○仁比聡平君 私は、日本共産党を代表して、憲法の基本原理を踏みにじる希代の悪法、特定秘密保護法案の乱暴極まる衆議院採決を強行した安倍内閣及び衆議院与党の暴挙に、満身の怒りをもって抗議し、安倍総理に質問いたします。

 およそ国の行政機関が保有する情報は、主権者国民のものであります。その国民世論を見るなら、総理、何が何でも今国会で成立させるなど、もってのほかではありませんか。

 先週、本法案の廃案を求め日比谷公園を出発したデモは、一万人を超え、夜十時過ぎまで国会を包囲しました。日本弁護士連合会、日本ペンクラブ、テレビのキャスター、出版人、演劇人、憲法・メディア法・刑事法・歴史学者など、これまでにない広範な人々が反対の声を上げ、日本新聞協会や日本雑誌協会、日本民間放送連盟も強い危惧を表明しています。どの世論調査でも、反対の声は急速に広がって半数を超え、今国会で成立させるべきではないという声は八割に上っています。

 あなたは、さきの参議院選挙でも一切この法案に触れることはありませんでした。にもかかわらず、何を目的にここまでして強行しようというのですか。

 国連人権高等弁務官事務所の表現の自由担当特別報告者は、国際人権条約に照らし、本法案は、秘密に関し大変広範かつ曖昧な領域を規定するのみならず、深刻な脅威を含んでいると、法案段階で異例の懸念を表明しました。国際ペンも反対し、日本外国特派員協会は法案の全面撤回を勧告しています。総理、あなたはこの国際社会の批判にどうこたえるのですか、明確に答弁いただきたい。

 本法案に、立場を超えてやむにやまれぬ反対の声が噴き上がっているのは、法案の骨格そのものに、国民主権、言論、表現の自由を始めとした基本的人権の保障、平和主義という、侵してはならない憲法原理とおよそ両立し得ない重大な危険性があるからであります。

 第一に、特定秘密は、我が国の安全保障にとって著しく支障を与えるおそれがあるなど、広範かつ曖昧な要件で政府が指定し、何が秘密かも秘密とされることです。

 森担当大臣は、原発の情報は秘密とならないと繰り返す一方、原発の警備の実施状況は特定秘密足り得ると答弁しました。ところが、テロ防止の警備態勢と一体のはずの原発の脆弱箇所や侵入可能経路など、テロリストが知れば資する情報は特定秘密になるのかについての答弁は支離滅裂です。総理、一体どうなるのですか。

 総理は、同盟国との情報共有を言いますが、米国の国際法に違反する通信傍受によって得られた情報など、違法に収集された情報も特定秘密にするのですか。森大臣は、違法に収集された情報の秘密指定は無効などと答弁していますが、そこにいう無効な秘密指定が誰によってどのように正されるというのですか。正されないなら何の歯止めにもなりません。個別の秘密指定については何のチェックも働かず、国民に指定解除の権利も認めないのはなぜですか。

 これまでも政府は、軍事、外交、原発、TPPを始め、国民が強く求める情報を秘匿、隠蔽し墨塗りにしてきました。その上、法案によるなら、政府当局の恣意的判断で秘密は際限なく広がることになります。しかも、秘密指定は政府の判断で更新でき、解除しても廃棄でき、修正合意では指定期限が六十年と延長されるなど、事実上いつまでも秘密となるのではありませんか。

 国民の知る権利を奪い、政府が情報を独占して権力の集中を図る、我が国をそんな国に断じてしてはなりません。

 第二に、本法案が懲役十年以下の重罰と威嚇の対象とするのは、限られた公務員の殊更な漏えい行為だけでなく、広く国民の普通の日常とその自由だということです。

 一般の国民も、特定秘密を保有する者の管理を害する行為により特定秘密を取得したとされれば、たとえ秘密が漏えいされなくても、未遂、共謀、教唆、扇動も広く処罰されます。この点で、森大臣が、一般の国民が特定秘密と知らずに情報に接したり、その内容を知ろうとしたとしても一切処罰の対象となりませんとした答弁は、密室の取調べで自白を強要してきた刑事司法の現実にあえて目を背けさせるとんでもない詭弁であります。

 総理、法案が規定する罰則違反の容疑があり、その事件で必要であれば逮捕、勾留しての取調べ、捜索、差押え、起訴されて被告人として刑事裁判にさらされることはあり得ますね。報道機関や取材の自由に配慮がなされたとしても、個別の事件捜査に必要であるなら強制捜査はあり得ますね。

 しかも、逮捕、勾留や捜索、差押えの令状にも起訴状にも判決にも、一体どんな情報に近づいたことが罪とされるのかさえ明らかにされないのではありませんか。これは憲法が保障する国民の裁判を受ける権利、弁護を受ける権利を踏みにじり、裁判の公開原則を侵すものにほかなりません。そんな暗黒社会を断じて許すわけにはいきません。

 総理、何が秘密かも分からないまま被疑者扱いされ、適切な弁護も受けられずに、最終的には刑事裁判で無罪とならなければ処罰の対象となるかどうか分からない、そんな重罰法規を作るなら、それだけで民主主義社会の基礎である知る権利、言論、表現の自由は萎縮させられ、取り返しの付かない傷を負うことになるのではありませんか。

 第三に、政府が秘密を取り扱う者に行う適性評価の名の下に、家族、父母、子、兄弟姉妹、配偶者の父母、子、同居人の氏名、生年月日、国籍、住所に始まって、犯罪、懲戒の経歴、薬物の影響、精神疾患、果ては飲酒の節度や借金など信用状態まで、広く国民のプライバシーを根こそぎ調べ上げる国民監視の仕組みがつくられることです。その対象も、公務員のみならず、国から事業を受注して特定秘密の提供を受けた民間企業やその下請企業で働く労働者、派遣労働者も含まれるのです。

 その調査と評価について、森大臣は、各大臣が当該行政機関の職員に行わせると言いますが、具体的にどのような体制で調査し、収集した情報はどのように扱うのですか。法案に言う必要事項の照会や関係行政機関の協力の名の下に、公安警察や、既に自衛隊に置かれその活動が地方裁判所で違法とされた情報保全隊などによって行われることになるのではありませんか、明確にお答えください。

 重大な人権侵害法案と処罰規定がかくも曖昧かつ広範で、質疑を行えば行うほど適用範囲が逆に曖昧になっていくところに法案の危険な本質が現れています。

 総理、法案準備過程の審議内容を明らかにすべきではありませんか。それさえ墨塗りにした上、担当大臣の答弁が二転三転と迷走しています。これでは、法案を現実に運用する行政機関、そして捜査機関の恣意的濫用を野放しにすることになるのではありませんか。それとも、あえてそれを狙っているのですか。法案準備過程にも関与せず、法案所管部局への指揮命令権限さえ持たない大臣を担当大臣に任じた総理の責任は重大です。どう考えているのですか。

 なぜ安倍政権は、何が何でも今国会で成立をと暴走するのか。安全保障のためなら秘密にして当たり前だというなら、大本営発表で国民を欺いたあの戦争の誤りを再び繰り返す道です。あなたがまずやるべきは、大量破壊兵器があると米国の誤った情報をうのみにして強行したイラク戦争への自衛隊派兵を徹底して検証し、猛省することではありませんか。米軍とともに海外で戦争をする国に変える、そのために国民の目と耳そして口をふさぐ秘密保全体制をつくろうというのが本法案強行の狙いであります。

 同僚議員の皆さんに警鐘を鳴らしたい。この法案は国会議員をも処罰の対象としています。たとえ政治的立場は違っても、国民を代表し、巨大な行政権力、官僚機構に断固として迫ってこそ国会議員ではありませんか。憲法と相入れない法案の危険は、衆議院における修正によっていささかも減じられていません。これを国民に押し付ける資格など、政府にも、国会にもありません。まして、会期末まであと一週間しかない今国会で強行しようなど、国権の最高機関たる国会の自殺行為は絶対にあり得ない、参議院がそうした道をたどってはならない、断固廃案にするほかないことを厳しく指摘して、質問を終わります。(拍手)

   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 仁比聡平議員にお答えをいたします。

 本法案成立の必要性、目的についてのお尋ねがありました。

 本法案は、我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものの漏えいの防止を図り、我が国及び国民の安全の確保に資することを目的としています。

 情報漏えいに関する脅威が高まっている状況や、外国との情報共有は情報が各国において保全されることを前提に行われていることに鑑み、また、政府部内で情報共有が促進されるためにも、秘密保全に関する法制を整備することは喫緊の課題であります。政府としては、早期に本法案が成立するよう引き続き努力してまいります。

 本法案に対する国際社会の批判についてお尋ねがありました。

 特定秘密は、法律の別表に限定列挙された事項に関する情報について、外部の有識者の意見を反映させた基準に基づいて大臣等の行政機関の長が指定することとしており、特定秘密の恣意的な指定が行われることがないよう重層的な仕組みを設けております。したがって、特別報告者の懸念は当たらず、その旨、先方にも速やかに回答いたします。

 さらに、政府として、本法案の必要性や、本法案に定める規制が必要最小限のものであること等について説明を尽くし、広く理解が得られるよう努めてまいります。

 特定秘密の内容についてお尋ねがありました。

 特定秘密は、本法案の別表に限定列挙された事項に該当するものに限って指定するものであり、御指摘の、テロリストが知れば資する情報が全て特定秘密に該当するわけではなく、支離滅裂との御指摘は当たりません。

 なお、警察が行うテロ対策の情報については、特定秘密に当たり得ることを申し添えます。

 違法に収集された情報についてお尋ねがありました。

 違法に収集された情報は特定秘密の対象とはなりませんが、外国から提供を受けた情報についても同様です。

 なお、特定秘密は、行政機関の長が責任を持って指定するものであり、本法案では、内閣総理大臣の行政機関の長に対する指揮監督権限を明示し、内閣として適正な指定等の確保を図ることとしております。無効な指定がなされることは想定しておりませんが、万一、無効な指定であることが明らかとなった場合には、行政機関の長が指定を解除するなど適切な措置を講ずるものと考えます。
 国民による指定解除についてお尋ねがありました。

 個別具体的な特定秘密の指定や解除は、専門的、技術的判断を要することから、原則として、行政機関が、有識者の意見を反映させた基準を踏まえ、これを行うことが適当であると考えます。

 恣意的な秘密の指定や延長に関する懸念についてお尋ねがありました。

 本法案では、特定秘密の恣意的な指定や延長が行われることがないよう重層的な仕組みを設けております。

 また、修正協議を経て、特定秘密の有効期間は原則三十年を上限とし、その延長について内閣の承認を得たとしても、暗号や人的情報源に関する情報等、例外中の例外を除き、通じて六十年を超えることができないことといたしました。これにより、原則として、一定期間経過後は全ての情報が公開されます。

 特定秘密に関する罪における強制捜査や刑事訴追の可能性についてお尋ねがありました。

 これらは捜査機関において個別具体的な事案に即して判断すべき事柄であり、一概にお答えすることは困難ですが、一般論として申し上げれば、捜査機関は、厳格な刑事訴訟法の規定に従って、裁判官の発する令状により逮捕、勾留の上での取調べや捜索、差押えを実施するものと承知しており、また、検察官は法と証拠に基づいて公訴を提起するものと承知しております。

 いずれにしても、特定秘密に関する罪の捜査等が行われる場合には、本法案二十二条の趣旨等を踏まえ、報道又は取材の自由に十分な配慮がなされるものと認識しております。

 特定秘密に関する令状等の記載内容についてお尋ねがありました。

 御指摘の令状等においては、特定秘密の内容全てを明示しなくとも、例えば暗号に関する特定秘密というように、その内容を明らかにすることが考えられ、どのような罪で捜査や訴追の対象となっているのか明らかにされるものと考えます。

 本法案の罰則による影響についてお尋ねがありました。

 本法案第二十二条には、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分配慮しなければならないとの規定を置いており、本法案の解釈適用に当たる当事者全てが、国民の基本的人権への不当な侵害がないかどうか、報道の自由等に十分に配慮がされているかどうかを判断し、留意することとなります。

 なお、特定秘密を漏らした公務員等にとっては、自らが取り扱う特定秘密が何であるか十分分かっており、また、違法に特定秘密を取得した罪に問われる場合は、取得者は自らが取得したものが特定秘密であることを認識していなければならず、知る権利、言論、表現の自由が萎縮するとの指摘は当たりません。

 適性評価の体制、情報の取扱い、照会等の調査手法についてのお尋ねがありました。
 適性評価の実施については、各行政機関においてこれを担当する部署を定めて行うこととしており、適性評価により収集した情報は、適性評価を実施する部署で管理責任者を定め、適切に保管し、保存期間経過後、確実に廃棄することを検討しております。また、公私の団体等への照会については、適性評価を実施する行政機関の長が必要な範囲内でこれを実施します。

 法案策定過程における審議内容の情報開示についてのお尋ねがありました。

 情報公開法に基づき、適切に対応してまいります。

 担当大臣についてお尋ねがありました。

 本法案は、秘密の範囲や罰則を含め様々な論点があり、また国民の知る権利や取材の自由等を十分に尊重する必要があるところ、弁護士でもある森大臣が適任であると判断して担当大臣をお願いをしております。森大臣はこれまで、そのリーダーシップの下、修正案を含め本法案を取りまとめるとともに、国会審議等でも本法案に理解を得るべく説明を尽くされており、引き続き尽力いただきたいと考えております。

 イラク戦争の検証についてお尋ねがありました。

 二〇〇三年のイラク戦争に関する我が国の対応については、前政権下で外務省が検証を行い、昨年十二月にその結果を発表しました。我が国が武力行使を支持するに至った当時、査察への協力を通じて大量破壊兵器の廃棄を自ら証明する立場にあったイラクが、査察受入れを求める安保理決議に違反し続け、大量破壊兵器が存在しないことを自ら証明しなかったことが問題の核心であったと考えます。

 他方、事後的に言えば、イラクの大量破壊兵器が確認できなかったことの事実については厳粛に受け止める必要があると考えております。

 このような認識も踏まえながら、引き続き、情報収集・分析能力の強化にしっかりと取り組んでいきたいと考えております。
 以上であります。(拍手)