○参考人(原田宏二君) おはようございます。北海道から参りました原田といいます。

私は三十八年ほど警察で仕事をしておりまして、その大半を刑事部門で過ごしました。北海道では殺人事件の捜査本部事件とか、他府県にも出向いたしまして、熊本、山梨県警の捜査二課長として選挙取締りとか役人の汚職事件の捜査をやっておりました。

そういうことで、私は今日お話しいたしますけれども、決して私はアンチ警察の立場で皆さんにお話しするつもりは全くありません。長い間警察におりまして犯罪捜査という仕事をやっておりましたから、それなりの愛着は持っております。ただ、私が今考えておりますのは、警察に長くいて捜査をした人間として、警察の捜査はやっぱり堂々としてもらいたいと、つまり、法の手続に従って正々堂々とやってほしいと思うんですね。その上で国民の皆さんの信頼を得てほしいと、そういう願いで今日皆さんにお話をいたします。

本題に入りますと、私は、取調べの問題について言うと、可視化だけで冤罪とか誤認逮捕がなくなるということは多分ないだろうというふうに実は思っております。といいますのは、警察の犯罪捜査には様々な問題がありますので、今日時間内で全てお話しすることはできません。ということで、一部だけお話しさせていただきます。

北海道におりますと、国会で今何をやっているのかということが、私のようにある程度関心がある人間でも本当に分かりません。せいぜい私なんかはこの刑訴法の改正問題について知識としてあるのは、法務省のホームページを見たということぐらいです。

そんなことで、実を言いますと、私はもう最初から、議論のスタート、この可視化の問題のスタートというのは、そもそも盛り上がってきたのは志布志事件とか富山の氷見事件とか、ああいう事件をきっかけにわっと盛り上がってきたんだと思っているんですけれども、あの議論辺りは、日弁連の話なんかを聞いていますとやっぱり全面可視化なんですよね。ですから、私はもう多分全面可視化でいくんだろうというふうに強い、何というか、ある程度の先入観みたいのを持っていたわけですね。

実は私、今年の一月に、これ、本の宣伝じゃないんですけど、「警察捜査の正体」という本を講談社から出したんですよ。その中に、ちょうど原稿を書いた頃にこの問題がわっと盛り上がってきた頃で、いや、やっぱり書かないと駄目だと思って急いで実は書いたんですけど、ところが、間違って書いちゃったんですね。

何を間違ったかというと、私はまさに、警察の取調べは裁判員裁判事件で逮捕、勾留されている被疑者については基本的に原則として、まあ例外は若干あるにしても、録音、録画すると、こういうことですよね、現在の政府提案の改正案というのは。私はそのほかに、全面可視化なんだからという頭があるので、当然裁判員裁判の対象外の事件の被疑者についても何らかの形、例えば申出があった場合は録音、録画するとか、そういう形。あるいは任意の被疑者、任意の被疑者の取調べで問題がないということは絶対あり得ない。それから、参考人の取調べについてもいろいろ問題があるわけですよ。例えば、目撃者の供述がどんどんどんどん変遷していって言ったことと供述調書の内容が全然違うと、こういうようなこともあり得るので、そういう意味では、私は参考人の取調べも当然録音、録画の対象にするべきだと。ですから、取調べ室以外でやることになるんでしょうから、その人が自前で録音することぐらいは認めたっていいんじゃないかということで、実はこの本に書いたんですよ。

ところが、実は、よく調べてみるとそれは政府案には載っていなかったんです。ですから、私の本は間違っているんですよ。今日、ようやくそれ確認しました。それは民主党の案だったということですね。この法案が成立したら私は訂正文を書かないといけないというふうに思っていますけれども、それは半分冗談みたいな話で申し訳ないんですけど。

実は、可視化の場合、いろいろ議論の中で出てくるのは、裁判員裁判が何%だと、こういう話の議論が出てくる。私はあれ絶対違うと。警察で毎年どのぐらいの人間を調べているのと、刑法犯あるいは特別法犯の被疑者として何人ぐらい調べているの、場合によっては任意も含めて、その中でどうなのという話になるべきだと思うんですけど、そうじゃない。それを私、この本の中にも書きましたけど、試算してみると、試算ですよ、〇・三六%ぐらいですよ、裁判員裁判の対象人員というのは。せいぜいそんなものですよ。これよりもっと低い数字を言っている弁護士さんいますよ。さっき言った氷見事件とか鹿児島の志布志事件は対象外ですからね、あれ、明らかに冤罪ですけど、外ですからね。ですから、そういうことで、部分可視化というのは余り意味がないというふうに思います。

さらに、もうちょっと言うと、私たちの場合、意外に思われるかもしれないですけど、私は捜査幹部としては別件逮捕は基本的にやるべきじゃないと、非常に違法性が強いという意識がありましたよ、私自身。だから、そういう指揮をしていました。

でも、最近見ていると、随分何か別件逮捕が多いんじゃないかなという気がして、新聞等の報道見ていると。例えば今市事件ですね、栃木の、この間有罪判決になった今市の事件。あれなんて商標法違反で入っていますでしょう、捜査に。そして、最終的には殺しで逮捕していると、こういうことですからね。別件逮捕も、したがって、商標法違反、今市の事件でいうと商標法違反は対象になりませんからね、これ。ですから、ここから外れますよね。

それとか、もう一つは、いろんな冤罪事件見ていると、大体、私の言い方から言うと、全ての冤罪事件は任意同行から始まる。じゃ、皆さん、任意同行というのは一体全体何だと思われます。刑事訴訟法には書いていませんよ、任意同行なんて言葉。ですから、実際のやり方は、要するに朝早く容疑者の家へ行って、もしもし、ちょっと話聞きたいから来てくれませんかということで、数人の警察官が車に乗せて警察署へ連れてくるんです。行き先は取調べ室ですよ。もちろん逮捕状持っていませんよね、逮捕していません。じゃ、任意ですよね。録画できるんですか、この部分から、本当に。そういう部分あるじゃないですか。

そうすると、その後そこで、私から言わせるとたたき割りというんですけど物すごい取調べが行われる、そこで自供する、逮捕状を取る、執行する、こういうことですね。その次の取調べ辺りからは、それは裁判員裁判であれば取調べ室の録画が始まると、こういうことになりませんかね。そういう事態をどうやって防ぎますかね、これはということですね。

それで、警察には現在も、お読みになった方いらっしゃるかと思うんですけど、取調べの適正に関する規則というのがありますよ、国家公安委規則で。それは、要するに特定の取調べの行為、例えばちょっと読ませていただきますと、やむを得ない場合を除き、身体に接触すること、直接又は間接的に有形力を行使すること、殊更に不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動をすること、これを取調べに、監督行為として取調べ官がやることを禁止しているんですよ。いいですか、禁止しているということは、こういうことがある意味では行われるんだということを警察が認めているということです。これ、生きていますからね、この規則は。

要するに、警察内部でさえ信用していないということになりませんか。ある幹部が、取調べ監督官という役職をつくって、それが、取調べ官が取調べ室で取調べをしているのをのぞき窓から見て監視するというようなことでしょう。物理的にもできませんよ、そんなことは。取調べ監督官なんて数人しかいないでしょう。それを、毎日警察署でやっている取調べの内容をチェックできると思うこと自体がおかしいですよ、それは。こんなもの何の実効性もない、こんな規則は。ですから、そういうことが行われる、こういうことですね。

それから、時間もありませんからあれですけれども、司法取引や刑事免責の問題ですね。これも私は非常に危ないなと思っています。

過去にももう現にこれは取調べ官が取調べ室の中で司法取引やっているわけですから、便宜供与みたいなこととか、あるいはそのほかの利害誘導的な、取調べの中でそういう司法取引的な取調べをやっているわけですよ、これまでも。

私の司法取引の典型的な問題の例を皆さんにお話ししたいと思っているんですけど、それは私が北海道警察の防犯部長のときに、平成の刀狩りと私は言っているんですけど、拳銃摘発キャンペーンがあったんですよ。全国の警察が一斉に拳銃摘発を始めました。国松長官が撃たれたのは平成七年ですから、そのちょっと前から始まっているんですね。そのときに、平成五年に銃刀法を改正しまして、やくざが拳銃と実包を持って出頭してきたときはその刑を免除するという規定を作ったんですよ、平成五年に。これを現場は悪用しました。

どういうことを悪用したかというと、やくざと取引して、おまえ拳銃出せと、警察ではチャカと言います、チャカ出せと。それで、ふだんいろいろエスとして、スパイ、協力者として使っているやくざに働きかけて出させるわけですね。例えば、駅のコインロッカー入れておけと、それで電話せえと、入れたら。それで、電話が来たらそれでもってガサ状取ってコインロッカー、ガサして差し押さえると、こういうこと、これはね。それで、警察はこれ誰が入れたかというのは分かっているわけですから、はっきり。だから、不法所持の被疑者は分かっているわけですよ。だけれども、そこは検挙しない、それで拳銃だけを押収する。これを首なし拳銃というんです。

首なし拳銃の押収が物すごい数になったんです、これ。これは結局、最近はそれほどでも、もう拳銃押収数というのは物すごく当時から、国松さんが撃たれたときの本当に何分の一かしか今はもう摘発できていませんでしょう。そういうことで、それはもうある意味での司法取引なんですよ。

ですから、私は、確かに今度の刑訴法上の司法取引の中に直に警察は出てきませんよ、直にはね。検察がいろいろ証拠提出に、警察に協力される云々ということはあるので間接的なあれだと思うんですけれども、検事と弁護人との間でやられるというわけでしょう。

でも、今の御説明した首なし拳銃と同じで、こういう規定ができたら警察の現場はどんどんこれを使いますよ、知らないところで。そうなります。それ、弁護士さんチェックできますか。検事チェックできますか。この首なしのときはできていないですよ、そんなことは。そういうふうになったらどうするんでしょうかね。そのことは何も書いていない。

時間もありませんけれども、通信傍受についても、私はこれ、本気でこんなことをやる気になっているのと思いましたよ。

それは、例えば何点か申しますと、警視以上が令状請求するとなっているでしょう。逮捕状の請求は警部以上なんですよ。この傍受令状は警視以上になっている。皆さん、覚えていますか。昭和二十八年に刑訴法改正があったんです。このときに、それは誤認逮捕とか違法逮捕がどんどんあったので国会で問題になった。そのときに出てきたのが何かというと、逮捕状の請求は警察にやらせない、検事の許可制にするという話が出てきたんですよ。それで、これは問題だということになって、最終的には結論は、法の方は警部以上の警察官が請求するという規定に変えたんです。昭和二十八年ですよ。

でも、皆さん、誤認逮捕とか冤罪事件、その後幾つもあるじゃないですか。階級が上の者になったから公正な請求が行われるなんてこと、これ幻想ですよ、それは。そういう組織じゃないんです、警察というのは。だから、私は、傍受令状を警視以上に上げ、警部じゃなくて、本当にナンセンスなことだなということだと思います。

そのほか、これ皆さん方から文章、よかったら教えてほしいぐらいですけど、何か今度、傍受を警察施設で、しかも立会人なしでオーケーだということになるんだそうですね。それで、新聞報道見ていたら、何か捜査に関係のない警察官が立ち会うというようなことで、話合いをしてそういうふうになったと。私はいろいろな条文チェックしてみたけど、そんなことどこにも出ていない。だから、単なる話合いだけなんでしょうかね、これ。

それ、本当大丈夫ですか、そんなことで。警察の内部というのを知っていたら、警察官は組織の中で仕事をやっているわけですから、通信傍受の公正性を、ある警察官がほかの部署でやっている捜査についてチェックなんてできませんよ、それは。

○委員長(魚住裕一郎君) 参考人に申し上げます。

時間が超過しておりますので、手短に御発言をおまとめください。

○参考人(原田宏二君) はい、分かりました。

それじゃ、そういうことで、私はそのほかにもたくさん警察の捜査に問題があると思います。今日はもう時間がないのでお話しできませんけれども、そういうことです。その辺を十分御審議をいただいてお考えいただきたいと思います。

どうも長い間ありがとうございました。

○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。

次に、豊崎参考人にお願いいたします。豊崎参考人。

○参考人(豊崎七絵君) 九州大学の豊崎です。

私は、刑事訴訟法を研究してきた者として、また、この度の法案に至る動きについて大きな関心を持ってきた者として、本法案について反対の意見であるということ並びにその理由につきまして率直に申し上げたいと存じます。

結論から申し上げますと、私は、この法案によって取調べやその成果としての供述調書に依存した捜査、公判が改まるということはないし、人権侵害と冤罪の防止が図られるものでもない、その上、合意制度などによる冤罪の危険や盗聴拡大による人権侵害の危険が大きいと考えております。

日本の刑事手続が取調べを中核的なものとして機能してきたということ、つまり取調べ中心主義だという現実についておよそ異論はないと存じます。この度の法改正は、この刑事手続の中核たる取調べ、そしてその成果としての供述調書に依存した捜査、公判の在り方を見直すということで行われるはずのものですから、まずはその前提作業として、このような取調べ中心主義をもたらしてきた原因は何か、究明しなければならないはずです。法制審議会特別部会の審議あるいはその後の国会の審議において、日本においてなぜこれほどまでに取調べが刑事手続において占めるウエートが大きいのかという立法事実に関する基本的な問題について十分な時間を掛け真摯に議論してきたのだろうか、私は大きな疑問を持っております。

日本においてなぜ取調べ中心主義になっているかといえば、それは、取調べのやり方全般が捜査機関の裁量に大きく委ねられているのはもちろん、特に被疑者取調べについては、捜査機関は被疑者が身体拘束されている状態を流用して糾問的な取調べを行うことができるからであります。その根幹的な制度ないし捜査実務は、ほとんどの被疑者が警察の留置施設に収容されているという現状をもたらす代用監獄制度、代用刑事施設制度であり、取調べ受忍義務を前提とした取調べ実務であります。さらに、最大二十三日間にも及ぶ身体拘束期間が取調べを始め捜査のためにフル活用されていること、起訴前保釈制度が欠如していること、被疑者取調べへの弁護人の立会いが捜査実務上認められていないことなどなども取調べ中心主義を支えてきた構成要素です。

このような取調べ中心主義は、被疑者を取調べの客体とし、黙秘権や弁護人の実効的な援助を受ける権利などを十分に保障されていない点でそれ自体問題があるばかりか、被疑者に大きな精神的、肉体的ダメージを与えることにより、虚偽の自白、ひいては冤罪を生み出します。

ここで改めて御確認いただきたいと切実に思いますのは、取調べで明らかな暴行なり脅迫なりが行われたり冤罪であることが氷山の一角として辛うじて幸いにも発覚したりした、そういう事件の、かつ表面だけを見て、日本の刑事手続においてはごく一部の例外的な病理があって、それを解決すれば足りる、そのような考え方でこの法改正に臨むべきではないということであります。

被疑者が最大二十三日間も警察の留置施設で処遇されていること自体、あるいは弁護人の立会いも取調べ拒否も許されず、取調べ官の見込みに合わない被疑者の言い分は全く取り合われず延々と取り調べられていること自体人権侵害であるということが改めて確認されるべきであるところ、法案がその問題にいささかも改革のメスを入れていないというのは、私にとっては本当に驚くべきことです。

逮捕、勾留中の被疑者は、警察の留置施設においてはその日常生活を四六時中支配されることで心理的圧力を受けるのはもちろん、取調べ官によって随意の追及にさらされ続けることで更に心理的圧力を加えられているのです。そのような身体拘束や取調べの現状は、黙秘権、そしてその基礎にある人間の尊厳をないがしろにしているのではないでしょうか。

取調べだけを可視化しても、このような人権侵害の構造や、この人権侵害の構造を発生源とする冤罪の防止を図ることはできません。そもそも、可視化というのは取り調べることを前提に行われるわけですから、これによって取調べ中心主義が直接的に改革されるという筋合いのものではありません。実際、法案の例外事由も、取調べによる供述獲得機能、より率直に言えば自白獲得機能は維持するという理由で設けられているわけです。ここには、取調べにおいてこそ真実を追求することができるという考え方があるように見えます。

しかし、そもそも、近代刑事司法の原則である公判中心主義を前提としたとき、取調べの真相解明機能や刑事政策機能なるものを肯定的、積極的に評価し得るのでしょうか。また、真相解明機能といっても、実際には取調べ官の有罪仮説に沿った供述調書獲得機能と言わざるを得ず、真の意味での事実解明が果たされているとは言えないのではないでしょうか。そうであるからこそ、冤罪は生み出されてきたわけです。

なるほど、それでも、可視化によって取調べの密室化が解消された分、誰が見てもひどい取調べは減り、取調べの適正化が進むように思われるかもしれません。しかし、被疑者が被っている精神的、肉体的ダメージが全て映像や音声として記録されたり簡単に見抜けたりするわけではありません。留置施設での身体拘束や弁護人の取調べでの不在などが被疑者に与えるダメージに思い至らないまま被疑者による自白場面の録音、録画を漫然と視聴し自白の任意性を判断することは、かえって誤りの危険があります。

私は、いわゆる取調べの全面可視化が果たされたとしても、それだけでは今申し上げたような危険があると考えるものであります。つまり、およそ捜査機関は、捜査の秘密というものを重視する、そこでの裁量的なやり方というものを重視する、そういうカルチャーを持つ組織である限り、単に可視化が広がっていくだけではかえって問題は潜伏化すらしていく、そういう危険があるということです。

先日の今市市事件の裁判員裁判との関係でも御指摘があったと思いますが、取調べの部分可視化が果たされれば、可視化がされていない取調べの問題が見えなくなり、そこでたとえ人権侵害や不当な扱いがあったとしても見過ごされがちです。そして、取調べの全過程の可視化が果たされたとしても、今度は取調べ以外のところの問題、例えば留置施設での人権侵害や不当な扱いが見過ごされることになります。いや、たとえ可視化がなされたところでも、被疑者の置かれた苦しい状況に対する洞察力が働かなければ問題は見過ごされることになります。

例えば、取調べが弁護人に、立ち会っていないという事実は、現に見ているというのに、それが被疑者にどれほどのダメージを与えるかという問題は見過ごしているといった危険です。この点、先日の大澤裕参考人は、全てをカバーする録音、録画はあり得ないので、録音、録画というのは非常に有力な手段ではあるが、一つの手段である。つまり、私自身の言葉で言い換えれば、要は万能ではないという趣旨のことをおっしゃっておられました。

しかし、これが、可視化に際限はないから一定のところで打ち切るほかなく、あとは刑事弁護などの運用に問題を投げようというのであれば賛同できません。必要なのは、可視化の範囲は広げつつも、しかし、根本的には、捜査機関の裁量的やり方そのものを直接抑制することによって究極的には可視化自体が不要になることを目指すというような、そういう抜本的な法改正であると考えます。

例えば、留置施設での人権侵害や不当な扱いができない、およそそんなことは問題として発生しないよう代用監獄制度を廃止するということではないでしょうか。また、録音、録画を視聴するだけでは被疑者の被っている精神的、身体的ダメージが気付かれにくいという問題に対しては、そのようなダメージ自体を解消する法改正が必要であると思います。例えば、長期拘禁で被疑者が参ってしまうという問題がおよそ発生しないよう、起訴前保釈を導入すべきではないでしょうか。

繰り返しますが、捜査機関は、捜査の秘密というものを重視する、そこでの裁量的なやり方というものを重視する、そういうカルチャーを持っておりますところ、これに対する不信というものが今回の法改正の動きに至る動機であったはずです。そうであるならば、なぜそのようなカルチャーがますます活用されてしまうような合意制度や通信傍受の拡大といったものが法案に入り込んでいるのか、私には理解できません。

例えば、合意制度について言えば、それ自体引込みの冤罪の危険があるばかりか、日本の遅れた刑事手続の問題と結び付くことによって見えない圧力が被疑者に掛けられるという問題が懸念されます。可視化されていない取調べでの圧力の問題もさることながら、代用監獄に収容された被疑者の場合、警察は事実上の便宜を図ることもできます。

また、証拠収集手段が多様化したからといって、捜査機関がその分取調べをあえて差し控えるようになるような誘因は何も用意されておりません。かえって、例えば傍受した会話を取調べで自白を取るために使うなど、取調べもほかの証拠収集手段も相乗的に活用するという問題も懸念されます。

あるべき法改正は、公判中心主義にかなう刑事手続に向けた抜本的な改革であり、端的に捜査、取調べを抑制することであります。捜査、取調べの可視化は、この抜本的な改革と併せて行うべきであります。私は、法案の問題点をこの度検討することによって、かえって今までよりも一層このことに確信を持ち、それが道理であると考えるに至りましたので、御批判の向きがあるということも承知で、しかし研究者としての良心に懸けて本日の機会に申し上げることにいたしました。

それでは刑事司法の機能を大きく損なうという御懸念に対しては、そういう機能の内容自体問題があるということ、少なくともアプリオリに前提とされるものでないということは既に申し上げました。

以上、法案に反対であるということの理由について述べさせていただきました。

御清聴ありがとうございました。

 

 

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

三人の参考人の皆さん、本当にありがとうございます。

まず、原田参考人にお尋ねをしたいと思うんです。

一つは、先ほど任意同行下のたたき割りについて、とてもじゃないが録音、録画できないというお話がありましたが、どうして録音、録画できないのか、どんな状況なのか。

○参考人(原田宏二君) ちょっと言葉が非常に良くなかったのかもしれませんけれども、要するに、どうしてもそこで自白をさせて逮捕状を取ろうとするわけですね、任同は、当然そこで。しかも、一日いっぱいやるわけにいきませんから、私も基本的には、もうせいぜい任同して取り調べる、例えば朝九時ぐらいに任同を掛けてきて落とすまでの時間というのは、やっぱり数時間ぐらいが限度だと思うんですよ。

例えば、北海道でこういう例がありました。朝九時頃任同をしてきて、それで落とせなくて、夜中の二時半に逮捕したという事件、本当につい最近、数年前の事件ですよ。結局この事件、殺人の容疑です、女性を逮捕した。ところが、二十日、二勾留検事がやって、処分保留で釈放しちゃったんですよ。そして、最終的には嫌疑不十分で起訴できなかったという事件です。その逮捕したときに当然記者発表をやっていますよね、捜査本部で。そうすると、朝やったんです。例えばこの事件なんかは典型的だと僕は思ったんだけれども、要するにもう完全に任意の範囲を超えていると私は思ったんですよ。

ですから、朝九時に任同してきたら、大体それを調べる時間というのは三時間ぐらい、そしてもうそれを落としてすぐ裏付け取って、そして令状請求の資料を集めて、それをまとめて書類を作って裁判官のところに請求書を持っていって審査してもらって発付して、それから執行すると、こういう手続要りますからね。自白させた後、数時間は掛かるんですよ、最低。ですから、そういう時間計算をやっていくと、やっぱりそれはもう本当に時間はないんです、本当は、まともにやろうとすると。だから、当然そこで無理なことを生じるわけですよ。

だから、例えばどんどんどんどん机をたたいてみたり、よくあるんですけれども、書類をばんと相手方に、直接やると暴行だとか何かになるからあれだとか、それから姿勢を、何というんですか、ちょっと下を向くと顔を上げろというようなことを言って、拷問じゃないけど、相手方に一定の姿勢を取らせるとか、そういうようなことがもう当たり前のようにしてやられているんです。

だから、さっき僕が言った、要するに禁止行為って僕言いましたよね、調べ官に今あるよということを。あれなんですよ。そういうことをやっちゃいかぬよということであの規則ができたんですよ。

だから、要するにそういう状態がやられているところを録音できますかということを申し上げたかったんです。

○仁比聡平君 ありがとうございます。是非、今の原田参考人の御発言というのは、会議録だけではなくてこの映像で御覧いただきたいなと改めて思うんですが。

もう一点、原田参考人、先ほど平成の刀狩り、首なし拳銃のお話をされました。私、かつて原田参考人の部下であったんだと思うんですが、稲葉圭昭元警部が書かれている「恥さらし」という本を少し読ませていただきました。ここの中で、ちょっと絞って伺いたいんですが、捜査の協力者をつくって独自に情報を取る、これができなければ刑事としてはやっていけないという先輩の教えで、情報提供者、スパイの頭文字Sを取ってエスと呼ぶ、このエスをたくさんつくることが捜査の基本だと、それを信条としてきた。一方で、警察の仕事にはノルマが付いて回ると。このノルマに届かないと超過勤務手当が付かないといった罰則が、原田参考人の下ではこれはやめさせてきたというお話もありますが、けれども、実際には北海道警始め全国の警察署に、警察に、組織にこれはずっと蔓延しているということ。そうした下で平成の刀狩りが起こるわけですけれども、首なし拳銃の例として、稲葉元警部はこんなふうに書いています。

やくざから私は拳銃を受け取って北見駅に戻り、指紋をきれいに拭き取ってタオルにくるんでから駅のコインロッカーに入れると、その場ですぐに北見署に電話をしました。私は暴力団員です。組を離脱するに当たり、拳銃を一丁、北見駅のロッカーに入れました。北見署から刑事や鑑識が飛んできて、ロッカーから拳銃を押収しました。その姿をいたたまれない気持ちで自分は見ていたと、そうしたくだりがあります。

そうした警察活動の中で、虚偽の調書や捜査報告書を作成してきたということも告白をしておられるわけですけれども、つまり真実とは違う捜査を行うわけですね。当然、令状請求に必要な捜査報告書や録取書を実際の供述とは違うものを虚偽で書いて、それによって令状を取ってガサやあるいは捜査を進めてきたと。しかも、そうした令状の疎明資料というのはこれは公判に出ることはないので、無法が発覚することはなかったと。

これが警察捜査の現実だということでしょうか。

○参考人(原田宏二君) 稲葉は、彼を稲葉君と君付けで呼んだことはないので、ここでも稲葉と言わせてもらいますけれども、かつての部下です。私が機動捜査隊の隊長をやっているときに彼がおりました。その後も、警察署長をやったときも、彼、暴力団担当の係長でおりました。そういうことで、その本書くときも私がいろいろ関与しているんですけれども、彼は、刑務所にいるときもずっと私は文通を続けておりましたので、その当時からそこに書いてあるようなことを私に知らせてきておりました。そういうことで、彼の言っていることは多分本当だというふうに思います。

先ほどノルマの話が出ましたけれども、おっしゃるとおりで、いろんな部分にそれがあります。交通の取締りから、職務質問の数から、盗犯の検挙件数から、それから、はたまた警察官の募集にまでノルマありましたからね。だから、もうあらゆる部門でそういうことがあって、警察は絶対内部ではノルマとは言いません、努力目標と言っています。

そういう数字があるんですけど、私はある程度組織管理やるときに数字があっても、目標があっても、それはいいと思うんですよ。でも、問題は、その数字が合理的に根拠のあるものかということなんですよ。前年対比から何%増やすから前年対比プラス何%、それで、その署の規模に割り振りして数字を下ろす、そういうことですからね、警察の努力目標というのは。そうすると常に右肩上がりでいくじゃないですか、際限なく。そうすると現場は無理するわけですよ。だから、今言った稲葉の事件みたいのが、そういう業務管理の非常にお粗末な、何というのかな、形でやられている。そういう幹部が多過ぎる。

だから、私なんかいたときに、そんなことはやめろよということで、まともな数字でやるぞとやりますね、署長になっていって。どういう結果が出ると思いますか。全道のあった警察署で実績がいつも最下位ですよ。それでもいいんだと。そうしないと現場の刑事の力が付かないんですよ。そんな数字でごまかしたような仕事でオーケーと言う署長がいたら、私はこれはもう大変な問題だと思っています。変な捜査員育てるばっかりじゃないですか、それでは。だから、いいから、数字はいいからと。刑事が働いているかどうかは数字なんて見なくたって分かりますよ、署長やっていると。何で分かると思いますか。毎日留置場を見ていれば分かるんですよ、ホテルのお客さん何人ぐらいいるかと。何もその作られた数字なんて見る必要ないんです。

ですから、要するに数字管理というのはまずいと思いますよ。稲葉の言っているとおりで、おっしゃるとおりで、そういうことが続いているとだんだんだんだん警察もおかしくなるということだと思います。

○仁比聡平君 もう一つ伺いたいんですよ。

その首なし拳銃などの中で、おとり捜査が行われて、ロシア人の男性に対する有罪判決の再審開始決定が三月の三日、札幌地裁が決めたわけですけれども、この決定は、検察側証人がおとり捜査の存在自体を隠蔽するため公判で偽証をしたり内容虚偽の捜査書類を作成したことが明らかとなって、確定判決が有罪認定に用いた各種証拠の証拠能力に関する判断は文字どおり根本から覆ったというふうに言っているんですが、ところが、検察はこの再審開始決定に対して即時抗告しているわけですね。争っているわけです。

何の反省もないと私は思うんですが、参考人はいかがですか。

○参考人(原田宏二君) この事件も稲葉から詳しく私聞いていました。

おっしゃるように、当時これ、事件、さすがに道警も困ってしまって、偽証で捜査員何人かを送致しているんですね。稲葉も送致されているんですけれども、結局起訴になっていないんですよ。もう事件はその偽証の部分もうやむやになったんですね。ですから、あれはまさに警察の捜査の、組織的に、上の方も知っているわけですよ、そういうことだと。

稲葉から言わせると、あの事件は、着手するときにスパイの、外国人なんですけど、スパイ、協力者だった男が逮捕したロシア人船員の間に入って警察とやり取りしているわけです、その協力者が。そうすると、最初の段階で、当然このロシア人を逮捕するときに、そこにいた中古自動車の販売業者である外国人、これがスパイなんですけど、これがいたんですよ、すぐそばに。一緒にそこでやり取りしていたわけです。それをいないことにするという捜査方針を立てたんですよ、上の方で。稲葉は困っちゃったわけですね、どうするんだと。これは、逮捕したらそれは分かるだろうと、当然、スパイがそこにいたと。でも、決定して、それで捜査した。案の定裁判で、逮捕されたロシア人が、いやいや、そのときにこういう人がいたんだということを言い出したわけですけど、それを、いやいや、そんな者はいなかったと。もちろん、おっしゃったように記録は全部偽造ですよ。虚偽内容の報告書を作られているわけです、捜査協力者を消すために。それで、裁判始まったら当然証人に呼ばれますよね。それでみんなでいませんでしたと偽証して、それで有罪判決になっちゃったわけですね。

だから、何というんでしょうかね、その辺の、誰が考えても、後、公判のことを考えたらそういうことできないだろうと。じゃ、どうするんだということを考えないといけないんですけれども、それはどうしても、どうしてもその名前を出せなかった、そういう捜査をしないといけないんですよね、と思いますよ。

○仁比聡平君 私たちが国会議員として受け止めなきゃいけないのは、これは今現在進行形の警察や検察の実態だということなんですよ。

そこで、豊崎参考人に。一昨日の夜にお願いして九州から無理を押して出てきていただいて、本当にありがとうございます。今お聞きいただいた原田参考人の語る警察の現実について、参考人のお考えを伺いたいと思います。

○参考人(豊崎七絵君) 原田参考人のお話を伺って、私もう本当にますますもって、先ほど申し上げた、捜査機関に権限を与えてそれで何か可視化をするというような、中途半端な可視化をするというような、やはりそういう問題ではなくて、そこにメスを入れるにはどうしたらいいのかということをやはり真っ向勝負で考えなければいけないのではないかと思いました。

○仁比聡平君 そうした中で、与党からは、このゴールデンウイーク明けにもこの法案の審議を打ち切って採決をすべきではないかといった発言が出ているんですが、先ほど意見陳述の中で、良心に懸けて、研究者としての良心に懸けてという御発言もありましたけれども、参議院の法務委員会、私ども国会議員に対する要求というものが豊崎参考人からありましたら伺いたいと思います。

○参考人(豊崎七絵君) 私は、先ほども申し上げましたとおり、取調べ中心主義を改革するというのであれば、やはり基本的な立法事実というものを調査していただきたいと思います。今、原田参考人のお話もありましたけれども、私は研究者の立場として、これは私のオリジナルの考え方ではなくて一定の、今日、小木曽参考人という別の立場の研究者の方もいらっしゃいますが、しかし、私のような考え方は、一定の層の研究者として、まさに日本の刑事手続の現状あるいは歴史的な事実として認識してきたものであります。ですから、是非具体的な、先ほど何かパッケージなんというお話もありましたけれども、たくさんいろんなものを与えればそれだけ取調べの比重が減るというのは、私は、非常に端的に申し上げて、空論だというふうに思います。

ですから、その辺りを必ずメスを入れていただいて、冤罪被害者の方々のお話もありましたけれども、是非冤罪の被害者の方々にも応え得るような、そして歴史の評価にも堪え得るような議論をしていただきたいというふうに痛切に思います。

○仁比聡平君 小木曽参考人にお尋ねしたい点が今ちょうど豊崎参考人が指摘をされた部分なんですけれども、冒頭、裁判官や裁判員に録音、録画が実質証拠と受け取られることはあり得ると、そういう意味では部分録画の危険性という見方は増えている、強まっているという御趣旨の認識に立った上で、そうした自己負罪証拠以外の収集が必要と、そこにパッケージの意味があるというふうにおっしゃったんですが、この改定案で物的証拠が収集されるという保証がどこにあるのか。逆に、物的証拠が乏しい事件において一層危険な供述が司法取引や通信傍受によって獲得されることになるのではないか。

このパッケージの意味について伺いたいと思います。

○参考人(小木曽綾君) 警察の現実をどのように評価するのかというのは評価の問題ですので申し上げませんけれども、供述に依存しないというのは、およそあらゆる証拠として、捜査情報として供述を利用しないということではなかったはずだと思います。被疑者に捜査機関に迎合した供述をさせることの危険性が指摘されて今回の法案になっているのだろうと思います。

例えば通信傍受ですけれども、今この瞬間にもというお話でしたけれども、例えばこの瞬間にも振り込め詐欺の被害に遭っている方々はいらっしゃるわけで、それは通信傍受の今対象にはなっていない、こういう部分にどうやって対処するのかということを考えなければいけないのだろうと思います。

ですから、法案としては、個別事情、極端な事例にも対処できるようなことも視野に入れつつ、しかし全体としてどうであるのかということを考えて法案というのはできないといけないのではないかというふうに考えます。

○委員長(魚住裕一郎君) 時間ですが。

○仁比聡平君 捜査上の必要性を強調されただけで、なぜ物的証拠を集めること、収集することができるようになるとおっしゃるのかという私の問いに対してはお答えになれなかったと私は受け止めます。

終わります。