【16.04.19.】法務委員会『参考人質疑、部分録画は新たな冤罪を生み出す』

190回国会質問 国会質問一覧

○参考人(小池振一郎君) 弁護士の小池と申します。

このような機会をいただきまして、ありがとうございます。

私は、日弁連の中で監獄法改正等、様々な活動をしてまいりました。主に刑事関連の委員会で活動してきましたけれども、今回は、この法案につきましては日弁連とは反対の立場で意見を述べさせていただきたいと思います。

先日、今市の事件判決がありましたけれども、これは各方面に衝撃を与えました。商標法違反という別件逮捕から始まった事件ですが、その別件起訴された日に検事取調べで初めて自白したと、殺害を自白したと言われております。しかし、その過程は録画されていません。それまでに警察での取調べがあったと思われますが、録画されていません。その後も、殺していないと言ったら平手打ちをされて、額を壁にぶつけてけがをしたと、こういう場面が警察の取調べであったようですけれども、これも録画されていません。殺してごめんなさいと五十回言わされたとか、自白すれば刑が軽くなると、こう言って取り調べられた場面は録画されていません。被告人は、死刑になるよりも、少しでも軽い罰を受けるという選択をして自白をしたものと思われます。

別件逮捕から本件殺人での起訴まで五か月間ずっと代用監獄に収容され、取り調べられています。起訴後も一か月半たってようやく拘置所に移されました。

裁判員裁判の法廷では取調べの録画が再生されました。約八十時間の警察、検察の取調べ録画を七時間余りに編集したものです。判決は被告人に無期懲役を言い渡しました。客観的事実のみからは被告人の犯人性を認定することはできないと断定し、自白供述をよりどころにして犯人性を認定しています。判決後の記者会見で裁判員が、録音、録画がなければ判断できなかった、録画を見なければ違う結論になったかもしれないと正直に述べています。自白の重要な部分で客観的事実と矛盾するところが随所にあったようですけれども、客観的証拠ではなくて、取調べの録画で有罪の心証を取ったわけです。

判決は、自白は実際に体験しなければ語れない具体性に富んでいるとして自白供述の信用性を認めていますが、これは大体常套文句ですね。犯人でないと分からないとされる事実も、裏で捜査官が教えれば難なく具体的な供述はできるのです。さらに、捜査官に迎合するために想像をたくましくして一生懸命創作することもしょっちゅうあります。隣の桜井さんは、自らそういう形で想像しながら自白供述をしたというふうに聞いております。

パソコン事件では、逮捕された無実の四人のうち二人が自白しました。今回の法案作成のきっかけとなった郵便不正事件では、調べられた十人のうち、村木さんを含めて十人調べられているんですが、そのうちの五人が村木さんの関与を認めているんです。全て真っ赤なうそなんですね。約五〇%、半分が、無実であるにもかかわらず、自白を強要されれば、あるいは捜査官の筋書に沿った供述を強要されれば、その場の苦しさから逃れようとして半分の人が大体取調べ官に迎合した供述をする、それほど取調べはきついものだということを認識していただきたいというふうに思います。

取調べで屈服させて人格を丸ごと支配し、代用監獄で二十四時間監視し、そして自白を強要する、そこは録画しないで、想像も交えながら身ぶり手ぶりで具体的に言われたとおりの供述をする場面は録画する、そして、その部分だけが証拠提出されて、裁判員たちがその録画で、うん、なるほど、身ぶり手ぶりで真実性があるということで、そこで心証を取る、これはたまったものではありません。ビデオが視聴覚に訴える力は圧倒的に強いものです。捜査側に都合のいいところだけ一部録画されていると分かっていても影響されます。

今市判決は、七時間余りの録画を見て有罪としたのです。取調べの録画がこのような使われ方をしていいのでしょうか。法案が成立するとどうなるかと。今市のこのような事態が改善されるのでしょうか。

まず、商標法違反というものは裁判員裁判の対象事件ではありませんから、法案が成立しても録画の対象にはなりません。別件逮捕による取調べは録画なしで行われます。本件の殺人での取調べは法案では原則録画しなければならないという建前になっています。しかし、自白を強要する場面は実は録画しないで、屈服させた後、犯行内容を淡々と語る場面を録画して自白調書を取るおそれがないと言えるでしょうか。

法案では、その自白調書を証拠請求し任意性が争われると、その取調べの録画を証拠申請しなければなりません。そうしなければ自白調書の証拠請求が却下されます。しかし、その自白調書というのは、調書が作成されたときの取調べの録画だけを証拠請求すればいいんです。最初から最後まで、何日も、百日も掛かるその取調べの、今市でいうとそういうぐらい取り調べられているんですが、その全部の録画がなくても、当該の自白調書、その一つの回の午前中なら午前中、午後なら午後だけかもしれません、その取調べのときの自白調書を証拠申請するときにはそのときの録画だけ申請すればいいと。まさにこれでは尻抜けということになるのではないでしょうか。

法案の建前は、そうはいっても、全過程可視化を原則としておりますから、録画する義務は一応あるわけです。しかし、自白に至るまでの録画がなくてもペナルティーがないんですね、それを録画しなくても。ペナルティーがないわけです。

先日のここでの討論で政府答弁がありました。そういった場合には懲戒の対象になる、全過程録画しない場合には懲戒の対象になるという政府答弁がありましたけれども、これは対象になるというだけであって、実際に懲戒するかどうかは疑わしいし、刑事訴訟法の手続でも何でもないわけです。これでは全過程可視化義務付けといっても名ばかりで、実際は部分可視化を容認するという抜け穴だらけだということが言えると思います。

それから、法案では全過程可視化の例外規定を幾つも設けています。可視化すれば自白が得られそうにないというふうに取調べ官が認めた場合には録音、録画しなくていいという例外規定なのです。これが活用されますと、要するに、自白しそうにないときは録画しない、自白しそうなときは録画するという、単に仕分するだけであって、例外規定でも何でもないというふうに思います。

このような形で取調べ官が例外規定に当たるというふうな形で録画しなかったというふうになれば、今度はそのときの自白調書を証拠申請しても、録画がなくてもオーケーということになるわけです。法案は部分可視化を容認する役割を果たしています。

今市事件のように、自白に至るまでは録画しないで犯行内容や心境を語らせる場面を録画して、その部分録画が証拠として採用され、裁判の心証がそこで取られるということは、法廷ではなくて、弁護人の立会いもない密室での取調べの録画で裁判の心証が取られるということであります。これはおよそ公判中心主義とは言えません。公判中心主義の裁判とは言えません。

したがって、元々この取調べの録音、録画というものは、これは公訴事実を直接証明するための実質証拠として採用されることには疑問がありました。余り提出されませんでした。ところが、昨年の二月十二日、最高検依命通知で、録音、録画を有罪立証の実質証拠として検討するようにとの方針を出しました。

法案は、自白調書を証拠申請する以上、その任意性が争われれば、そのときの録音、録画を証拠申請しなければならないとされていますから、一応義務として録音、録画が証拠申請されることになるわけです。ビデオ録画の恐ろしさというものは先ほど指摘したとおりなんですけれども、自白調書の任意性判断という名の下で、義務としてビデオ録画が堂々と証拠採用される。これがどんどんどんどん増えていくということになれば、事実上、これで裁判員たち、裁判官も含めて心証を取ることになりますので、実質的証拠として機能するだろうと思います。

法案は、今市事件のやり方を更に前に推し進める役割を果たします。捜査段階ではなくて公判廷で心証を取る近代刑事司法にしようということで裁判員裁判が始まったはずなのに、法案は、ビデオ録画を法廷に次々と証拠提出することによって公判中心主義の破壊に道を開くものであり、捜査段階の取調べに依存する方向への逆戻りになるわけであります。それを促進していることになると思います。

先ほどの最高検依命通知は、法制審答申が出された後、法案が国会に提出される直前に出されました。ビデオ録画が裁判員裁判でこのように任意性立証のためだけでなく実質証拠としても使えると、そういう方向がどんどん進んでいけば、本当にこの刑事司法というものはどうなるかということで、大変なことになるだろうと思います。

恐らく、この法案を推進してきた人たちも、ビデオ録画がこのような形で使用されるとは想定していなかったんではないでしょうか。全過程可視化が現実に実現することが前提でこの法案を推進してきたと思いますが、実際には抜け穴だらけのこの法案が成立しても、むしろ悪くなるだけだというふうに思います。一歩前進どころか、むしろ改悪になるというふうに言わざるを得ません。

次に、司法取引です。

余り時間がなくなりましたのではしょりますけれども、これまでも司法取引は事実上ありました。司法取引が合法化されれば、不起訴になるという確実な保証が得られますから、他人について捜査官の期待に沿うように供述しようというインセンティブがより強く働くでしょう。冤罪が格段に増えると思います。会社や労働組合の団体が狙われます。下っ端を捕まえて司法取引してトップを捕まえるということがこのシステムでできるわけです。

弁護人の同意が必要だとされていますけれども、弁護人は、その共犯者の事件について、何が真相かということについても、そのターゲットとされる事件については証拠開示されませんから、真相が分からないわけです。弁護人は依頼者の利益のために取引に応じざるを得ず、その依頼者が言っていることはどうかなと思っても、不本意ながら冤罪に加担するおそれが出てきます。

自らが有利な取扱いを受けるために他人を罪に陥れる危険がこの司法取引制度には内在していると言わざるを得ません。法案で司法取引を合法化することになりますと、事実上、今まで行われていた裏取引というものも無感覚になって、ますます増えるということになると思います。

アメリカでは合法とされている司法取引ですけれども、実際は裏取引で行われるというケースが八〇%ぐらいあると言われています。司法取引というのは表と裏で相乗作用を起こし、密告社会をつくっていくことになりかねません。

終わりに、刑事訴訟法というものは国の根幹に関わる法律です。政局やメンツに左右されず。強行採決するような性格の法律ではありません。そんなことをすれば世界中の恥さらしになると思います。今市事件をきっかけにこのビデオ部分録画の危険性というものが明らかになった以上、改めてこの法案を一から見直すべきだというふうに思います。

以上です。ありがとうございました。

 

○参考人(桜井昌司君) 布川事件という冤罪事件を体験しました桜井と申します。衆議院の法務委員会に続きまして、参議院の方にもお呼びいただきまして、ありがとうございます。

昨年の六月の当時と私たちの危機感は全く違います。今、小池先生がおっしゃったように、今市事件の結果は、五十年前の私たちと同じように、この刑訴法改正の部分可視化によってますます冤罪をつくるものという確信になりました。今日は、鹿児島の志布志事件の川畑幸夫さん、そして栃木の足利の菅家利和さん、東京で築地警察署公妨事件、冤罪事件の二本松進さんが同じ危機感を持ってこの会場に来ています。

先日、私たち冤罪被害者は法務委員会の皆さんに文書をお届けしましたけれども、お読みいただいたでしょうか。私たち、あの事件に名を連ねました東電OL殺人事件のゴビンダさん、志布志事件の藤山さん、袴田事件の袴田秀子さん、そして氷見事件の柳原さん、痴漢冤罪事件の矢田部さん、石田さん、そして、新しく冤罪の仲間となったといいますか、大阪東住吉事件の青木さん、あるいは鹿児島のレイプ事件、天文館レイプ事件の岩元さん、全てが同じようにこの刑事訴訟法の一部改正に危機感を持っています。

私たちが反対しますのは、簡単なんですね。委員の皆さんやそして国民の多くの皆さんと違うのは、私たちは体験として警察の悪辣さを知っているということなんですね。河津先生、大澤先生のお話を聞いて、五十年前が懐かしいなと思いましたね。私も警察は信じていました。多分、ここにいらっしゃる川畑さんも菅家さんも二本松さんも同じだったと思います。こういう冤罪にならないと、警察がどんなひどいことをするということが分からないんですね。残念ながら、警察は証拠を捏造します。証拠を改ざんします。

平岡義博さんという科学者がいらっしゃいます。科捜研に勤めていらっしゃいまして、今は退職して、日本でも始まりましたイノセンス・プロジェクトの一員として活動されています。この方が「法律家のための科学捜査ガイド」という本を書きました。科捜研に勤める者が警察からどんな圧力を受けて科学的事実をねじ曲げてしまうのか、率直に書かれています。

元北海道警の原田宏二さんは「警察捜査の正体」として、本を書かれました。警察が真実を離れて、正義を離れて、どんなあくどいことをするかということを御自身の体験に重ねて書かれているんですね。

私は、このような警察に全面可視化を義務付けるのではなくて、捜査官の裁量によって録画しなくてもよいというような可視化法案を与えて、まともな可視化すると思えないんですよ。あり得ません。

今、小池先生がおっしゃったように、今市事件では、裁判員の方が何か映像を見て、動揺しているとか泣いているとか笑っているとか、そういう映像が非常に犯人として理解できたとおっしゃっていますけれども、無実の人が取調べを受けて、その苦痛に負けて人殺しの罪を認めるんですよ。その意に反した殺人事件の自白をするのに泣かないはずないじゃないですか。動揺しないはずないじゃないですか。当然のことなんです。そのような映像を見て、なぜ犯人と確信できるんでしょうか。

事の本質は、その動揺するに至った、泣くに至ったその取調べそのものだと思うのに、それが映像されない、今度のような一部可視化法案で本当に冤罪が防げるんでしょうか。私たちは、全くそう思われる委員の方たちの心根が理解できません。

先日、ここでも仁比さんが、法務省にいられる検察官の林眞琴さんという方に、布川事件の録音テープがあるから聞いてみたらとおっしゃってくださいましたね。そうしたら、何か林さんは、プライバシーだとか言って出さないとかおっしゃっていましたね。私たち、本当に何聞いてくださっても、今更プライバシーなんてありませんので、是非議員の皆さん、聞いていただきたいんですよね。菅家さんも多分、聞かれて困るようなプライバシーないと思います、今更。

私の自白テープと言われるものを聞いていただければ分かりますけど、私、当時二十歳でしたけれども、警察におまえが犯人だ、おまえと杉山だ、見た人がある、認めないと死刑だ、朝から晩まで責められて、うそ発見器に掛けられて心が折れました。そして、心ならずもやったとうその自白をしてしまいました。

うその自白をするんですから、それは明るい声じゃしゃべれないですよね、もちろん。淡々と暗い声でしゃべっていますよ。私自身が聞いても、あの録音テープを聞くと、これなかなか迫真性があるなと思うんですよね。多分、今委員の皆さんがお聞きになっても、あれ、桜井ってこれ犯人じゃないか、もしかしたら誤解されるかもしれません。そういう中身ができるんですね、誰でも。それに今度は映像が付いて、その泣いたり動揺したりというそこに至る映像が撮られなくて、果たして本当に冤罪が防げるんでしょうか。犯人だとだまされなくて済むんでしょうか。

私、今市事件のあの裁判員の方たちのコメントを聞くまでは、この裁判員制度というものに期待しましたし、一部とはいえ録画することによって真相を分かってくれる人がいるんじゃないかと期待しましたけど、全く無駄だということが分かりました。残念ながら、河津先生や大澤先生がおっしゃるような第一歩にはなりません。その第一歩は、多分たくさんの冤罪事件がつくられる第一歩になるだろうと私たちは確信しています。

可視化の問題というのは、検察庁ではなくて警察が問題です。警察が殴ったり蹴ったり脅したりうそを言ったり、身体的、精神的に苦痛を与えてうその自白をさせるわけですけれども、その苦痛を映像にしないで、なぜ犯人として自白できるのか、あるいは犯人として語れるのかは明らかにできないと思うんですよね。検察庁の可視化というのは、私たち余り問題にしていません。警察が全てを可視化されれば、冤罪は格段に防げるだろうと思っています。そのことを是非委員の皆さんには御理解くださって、是非是非私たちの録音を聞いていただきたいと思います。どんなに一部可視化というものが危険か、お分かりいただけると思います。

費用とかいろんな面があってといいますか、現実性があってと先ほど大澤先生もおっしゃっていましたけれども、冤罪の苦痛と困難、苦難というのは、罪の重さではありません。痴漢冤罪事件、僅かな微罪でも人生が狂ったり家庭が崩壊したり、本当に人生そのものを失ったりするんですね。私たちは、決して重い事件だけが冤罪仲間じゃないですし、苦しんでいると思っていません。私たちは全ての冤罪事件を可視化してほしいと思っています。

先日のこちらの審議会の議事録を拝見しましたら、可視化に掛かる機械の費用とか、何人かの方が質問なさっていましたけれども、衆議院でも申し上げましたけれども、可視化の問題というのは、全てをまず現実的に始めようとしたらICレコーダーでもいいわけですよね。アメリカでは既にボディーカメラの装着というものまで進んでいます。なぜ日本では全面可視化すら実現できないんでしょうか。警察の言うがままに、あるいは検察の言うがままに、こんな不完全な一部可視化になってしまうんでしょうか。私は、委員の皆さんに、是非冤罪をなくすために、全面可視化となる方向に示したこの法案の改正、修正、必ず必ずしていただきたいと願っています。

私たちは、この一部可視化の代わりのように、引換えのようにして他人を冤罪に引き込む司法取引には全く反対です。これも一定の、何というんですか、方向性が期待できる、あるいは偽証があると大澤先生おっしゃいましたけど、検察官が偽証として捉えるのは、裁判で問題になるのは、きっとあの人が犯人だよといったのが、いや違うよといったケースしかないんですよね。検察官に迎合したのを否定したときにしかこの偽証罪は使われないんですよ。今までもそうじゃないですか。たくさんの冤罪事件の中で、たまたま真相を告白しようとした警察官がどんな苦難な生活を送ったか、静岡県の事件で、先生方、御存じないでしょうか。

私たちは、残念ながら、警察の悪辣さを知ってしまったために警察を信用するという気持ちになれません。警察官の立会いで盗聴を防ぐなどという、このような修正ができ上がること自体信じられません。

そして、この司法取引の修正が、検察官がと書いてあるんですね。司法警察員はないんですけど、これはどうしてなんでしょうか。司法取引が警察でつくられて、検察官のところまで行ったらどうなるんでしょうか。

そして、合意のための協議の際に弁護人が常時関与することとしたということが一定の歯止めになるとおっしゃいましたけれども、取調べそのものに立ち会えるんでしょうか。弁護士のいないところで検察官と調べられる者が一定の合意の話をして、さあ、その後、弁護士さんが来てくださいといって、果たして冤罪を防ぐ司法取引は防げるんでしょうか。全く夢物語のようにしか私たちは思えません。

この法廷で、やっぱり仁比さんが戦後における冤罪事件の統計をと言ったら、林眞琴検察官じゃなくて、あの人、刑事局長ですかね、あの方は、統計を取っていませんとおっしゃいましたね。冤罪事件をつくっている、つくってしまったという認識は法務省にあるんでしょうか。警察にあるんでしょうか。検察庁にあるんでしょうか。

裁判所は、立法府である国会が冤罪事件の検証や検討をしようとすると、司法への干渉であるなどと言ってかたくなに拒否されます。そうなんでしょうか。三権分立の立法府として、国民の代表として、警察や検察、裁判所を監視されることは皆さんの重要な職責の一つじゃないんでしょうか。今まで何件もの死刑事件、無期事件、たくさんの冤罪仲間が苦しんできたのに、立法府では一度たりともその検証をしたことがありません。これが国民の代表の立法府の姿なんでしょうか。私たちは非常に暗たんたる思いでいます。どれだけ多くの仲間が冤罪に苦しんだら、冤罪をなくす手だてを国会の方たちは考えてくださるんでしょうか。どれだけ国民が冤罪に苦しんだら、立法府は民主主義の最高の立場として冤罪を防ぐ法律を作ってくださるんでしょうか。

私たち冤罪者は、ただ冤罪をなくしてほしいと願っているだけなんです。良識の府と言われる参議院、どうか強行採決などなさらないで、問題点を十分審議くださって、私たちの、冤罪者の思いに応える法律にしていただきたいと思います。心から心から心からお願いしまして、私の発言とさせていただきます。

ありがとうございました。

 

 

 

○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

四人の皆さん、本当に今日はありがとうございます。

前回の対政府質疑のときに、私、今日お招きをした桜井参考人の実際の姿を見ていただければ、なぜこの人がうその自白をしたのか、これほど気の強い人がと皆さん思われるに違いないと申し上げたんですが、どのようにお感じでしょうか。

その桜井参考人にできるだけ端的に伺いたいんですけれども、つまり、人はなぜうその自白をするのか、させられてしまうのかということなんです。先ほど御自身のお話の中で、心を折られてしまったという、つまり、小池参考人の言葉でいう屈服させられる、精神的に支配される、そうした言葉を使われたわけですけれども、よほどのことがない限り人間はそのような状況には陥らないんですね。まして、やってもいないことを詳細に迫真的に語るなんというようなことはできません。ところが、数々の冤罪事件でそうしたうその自白がさもあったかのように行われているわけですね。

そこで、今日おいでいただいている、傍聴席におられますが、あの志布志事件の冤罪被害者の皆さんなどは、任意同行という形で多数の方々が警察の取調べ室に呼ばれて、元々完全に食い違っている供述、これが完全に一致させられていくという、警察の筋書に沿ったたたき割りという取調べが行われました。ところが、前回の対政府質疑で林刑事局長は、この任意同行中の取調べというのは、身柄拘束をされていないから、だからこの取調べの録音、録画の対象にはなりませんとはっきりさせて、何しろ任意なんですから、いつでもお帰りいただけるとおっしゃったんですね。この任意同行という実態はどういうものなのかということが一つ。

ここに併せて、代用監獄というのがあります。代用監獄で警察の留置の下に置かれたときに、例えば北九州の引野口事件という冤罪事件がありますが、留置場の中で密告者となった同房者からも働きかけられる、その同房者を警察が取調べをして供述調書を作っていくというみたいな汚いことも行われる。そんなことも含めて身柄がずっと拘束され続けるわけですね、支配され続ける、二十四時間丸ごと、それがいつまで続くか分からないと。

もう一つの要素として、桜井さんのお話にもありましたが、客観的証拠の捏造という問題があります。例えば志布志事件でも、お話の中に触れられた氷見事件でも、客観的に存在するアリバイが否定をされたり、あるいはアリバイ証拠を警察はつかんでいたにもかかわらず、それをなかったことにして自白を迫る、そうしたことを行ってきましたし、足利事件、菅家さんの事件では、DNA鑑定が完全に誤っている、その鑑定が示されたことが自白のきっかけになったというふうにも言われているわけですね。

こうした、なぜ人は自白させられてしまうのかということについて、桜井さんがこれまでの取組の中でお感じになっていることがあればお聞かせください。

○参考人(桜井昌司君) 私自身もこういう立場になるまでは、うその自白があるとは思わなかったんですね。でも、実際に警察の留置場に入ってみますと、全ての時間は管理されます。当時はトイレも中にありませんでしたので、一々お願いして表へ出ていくとか、もちろん御飯、食べ物も、留置場の弁当ってほんの少ししかなくて、何か買ってほしいと言っても、それはおまえ、魚心あれば水心だと言って買ってくれませんよね。

まず、逮捕されて全裸にされます。その全裸にする立場とされる立場の圧倒的な違いの中で、おまえが殺人犯だ、人を殺したと言われることがつらいんですよ。よく皆さんに話すんですけれども、夫婦げんかしたり何かとけんかしたら逃げる場所があるじゃないですか。狭い部屋で、おまえだ、違うというこの精神的な争いをすること自体がもう人間は疲れるんですよ。

私、今市事件で思ったんですけれども、あの人の一日の取調べを映像でないものだろうかと。一日、朝の八時頃から夜中の十二時頃まで、おまえだ、おまえだ、おまえだと言われる苦しさ、想像できないんでしょうかね。そのときに私はうそ発見器に掛けられて、おまえと出てしまった、逃れられないよと言われた瞬間にぼきっと折れちゃったんですね。これはしようがない、死刑にされたら困るというような気持ちになってしまった。あれは、本当にあの中で、時間も全て管理されているあの中で、時間を失う中で責められる痛みというのを分からない限り、一生理解してもらえない部分はあるんですかね、やっぱり。

私はいろんな冤罪事件を知っていますけれども、やっぱりそれぞれ、菅家さんは殴られたと言っていますよね。東住吉事件は、やっぱり夫とされた人の娘さんに対する暴行事件があって、それで何というかな、がっかりしてしまったとかありますよね、いろいろ聞いて。

ですから、それぞれの事件いろいろあるんですけれども、やっぱり警察の朝から晩まで続く肉体的、精神的痛みというのは経験しなくちゃ分からないといいますかね。私自身、今警察官になったら、きっと先生方、一週間あれば自白させてみせるかもしれませんね。谷先生と丸山先生はちょっと柔道が強いらしいので無理かもしれませんけれども。

○仁比聡平君 ありがとうございます。

人がなぜ自白をさせられてしまうのかというここの心理というのは、私たちの委員会でもよく検討する必要がある、徹底して審議する必要があると思うんですね。

その上で、小池参考人にちょっと改めて確認なんですけれども、今回の法案が対象事件については全過程の録音、録画が義務付けられていると、政府はそう説明しますし、今日、大澤参考人、河津参考人も基本的にそういう御説明をされていると思うんですけれども、本当にそうかと。私は、対象事件が絞られているだけではなくて、その対象事件の捜査、起訴、そして裁判に至るプロセスで全ての取調べは録音、録画されないではないか、つまり、小池参考人のおっしゃる意味での部分録音、録画ではないかということを前回の対政府質疑で明らかにしたつもりなんですけれども。任意同行それから別件逮捕、別件起訴ですね、この起訴後勾留を利用しての取調べというのは取調べの録音、録画の義務化をされるのか、その上で録音、録画が必ずされるのか、それともされないものがあるのか、そこについての小池参考人なりの整理をお聞かせいただきたいと思うんです。

○参考人(小池振一郎君) 私は、先ほどからずっと言っていますけれども、この法案が成立しても全過程が可視化されることはないだろうというふうに思います。もちろん、全ての事件でそうだと言っているわけじゃないんです。自白して問題のないケースの方が圧倒的に多いんですよ。そういうのは、取調べってそんなに多くもないし、どうってことないんです。

問題は、今市のような事件、厳しい事件について、もう世間が注目して警察に対する圧力が物すごく掛かるときにどうするかということなんです。そのときに、全過程本当に録画して自白を徹底的に迫るということが、警察やるだろうか。やらないと思います。録画のないところで自白を強要するだろうというふうに思います。

先ほど大澤参考人が、そういう場合には、全過程可視化が原則なんだから、そこの録画がないということになれば、もうそこで任意性の問題で弁護側が結構有利になるじゃないかというお話がありました。しかし、取調べの記録によって、このとき取調べしたけれども録画がないという場合には何でないんだという話になるんですけれども、実際には、取調べのそういうしたという記録もしないで、全く別枠で、録画なしで脅迫したり利益誘導したりするということは十分考えられるだろうというふうに思います。その立証って物すごく難しいです。幾ら被疑者、被告人がそのときやられたと言っても、水掛け論になるだろうと思います。

もう一つ、仮にそういう記録があって、このとき取り調べたはずなのに録画がないでないかというふうに言われたとき、じゃ、どうしようもないかというと、いや、まさに例外規定があって、そのときは録画すれば自白しそうにない、こういう例外規定に当たるから取り調べなかったんだというふうに言えばまた免れると。幾らでも抜け道をつくっているのがこの法案であって、そういう法案であれば、あるよりもない方がいい。その法案があることによって、どんどん録画が法廷に出されることによって実質証拠的に使われて、公判中心主義が形骸化してしまうというふうに思います。

○仁比聡平君 私も、前回明らかにしたとおり、全ての取調べは対象にはならないと思うんですね。

ちょっと先に、弁護士同士で河津参考人にお尋ねしたいと思うんですが、冒頭の意見陳述で初期供述の危険性と重要性、その事後検証としての客観的記録の重要性ということを出発点としてお語りになったんですね。今市事件や今回の法案は、つまりその初期供述の録音、録画はやらないということを可能にするものではないのかということを私、提起しているんです。

その下で、先ほど来、小池参考人が紹介をされている二〇一五年の二月十二日付けの最高検の依命通知、これはつまり、取調べの録音、録画を行った場合の供述証拠による立証の在り方についてとした通知なんですが、恐らくお読みになったことあるんだと思うんです。ここで何と言っているかというと、被告人の捜査段階における供述による立証が必要となった場合には、事案によっては、より効果的な立証という観点から、被疑者供述を録音、録画した記録媒体を実質証拠として請求することを検討する、事案の内容、証拠関係、被疑者供述の内容等によっては、当初から記録媒体を同項に基づいて実質証拠として請求することを目的として録音、録画を行っても差し支えないと述べているわけですね。

つまり、この供述を、この取調べを先々、有罪立証の証拠として使うために録音、録画をするということを方針にしているわけですが、そうした方針の下で部分録画が行われるとなれば、これは捜査側の恣意的な濫用のおそれというのは強いんじゃありませんか。

○参考人(河津博史君) 仮に実質証拠、有罪立証にするためだけに録音、録画を行い、ほかの部分で録音、録画をせずにその証拠で人を有罪にするということについては、御指摘のとおり大きな危険があると思います。

○仁比聡平君 この法案でそうならないという保証がありますか。

○参考人(河津博史君) この法律案は、少なくとも対象事件の身柄事件については全過程を録音、録画することを原則として定めているということは、通常の法文の読み方をすれば明らかであると私は理解をしております。したがいまして、御指摘は必ずしも当たらないと私は考えております。

○仁比聡平君 先ほど来、河津参考人やそれから大澤参考人から、この法案はこれこれと読むべきである、あるいはこのように運用されるべきである、あるいは捜査側がこのように運用するであろうと、そうした御発言があって、その一つ一つはそれぞれ御見識に基づくものだと私も受け止めるんです。

ですが、この法案を、まず立法者意思を持ち、明らかにし、まず運用するのは捜査機関なんですね。その捜査機関が、例えば先ほどのお話であれば、起訴後勾留は任意である、だから取調べの可視化の対象にはならないと明言しているにもかかわらず、それと違う法解釈を前提にこの法案の是非を議論することは私にとってはできない、国会議員にはできないことなんですよね。

その関わりで、法制審の特別部会の委員であられた後藤昭教授が法律時報の一月号でこういうくだりを述べておられるんですが、河津参考人、大澤参考人の御意見を伺いたいんですが、警察捜査を規制するための立法が警察組織の反対を乗り越えてはできない、その現実の下では、限定的であり、かつ新たな危険を伴う立法であっても法改正を実現することに重要な意味があると私は考えると後藤教授は述べているんです。これ、私はこの立場には立てないんですね。

つまり、新たな危険はないというんだったらばいいです。ですが、新たな危険があるのにそこに踏み出すということは、これは憲法三十一条と刑事訴訟法の在り方として間違っている、私はそう思いますが、お二人はどうですか。

○参考人(河津博史君) 新たな危険ということの中身は当然問われるべきだと思います。しかしながら、これが全体として刑事司法をより良いものにするのか、それとも悪い方向に働くのかということについて、私どもは専門家集団として会内でも当然厳しい議論をいたしました。

しかしながら、全体としては、取調べ録音・録画義務を刑事訴訟法の中に明記するということの意義を含めて、これは踏み出すべき第一歩であるというのが私どもの立場でございます。

○参考人(大澤裕君) 後藤先生がその論文の中で弊害、危険ということとして何を言われていたのか、私、今記憶が定かでございませんけれども、しかし、恐らく後藤先生の意図としては、そのような危険を踏まえてもなお、警察に一定の事件について原則全面化して録音、録画、それを制度化するということ、警察を含めて制度化するということがやはり得難い重要性を持っているからこの法律案を通すべきだと、多分後藤先生はそういう御趣旨で言われているということなのではないかと思います。

○仁比聡平君 時間がなくなってきましたので、最後に大澤参考人と河津参考人に一問ずつお尋ねしたいんですが、趣旨は同じ趣旨です。

一つは、例外規定、取調べの録音、録画の例外規定の立証に関わってなんですが、例外に当たるという立証を結局どのような証拠に基づいて行うということが考えられておられるのか、そのことを大澤参考人にお尋ねしたい。

河津参考人には、それを刑事弁護人はどう争えるのか、その争うことによって適正な取調べの実現を可能だというふうに確信をしておられるのかということ。

河津参考人にはもう一点。刑事弁護の立場として、司法取引に関わって、制度化された要件を満たさなければ違法であることになるはずだというお話がありましたが、そうした方向で、濫用を防ぐ弁護が、立会いもない、可視化もされていない司法取引においても行えるということかと思うんですが、どのように弁護をするのか。この二点を聞きたいと思います。

○参考人(大澤裕君) 先ほども少し申し上げましたけれども、身柄拘束されている被疑者については原則全過程を録音、録画するということですから、ある回の取調べの開始時点、取調べ室に入ってくる時点というのは、これは録音、録画が撮られているはずです。そして、その具体的な取調べの状況において、例えば拒否なり、あるいは被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないというふうに認めるような事情があるのかどうか。それは録音、録画がされている下で判断をされて、そして、その時点で録音、録画を止めるなら止めるということになっていくということかと思います。そうすると、その最初の部分で撮られている録音、録画というのは非常に有力な資料になるだろうというふうに思います。

それ以外には、捜査報告書の形で記録を残す等いろんなことが考えられるのかと思いますが、初めから録音、録画が撮られている部分というのが非常に私は大きいだろうと思います。

○参考人(河津博史君) 二点目の御質問、申し訳ございませんが、可視化がない、立会いがないということと合意制度の濫用を防げるかということの関係のちょっと御質問の趣旨が理解できませんでしたので、一番目の御質問についてお答えさせていただきます。

この例外事由に該当するか否かということについて、我々弁護人がどのような弁護活動をするべきかということですけれども、例えば被疑者が供述を拒んだこと、その他の被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるときと、この例外を使って可視化をしていない、録音、録画を止めているというふうに判断されるときには、被疑者にはそのような事情がないのだと、被疑者は録音、録画を求めているのだということを内容証明郵便で捜査機関に送付するなり、あるいはそれを記録を残して確定日付を取るなりして、この要件に該当しないということを公判で立証していくことになるのだろうと思います。

○委員長(魚住裕一郎君) 時間ですが。

○仁比聡平君 時間が来ていますから、終わりますが。

結局、今の取調べ室、これは司法取引の場合も同じだと思いますが、つまり取調べ官のイニシアチブなんですよね。事後にそれ分かって内容証明を送っても、実際に取調べは終わっている。そのことによる、例えばうその自白をさせられたという影響は、その後続自白にずっと残り続けるということになるんだと思うんですよ。そうした危険というのはこの法案ではなくならないということを私は改めて感じました。

終わります。


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