○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

この法案に関して、これまで御議論があっていますとおり、大規模災害の被災者や、そして高齢者、障害者など、法案の用語で言う特定援助対象者、それから特定侵害行為の被害者、この今回の法案で司法支援を拡充しようとしている皆さんに法的な支援が極めて必須であるということについてこれまでももうお話のあってきたところなんですけれども、まず最初に、性暴力、性虐待の被害者がその人間の尊厳と権利を回復することがどれだけ困難かということを共有したいなと思いまして、釧路で起こった性的虐待の事件、これは二〇一五年の七月に最高裁判所で損害賠償の判決が確定をしたんですけれども、この事件について少し紹介し、当局のお考えを聞きたいと思うんです。

どんな事件かといいますと、女子が三歳から八歳という幼少期に叔父から性的虐待を受け続けたわけですね。中学生のときにその行為の性的な意味に気付き、それまでの間に既に離人症あるいはPTSDを発症をしていました。高校生のときには摂食障害が始まり、けれども、その間、その加害者に対して訴えて出るとかいうことはずっとできなかったわけですね。三十代にはうつ病を発症するなどの、この性的虐待の被害によってPTSD、解離性障害、うつ病などの重篤な精神的障害を受けながら、その被害を訴えて出ることができたのは二十年以上を経過していたと。

そうした事件について、最高裁判所の判決を受けて被害者はこうNHKのインタビューで語っています。今の日本の法制度の中で私の被害はどう裁かれるのか、裁かれないのか知りたいと思って裁判を起こしました。釧路地裁で除斥期間で権利は消滅したと言われましたが、札幌高裁で認められ、最高裁という日本の最高の場所で裁判官が全員一致で認めてくれたことで、やっと自分が悪かったんじゃない、加害者が悪いんだと認められ、自分を肯定してあげられると思いました。性的虐待を受けている子供が加害者を訴えたいと思っても、未成年の間は親が訴えてくれなければ被害を訴えることもできません。その間に加害者を守る時効が進んでいきます。せめて自分の力で訴えることができる二十歳まで本当は時効自体なくしてほしいですけど、せめて二十歳まで時効を止めてほしいと思いますというのがこの被害者の要求なんですけれども、民事局長、刑事局長、それぞれ除斥期間あるいは公訴時効についてお考えを聞かせてください。

○政府参考人(小川秀樹君) お答えいたします。

不法行為に基づく損害賠償請求権につきましては、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから三年が経過すると時効によって消滅し、また、不法行為のときから二十年が経過する場合も消滅すると規定されております。判例は、この長短二種類の期間のうち二十年の期間につきましては、一定の時の経過によって法律関係を確定させるための請求権の存続期間であるものと解し、これを消滅時効期間ではなく除斥期間であるとしております。

この除斥期間には、長い時間の経過に伴って証拠が散逸することなどにより反証が困難となった債務者を保護するという公益的な機能もあり、その機能は軽視することができないものと考えられます。また、二十歳に達するまで停止するとした場合には、被害者の年齢によっては停止期間が長期に及ぶほか、性的被害に関してのみ除斥期間の特例を設けることは他の重大な法益侵害との均衡を欠くおそれがあるのではないか等の問題もございます。そのため、被害者保護のために除斥期間を廃止することですとか除斥期間の進行を停止することについては慎重な検討を要するものと認識しております。

もっとも、この除斥期間につきましては、御指摘の問題のほか、時効の中断などの規定の適用がなく、また判例上、裁判所は、当事者の主張がなくても除斥期間の経過によって権利が消滅したとの裁判をすべきであるとされております結果、加害者の除斥期間の主張が権利濫用とされる余地がないということのために、消滅時効と比べても厳格で、被害者の保護が十分でないという問題が指摘されております。

そこで、第百八十九回国会に提出いたしました民法の一部を改正する法律案、いわゆる債権法改正法案でございますが、この中におきましては、被害者の保護を図る観点から、除斥期間を消滅時効期間と改めることとしております。これによりまして、被害者は、時効の中断などの規定の適用を受けるほか、加害者による時効の援用が権利濫用であるなどと主張することも可能となり、被害者の保護が図られるものと考えております。

このほか、債権法改正法案におきましては、人の生命又は身体を害する損害賠償請求権の消滅時効期間を現行の三年から五年に長期化する特例も設けることとしておりまして、これに該当する性的被害についても救済が進むことになるものと考えております。

法務省といたしましては、これらの手当てによりまして性的被害の被害者の保護を進めてまいりたいというふうに考えております。

○政府参考人(林眞琴君) 年少者に対する性犯罪に関する公訴時効の撤廃又はその停止につきましては、平成二十六年十月から平成二十七年八月まで開催いたしました性犯罪の罰則に関する検討会においても検討が行われたところでございます。

その検討会におきましては、被害者が一定の年齢に達するまで公訴時効の進行を停止することをすべきであると、このような意見が一方で述べられました一方で、これに対しましては、性犯罪についてのみ時効制度の根本に関わるような改正をすることには大きな疑問があるという意見のほかに、例えば殺人罪などであれば死体など客観的な証拠が保全されやすいが、性犯罪については被害当時に証拠が保全されず、長期間たってから被害申告がなされるような事案では、多くの場合、唯一の証拠が被害者の供述ということになり、特に子供の記憶については変容のおそれが大きいことなども考慮すると、公訴時効期間の進行を停止したとしても、実際にはほとんどの事案について犯罪事実の立証が困難なために起訴できないことになるのではないか、あるいは被疑者、被告人の防御の観点からも証拠の散逸が問題となるといった問題点が指摘されたところでございまして、このような問題点を踏まえて、法制審議会にはこの点については諮問をしなかったものでございます。

なお、検討会におきましては、子供たちの権利を守り、被害者を救済するためには、何よりも、早期に児童の性的虐待を発見、顕在化して、適切に刑事手続につなげていくようにしていくことや、その際に子供から適切に記憶内容を、あるいは供述を聞き取るいわゆる司法面接の手法を取り入れていくこと、こういった別の支援が考えられるべきであるという意見が述べられておりまして、法務省におきましても、そのような意見を真摯に受け止めて、必要な対応を取ってまいりたいと考えているところでございます。

○仁比聡平君 両局、長く答弁をされましたけど、つまり難しいんですよ。今のお話を性暴力や性虐待の被害者に理解しろというのかということなんですよね。

特に公訴時効の問題については、繰り返して申し上げてきましたけれども、こうした被害者の声を今法制審の部会できちんと改めて聞くべきだと、今日は答弁を求めませんが、強く要求をしておきたいと思うんですが。

ですから、今お二人にお話をいただいたように、法的に難しいと。つまり、九九%これは法的には困難だということは弁護士であれば誰しもが思います。

ですから、この釧路で、被害者御自身は少ない弁護士の事務所に電話を掛けられたみたいですけれども、うちはそういうのをやっていませんからといった形で断られて、最後に、この釧路にできた法テラスから独立して事務所を構えたばかりの女性弁護士に受けてもらえるかもしれないという情報を聞き付けて相談をしたんだそうです。そのときにその弁護士は、どうしようもなくかわいそうな事件で、採算はもう取れないけれども、採算が取れなくてもここで受任しなければ、受けてあげなければ死んでしまうんではないかという思いで受任をしたということなんですね。

大臣、こうした極めて困難な事件についても、あまねく国民の法的支援を受ける言わば権利、とりわけ弁護士の支援を受けることができるそうした権利、これを保障しようと。これまでそうしたものがまるで自己責任だとか弁護士の方が悪いとかみたいな話になったけれども、いや、違うでしょうというのが司法改革の出発点の議論であり法テラスの出発点なんではないかと思うんですが、いかがですか。

○国務大臣(岩城光英君) ただいまのお話、大変お気の毒な事例だなと、そんなふうに受け止めさせていただきました。

仁比委員御指摘のとおり、様々な立場の方々が法的に相談をできる、そういった法律の相談ができる、そういった受皿となる法テラスという、そういう意義だと思っておりますので、私ども法務省としましても、できる限りそういったことに対応できるような体制を取るためにこれからも努めていきたいと考えております。

○仁比聡平君 法テラスとそれから法テラスが所管をして運営をしている民事法律扶助、今日も随分議論出ていますけれども、これをどう発展させていくのか、どうすれば司法アクセスが本当に解消できるのかという、そこの議論が今本当に大事なんじゃないかと思うんですね。

今回の法案というのは、司法改革から十年、法テラスが始まって十年という大きな節目でこれまでの運用を振り返ってこれ発展させようということで有識者会議も設けて行ってきたんだと思うんですけれども、もう皆さん御案内のとおりだと思いますが、有識者会議が提言をしたことと今回の法案というのは大きな差があります。

この特定侵害行為の被害者に対する援助の考え方としては、有識者会議は、生命、身体等を守るという観点から、資力の多寡がその援助の必要性に影響を及ぼすものではない、特定侵害行為の被害者に対して無料法律相談制度を構築するに当たっては国の責任として取り組むべき事業であるというような意見で一致をし、資力を問わない、つまり、後から資力があるでしょう、払ってくださいという負担金を求めるんじゃない、相談なんですから、一件言わば五千四百円という、ここは無料にしようと。

それから、援助の対象、これ皆さん議論をされているとおり、警察あるいは裁判、医療機関、シェルター、児童相談所、いろんな対応が必要ですよね。しかも、息の長い対応が必要だし、加害者側からの暴力から守るための様々な対応というのも極めてシビアなものがある。

こうした中で、大臣にお尋ねをしたいんですが、全部を聞いていく時間はありませんから、この援助の対象、何を援助できるのかということについて、実際には今申し上げたような様々な行動が必要なんですよね、被害者を守るためには、権利を回復するためには必要なんですが、そうした考え方が有識者会議でも提言をされながら、どうして今回の法案では見送ったんですか。

○国務大臣(岩城光英君) 今回の法案で、代理援助に相当する援助、これを設けない理由でありますけれども、DV等の被害者に対する支援としては、昨今、被害者が殺害される事件が世間の耳目を集めていることなどもありまして、法律事務を超えるような非常に幅広い支援を行うことが期待されるようになっております。

このような状況の下で代理援助に相当する援助を設けるためには、その担い手となる弁護士そして他の関係機関等との役割分担や協力体制、それぞれの実施体制などを検討し、整備すべき事項が少なくないことから、本改正法案においてはこれを見送ることとしたものでございます。

○仁比聡平君 衆議院からそういうふうに大臣答弁されているんだけれども、僕はそれが理解ができないんですよ。だって、そうした深刻な事件が起こって、どうしても対処が必要だ、だから見送るという話でしょう。おかしいですよ。そうした深刻な事件が起こって、国の責任において向き合うことが必要だから、対処することが必要だから、だからこういう制度をつくって、その下でお話しになったような担い手やあるいは関係機関の連携、役割分担というものを具体化していくと、それが政治のあるべき立場なんであって、深刻だということが分かっているけれども、その深刻な事態に応える力が今ないからごめんなさいという、それは法テラスの出発点と違うでしょう。

私は、今申し上げたように、この法案は法案として、すぐにこの特定侵害行為の被害者あるいは特定援助対象者、もちろん震災被害者もそうですけれども、こうしたニーズを必要としている、法的支援を必要としている国民の皆さんのニーズをしっかり本当につかんでこれに必ず応えると、そのためには財政的な決断を政府がしなければならないということはあるんだと思うんですけれども、また、そういうふうに検討を進めていくべきだと思うんですが、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(岩城光英君) 被害者支援の拡充の必要性、これについては、まず本改正法案により新たに導入されましたストーカー等の被害者に対する法律相談援助を含む法的支援、その実施状況等を見た上で、今後、利用者のニーズや犯罪被害者等の支援のための他の方策の在り方等も踏まえつつ、関係機関、団体としかるべき場を設けて協議を重ねるなど、適切に検討してまいりたいと考えております。

そして、仁比委員御指摘の利用者のニーズについては、関係機関、団体と情報交換するなど、幅広く把握をしていくように努めてまいりたいと考えております。

○仁比聡平君 関係機関というふうにおっしゃっているんですけれども、具体的に言うと、法テラスの本部と日弁連が、国民、日本社会の中にどんな法的ニーズがあるか、これをしっかりとつかんで、国民の皆さんにもちろん理解を得ながら、ここを国の責任としてやっていく必要があるという、ここの議論を私たちも含めてオープンにやらないと、何だかどこで検討しているか分からないような状況では前進させる力が生まれてこないじゃないですか。その中で泣いていくのが多くの弱い被害者ということになってしまうんですよね。

そこで、大臣に改めて、このニーズを検証するという意味では、施行後の相談の実態をしっかりつかんでいく、それを通じて、どんな援助、法的手続もあるでしょうし事実行為もあるでしょうし、これを、どんなことが現に行われ、行われなければならないのか、ここをちゃんとつかんで集約し、国会にも報告をしていただくということを考えていただきたいと思うんですね。実際に、法テラスあるいは民事法律扶助に関わる弁護士はそうした報告書を全部出していますから、だから政府がやろうと思えばできることなんですよ。

そうした報告を国会に是非いただいて、日弁連始めとした関係団体とのオープンな協議の場もつくっていただきたいと思いますが、大臣、いかがでしょう。

○国務大臣(岩城光英君) 今の御指摘につきましては、様々な機関との検討、協議をしていくわけでありますけれども、そのことについて国会に報告するとか、そういったことをしてほしいという内容でよろしいですね。

そのことにつきましては、今後検討してまいりたいと考えております。

○委員長(魚住裕一郎君) 仁比君、時間です。

○仁比聡平君 時間が参りましたのでこれで終わりますけれども、今回の法案は一歩前進ではありますが、申し上げてきたような様々な不十分さがあります。公費、国の責任ということを私たちが本当にしっかり考えなきゃいけないということを強く申し上げまして、質問を終わります。