しんぶん赤旗2008年6月14日

行政が地域防災教育を

参院災害特で参考人

仁比議員質問


参院災害対策特別委員会は6月11日、四川大地震やミャンマーサイクロン被害など大規模災害の教訓と対策について研究者の参考人質疑を行いました。日本共産党の仁比聡平議員は、被害想定の科学的知見やハザードマップのあり方、防災教育の重要性について質問しました。

京都大学防災研究所巨大災害研究センター長の河田恵昭教授は、「いくら詳しい情報をそのまま住民に流してもだめ。危機感が伝わるように身近な言葉に直すなどの工夫や、情報をもとにした地域での声かけが必要」と述べました。

東京大学地震研究所の島崎邦彦教授は、「大地震の震源となり得る活断層は坂や段差として身近にあるが見過ごされがち。認識を高める防災教育に生かすべきだ」と提案。関西学院大学の室崎益輝教授は、「学校教育で巨大災害を学ぶのと併せ、地域の防災教育に行政が責任をもつべきだ。そこに研究者が積極的に参加する方向が学会でも機運となっている」と指摘しました。

 

第169回国会 参議院災害対策特別委員会 第4号
2008年6月11日 仁比聡平参議院議員
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
今日は、三人の参考人の先生方、本当にありがとうございました。あわせて、災害対策の各分野において大変重要な役割を果たしておられることに心から敬意を申し上げたいと思います。
まず、河田参考人からお尋ねしたいんですけれども、避難勧告が出ても、約一〇%くらいしか避難を実際にされないという現実の中で、どれだけ避難をしていただくのかということがかぎであるというお話がございました。そこに関連して、この尾鷲市の動くハザードマップや津波のシミュレーションというのは私も認識を深くしたところなんですけれども、こういった被害想定の可視化といいますか、あるいは室崎先生からもお話のございました防災教育というような点について河田参考人がどのようにお考えかということが一点。
もう一点、先生から御指摘があってございます温暖化による海面上昇というこの世界的な科学的な指摘が、この例えばハザードマップ作りあるいは地域防災計画作りなどにどのように今反映しているのか、あるいはしていないのか。その二点について先生の御意見をお伺いしたいと思います。
○参考人(河田惠昭君) いわゆる科学技術が進歩いたしましたので、こういう水害が起こったときとか高潮が来たときにどれぐらいの外力になるかというのは、非常に精度が良くなっております。ですけれども、そういうものに基づいて避難勧告とか避難指示を出してもなかなかそれに従っていただかないというのは、これは情報というものについての誤解があると思うんですね。
というのは、精度が高くて早く出せば人間は逃げる、こういう簡単なものではなくて、避難率の高いところを見てみますと、必ずハイテクとローテクの組合せがうまくいっているんですね。すなわち、自主防災組織の組長さんが走り回って高齢者の住宅なんかに直接行って一緒に逃げるとか、あるいは福祉・児童委員が一緒に逃げてくれるとか、あるいは近所の人が避難するとか、そういう行動を見るとこういう情報が生きてくる。
それからもう一つは、やはり避難勧告を出す場合にもっと具体的なイメージがわくような出し方をしなければいけない。あと例えば五十センチでもう堤防を水が超える、こういうふうな出し方ならいいんですけれども、警戒水位を突破したから避難しろというのはこれは非常にもう無理な話ですので、やはり自分の身近なところでイメージできるような情報に加工しなければいけない、この点がやはり自治体にまだまだ不足しているところがあると思います。
それから、今地球温暖化によるいろいろな影響ですけれども、実は国土交通省を中心にその作業をやっている最中でございます。例えば、大阪は、室戸台風のコースに伊勢湾台風を走らせて、三メートルの高さの高潮が今計画されておりますけれども、地球の温暖化によってこの台風のコースも変わる、海面上昇も起こるというふうにやりますと、試算的には更に一メートル上昇するということが分かっております。ですけれども、日本の施設というのはすべて地震の外力を受けますので、単純にかさ上げするだけでは無理でありますから、つまり基礎のレベルから耐震補強をやらなければいけないという非常に大規模な公共事業になりますので、そういったものも踏まえてどういうふうな対策をつくればいいかということを今内閣府あるいは国土交通省あるいは農林水産省、いろんな省庁が協力して協議している最中でございます。
○仁比聡平君 今、政府の取組について、特に海岸四省庁を中心にした取組について御紹介もいただいたんですけれども、自治体のハザードマップとか防災計画などとの関係で今その温暖化問題というのがどのように取り組まれているかという点についてはいかがでしょう。
○参考人(河田惠昭君) 具体的に東京湾の高潮の問題についてですが、この委員会には東京都、横浜市、横須賀市、それから千葉県、こういった自治体の委員も入っておりまして、その委員会の、どういいますか、決定を受けて自治体で具体的にどうするかということがつながるような委員会の運営をしております。ですから、今政府の委員会にも自治体の代表も入って、具体的に対策をやっていただくのはやはり都道府県レベルでやっていただかなければいけませんので、そこのところはその差がないような仕組みが普通は通常行われていると解釈していただいていいと思いますが。
○仁比聡平君 ありがとうございました。
島崎参考人にお尋ねをしたいんですが、問題意識は共通するんですけれども、震災の危険度に気付かないという国民的な意識というものがある中で、その意識化をどうすればよいのかという点に関して、特に活断層の問題についてお尋ねしたいと思うんです。
私、出身は福岡で、西方沖地震を体験しているわけですけれども、先生が今日御指摘にあったように、警固断層の引き続く危険性というものについて常に市民あるいは県民が意識しているかというと、決してそうではないだろうという現実は私も感じます。あわせて、活断層の危険性がそういう形で、つまり西方沖地震という形で具体化したのだけれども、そのほかの活断層についての意識が深まっているかというと、必ずしもそうではないようにも思うんですね。
そういった中で、政府や自治体での取組について何か先生から御提案がありましたらお伺いをしたいと思うんですけれども。
○参考人(島崎邦彦君) 御指摘のとおり、警固断層は地震の後非常に有名になりましたけれども、もう何年かたつと忘れられてしまうという、確かにそのとおりかと思います。
二つあるんですけれども、活断層の場合は、地震というのは、揺れて、その後何も見えなくなる、被害は残りますが、なくなってしまうんですが、活断層というのはそこにあるんですね、ものが。その場所に行くとこれが活断層だと触ることができる。実際に警固断層の現地へ行きますと、先ほど見ていただいたように、場所によっては段差が付いていて、これだというものが見えるわけですね。それは防災教育には非常に役に立つ。ですから、地域の人がそこを通ると、ああここに活断層があるんだなと、そこで坂を越えなくちゃいけないんだとか、そういう意識が本当はあるべき、地域教育の中でどこに活断層が存在するかということを皆が学んで知っておくべきだと思うんです。ところが実際は、見過ごされている単なる段差であって、たまたまここに段があるんだねと思っているだけのことが多いわけですから、一つは、地域の防災教育でせっかくあるそういった地形を生かして、ここに将来地震の震源となるものがあるんだということで教育していただくということが一つあるかと思います。
それからもう一つは、国としては活断層の調査を十年掛けてやりましたけれども、先ほど御指摘したように、主要活断層帯の三〇%では未調査であったりデータが不足したりして十分な評価が行われていない状況であります。それ以外にも、短い活断層でも実際には被害が起こる、あるいは長大な活断層の一部が活動してこの間の中越地震のような被害が起こる。様々な例が知られておりますので、是非継続して活断層の調査をしっかりやるという、そういう体制をつくっていただきたいと思います。
以上です。
○仁比聡平君 ありがとうございました。
室崎参考人にお尋ねをしたい中心は、基幹的対策としての防災教育の強化という点について特にお話がございましたけれども、学校教育あるいは地域教育、かつての公民館運動などと照らしても、今なかなか、不十分ではないかというような御趣旨でもあったかと思うんですが、ここをどうしていくのかという点についての具体的な御提案や、あるいは御存じの先進的な例、あるいは失敗例などもありましたら、少しお話しいただければと思うんですけれども。
○参考人(室崎益輝君) まず大きく、防災教育というのはどういう形で進めたらいいのかというフレームの問題についてちょっとまずお話ししてから、少しその地域教育の話をさせていただきたいと思うんですけれども。
まず、僕は、今学校教育に無理やりいろんなことを詰め込もうとしている。ところが、学校教育は総合学習の時間というところで防災をやるんですけれども、いや環境教育もやらないといけないとか消費者教育もやる、いろんなことを学校教育に全部今詰め込もうとすると、やっぱり学校教育のカリキュラムがにっちもさっちもいかなくなる。そうすると、防災教育なんかは消防自動車が来て放水訓練をしておしまいという形で済まされているところがあるんですね。
僕は、そのやっぱり不十分さはむしろ地域教育で補った方がいい。学校教育は、例えば理科の教育とか自然の教育で、活断層というのはどういうものかとか、地震というのはどういうように起きるのかとか、そういう一つの専門的、専門的っておかしいですけれども、教科の知識は学校でしっかり自然教育、自然だとか、あるいは社会教育の中で要援護者の問題だとか、そういうことをしっかり教育していく。
ところが、それを今度はきちっと総合化する、あるいは実践的に体験をするという教育は地域教育でしっかり位置付けてやる。そうすると、それは単に地域の自治会がやるとかボランティアが地域教育、防災教育をやる。今割合、防災教育というのは何か地域のボランティアなりがやったり町内会がやったり、あるいはまちづくり協議会がやったりするような、いわゆる民間のところにゆだねられている。そこは非常にすぐれた成果がありますけれども、僕はそこに少し行政が、まさに市民と行政の連携という形で行政がしっかりそこに、地域教育にかかわっていかないといけない。そうすると、地域教育の担い手はまさにコミュニティーセンターであったり公民館であったり、あるいはまさにそういう地域教育の、行政がかなりそこに関与しながら公民館のプログラムとかあるいはコミュニティーセンターのプログラムの中でしっかりやって、市民がそこにしっかり参加をしていくというような形で、例えば町の中にみんなで出ていろんな、これが断層だということをやるということも必要だし、避難の訓練みたいなものも行政も一緒になってそういう地域をやる。先ほど言った、そこに私は専門家も入る余地があるんではないか、我々も一緒になってそういうことをやっていけば、要するに地域教育の防災のメニューとかカリキュラムがしっかりしたものになっていけば地域の力が付くんではないかというふうに思っております。
以上でございます。
○仁比聡平君 今、最後のところでおっしゃった、地域のそういった取組に研究者、専門家の方々がどのようにかかわっていただけるのかと。そこの窓口を、市民にとってみれば、例えば今日おいでいただいた三先生方に教えていただきたいなんというのは、もう雲の上の存在のようなイメージはありますものですから、例えばそこのネットワークなんというのはどんな可能性があるのかという点について、最後、室崎先生にお尋ねします。
○参考人(室崎益輝君) 今まで専門家の取組は比較的遅れていたように思うんですけれども、最近やはり専門家は専門家としてその社会的責任をしっかり果たす、専門家の地域貢献みたいな、社会貢献というのを果たしていこうという機運が出ていることは確か。
例えば、地震学会というのは子供の要するに地震に対するセミナーとかそういう学校をつくって子供たちに教えるということもありますし、それ以外に災害情報学会っていろんな学会が、学会としてやっぱり地域教育なりそういう市民との連携を持っていこうというような動きも出てきております。それから、専門家を中心としたいわゆるNPO組織というんですか、そういう防災関係の研究組織もたくさん今生まれてきている。そういうNPO的な研究者の組織や学会がむしろ積極的にそういう地域の取組にかかわっていくということを展開していけば、僕はすそ野が広がっていくように思います。
そうした中で、研究者の中にややもすると社会にちょっと背を向けたというか、象牙の塔にこもったような体質も同時にその中で変わっていくように思いますので、むしろ一方では研究者自身、我々はそういう取組を積極的にやるように我々の仲間に働きかけると同時に、やっぱりそこに地域とのつながり、そういうNPOだとか学会がそういうことに取り組んでいくということが必要ではないかというふうに思っております。
○参考人(河田惠昭君) 委員長、いいですか。
○委員長(一川保夫君) はい。河田参考人。
○参考人(河田惠昭君) 地域防災力の向上ですが、私、平成十六年度、十七年度、内閣府の事業で名古屋市でやった例があります。これは、実は研究者が四つの代表的な地域で二年間掛けてワークショップをやりまして、地域ごとにどういう危険が内在しているのか、例えば東海地区というのはブラジルから来ているいわゆる自動車産業で働いている方がたくさんおられて、日常的にコミュニケーションが非常に難しい、あるいは一つの地域では商店街が中心になっておりまして、ほかの地域の人たちが日常的にそこに訪れている、こういう四つの典型的な地域で実は地域防災力の向上のプロジェクトを、大学の研究者が複数入りましてやらせていただきました。
その後、名古屋市は実は防災は消防局がやっておりますので、消防署員というのは火災とかがなければ日中要するに現場に行くことができますので、消防署員が手分けしてその地域を訪れて、それぞれの地域の要するに自主防災会とかそういった組織の強化に携わっているということで、名古屋市は御承知のように東海地震で強化地域に入りましたので、そういう取組をして非常に今実績を上げているという例があります。
○仁比聡平君 ありがとうございました。