第169回国会 参議院法務委員会 第9号
2008年5月8日 仁比聡平参議院議員
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。
数えてみましたら、志布志事件の徹底検証と取調べの可視化というテーマで私が本委員会で質問させていただくのは今日で五回目ということになりまして、ま だまだやらなければならないなと、今日午前中の当局の答弁を伺っていて思っておりますし、幾らでもやる準備があるということを申し上げておきたいと思うん ですが、今日は松野先生とテーマはほぼ同じでございます。
まず、三月二十四日に鹿児島地裁で原告勝訴の判決が出されて、検察、県警、国、県とも控訴を断念して確定した接見国賠訴訟についてお尋ねをしたいと思います。


お手元に判決の基本的な判断の部分を私の方で引用した資料をお配りしましたけれども、この判決は、被告人らが弁護人から有効かつ適切な援助を受ける上で は、双方に自由な意思疎通が捜査機関に知られることなくなされることが必要不可欠であり、接見内容が捜査機関に知られることになれば、これをおもんぱかっ て被告人らと弁護人の情報伝達が差し控えられるという萎縮的効果が生まれ、被告人らが実質的かつ効果的な弁護人の援助を受けることができなくなるというふ うに述べた上で、刑事訴訟法三十九条一項は、およそ接見内容について捜査機関はこれを知ることができないとの接見内容の秘密を保障したものであり、原則的 には接見後その内容を捜査機関に報告させることも許されないと判断をしたわけでございます。
この基本的な立場に立って、判決は、捜査機関が被疑者、被告人の弁護人との接見内容を聴取し調書化した、そのそれぞれの行為を詳細に事実認定をした上 で、それらが接見交通権の重要性に配慮なく安易に行われ、被疑者、被告人とその弁護人との間に構築されるべき信頼関係を破壊したということを断罪をしてい るわけですね。
そこで、まず法務省刑事局長にお尋ねをしますが、この国賠訴訟の対象となった供述の録取及びその調書以外に志布志事件で捜査機関が接見内容を聴取したということはあるんでしょうか。
○政府参考人(大野恒太郎君) 志布志事件の接見国賠訴訟で賠償請求の対象となった供述調書があるわけでありますが、それ以外に弁護人等との接見の具体的内容について録取した調書が志布志事件の、刑事事件の証拠として公判に提出されたことは承知しておらないところであります。
○仁比聡平君 私がお尋ねしているのは、調書がここ出されているが、それ以外に録取をしたことはあるのかということなんですけれども、お答えがないんですよね。
全部で、先ほど松野先生からもありましたけれども、七十六通の調書が作られている。これだけ執拗な接見内容の聴取が行われて、私が知る限りそのすべてが 調書化されたのではないか。ですから、今刑事局長のお答えのように、他に調書があることは承知していないという、そういうお話になるんじゃないんでしょう かね。接見内容を執拗に録取してそのすべてを調書化するというのは一体どういうことなのかと。特に、自白、否認の変遷を繰り返した藤元いち子さんと弁護人 との接見内容の録取は、これは二十九件に上っております。全部で七人の被疑者、被告人に対して、起訴がなされる前の捜査段階、そして起訴後、公判が開始さ れた後も繰り返して接見内容が聴取されているわけですね。
この判決の意義や射程について今日は論ずる時間はありませんけれども、私が今日聞きたいのは、こういった捜査が何を目的として行われたのかという点でございます。
判決文は、〇三年の五月二十一日ころに、主任検事を務めていた龍造寺検事が、弁護人との接見後、自白していた被疑者が否認し、その後再び自白に戻った場 合には否認した理由を聴取して調書化するように、その際、接見交通権の問題があるので聴き出し方に注意することと指示し、五月二十二日、翌日の夜、志布志 警察署において弁護人が被疑者に対して圧力を掛けているようだ、接見後、自白していた被疑者が否認に転じ、その後再び自白に戻った場合には否認の理由を聴 いて調書化する、その理由が弁護人の違法な弁護活動と認められる場合も調書化してほしい、場合によっては懲戒処分請求も考えられると指示したという事実を 認定しております。
さらに、五月の二十六日、鹿児島県警の松元警視が龍造寺検事からそのような指示を受けていることを受けて、県警本部での捜査会議において濱田警部補に対 してこれを指示するとともに、接見交通権との関係もあるので聴取の仕方に注意する旨指示をしたと認定をされていて、捜査機関は接見した弁護士の名前と日時 が分かる一覧表を作成することまで指示をしているというわけですね。
この判決は、捜査機関としても組織的に、場合によれば接見内容を調書化しようとしていたことが認められるというふうに言っていますけれども、こうした形 で捜査機関が被疑者、被告人と弁護人との間の接見の内容を組織として組織的、網羅的に聴取するんだ、それを調書化するんだという方針を持ってそのための体 制を取ったというのは、それ自体私は極めて異様なことだと思います。どうしてこういうことをやったんですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) ただいま委員から判決の該当部分についての御指摘があったわけでありますけれども、そこに記載されたところ からも明らかなように、当時の担当検察官といたしましては、被疑者が否認していた理由が弁護人の、当時は担当検察官側からの理解では違法な弁護活動にある 場合、あるいは弁護人からの否認の働きかけにもかかわらず被疑者が自白を維持しているような場合には、自白供述の信用性担保等の捜査上の必要性があるとい うような判断から、一定の場合における接見状況の調書化を指示したものと承知しております。
○仁比聡平君 違法な弁護活動がある場合などというお話が、この接見国賠訴訟を通じて捜査妨害的行為という言葉で議論になっているわけですよね。この検察官ないし鹿児島地検あるいは鹿児島県警が弁護人による捜査妨害的行為が行われていると判断した具体的な根拠は何ですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) それは、自白した被疑者が否認に転ずる経過等につきまして、その供述の変遷理由を聴取する中で弁護人からの話があったというようなことを知って、それを当時の検察官は捜査妨害的行為であるというように考えたということだと理解しております。
○仁比聡平君 弁護士がその職務と専門性、立場において否認を勧めたら捜査妨害ですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) そのようなふうには理解しておりません。
○仁比聡平君 だったら、なぜ捜査機関はその体制を取って、網羅的に、弁護人と被疑者が接見をしたらその内容を調べなさい、調書化しなさいと。何でそんなことをする必要があるんですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) 先ほども申し上げましたように、組織的な選挙違反事件ということで捜査を進めたことからそのような判断をしたものでございますけれども、それ以上の詳細につきましては、個別の供述等にもかかわりますので、お答えを差し控えさせていただきたいと思います。
○仁比聡平君 個別の供述にかかわるって、実際やっているのは、捜査機関として主任検察官が指示を出し、県警の主任もこういった組織としての指示を出して、本部会議で徹底してその体制を取っているわけでしょう。
一体何でこんな体制を取る必要がありますか。こんな体制を通常すべての事件で検察はやっているんですか。
○政府参考人(大野恒太郎君) 警察については私どもの方から答弁する立場ではないというふうに考えますが、検察につきましてこのような捜査が行われたということは極めて異例といいましょうか、私も承知しておらないところでございます。
○仁比聡平君 であれば、なぜこんなことがこの事件において行われたのかということを徹底して検証しなければ、私は、刑事局長、申し訳ないけど、秋霜烈日が泣くと思いますよ。
警察庁、どうですか。
○政府参考人(米田壯君) この接見内容の録取は、実は一番最初は、これは警察におきまして、五月の十八日、先ほど委員が御指摘になった三 日前でございますけれども、今おっしゃった被告人の方の供述が変遷をするということから、供述の任意性、信用性を担保するために、供述の変遷、いわゆる否 認の理由を明らかにするために調書化をしようということが一番きっかけでございました。その後、担当の検事にその旨を相談をして、担当の検事から、以後の やり取りは委員の御指摘のとおりのことが、まあ判決では事実認定がされているということでございます。
これは、こういう非常に多数の被疑者が絡みます。そしてまた、供述ということが大変重要な事件の中で、私から見ましてもこれは異例のことだと思いますけ れども、そういう中で供述の任意性、信用性をどのように立証していくかという、そういう問題意識からこのようなことがなされたものではないかというふうに 考えております。
○仁比聡平君 この判決は、弁護人の捜査妨害的行為など一切否定し、逆に弁護権の行使として当然のことであるという認定をしているわけですね。捜査妨害どころか、捜査機関の描いた構図こそがあり得ない虚構だったんですよ。
指示が出された五月下旬、今警察庁刑事局長の御答弁に図らずも出てきたんですけれども、この五月下旬というのは、志布志署が当初描いた四月中旬ころから のビール口、焼酎口という構図が、川畑氏への踏み字の強要をやったり、中山県議の関係者や四浦の集落の方々を次々に長時間の強圧的な取調べを行っても形に することができずに中山さんの逮捕に至らないという中で、後に起訴した買収会合事件の構図を描いてたたき割りを行っていったという時期ですね。無罪判決 は、その過程、この期間に行われたことをとらえて、ありもしない事実がさもあったかのように一つに収れんされていったというふうに述べました。
大臣にお尋ねしたいんですけれども、こうした時期、先ほど警察庁刑事局長は供述が大事な事件だというふうにおっしゃいましたけれども、この時期に、接見 の秘密交通権を侵害してまで、侵してまで執拗にこの接見内容を録取し続けたと、これは何のためだというふうに思われますか。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 一言で言えば、接見交通権、立会なくして接見交通できるという権利、これは被告人、被疑者あるいは弁護人の権利とも言えるんだろうと思いますが、接見交通権に対する理解が不十分だったとしか思えない、私はそう思います。
今先生が読まれた接見交通権の保護に値しないような事情、判決文の中にあるわけですね、そういう事情、特段の事情がない限り、言わば被告、被疑者と弁護 人が秘密に接見交通できる権利というのは保障されているわけでありますから、その接見交通権に対する理解が不足していたとしか私には思えません。
○仁比聡平君 その判示の言っている、判決の言っている特段の事情というのは一切認められていないわけですよね、この件について。
私が大臣に尋ねたのは、なぜそんなことが行われたんでしょうかというその捜査機関の目的、意図、ねらいですよ。私は、無実の人々を犯人と決め付けて、科 学的で地道な捜査で客観的な証拠を固めることよりも自白を取ること、そして無実の人々から無理やり引き出したありもしない供述相互のつじつまを合わせるこ とに狂奔して、その邪魔になる弁護人との秘密交通権を侵害して信頼関係を破壊する、言わば被疑者の外界への連絡を一切絶ってたたき割りの対象として純化す ると、それが目的だったと言わざるを得ないと思います。
最高検の検証は、その点も含めてどのように自白が取られていったのか、代用監獄を利用した長時間取調べや細切れ逮捕、起訴による長期の身柄拘束、取調べ 室での偽計や誘導、そういった自白の採取過程、取調べ過程について何らの検証も行っていないわけです。その検証なしに、検察、捜査機関に対する信頼の回復 など私はあり得ないと思いますけれども、大臣、再度検証をするべきではないですか。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 先ほど、松野先生の御質問であったかと思いますけれども、私お答えいたしましたのは、様々な反省をしているし、 それはまた文書になっていると思いますが、その反省が真摯なものでなければいけないと思うし、具体性のあるものでなければいけないというふうに思っている わけで、ただ抽象的な反省をするだけでは事足りないというふうに私は思っております。ですから、ただいまの接見交通権の問題についても真摯に反省をすべき だと思います。
○仁比聡平君 別の角度で聞きますけれども、続けて。
この判決文の中に、百六十六ページになりますけれども、藤元いち子さんという元被告人の方が弁護人に対して、〇三年の六月十一日の午前九時十分ころ、つ まみはオードブルということになっている、だれかが刺身も出したと言っているらしい、刑事に料理は玉垣から取ったと話した、きっと刑事が調べているだろう から、またうそを言ったら怒られるに違いないなどと話したというくだりが認定をされているんですね。藤元いち子さんはこのような取調べを六月十一日までに 受けて、それを弁護人に話している。
このオードブルというのは、買収会合のつじつまを合わせる上で捜査機関が重要な一つのポイントとしてきた点です。県警の松元参事官は、平成十六年の十一 月三日に行われた検察庁と県警との協議、私が内部文書というふうに申し上げてきた文書ですけれども、この中で、オードブル調査をしていたら、その情報収集 段階で予約帳を見て発覚したのではないかと記憶していると発言をしています。発覚したのではないかというのは、中山県議が第一回会合が開かれたとされた二 月八日にホテル玉垣で開かれた同窓新年会に出席していたという事実、つまりアリバイの前提事実のことなんですね。つまり、遅くとも〇三年の六月十一日より も前に鹿児島県警はオードブル調査の過程でアリバイ成立の前提事実を認識したんじゃないんですか。警察庁、いかがです。
○政府参考人(米田壯君) これは以前にも御答弁申し上げたと思いますが、このアリバイ成立といいますか、アリバイの可能性が高い事実を突 き止めましたのは、この中山さんの起訴が平成十五年七月十七日でありますが、その一週間後の七月二十四日でございます。このときにいろんな補充捜査をして いる過程で聞き込んだ話が基になっておりまして、翌七月二十五日にホテル玉垣に裏付けを取りに行ってその事実が判明をしたというものでございます。
○仁比聡平君 そのような答弁をこれまで警察庁はしてきたわけですけれども、捜査機関は六月四日に、中山県議を逮捕したその日に同窓会名簿 を押収しております。これは事実でございます。買収会合に中山県議が自ら出席したというのが捜査機関の構図ですから、その証拠の分析は重要だったと考える のが当然だと思いますけれども、この点で朝日新聞が去年の十一月二十日に重要な報道をしております。
ここでは、そのホテル玉垣の経営者が、県議が逮捕された直後、六月四日の直後、捜査員が何回もホテルに来た、その際、その両日は中山県議が同窓会などに 出席していたと証言し、台帳を任意提出したというふうに述べているんですね。これは我が党も直接調査をして確認をしましたけれども、そのようにおっしゃっ ております。そして、この玉垣の元経営者の方は、七月二十五日付けの預かり証を後になって持ってこられたんだが、台帳を渡したのは六月中旬よりも前なのに なぜなんだろうというふうに思ったというふうに私どもに語っているわけですね。
刑事局長は、その七月二十五日付けの預かり証に基づいてそのような答弁をされているのかもしれないが、実際に任意提出をされたのは六月の四日の中山逮捕 直後なのではないのか。どうしてそれが七月下旬というような話になるのかということについて、この朝日新聞の報道で当時の捜査関係者の告発がございます。 同窓会などの情報は〇三年六月上旬には把握し、指揮していた警部、これは磯辺警部ですが、に報告されていた、ホテル従業員らに台帳も提出してもらったとし た上で、アリバイがあれば地検は起訴しないので報告は起訴後になったというふうに述べているんですね。
つまり、五月に弁護人との接見まで妨害をしながら、たたき割りの中で買収会合事実がさもあったかのようにつじつまを合わせていって、六月四日に中山県議 を逮捕したが、その直後、遅くとも六月上旬には少なくとも二月八日のアリバイを知りながら、それを握りつぶして起訴をしたという重大な告発なんですよ。
私は警察庁に、この任意提出を受けた日時、これについて調査の上、この委員会に報告をしていただきたいと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(米田壯君) 個別にどういうものを押収したあるいは任意提出を受けたということにつきましてはちょっと申し上げかねるところ でございますが、同窓会のその名簿というのは、単に住所録ということではなくて、今委員御指摘の日時におきます出席者名簿のことではないかと思いますが、 それを鹿児島県警が入手いたしましたのは、先ほど申しました七月二十四日にこのアリバイが成立する可能性のある事実に気付いた後でございます。
○仁比聡平君 それは違うという重大な証言があり、警察官の内部告発まであるわけでしょう。こういった事実がある以上、そんなあやふやな答弁でこの委員会が終わるわけないじゃないですか。
委員長、この点について警察庁に、改めて調査の上、報告を委員会にさせることを是非御協議をいただきたいと思います。
○委員長(遠山清彦君) ただいまの仁比委員の申出につきましては、後刻理事会で協議をいたします。
○仁比聡平君 大臣、こういったアリバイの認識時期、そして自白の採取過程、接見妨害の問題も含めて再度調査し、検証をし直すべきでございます。
最後に指摘だけしておきますが、資料に平成十九年の十二月二十五日の最高裁決定を引用しておきました。これは、証拠開示命令に関して警察庁が捜査員の個 人的なメモだとした手控えについて、犯罪捜査規範に基づき作成した備忘録であって、取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され、捜査機関において保 管されている書面は、個人的メモの域を超え、捜査関係の公文書と言うことができるとして証拠開示を命じたものでございます。本件の取調べ小票も、国家公安 委員会規則に基づいて作成され、取調べの経過、内容が記録され、現に鹿児島県警において保管されているということは、これまでの私や松野議員の質問への答 弁で明らかであります。これでも捜査員の個人的なメモだと言うのかと今日お尋ねしたいと思いましたけれども、もう時間がございませんので答弁は求めません が。
こういった状況の中で検証を拒むということは、私はもうあり得ないと思います。取調べ小票そして内部文書の提出を委員会として改めて求めること、そし て、事件の真相を私どもとして受け止めるために、参考人として志布志事件の元被告人、被害者の方々、そして氷見事件の被害者を少なくとも呼んで話を直接伺 うべきだということを提案をしたいと思います。
この点も理事会の御協議を求めて、私の質問を終わりたいと思います。
○委員長(遠山清彦君) 仁比聡平君のただいまの御提案につきましても、後刻理事会で協議をいたします。