○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

憲法四十一条は国会が国権の最高機関であることを定めています。議院内閣制は立法府と行政府の抑制と均衡、協働を求める、その意味で高度のバランスを求める統治機構ですが、仮に立法府が一院制であるなら、第一院を構成する多数党がそのまま内閣を組織し、対する第二院のチェック機能もなくなって、肥大化する行政権力、官僚制の弊害はますますひどくなります。

憲法が二院制を定めた理由について、憲法制定期の松本烝治説明書は、当初総司令部案にあった一院制ではなく、あえて二院制を採用すべきとした日本案の理由をこう述べています。世界各国の例に倣うとか、貴族院の伝統を墨守するといった横並び、後ろ向きのものからではなく、不当なる多数圧制の抑止と行き過ぎたる偏奇、偏りの制止にあるというのです。すなわち、議会政治はややもすれば多数党の専制を生じ、その政策は時には一党の利害に専念する弊害があることは従来幾多の実例が示すところであり、二院制を採用すれば、衆議院多数派の横暴なる提案はある程度参議院においてこれを抑止し得るだけでなく、こうした抑制機関の存在自体が多数党をしてもとよりその横暴を戒める機能を生み出すことになるというのです。これは今日においても示唆に富むものだと考えます。

こうした二院制を含む統治機構を憲法が定めた根本には、戦争と戦争を遂行した強権国家体制に対する深い痛恨の反省があります。基本的人権の保障、国民主権と地方自治、そして平和主義を生き生きと発展させ、三権分立と議院内閣制を国民主権の下に十全に機能させるには、全国民の代表として、国権の最高機関であり、唯一の立法機関である国会が、国政調査権の行使、議員の質問権を十分に保障した国会審議によって強大な行政権力を監視する重大な任務をしっかり果たしていくこと、そして衆参両院がそれぞれ多様な民意を反映する選挙制度によって選ばれた議員で構成されることが重要であり、それが憲法の求めるところです。憲法が参議院を直接選挙、普通選挙によって選出された国民代表である議員によって組織するものとし、法律案再議決要件を特別多数決としているのはその表れであり、揺るがすことはできません。

参議院の在り方と題する議論は、実際には、参議院のありようではなく、統治機構をめぐる改憲論の中で、総じて国会の権能、機能を弱める、切り縮める方向の議論の中で行われてきました。

例えば、参議院の独自性が発揮されるときは立法機関の効率性が阻害されるとか、衆議院で単独過半数を取っても参議院でそうではないときに議会対策上の都合で連立を組まなければならなくなるとか、政権交代効果が阻害されるなどの一院制論あるいは参議院無用論、有害論が、とりわけ財界から法案を早く成立させよと唱えられてきました。しかし、これは憲法が本来求める三権分立と議院内閣制の在り方を壊し、まさに不当なる多数圧制による行き過ぎた偏奇をもたらすものです。

現実に提案される法案が憲法に照らし国民と国の進路にとってどういう意味を持つのか。現に重大な権利侵害や生活破壊、平和主義の侵害が法律によって行われてきた幾多の経験、また行われ得ることを直視するなら、憲法上重要なのは法案成立の効率性ではなく、民主主義の府として徹底した審議を十分に尽くし、国民的な議論の意思形成の要となること、すなわち審議の原理が尽くされることです。

衆議院において国民的非難と大混乱の中で強行採決が行われ、それを参議院が良識を持って再考する大きな役割を果たした幾つかの経験がありますが、それは二院制の本来の姿を示すものでした。二院制のこうした役割が発揮されるためには、衆議院、参議院それぞれが国権の最高機関として自律性を発揮し、徹底した審議を尽くさねばなりません。参議院の役割分担、機能分担といって、憲法が定める院の権限を切り縮める議論は取るべきではありません。

まして、昨年の臨時国会でも前の通常国会でも繰り返された衆議院の強行採決、参議院における強行審議入りと、極めて不十分、不公正な審議をも打ち切っての強行採決は参議院の自殺行為であり、もってのほかと言うべきであって、二度と繰り返されてはならないということを強く申し上げ、私の意見といたします。