○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

 私も、今回の法改正は悪質な運転の処罰範囲を拡大し法定刑を引き上げるもので、こうした危険運転の根絶に向けた方策の一つになり得るものと考えております。
 しかし、構成要件が曖昧になってはならないということはこれまでも御議論になっているとおりで、今日初めての質問ですので、幾つかただしていきたいと思います。
 まず、危険運転致死傷罪、二条における「正常な運転が困難な状態で」というこの構成要件が、例えば海の中道で発生をしました事件についても最高裁判所まで争われるというようなことがございました。元々、困難な状態というその状態という構成要件は、本罪とそして新設されようとしている三条、ここにしか刑法典上はないのではないかと思われるわけですけれども、この定義をどう解するのかと、そのことと、今回新たに盛り込まれた三条一項の「その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とはどんな場合を指すのか、ここをまず局長に明らかにしていただきたいと思います。

○政府参考人(稲田伸夫君) まず、お尋ねの正常な運転が困難な状態とは、道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいい、アルコールの影響による場合、酒酔いの影響により前方の注視が困難であったり、ハンドル、ブレーキなどの操作の時期や加減についてこれを意図したとおりに行うことが困難であるなど、現実にこのような運転操作を行うことが困難な心身の状態であることをいうと考えます。また、病気の影響による場合は、例えば発作により意識喪失に陥っている状態などがこれに当たるものと考えております。
 他方、新設いたします三条にございます正常な運転に支障が生じるおそれがある状態とは、自動車を運転するのに必要な注意力、判断能力、操作能力がそうではないときの状態と比べて相当程度減退して危険性のある状態にあることをいい、アルコールの影響による場合を例に取りますと、酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコール、呼気一リットル当たり〇・一五ミリグラムでございますが、これを身体に保有している状態にあれば通常はこれに当たるものと考えられます。また、病気の影響による場合について申し上げますと、例えば発作によって意識喪失に陥る場合を例に取ると、現に正常な運転に支障を生じている状態に限らず、将来の走行中のある時点において発作による意識喪失に陥る具体的なおそれがある場合もこれに該当すると考えております。
 以上です。

○仁比聡平君 そのような構成要件であるということを踏まえて、そうすると、これまでも議論があったところですけれども、現実にそうした困難な状態、あるいは新設の三条の本罪で言いますと、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であるか否かという客観的な事実認定と、それを認識していたかという故意の主観面の問題というのは、これは当たり前のようですけれども、個々の事案ごとにおいて証拠に基づいて判断されると、そういうことになるわけでしょうか。

○政府参考人(稲田伸夫君) 誠に御指摘のとおりでございまして、客観的に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であること、あるいは正常な運転が困難な状態にあることの立証が必要でございますし、それと併せまして、それぞれの構成要件に定められたところによりまして、それぞれの状態であることの認識が必要であるというふうに考えております。

○仁比聡平君 そういう中で、この三条、アルコール、薬物の影響の場合にちょっと絞った方が分かりやすいと思いますので、三条一項の新設によってどのような行為が処罰対象となるとお考えになるのでしょうか。

○政府参考人(稲田伸夫君) 先ほども申し上げましたように、従来、アルコールの影響による類型の危険運転致死傷罪につきましては、正常な運転が困難な状態で運転をし、よって死傷の結果を発生したということが必要でございますので、酒に酔って正常な運転が困難な状態であり、その認識があるということが当然前提で危険運転致死傷罪が適用されたわけでございます。
 今回の三条一項はそれより法定刑が軽いわけでございますが、その際には、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転をしたという客観的状態と、さらに、その結果正常な運転が困難な状態になって事故を起こしたという客観面と、本人の主観としての正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であったということについての認識がそれぞれ立証される必要があるわけでございます。
 もとより、個々の事件における立証につきましては当該事件における証拠関係によって定まってくるものでございまして、その際のどの程度の証拠があるかということによることになろうかと思いますが、一般にアルコールの影響による場合に、酒気帯び運転罪に該当するアルコールを身体に保有している状態であり、そのことについての認識を持って運転をしている場合には、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態に該当し、かつその認識が通常あるものというふうに考えられるのではないかと思います。

○仁比聡平君 そうしますと、検察が二条に該当するという主張で起訴をした事案について、証拠関係上、三条の罪というものが縮小認定されると、そういった場合もある、そういう関係になるということでしょうか。

○政府参考人(稲田伸夫君) 事実関係及び証拠関係によりますけれども、公訴事実が二条の正常な運転が困難な状態のものとして起訴した場合であっても、その証拠によりましては三条の認定がなされ得ることもあり得ると考えております。

○仁比聡平君 そうした構造の構成要件について、先ほどアルコールの、道交法上で言えば血中、呼気中の濃度、酒気帯び程度のものがあれば、三条一項に言う支障が生じるおそれがある状態に一般的には当たるであろうというお話があったんですが、個々の事案ごとであるということであると、アルコールに弱い体質の方は、その程度に至らなくても、つまり道交法上の酒気帯び運転罪には該当しない程度のアルコール量であったとしても、三条一項の適用というのはあり得るわけでしょうか。

○政府参考人(稲田伸夫君) 先ほど申し上げましたアルコールの影響による場合に、いわゆる酒気帯び運転罪のアルコールの量を身体に保有している状態である場合が、通常一般にこれが該当するだろうと考えているところでございますが、ただ、この罪はあくまでも酒気帯び運転罪のように客観的に一定程度のアルコールを身体に保有しながら自動車を運転する行為を処罰するものではなく、あくまでも運転の危険性、悪質性に着目した罪でございますから、特にアルコール等の影響を受けやすい者につきまして、酒気帯び運転罪に該当しない程度のアルコール量であったとしても、自動車を運転するのに必要な注意力などが相当程度減退している状態にあると認められる場合には、正常な運転に支障が生じるおそれのある場合に該当することもあり得るものと考えます。
 ただ、その場合につきましても、もとより運転者についてはその点についての主観的認識が必要であるというふうに考えているところでございます。

○仁比聡平君 一般には酩酊に至るような量ではないアルコールを飲酒して運転したという場合がこの三条一項に当たるのかという、この認定が問題になるときに、どんな主観的認識が必要だと、故意がですね、ということになるのでしょうか。

○政府参考人(稲田伸夫君) これは、結局のところは、本人がまずアルコールを摂取しているということは当然認識している必要がございますし、どの程度のアルコールを摂取したのかということもございますし、摂取した時間あるいはそのときの体調等々、様々な要因によって主観的な要素というのは変わり得るところであろうと思いますが、やはり基本的には、どの程度のアルコールを自らが摂取したと認識をしていたのかというのが基本的な要素になろうかと思います。

○仁比聡平君 よく議事録読んで考えたいと思うんですけれども。
 その同じ条項の薬物の影響についても先ほど御議論がありました。風邪薬だとか睡眠薬なども含めて、一般に処方薬であれば千六百以上、市販薬でも千五百以上の品目が服用しての運転を禁じているという、そういう注意書きがあるそうですけれども、こういう注意書きを読んだ上で、だからこの薬を飲むと眠くなるなということを一般的には知った上で運転し、残念な事故を起こした場合にこの対象となるのか、本罪の対象となるのかということについてなんですが、この点について、先ほど一般的な服用では困難な状態に陥るものでは定型的にはないからというお話がありました。
 これは、だけれども、服用する運転者のそれぞれの状況というか、いわゆる個々の状況に懸かってくるのではないかと思うんです。この点はどんなふうに考えるんですか。

○政府参考人(稲田伸夫君) これは、平成十三年の立案の際にも、困難な状態に通常の薬物で陥ることはない、通常の薬品で陥ることはないのかというお尋ねがありました際に、政府側から御答弁申し上げているように、通常考えられないというふうに御答弁を申し上げているところでございます。
 そういう意味で、現在もその点については考え方は変わっておりませんので、通常、いわゆる風邪薬と言われるようなもので正常な運転が困難な状態にまで至るものではないのではないかと考えております。

○仁比聡平君 つまり、眠くなるかもしれないなということで、そういう意味では支障が生ずるおそれはあるかもしれないなと思って服用していても、その結果困難な状態に陥ることはない、だから、そこに結び付くことはないから、定型的にないから、この三条一項の適用はないと、そういう考え方ですか。

○政府参考人(稲田伸夫君) まず、今申し上げましたところは委員御指摘のとおりでございまして、定型的に通常の市販薬で正常な運転が困難な状態に陥ることはないと考えているというところでございます。
 またさらに、三条一項の薬物の影響による類型におきましては、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態についての故意が当然必要でございます。これにつきまして、市販薬でありましても、それを摂取し、その影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態ということを認識しつつ運転する必要があるわけでございますが、仮にその添付文書、風邪薬等に入っている添付文書を読んだことをとらえましても、それは確かに故意を認定することに当たっての一つの間接事実とはなり得ますけれども、そのことのみをもって薬物の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態にあることの認識を有していたことにはならないというふうにも考えております。
 したがいまして、認識の点におきましても、通常、市販されている風邪薬のその眠気を催すことがありますということを読んで運転したからといって、支障が生じるおそれがある状態の認識があったとまでは言い難い場合が多いだろうと考えております。

○仁比聡平君 次に、三条の二項なんですが、今日も様々御議論があっているところなんですけれども、この新設されようとしている刑罰法規に「おそれがある病気」という文言があると。このことは、これまでの御説明がありながらも、「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの」というこの表現、表現というか構成要件が、だったら何の病気という病名に結び付くそうした懸念を関係の皆さんに広げて、ですから、病気や障害がある方の排除につながる法律を作ってはならないという指摘がなされているのは、これは私は受け止めなければならないことだと思っているんです。
 そこで、今日もお話ありましたが、本条の政令について、道交法にのっとって定めていくというふうに言われていますけれども、その方向についての道交法にかかわる提言が平成二十四年の十月二十五日に一定の病気等に係る運転免許制度の在り方に関する有識者検討会というところでなされておりまして、ここでは、運転に支障を及ぼす症状についての整備が必要であると、あるいは、病気を理由とした差別を助長するおそれが生じないようにするため、現行の様式と同様、特定の病名を記載せずに幾つかの症状を定めた申告書式に記載する方式を取ることが適当であると、そうした考え方が示されているんですが。
 時間がないので、大臣、大臣が繰り返し症状に着目してというふうに御答弁されているのはこれと全く同じだと考えてよろしいでしょうか。

○国務大臣(谷垣禎一君) 今の御議論、私精細に検討したことはないんですが、私どもが考えておりますことは、従来、道路交通法等で定型的にやはり危険性のあるものとして一定の病気を挙げていたけれども、それは必ずしも病気、その特定の病名に着目したわけではなくて、それと同時に、その一定の定型的に危険のあるような症状を含んだものとして考えているということでございます。
 それで、その考え方は今回の政令でも十分貫いていかなければいけないということだろうと思います。もちろん、そういうふうに申しましても、いろいろな誤解やら考え方があるだろうと思います。十分私どもの考えのよって立つところを広報する、あるいは啓発する、これ十分にしなければならないと、このように考えております。

○仁比聡平君 大臣、またそこにかかわる御答弁の中で、政令を作ることによって、個別具体的な事案においても、医師の診断や病状によって適切な対応が可能であると考えておりますと衆議院で御答弁されていることがあるんですけれども、これはつまり、三条二項で重く処罰されるかどうか、病気として政令で定めるものの影響によりというふうに認められるかどうかについては、これは主治医を始めとした医師の診断が重要な判断要素になると、そういうことなんでしょうか。

○国務大臣(谷垣禎一君) 今委員のおっしゃるとおりだろうと思います。実際の例えば裁判等に当たりましては、あるいは捜査についてもそうだと思いますが、きちっとした医学の所見を踏まえながらやっていくということが必要ではないかと思います。

○仁比聡平君 もう一つ、ちょっと重ねてのようなお話になりますけれども、先ほど小川理事の御質問に対して局長から、この支障が生ずるおそれがある状態というふうな認識に運転者が立つには、自ら病識があり、発作によって意識障害に陥るおそれがある状態であって、そのことを認識しているという、そういうことが必要であるという御答弁があったかと思うんです。
 それはつまり、医師の診断、主治医の診断や処方どおりに薬を服用しているというような場合、ですから、ちゃんとお医者さんの言うとおりに治療に臨んで、薬も飲んで、お医者さんはそれだったら大丈夫だよということで車に乗った、だけれども、残念ながら意識障害などが起こってしまって事故に至ってしまったというような場合は、この三条一項には適用されないという理解でよろしいですか。

○委員長(荒木清寛君) 稲田刑事局長、簡潔にお願いします。

○政府参考人(稲田伸夫君) 個別の事件における証拠関係によろうかと思いますけれども、今御指摘の場合は、御本人、その方について自分が運転に支障を生じるおそれがある状態で運転をしているという認識に欠ける場合が多いのではないかというふうに思いますので、その点で成立しないということになろうかというふうに思います。

○仁比聡平君 時間が参りましたので、終わります。