○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

今日は、有明海問題について、長崎地裁が四月十七日に開門差止め、つまり国敗訴の判決を出したことを踏まえ、政府の問題解決の責任について大臣にお尋ねしたいと思います。

まず、小川民事局長にお尋ねをしますが、仮に国が控訴をせず確定をしたとすれば、既に福岡高裁で確定している国の開門義務、これは消えるんでしょうか。

○政府参考人(小川秀樹君) あくまで一般論としての制度の説明として申し上げたいと思いますが、民事訴訟におけます確定判決の効力が及ぶものの範囲につきましては、原則としてその当事者や口頭弁論終結後の承継人等に対して及びますため、先行する訴訟と後行する訴訟の当事者が異なれば、一方の訴訟における判決の効力は、当然には他方の訴訟の当事者に及ぶものではございません。

○仁比聡平君 そういうことなんですね。つまり、国がこれまで相反するというふうに言っていた義務、これは全く変わらない、これは確認をいたしました。

この判決になぜ急転至ったのか、それは和解協議が壊されたからです。その焦点が、開門に代わる漁業環境の改善措置として政府が押し付けようとした基金案であり、その基金案を漁業団体に押し付ける手段として農水省が隠れて行ったのが想定問答なんですね。資料を、新聞記事をお配りしていますが、二枚目、三枚目、これ山下議員も取り上げられましたし、私が資料を要求しました。

この新聞、一面トップに、「開門派説得 農水省が指南」とあるとおりです。その中身は、二枚目御覧いただきますと分かりますが、基金案に懐疑的な漁業者の二十の質問に団体幹部が答えるという想定問答として、例えば、組合員の総会に諮るべきだという声に対しては、組合長に一任、あるいは、よみがえれ有明訴訟弁護団の馬奈木昭雄弁護団長を名指しして、目指しているものが同じかどうかは分からないなどと、つまり、開門判決の勝訴漁民、開門を求める漁民を、こともあろうか開門義務を負う国が漁協幹部の口を通じて孤立させよう、分断させようという、不誠実を通り越して卑劣極まるものなんです。

そこで、農村振興局に伺いますが、私の提出要求に対して、三月九日ですけれども、理事会協議が行われました。農地資源課長が説明に来られました。つまり、この想定問答、農地資源課が作ったと、そういうことですか。

○政府参考人(奥田透君) お答え申し上げます。

十七日、開門差止め訴訟におきまして長崎地裁から判決が示されたところでございますが、本件は複数の訴訟が提起されており、争訟中であることには変わりはございません。このような状況におきまして、和解協議の下での交渉に係る内容を申し上げることは、交渉又は争訟に係る事務に関し、国の当事者としての地位を不当に害するおそれがあり、そうした文書が存在しているか否かも含めてお答えすることはできない状況であることを御理解いただきたいと思います。

○仁比聡平君 その答弁をオウムのように繰り返す、さっぱり意味が分からない。今も整備部長おっしゃいましたが、国の地位を不当に害するおそれがあると言うんですけれども、不当に害されるおそれがある国の地位というのは、これは一体何なんですか。

○政府参考人(奥田透君) お答え申し上げます。

訴訟当事者である国といたしまして、和解協議の下での漁業団体の交渉に係る内容を申し上げれば、本件をめぐる問題解決にマイナスを生じさせることがあり得るものと考えてございます。

○仁比聡平君 何が問題解決にマイナスを生じさせるおそれがあるだ。全く逆でしょう。結局、悪事がばれて認めるわけにはいかないから隠し通そうというのがこの想定問答を提出せよというのを拒否する理由ですよね。

我が党衆議院議員へのこの問題でのレクの際に、農地資源課は、写メくらいしか朝日は持っていないのではないかなどと述べています。現物があるから写メがあるわけですよね。朝日の報道が現物を写した写メに基づくものだと、農水省、そういう認識ですね。

○政府参考人(奥田透君) お答え申し上げます。

和解協議の下での漁業団体の交渉に係る内容を申し上げれば、本件をめぐる問題解決にマイナスを生じさせることがあり得るものと考えております。

○仁比聡平君 問題解決を妨げているのはあなた方だと、農水省だと私は申し上げている。どう言い逃れようとも、あるものはあるんですよ。

そこで、訟務局長にお尋ねをいたしますが、私は理事会協議の際に、訟務局は知っていたのかと繰り返し尋ねました。驚くべきことに、法務省幹部、当然座っておりましたけれども、委員長からも促されながら、一言も発言をされませんでした。訟務局あるいは担当訟務検事は農水省が関係漁協と想定問答を作るやり取りをしていることを知っていたんですか。

○政府参考人(定塚誠君) お答え申し上げます。

御質問の点につきましては、これは農林水産省において漁業団体と交渉されていたことに関わる事項であるため、法務当局としては答弁を差し控えたいと思っております。

そもそも、農林水産省と漁業団体のやり取り、これを法務省が明らかにするということは、今後の訴訟当事者としての国あるいは法務省、代理人としての法務省の交渉又は争訟に係る事務に関して、その地位を不当に害して適正な事務の遂行に、法務省として、これを害するおそれがあるというふうに考えております。

○仁比聡平君 知らぬ存ぜぬでごまかせるような話ではないんです。干拓事業開始から二十年、重大な社会的紛争、政治課題なんですよね。その解決の責任の最前線にいるんだという自覚があるのかということですよ。

知っていたとするなら、これは卑劣な被害者潰しの共犯でしょう。事件当事者と代理人弁護士の関係で例えば照らしてみますと、強姦事件の被害者が被害を償えと求めている裁判で、加害者が法廷の外で被害者に圧力を掛けている、それを知りながら、あるいは掛けさせておいて、加害者の代理人弁護士が知らぬ存ぜぬと言い張って裁判を遂行する、そんな類いの話ですよ。

これ、局長、立場は違っても、法曹の倫理、クリーンハンドに反する不当な態度ではありませんか。

○政府参考人(定塚誠君) お答え申し上げます。

一般論としてもそうですが、和解の過程で各省庁がどのようなことをされて、そして訟務局と一緒に和解をしていくのかと、その過程について法務省の方から、あんなことをした、こんなことをしたということが出るということになれば、その原庁である省庁が今後法務省に言うことはやめようということが出てきかねない、そういうことがありますので、国の訴訟事務というものを円滑に適正に進めていくためには、私どもの方から、どういうことが和解の過程で行われているのかと、今後率直にいろいろ我々にも話をしていただいて国の訴訟当事者としての地位を全うしたいと、こういう見地からこれは法務省としてはお答えすることができないと、こういうことでございます。

○仁比聡平君 原局が、大臣、大臣、原局が訟務に正直に物を言わなくなるかもしれないということを懸念しなきゃいけないようなことが国の訴訟の現実かということですよ。

大臣、三月七日の所信表明で、法の支配の実現という見地から、指揮権限をより適切かつ効果的に行使すると述べられました。大臣がおっしゃった指揮権限というのは、これは何ですか。

○国務大臣(金田勝年君) お尋ねの指揮権限とは、国の利害に関係のある訴訟につきましての法務大臣の権限等に関する法律、すなわち法務大臣権限法二条第二項、第六条第一項に基づくものであり、国を当事者等とする民事訴訟及び行政訴訟の遂行に当たり、法務大臣が当該訴訟に係る所管行政庁又はその職員に対して指示、命令等を発する権限であると、このように申し上げます。

○仁比聡平君 大臣、条文だけ紹介してどうするんですか。つまり、あなたが指揮権限を持っているわけでしょう。農水省もその指揮権限に服して裁判に当たっているわけです。その下で卑劣な被害者潰しが行われた、その根本にあるのは何かと。

私、この間も申し上げましたけれども、相反する義務に板挟みになっているということではなくて、干拓ありき、開門は絶対にさせないという本音、農水省の言わば正体がこれは現れているわけですよ。そうした下で、事業開始から二十年たちました。けれども、干拓地はやっていけなくて、リース料が払えなくて、九件の事業者が撤退するなど費用対効果は〇・八一、そういう事態ですよ。

訟務局長に一点聞きたいと思うんですが、そのようにして政府は開門に背を向け続けて、一方で平成十七年から二十六年度までの間に四百三十三億円の事業費を費やして、これ資料の後ろ三枚目にちょっと参考を出していますが、有明海漁業の再生事業を行ってきたわけです。ところが、政府が環境改善のメルクマールだとする二枚貝の回復も全くなされていないどころか、逆に深刻な状態になっている。それは水産庁も認めるところなんですね。

訟務局あるいは訟務担当検事は、これまでの再生事業の費用対効果、これ裁判でずっと、さんざっぱら問題になり続けてきたわけです。どうすれば農漁共存で有明海をよみがえらせることができるのかというのが、これが最大の問題なんですよ。どんな認識で裁判や和解やっているんですか。

○政府参考人(定塚誠君) お答え申し上げます。

裁判におきましては、訴訟物、訴訟の対象となるものに向けて最も良い主張、立証を行っていくということが我々の任務だというふうに思っております。ただ、委員御指摘のとおり、和解につきましては、それは原庁とよく相談しながら、最もいい、最も適切な解決ができるようにということで行っているところでございます。

○仁比聡平君 時間がなくなりましたから、大臣、最後、認識を問うことができないのが残念ですけれども、今申し上げた有明海漁業の再生事業について、昨年十一月、沿岸四県漁協の、長崎も含めてですよ、が、農水大臣と、そして自民党のプロジェクトチームに要請をしています。そこでは、この間、漁業者が実感できるような効果は確認できませんでしたと述べている。基金案が幻となるかもしれない懸念の下で、国がこれまでの再生事業と基金案を絡ませながら協議を進める姿勢に大きな不安を持たざるを得ません。基金案の動向と関係なく、従来予算の拡充に努めることというのが漁業団体の強い要求なんですね。

控訴せずに開門差止めの判決を確定させるなど、私は到底あり得ない。わざと負けるなんというのは正義に反すると思います。この農漁共存、その事業をしっかり進める。営農者は、私が生まれる前の昭和干拓の時代から国策で入植されて以来、水の確保、排水不良に苦労をし続けてこられました。それを解決する道というのはあるんですよ。そこをしっかりと指揮するということ自身が大臣の、そして安倍内閣の大変重大な責任だということを強く申し上げて、今日は質問終わります。