

○委員長(秋野公造君) ありがとうございました。

次に、山田参考人にお願いいたします。山田参考人。

○参考人(山田茂樹君) 司法書士の山田と申します。この度は意見陳述の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。

さて、まず初めにですが、私ども司法書士は、不動産登記等の登記に関する業務、あるいは簡易裁判所における訴訟代理業務等を業としているという立場の者でございます。今般の債権法の改正につきましては、我々司法書士の実務においても極めて重要な法改正であるというふうに言えます。

さて、まず最初に総論的なことから申し上げるのですが、今般の改正についてですが、おおむね賛成をしておりまして、慎重審議の上、迅速な成立を求めるとともに、その周知におきましては、平成二十八年十二月六日の衆議院法務委員会で民事局長が御答弁されたように、司法書士、弁護士等の法律実務家を活用すべきであるというふうに考えております。

さて、今日のこの本委員会においてですが、私、一司法書士としての実務の視点から、法案の個別の規定についての意見として二点、それから、法案には盛り込まれなかった観点についての意見を一点述べさせていただきたいというふうに思っております。

さて、今日これから述べさせていただく意見についてですが、時間の都合もあることから、例えば保証ですとか定型約款あるいは暴利行為等、当方としても重要であるとは考えているもののこれまでの審議等において取り上げられている論点については取り上げず、これまでの審議において余りある意味言及されていなかった点について取り上げるということで作っておりますので、御了承ください。

それでは、具体的な内容についてお話をさせていただきたいと思います。

まず、法案の個別の規定についての意見ということで、二点のうちの一点目でございます。一点目は、将来債権の譲渡、法案でいきますと四百六十六条の六関係ということになります。

これは、我々の業務で見ますと、主に不動産登記あるいは債権譲渡の登記に関連する事項でございます。

法案につきましては、将来債権の譲渡の有効性を認めているこれまでの判例法理を明文化したものと言え、これによって資金調達等の要請から将来債権の譲渡は活発化する可能性があるというふうにまず評価をするものであります。

この将来債権の譲渡の典型例ということで、不動産で絡めますと典型例というのは賃貸物件における賃貸人の将来の賃借人に対する賃料債権というものがございます。例えば、こうした賃貸物件の将来債権たる賃料債権につき債権譲渡がされた後に、当該賃貸物件につき売買が行われ所有者が交代したと、こういう場合がありますが、この場合、その賃料は将来債権の譲受人に帰属するのか、それとも新しい所有者に帰属するのかにつき、混乱が生じるケースというのが想定をされます。

譲渡制限特約については今般の四百六十六条の六の第三項で一定の手当てがされておるんですが、将来債権譲渡と不動産の所有権の過程、どちらの方が優先するのかについては様々な考えがあるところでありまして、法制審の中でも様々な議論が交わされているところですが、結局、統一的な見解もなかなかないということで解釈に委ねられているということになりますので、今申し上げたような、どっちに払ったらいいんだと、こういうような混乱が発生する懸念がございますと。これが一点目の点でございます。

それから、続きまして二点目ということですが、二点目は、新民法の法案の五百九条関係ということで、不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止に関する規定でございます。

こちらにつきましては、配付されている民法の一部を改正する法律案の説明資料等でも言及されている点なのですが、ちょっと別の観点から一点申し上げたいと思います。これは、具体的にどういった事件が典型例かといいますと、物損交通事故の損害賠償請求事件というので考えますと、次のような事態が生じるのではないかというふうに考えております。

シンプルな例で申し上げますと、例えばAとB、XとYについて物損交通事故が発生したと。この事故によって、Xの自動車もYの自動車も修理代等でそれぞれ百万円ずつの損害が発生しましたと。過失割合については、Xが二、Yが八、こんなような割合ですと。よくあるような話です。

この前提で、示談が成立する場合は、実務上、今更ここで申し上げることでもないのですが、Xの視点に立ってみると、自分の方が請求する修理代、いわゆる自働債権の方については、百万円のうちの八割を相手に請求する、つまり八十万円を請求しましょうと。そして、反対に、Yさんの方の車の修理をしなきゃならない。修理代については、過失割合は二ということになりますから二割だけ負担すればいい。ということは、二十万だけ払えばいいということになると、示談が成立すれば、実務的には、Xから見たら八十万円から二十万円を引いたトータル六十万円を、これをYがXに払うと。こういう形で処理をするというのが実務の流れでございます。

ところが、現行法ですと、これ、示談がまとまらずに訴訟になった場合ですが、相手方の修理費の請求というのは、御案内のとおり、これ、不法行為に基づく損害賠償請求権ということになりますので、現在の民法の五百九条では相殺が禁止されていると、こういうことになりますので、先ほどのように相殺の意思表示をXからYにするということはできないということになりますと、裁判のやり方としては、Xとしては自らの修理費用百万円を請求する訴えを提起し、仮にYが欠席したということになりますと、百万円の給付判決を得ることになりますと。ということになりますと、実はY側からXに対してする修理費の請求権については未解決の状態が続いてしまっている、何ともすっきりしない状態が続くという、こういうことでございます。

その意味において、今回の法案につきましては、物損交通事故のこういった場合についても相殺を認めると、こういう改正でございますので、Xからすれば、以上のような事態を回避して一回性の解決を図ることができるものであり、その意味において本改正は意義があるというふうに言えます。

しかし、これをYの方の視点に立ってみた場合どうかというところでございます。

Yからすれば、欠席判決による不利益、この場合ですと、Xの損害を全額認めるということではなくて、Y自らに生じた損害も結果としてはこれ一部放棄をするという結果にもなるというふうにも言えます。

欠席判決ということですから、Yには元々Xの訴え提起に対する応訴の機会があると言ってしまえば別にそこまでじゃないかということもあるのですが、実際、特に簡易裁判所の代理人が付かない本人訴訟のケースですと、結果として、どう対応したらいいのか分からないというときに結果として欠席判決になってしまったというようなケースですとか、まあ御病気ですとか、超高齢社会でございますので高齢者の方が十分に応訴できなかったという形もないことはないと思います。そのような場合に、今般のここの部分の改正というのは、もちろん一義的には大変意義があるものではあるとはいえ、反対側のYサイドから見た場合については若干のもしかしたら問題があるのかもしれないなというふうに考える次第です。

以上が、具体的な本案に関するこちらの意見ということになります。

最後ですが、三点目といたしまして、今回法案には盛り込まれなかった観点について意見を述べさせていただきます。具体的には、中小個人事業者を狙う契約トラブルに関する件でございます。

まずもちまして、小規模事業者への支援の必要性という点については、特にこれは異論がないところだと思います。その上で、現状でございますが、極めて小規模な事業者も含む中小の個人事業者に対して、悪質な事業者が電話勧誘等の方法によって、事業の用に供するためとして不当にホームページの作成、節電器や電話機などにつきリース契約をさせたりローンを組ませた上で売買契約などを締結させるという事案が散見されるところでございます。

こうした取引に関するトラブルにつきましては、特別法として特定商取引法ですとか消費者契約法あるいは割賦販売法などが存在するのですが、これらの法律ではその対象は消費者に限定しているとか、あるいは非営利性目的の取引当事者という、言わば抽象的な意味でのブルネラブル、脆弱な人を対象としているという作り込みになっていまして、事業に関連して契約をした個人事業者は原則としては対象とはならないと、こういう作り込みになってございます。

このためですが、例えば個人事業者が事業に関連して契約をした場合、消費者契約法の規定では不当条項に該当し得る高額なキャンセル料特約が存在したとしても原則として当該特約に拘束されるということになりますし、また、個人事業者が事業に関連しまして個別クレジットを組んで商品を購入したところ、商品納入前に販売業者が倒産したというようなケースだと、非営利性の割賦販売であれば抗弁の接続規定に基づいてクレジット会社に対する支払を拒絶することができると、こういうふうに法律の規定はなってございますが、事業性で個人事業者の方が契約したという事案になってしまいますと、営利性があるゆえに割賦販売法の適用はないということになりますと、特段の事情がない限り、要は商品の給付を受けられないにもかかわらず当該事業者についてはクレジット会社に対する支払を拒絶することはできないと、このような結論になってしまうということでございます。

現在の特商法等の特別法の枠組みが消費者や非営利性の取引を対象とする以上、これらの法律を受皿として今申し上げたような中小個人事業者等に対する取引被害への対応を図るということには一定の限界があるのかなというのが個人的な見解でございます。消費者、非営利性目的の取引当事者というこの抽象的な脆弱性のある、持つ人を対象とするというのは一見明確、妥当な区分にも見えますが、そもそもその脆弱性として考慮すべき要素というのが、非営利性ですとか消費者性に限ったものではないのではないかと、このように考える次第でございます。

また、抗弁の接続につきましては、終局的には損失を誰が負担するのかということになると思いますが、当該取引が単に営利目的を持っていたということがゆえにこの事業者さんがクレジット会社等への支払を余儀なくされるというのは、ちょっとこれは余りにも酷ではないのかなというふうに考えます。そもそも私人間の契約は、消費者契約を含め、情報量や交渉力等の格差が存在する非対称性の認められる取引が少なくございません。その意味において、一般法たる民法において、当初提案で試みられたこともあったのかと思いますが、以上のような現状を踏まえた規律として何らかの対応、例えば抗弁の接続を民法に設ける等の規定というものなんかも考えることもできたのではないかと、このように思う次第でございます。

私の御説明は以上とさせていただきます。ありがとうございました。

 

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

今日は、三人の参考人の皆さん、本当に急な参考人のお招きということになったにもかかわらず、大変深い御意見をいただいておりまして、心から感謝を申し上げたいと思います。

時間の制限がございますので、第三者保証と特に比例原則という問題についてお尋ねしたいと思うんですが、まず鳥畑参考人から御意見をいただきました。私も、担保、保証の依存からの脱却という中小企業金融の政策的な前進に対して、この改正案が、逆に二、三周遅れるということになるのではないか、逆方向への影響を与えてしまうのではないかという参考人の御意見、大変胸に刺さるところなんですけれども、その中で比例原則とは何かと、金融庁の新たな監督指針に関して参考人から御紹介がございました。私の方で読み上げますと、保証債務弁済の履行状況及び保証債務を負うに至った経過などその責任の度合いに留意して、保証人の生活実態を十分踏まえて判断される各保証人の履行状況に応じた合理的な負担方法とするなど、きめ細やかな対応を行う態勢になっているかというのがその監督の指針になっているということですよね。

その実際の運用とか、あるいは現実に保証人が保証債務の履行を請求されたときに、その合理的な負担の範囲なり負担の仕方なりというのがどんなふうに行われているのかというような実務といいますか、あるいはこれからどうあるべきかというような先生の御認識などございましたらまず伺えればと思うんですが、いかがでしょうか。

○参考人(鳥畑与一君) 御質問ありがとうございました。

やはり、この比例原則に基づいた金融の現場の実際の運用というものは、この監督指針である意味追求されているんじゃないかなと思います。で、それを踏まえた経営者ガイドラインというものがありまして、根幹は、経営者の生活基盤までは奪わない、再チャレンジの可能性を奪わないということで、一定の財産を残す、必要に応じては、保証金額であるとか債権を減額をするというような形で対応するということになっているかなというふうに思うんですね。

それで、今日お配りした資料のところで、図の九と図の十という形で記載させていただいておりますが、民間金融機関における経営者保証ガイドラインの活用実績というところの⑤というところがそれに当たるのじゃないかなと思いますが、保証金額を減額した件数というものが一定数、これが増加しつつあるというふうに伺っているわけです。

以上です。

○仁比聡平君 今、鳥畑参考人の資料で御紹介いただいた数字は、つまり、保証金額を減額した件数が、平成二十七年の十月から二十八年の三月の半年間で八千百七十七件、平成二十七年度の累計で一万五千八百九十六件と、こうした数字ということかと思います。

今、金融行政や金融の実務の現場の実情としてその一端をお示しいただいた、その比例原則なり保証人の責任の限度ということについて高須参考人にお尋ねしたいと思うんですが、今日お配りいただいている資料で、日弁連の意見としても、この責任制限を設けるべきであるという課題が強く提起をされているわけですが、これまでの保証債務という考え方からすると、根保証のように極度額までその責任を負うんだというような大変ひどい考え方はあっても、主債務の範囲であるにもかかわらず保証債務の中身を、責任を限度付けるという考え方、これはなかなか難しかったと思うんですね。

日弁連としてのこの比例原則の考え方や、あるいは責任を制限するという法技術といいますか、どんな立法論を提起を私たちは受け止めればよろしいでしょうか。

○参考人(高須順一君) ありがとうございます。

比例原則につきましては、フランスでは既に取り入れられているという御紹介がございます。したがって、やってやれないことはないのだろうと私どもは、私どもというのも変ですが、日弁連としてはそう思って、そういうことを参考にしながら、一定の想定される法案のたたき台のようなものを作らせていただいたような経緯もございます。

その場合に、今委員御指摘のように、どこの限度で線を引くかと、絶対的な金額の問題なのか、それとも保証金額との割合の問題なのか、絶対的な問題だとした場合には、その絶対の割合の金額の線引きはどこでするのでしょうかと、非常に難しい問題をやはり抱えてしまうことになります。ただ、やってやれないことはないと思っておりますので、私どもはそう思っておるんですが、法制審ではなかなかその具体的なところまで皆さんと共通の理解を得ることはできなかったというふうに思います。

強制執行のような場面まで行ってしまったようなときに、どこまで結局執行できない財産みたいなものを認めていいのかというような兼ね合いなどもございまして、幾らまでしか責任を負わなくていいという絶対的基準を作ってしまいますと、なかなか今度はそれ以上のところとの区別が付かなくなるというようなことも指摘されておって、やや、今の委員の御質問に対してなかなか明確な答えを言いづらいんですけど、確かにテクニックとしてはなかなか難しい問題はあるとは思いますが、ただ、繰り返しになりますが、やってやれないことはないと思っておりますので、立法の知恵、フランス法などを参考にしながらやったらよろしいのかしらなどと思っておるところでございます。

○仁比聡平君 私、やってやれないことはもちろんないし、これをやらないと日本の経済、とりわけ地域経済の主役である特に中小企業の経営の安定というのが図れない、だから後継者も後を継いでいくのがなかなか難しいということになっているのではないかと、大きな日本の政治の課題なのだろうと思うんですね。

そこで、ちょっと鳥畑参考人にもう一度なんですが、日弁連の、今日、高須参考人からいただいている資料での表現を私は紹介しますと、保証履行責任が顕在化したときの保証人の責任制限制度を新設することは、保証人の生活保護ないし再建のためのみならず、日本経済の中核を担う中小企業の活性化のためにも必要な改正検討項目であるということで、生活の全てを奪ったりすることはしてはならないということと、それから経済の活性化、中小企業の活性化のためにという観点がこの責任制限をすべきだという観点として提起をされているわけですけれども、金融庁などを始めとした今の金融実務というのもそうしたところも含めて行われているという理解でよろしいんでしょうか。

○参考人(鳥畑与一君) 御質問ありがとうございます。

ちょっと不勉強なため、実際、金融実務の中でどこまで広範にそういうことが行われているかどうかについてはお答えすることはできませんけれども、少なくとも経営者保証ガイドラインというものはそういった形での、要するに経営者保証を負っている経営者の再生可能性を高めるということで保護拡大を図っているわけです。

それから、先ほど、御質問とはちょっと外れるかもしれませんが、絶対的水準が決めにくいから今回見送られたということなんですけれども、それは、それぞれの保証人の経済力、支払能力というのはそれぞれ違うわけですので、その支払能力に応じて何倍かというような形の決め方であれば極めて柔軟なやり方かなと。ということで、今日は中小企業家同友会の提案というものを一つ最後の方で紹介をさせていただいたわけですけれども、これはやっぱり是非、比例原則を導入することによって経営者の生活破綻に追い込まないような仕組みを是非つくるべきだというふうに考えている次第です。

○仁比聡平君 先生に御紹介いただいた中小企業家同友会の提案というのは、繰り返しになりますが、保証債務履行の前二年間を平均した年間可処分所得の二倍に保有資産の価額を加えた額の限度までにするという考え方で柔軟な解決ができるのではないかということだと思うんですね。

山田参考人に、司法書士の実務でも、それから会の活動でも、恐らく地域のそうした中小自営業の皆さんの言わば町中の法律相談家としていろんな相談に乗っておられると思うんですが、今私の申し上げてきた観点で、責任制限あるいは個人保証について何かお考えあれば聞かせていただきたいと思います。

○参考人(山田茂樹君) 御質問ありがとうございます。

経営者保証ガイドライン等もございまして、今、実務的に見ておりまして、いわゆる平時の、通常の我々司法書士の業務で言うところの登記を、例えば抵当権、担保設定とか、この場面について保証人の責任制限の問題等々が顕在化してくるということはまず余りございません。

むしろ、破綻をした場面のところでございますが、まだ過渡的なところだと思うのですが、到底個人の資産的には返済不能なような保証額を負わざるを得ないというケースというのはまだ散見されるところかなというような感覚がございます。現時点での感覚としては以上ということになります。

○仁比聡平君 ちょっとそこに関わって最後、配偶者の問題なんですけれども、今朝、午前中も山野目参考人も含めて、「主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者」というこの規定が改正案に盛り込まれるのはいかがなものかという趣旨が皆さん恐らく共通しておられるんじゃないかと思うんですね、参考人の方々に。百二十年ぶりの改正といいながら、現に従事しているということで配偶者を全て、つまり共同に事業をやっているんだったらまた別として、この配偶者を入れるということはまさに前近代的なのではないかと私は思うんですが、三人の参考人、それぞれ端的にお答えいただけますか。

○参考人(高須順一君) 御指摘いただいたとおりでございまして、私どもも法制審の中で非常に激しい議論をさせていただいたんですが、私どもとしても力及ばすの部分があったのではないかと思っておるところでございます。

以上でございます。

○参考人(鳥畑与一君) 御質問ありがとうございます。

中小企業庁の通達ではそこも例外規定としているわけですけれども、やはり配偶者とはいえ個人として自立をしている、かつ事業に従事しているから配偶者の保証は当然であるというのは、ある意味経営と家計が一体化している中で、家族そのものといいますか、根こそぎ生存基盤を奪うような方向に持っていく、非常に問題のある仕組みじゃないかなというふうに考えております。

○参考人(山田茂樹君) ありがとうございます。

先ほども述べさせていただいたとおりでございまして、私もこちらについては妥当ではないというふうに考えてございます。

○仁比聡平君 ありがとうございました。